SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2016年3月23日

#476 成田 秀悦 『頑張りを途中で止めないで欲しい』

試合に出れば、ところ構わず走り回り、グラウンドの外では、いるところにいつも人の輪が出来ていた成田秀悦選手。そんな元気な選手の引退インタビューは、これからの選手たちへのたくさんのメッセージが詰まっているものとなりました。(取材日:2016年3月8日)

◆ミーティング中に涙が出てきた

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—— サンゴリアスで9年プレーし、とうとう引退となりましたね

チームの状況もあまり良くありませんでしたし、自分自身も試合に出られずに終わってしまったので、正直、複雑ですよね。引退が近づいて来ると、誰しもが「こういう形で引退したい」というゴールを考えるものなんですが、自分が考えていたゴールからすると、だいぶかけ離れた形になりました。

—— 引退はいつ意識したんでしょうか?

3年前くらいの網走合宿中に、当時U20日本代表のヘッドコーチをしていた敬介さん(沢木)から「今年は本当にやばいぞ」と言われ、体を大きくするという内容の誓約書も書きました。あの時から、毎年引退について考えるようになっていました。

2015-2016シーズンに関しては、試合に出られない状況だったり、チーム状況であったり、後輩と話をしたりしている中で、もしかしたら次のシーズンに目を向けてしまっていたのかもしれません。僕個人としては、2015-2016シーズンは落ちるところまで落ちていたので、そういう考えになってしまったんだと思います。

これは初めて話すことなんですが、プレシーズンリーグの決勝前に、僕の知らないところでチームがまとまり決勝まで進んで、1人取り残された感じがしてしまい、チームミーティング中に涙が出てきたんです。周りにはみんながいたので、「これはマズイ」と思って堪えようとしたんですが出来なかったんです。そのミーティングが終わって、周りにバレないように最後に部屋を出たんですが、その直後に隆道さん(佐々木)に見つかって、そこで一言二言話をしました。

何を話したかまではそこまで覚えていないんですが、その1週間のことは鮮明に記憶に残っています。キヨさん(田中澄憲/チームディレクター)のところに行き、自分の置かれている状況を話して、その時に初めて、スタッフという立場ではなくチームの先輩としてアドバイスを求めました。

僕は後輩の話を聞くことが多くて、後輩に近い存在だったと思います。話をしている時に「頑張れ」とか「ここが大事だぞ」とか、僕が後輩にアドバイスしている言葉が、そのまま自分に返ってくることが多くなって、しんどくなってしまったんです。そういうことが積み重なっていた時で、チームはプレシーズンリーグの決勝まで進んで盛り上がっていて、若手を中心に凄く良い状態だったんですが、そこに自分が全くハマっていないと感じてしまったんです。

◆次のシーズンに向かってしまった

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—— シーズンが進むにつれて、その状態から持ち直していったんですか?

チームをパズルだとすれば、自分は必要のないピースだと思うほど追い込んでいたんですが、話をしたことによって、そこからは後輩に対しての言葉を考えるようになりました。例えば、行き詰っている後輩がいたら、自分に返ってくるとは考えず、伝えるべきことは伝えようと思い話をしました。それが、僕がチームにいる役割だと思うようにしたんです。

やっぱりベテランと若手には、昔からどうしても見えない壁があるんです。日本人なので、後輩は先輩に絶対気を遣いますし、先輩も後輩と接している時には気を遣うんです。僕は後輩に対してそういう存在ではなかったので、ふざけ合った雰囲気の中でも後輩からの真剣な意見を聞くことが出来ましたし、後輩寄りのキャラクターを活かして、後輩にアドバイスをすることがチームへの貢献かなと思うようになりました。

—— シーズンの途中からは、新しいスタンスで臨んでいたんですね

矢印は自分に向けつつも、これまでの中で一番考えたシーズンだったと思います。

—— その中で目が次のシーズンに向いていたというのは、どういうことだったんですか?

試合に出るためにアピールしていく中で、シーズンの後半になって気づいたんですが、これまでのシーズンでは何気なしに練習試合も含めてトライ数を数えていて、年間20トライ以上をしてきていたのに、2015-2016シーズンに関しては2トライしかしていませんでした。

ウイングというポジションなのにトライすることを忘れて、ひたすら自分の足りない部分、苦手な部分をカバーしようと取り組んでしまっていたんです。そこに気づくのが遅すぎました。啓希(宮本)と練習試合に一緒に出ることが多くて、試合の何日か前になるとよく話をしていて、「こうなったらこう来てね。そうしたら絶対トライやで」って、前向きな話をしてくれていた中で、啓希から「そういえば最近、あまりトライを見てないね」と言われた時に、「確かに」と感じたんです。

それを感じてから自分の中でプレゼン資料のようなものを作って、苦手であったタックルなどの重きを少し緩めて、テクニックの練習を増やし、トライをすることに特化した練習をするという方向に変えたんです。シーズンの決勝に標準を合わせていたんですが、チームとして先が見えなくなりそうな崖っぷちな状況に追い込まれた時に、僕自身の考えが次のシーズンに向かってしまったと思います。

◆自信が過信に

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—— 後輩にアドバイスをしてきた中で、試合に出続けられる選手となかなか試合に出られない選手の差は何だと思いますか?

自信じゃないですかね。僕が出続けられなかった理由は、自信が過信になったことだと思います。最初はスクラムハーフでプレーしていましたが、その過信になった時にポジションをウイングに変更したので、僕の中では良い転機だったと思います。ウイングに転向していなければ、もっと早くにラグビー人生が終わっていたと思います。

—— なぜ過信になったんですか?

1年目のチームに入ってきたばかりの頃は不安で、「本当にこの中で試合に出られるのか」と思っていたんですが、あの時は清宮監督(克幸)に良いように使ってもらって、僕の特性を活かしたサインプレーもありましたから。その中で、不安が自信に変わり、「この中でもやっていける」「どのチームと対戦しても抜けられる」という自信が積み重なっていって、過信に変わってしまいました。

同じポジションにキヨさんがいて、「そのプレーは3年しか持たないよ。これからハーフとして成長していくためには、色々と考えなければいけないよ」というアドバイスを、「そうですよね~」という軽い感じでしか受け入れられていませんでした。キヨさんは僕のためを思って言ってくれていたにもかかわらず、自信が過信に変わってしまっていたがために「このプレーでどこまででもやっていける」と勘違いしてしまっていました。

セブンズ(7人制ラグビー)の日本代表に選ばれたことも、自信を過信に加速させる原因でもあったと思います。1対1には本当に自信があって、今でも自信を持っていますが、過去の自分のスピリッツ・オブ・サンゴリアスを読むと、面白いと思いますね。「あ、これは過信している時だな」って(笑)。新人の時の1回目と2回目を比較すると、2回目の方が自信がついてきていると感じますからね。

ただ、過信に変わったことが、逆にここまで長くやらせてもらえた要因かもしれませんけどね。途中で他の人に気づかされながら、それぞれのターニングポイントで必ず支えてくれた人がいて、ここまで来られたんだと思います。

—— ターニングポイントは何でしたか?

まずは、サントリーに入ったことと、ウイングに転向したこと、最後は2015-2016シーズンであまり良くない成績だったにも関わらず、あれだけ多くの人が応援に来てくれて、直接声を掛けてくれたということですね。今までも声を掛けてもらっていたんですが、あのようなシーズンだと、余計に強く感じて、こんなに応援してくれる人たちがいたのか、こんなに支えてくれる人たちがいたのかと、改めて実感しました。

ウイングをやり始めた時は、特に言われたわけでは無くて、「なんとなくウイングで出場する試合が多いな」と感じるくらいでした。その時はまだハーフとして過信している気持ちがあったので、「ハーフで使ってくれよ」と思っていましたし、ウイングで良いプレーをすればハーフに戻れるんじゃないかと思っていました。

その頃は、結構トライを取っていて、その時は知らなかったんですが、トライを取れば取るだけ、ウイングとしての評価が上がっていっていました。ずっと「ハーフに戻りたい」という気持ちでプレーしていたんですが、ある日、エディーさん(ジョーンズ)に呼ばれて、「これからはウイング一本でやっていかないか」と話をされて、最初は納得出来ませんでしたし、僕はディフェンスが弱かったのでそのことを伝えたら、「トライを取りまくって結果を出し続けろ」と言われ、ウイングとしてプレーするようになりました。

◆トライはこっちが取るから

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—— サントリーに入る前にイメージしていた姿と今を比較するとどうですか?

入る時には不安しかなかったので、ここまで長く出来るということは想像も出来ていませんでしたし、最初は夢しか持っていませんでした。サントリーでやっていて夢に近づいていくと自信がつき、それが過信へと間違った方向に進んでしまいました(笑)。

—— 自信を過信にしないための方法は?

今思えば、素直に人の話を聞くことだと思います。多くの先輩たちからアドバイスをもらっていたので、それを今度は僕が後輩たちに伝えていこうと思って話をしていました。僕の場合は、自信があるあまり、自分の間違えた固い考えを曲げられなかったことが良くなかったんだと思います。自分が信じた道を進んで上手くいく人もいるので難しいところではありますが、そういう経験をしてきたからこそ、今こうやって話せることもあると思います。

—— ウイング一本でやるようになり、スクラムハーフへの思いは変わりましたか?

僕は小学1年からずっとスクラムハーフでやってきて、「こういう選手になりたい」とか「スクラムハーフで日本代表になりたい」と思ってやってきていたので、その夢を叶えるためにはスクラムハーフに戻りたいと思っていましたし、ウイングをやるようになるまで「ウイングでこういう選手になりたい」と思ったことが無かったので、この先はどうなっていくのかという不安がありましたね。ただ、ウイング一本でやっていくと決意してからは、一からウイングを学び、生きていこうと思って取り組んでいました。

—— スクラムハーフの良さは何だと思いますか?

やっぱりボールの起点になるところですかね。ハーフをやっていた時は自分でトライを取ることも嬉しかったんですが、上手くフォワードを使ってトライを取ってくれたり、ゲームメイクが上手くいった時の方が嬉しかったですね。

—— ウイングでの喜びは?

トライを取ることなので、逆の立場になりました。

—— 今となっては、スクラムハーフとウイングとでは、どちらが自分らしいと思いますか?

役割が違うだけで、やっているプレーは変わっていないので、どっちも僕なんですよ。ハーフの時は好き勝手やっていたので、ザワさん(小野澤宏時)や元さん(申騎)に当時はよく怒られていましたが、今となってはその気持ちが分かります。当時のプレーを今の僕が見たら、「ボールを回せよ。トライはこっちが取るから」って言ってやりたいです(笑)。

◆得意なステップは絶対に止められない

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—— なぜトライを取れていたと思いますか?

難しい質問ですね。試合前には色々な準備をしていました。啓希と話をしたり、練習中にスタンドオフやセンターと話をしたりしていましたし、上手く抜けたプレーはちゃんと覚えておいて、「このプレーは試合中でもやっていこう」と考えていました。そういうプレーにならなくても、1対1で抜けることもあるので、なぜかと言われると答えが難しいです。

1対1になれば絶対に抜けるという自信があります。よく普及活動で中学校や高校にラグビーを教えに行くと、必ず学生と1対1をやらされていました。あとサントリーに入りたいという学生が来た時などに、「トップのレベルを見せてやれ」と言われ、必ず1対1の相手をさせられていました。

自分の中に1対1での得意なステップがあって、それは絶対に止められないんです。そのステップをとことん磨いて、セブンズでも15人制でも得意にしていました。単純に素早い動きで外に思いっきり走って、相手の体が一瞬でも流れた隙に、今度は内に走るっていうだけなんですが、ラグビー選手は反応が良いので、絶対に体が反応してしまい動いてくれるんです。

ただ、その得意なステップが、プロップには通用しなかったんです。このステップについて話をした後に、ハタケ(畠山)か垣永かのどちらかだったと思うんですが、抜きに行った時に止められて「そんなステップじゃ僕たちプロップは抜けませんよ」と言われて、かなりショックを受けました。ただ、よくよく考えたら、プロップに対してステップなんて切る必要が無かったんですよ(笑)。プロップの選手はこっちの最初の動きに反応しなくて、結果として相手に突っ込んでいく形になってしまっていました。

—— そのステップは誰かに教えてもらったんですか?

子供の頃から1対1に強かったので、感覚として身に付いたんだと思います。子供の頃から体が小さくて、この体でラグビーをやるためにはどうすればいいのか、ということを本能的に感じてプレーしていたんだと思います。

一度、ザワさんのステップを勉強したことがあったんですが、ザワさんのステップって、相手との間合いが本当に近いんです。ザワさんに何回も教えてもらって何回も練習をしたんですが、その人にしか出来ないやり方があるんです。だから、何回も経験を積んで、自分のちょうど良い間合いを見つけていきました。

後輩から1対1について聞かれることがあるんですが、その経験からその人に合った教え方をするようにしています。その人に合ったステップが絶対にあるので、長野であったり、ツル(中靍)であったり、江見であったり、その人のステップを見て、それに合ったアドバイスをするようにしていました。

—— 今のサンゴリアスには、自分のステップに近い選手はいますか?

ツルは、僕と同じようにゼロからの加速が速いので近いと言えば近いかもしれませんが、抜き方は全く違います。

◆話していた夢が叶った

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—— セブンズについては、どんな気持ちですか?

セブンズについてもターニングポイントがあります。2013年のモスクワでのセブンズのワールドカップが終わって、その次の大会でも、実は日本代表に呼ばれていたんです。そのシーズンではサントリーであまり試合に出られていなかったんですが、日本代表に呼ばれた時には試合に出られるチャンスがあって、「サントリーで試合に出られないことで、引退が早まるんじゃないか。もしかしたらこのシーズンで終わってしまうんじゃないか」と考えたんです。

引退となってしまったらセブンズも続けられなくなってしまいますし、チームあってのセブンズだと思っていたので、まずはサントリーで試合に出ることを優先したんです。サントリーで試合に出ていれば、またセブンズに呼ばれるだろうと思っていたんですが、そこでセブンズを断ってからは日本代表に呼ばれなくなってしまいました。

—— セブンズに対して悔いはありませんか?

悔いが無いわけではありませんが、セブンズに呼ばれなくなってからは、あまりセブンズの試合を見ないようにしていました。必要があれば呼んでくれるだろうという考えがあったんですが、若い世代の選手がどんどん出てきて、そのまま日本代表に呼ばれることはありませんでしたね。

セブンズをやりたいという気持ちと、15人制を続けていきたいという気持ちがあり、どちらを選んでも間違いではなかったと思いますが、セブンズを断ったタイミングが、僕のセブンズの終わりになりました。

以前までは「もっとこうした方が良い」とか「俺だったらこうする」と思っていたんですが、最近のセブンズ日本代表の活躍を見ていて、単純に「凄いな」とか「良くやった」と思っているので、自分の中で納得しているところがあるんだと思います。

—— 15人制の日本代表には選ばれたことはありますか?

ないですね。ラグビーを始めた頃の夢だったので、15人制の日本代表に選ばれてみたかったです。最近、僕の小学校が閉校になってしまい、その時に取材などを受けたことがありましたし、そこで小学校の先生と話をする機会があって、思い出したことがありました。

小学校の学芸会で、将来大人になって同窓会をするという劇をやったんです。その劇で、僕は「ラグビー日本代表になって、色々なところで試合をしている」と言っていたんです。先生からは「その時に話していた夢が叶ったんだね」と言われて、僕の場合はセブンズの日本代表でしたが、小さい頃からそういうことを考えていたんだなと思いました。

◆試合に出て優勝したかった

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—— やり残したことはありますか?

やっぱり試合に出て終わりたかったですね。引退と言われてから、納得するまでには時間がかかりました。「サントリーの強い時期、弱い時期を見てきた」と言われますが、僕は優勝をした瞬間にグラウンドに立てていたことが無いんです。ラグビー人生でそういう経験をしたことが無くて、優勝した時にはいつもスーツを着て、遅れてグラウンドに入る経験ばかりです。

優勝した試合で一度だけリザーブでメンバーに入っていたんですが、試合には出場することが出来なくて、試合後のウイニングランで、1年目で無名だったので誰にも声を掛けられず一番にロッカーに帰っていました。その時に長谷川慎さんが、一番に帰ってきた僕を見て、「試合に出て優勝しないと悔しいよな」と声を掛けてくれて、やっぱり試合に出て優勝したかったと思いました。

—— これからの目標は?

これからは社業に専念するんですが、まだイメージが湧いていない状況です。今までラグビーをしながら仕事をしていたんですが、専念することによって更に大変なことが待っていると思います。新しいことをやる楽しみと不安で半々くらいですね。

—— ラグビーには関わりますか?

自分の子供にラグビーをやっている姿を見せてみたいと思っているので、クラブチームなどに入って楽しみながらラグビーをやるのもいいかなと思っています。

—— サンゴリアスの後輩たちに、何かメッセージはありますか?

一度、敬介さんに「今年はやばいぞ」と言われて、僕はそのシーズンで終わりだと思ったので、やり残したことが無いようにと思い、毎日朝練をして体を大きくして、試合に出てトライも取りました。シーズンが終わった時に「やることはやった」と思いましたし、あとは引退と言われるのを待つだけだと思っていました。ただ、そのシーズンで引退ではなく、次のシーズンもプレー出来ることになり、安堵感を持ってしまいましたし、凄く頑張ってきたことを止めてしまったんです。

後輩たちは、後悔したくなければ頑張りを途中で止めないで欲しいですね。後悔して辞める人はたくさんいるので、1人でもそういう後輩を減らすために、身をもって体験したことを伝えていければと思っています。そして、後輩が引退する時に、「引退することになりましたが、悔いは無いです」という電話を一本もらえれば、僕の経験は活きたのかなと思えると思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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