SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2016年3月 8日

#473 池谷 陽輔 『怪我が治れば、また自分をレベルアップさせられる』

若手選手に対して、「プレーで伝えきれなかった部分があったかもしれません」と2015-2016シーズンを省みる池谷陽輔選手。その無念の思いも含めて、今回、選手としてのラストインタビューで、サンゴリアスへの思いを語ってくれました。ラグビーをやり尽くした池谷選手のメッセージです。(取材日:2016年2月12日)

◆若手を育てることに力を注ぐ

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—— 2015-2016シーズンをもって、現役を引退することになりましたが、現在の心境は?

引退するという実感はありますが、いつもと同じくシーズンオフに入ったような感覚です。

—— 引退しようと決めたのはいつ頃ですか?

僕は毎年言っていましたが、チームから「お疲れさま」と言われるまでは現役を続けようと思っていました。それが来たというだけですね。

—— 2シーズンはトップリーグの試合に出場する機会がありませんでしたが、その2シーズンを比較するとどうでしたか?

個人的な部分で、怪我やプレーヤーとしての課題に対しては一生懸命取り組んできましたが、感覚としては変わらなかったと思っています。もちろんプレーヤーなので、試合に出るために頑張るというモチベーションはありましたが、その中に現実味が無いというか、試合に出ることよりも若手を育てることに力を注ぐことの方を、より多く考えていたと思います。2014-2015シーズンはそこはあまり考えておらず、プレーヤーとしての比重の方が大きかったと思いますが、2015-2016シーズンは若手重視の考えを持っていました。

—— 試合に出られなかったということに対しては、どういう思いを持っていますか?

それは悔しいですよ。ただ、3番として試合に出ているメンバーが畠山と垣永なので、納得ですよね。日本を代表する2人なので、それを納得した上で、チームにどう貢献出来るかということを考えて取り組んでいました。

—— 試合に出たら、良いパフォーマンスを出せるという感覚はありましたか?

そうですね、試合に出たら、こうしようと言うことを考えて見ていました。スクラムの部分で言えば、何とか出来たんじゃないかと思っています。

◆個々の意識は変えられる

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—— サンゴリアスとしては過去にはスクラムを重視する時期もありましたが、その時期と比べると、今のスクラムはどうですか?

その時期と比べると、スクラムの練習量が全然違いますね。当時は毎日スクラム練習がありましたよ。毎日練習すれば良いというわけではありませんが、選手の意識が変わらなければ、スクラムは強くならないですね。それに1人が強くなっても意味は無くて、みんなが強くならなければいけないんです。

前列の3人だけが強くてもスクラムは押せなくて、ロックやフランカーから良い重しをもらわなければいけませんし、エイト(No.8)から良いタイミングで当て込んでもらわなければいけないんです。そこが合うのはフィーリングになるんですが、フィーリングを合わせるためには数をやらなければ分からない部分で、阿吽の呼吸で出来るようになるまでやらなければ強くならないんです。

若手にそこを理解するまで教えられなかったということは、僕の責任でもあると思います。2014-2015シーズンの結果を踏まえて、2015-2016シーズンに改善出来なかったことが、残念なところです。2014-2015シーズンはヤマハにやられて、2015-2016シーズンは色々なチームにスクラムで劣勢に立たされてしまいました。

—— チームとしてスクラム以上にやらなければいけないことがたくさんあったんでしょうか?

チームとして重きを置いていたのが、スクラムでは無かったんだと思います。もしかしたらチームの中で、スクラムに対する危機感が少し薄かったのかもしれません。

—— スクラムで勝つと精神的に優位に立てると思うんですが、戦術以外のマインドの部分への意識が少なかったということですか?

「スクラムが強い」と言われていた時代では、極端に言えば、試合に負けてもスクラムで勝てば、フロントローはニコニコしながら帰っていました(笑)。どちらが良いというわけではありませんが、チームにとっては勝つことが一番良いことで、その上でスクラムもついてくるようになれば良かったと思います。

僕は引退するので、チームに残るメンバーにはスクラムを強化することを言い残していかなければいけないと思っています。本気で強化に取り組めば、1年でも全然違ってくると思います。今の選手の状況を考えると、昔のような練習をすることは時間的にも無理だと思いますが、個々の意識は変えられると思います。スクラムの重要性を本当に理解し、1人1人の意識が更に高まれば、数パーセントは強くなると思います。

—— スクラムが強くなると、他のプレーも良くなるということはありますか?

まとまりという意味では、単純にモールは強くなると思いますが、スクラムが強くなったから他のプレーも強くなるとは言い切れないですね。

◆3年で結果を出さなければ

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—— 2015-2016シーズンはこれまでの中でも一番良くない結果となりましたが、その原因は何だと思いますか?

チーム力のところだと思います。勝ちに対してのハングリーさという部分での、まとまりが薄かったと思います。チームが上手くいっていない時に、必死にもがいた選手が何人いたのか?という部分で、言われたからやるのではなくて、主導的にやっていた人が少なかったのかもしれません。

—— チームが上手くいっている時の状態は?

チーム全員が信じるものが同じで、確固たるものがある状態だと思います。あとは個々に、他の選手に負けたくないとか、他の選手がやっているから自分は更にやるとか、そういう気持ちも大事だと思います。最近はあまりやっていないんですが、チームソーシャルでまとまりを作るという方法もあると思います。

—— 14年という長い期間をサンゴリアスでプレーしてきましたが、その中で印象に残っていることは?

僕が入ったのは2002年で、サントリーが5冠を取った次の年でした。凄いチームに入ってしまったと思っていたら、1年目の春の最初の練習で、「お前は危ないから、スクラムを組まなくていい」と言われたことが印象に残っていますね。「このチームでプレーするためには必死こいてやって、3年で結果を出せなければ終わるな」と思いましたよ。あの言葉は今でも思い出しますし、「あの頃と比べたら、スクラムを組めるようになったかな」と思ったりします(笑)。

—— 嬉しかったことは?

初めて公式戦に出た時ですかね。トップリーグ初年度(2003年)の開幕戦の神戸製鋼との試合で、まだまだスクラムの実力も伴っていなくて、長谷川慎さん、坂田正彰さんにおんぶに抱っこの状態で試合に出ていました。試合の内容とかはほとんど覚えていませんが、あの時は嬉しかったですね。あとは2007-2008シーズンの時に初めて優勝して、その時も嬉しかったです。

—— 優勝した後に日本代表にも選ばれましたね

その時に尾崎も一緒に選ばれて、僕も初めての日本代表だったので、集合時間とかも分からない状況でした。それでバスに乗り遅れて、当時の監督だったジョン・カーワンにめちゃくちゃ怒られました(笑)。あとはサモアに遠征に行ったり、カザフスタンにも行き、普段行くことが出来ないようなところにも行きました。当時は世界レベルがどうとか考える余裕もなく、その時その時で必死にやっていた感じでした。

◆ハングリー精神が磨かれる

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—— ワールドカップには出てみたかったですか?

それはもちろん出てみたかったですね。2007年のワールドカップが終わった直後に日本代表に選ばれたので、次のワールドカップのことまでは考えられませんでしたが、どれくらい通用するかということを考えて取り組んでいました。けど、すぐに畠山に追い抜かれました(笑)。

—— 池谷選手から見て、畠山選手の良さはどこにあると思いますか?

順応性があって、フィールドプレーが凄くて、当時は今までのプロップにはいなかったタイプでした。だから、「プロップでもこういう動きをして良いんだな」と感じさせてくれました。当時の畠山のスクラムはまだまだでしたが、あいつは器用で、「低く組め」と言えばそれが出来ていたので、あとはどれだけ自分を磨けるかだけだと思っていました。

—— 畠山選手はイングランドのプレミアシップに挑戦していますね

頑張って欲しいですね。僕も2005年に3ヶ月だけロンドンのワスプスに行きましたが、ファースト・グレードでは出場出来ませんでした。向こうのラグビーと日本のラグビーとは全然違って、フィジカルでバンバン当たっていく感じでした。そういう環境なので、自分を鍛えるためには良い場になると思いますし、スキル面だけじゃなくて内面も磨かれると思います。そして、サントリーでラグビーが出来ていることが、如何に恵まれた環境だったかが分かると思います。

プレミアシップだから凄く恵まれているイメージがありますが、クラブハウスもグラウンドもグチャグチャなところがあって、「これがプレミアシップに属しているチームなのか」と思いましたよ。それに比べるとサントリーの環境は100倍良いと思いますが、そういう環境だからこそハングリー精神が磨かれるとも思いますし、そういう環境でやることで、良い経験を積むことが出来ると思います。

—— イングランドと日本の違いは、その厳しさになりますか?

南半球の選手たちもそうだと思いますが、ラグビーで飯を食っていて、プロの意識が高いので、ハングリー精神が違うんだと思います。自分を磨こうとする意識の高さが、日本人選手とは違うと感じます。

◆やり切った

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—— 14年間の中で一番辛かったことは?

30歳を過ぎてからの怪我ですかね。体が言う事を聞かず、いくらプレーをしたくても出来ないことが辛かったです。今思えば、フィットネスのトレーニングで何分を切らなければ連帯責任でもう1周走らなければいけないようなキツイ練習なんて、出来ていた方が良かったと思います。それが出来ない方が苦しくて、淋しかったですね。自分を限界まで追い込めることが幸せだと思います。怪我をしてしまったら、自分を磨くことが出来ませんからね。

—— そういう時にはどう乗り越えるんですか?

「もう一度あそこまで行って、また自分をレベルアップさせる」というモチベーションだけでした。怪我が治れば、また自分をレベルアップさせられると考えてリハビリに取り組んでいて、リハビリの終わりの頃には自分を追い込むメニューをやらせてもらえるので、そういうメニューをやると「あぁ、これで今日も強くなったな」と1日1日、思えるんです。

フィットネスのトレーニングってベストを尽くすことしか出来ないんです。ベスト以上のことは出来ないので、その場その場でベストを尽くしていくしかないんです。「ここで自分のベストを尽くせば、レベルアップ出来る」と思って取り組めば強くなれますし、他の選手も ベストを尽くしてやっていると思います。怪我をしてから、そういう考えが出来るようになりましたね。

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—— 一番幸せだったのはいつですか?

それは練習が出来ている日々ですよ。もちろん試合で勝てば、それも幸せなことですが、日々ラグビーを出来ていたことが幸せだったと思います。ここ3、4年は、毎年毎年「今年で最後かな」と思っていましたし、「これが最後の夏合宿か」とか「これが最後の試合か」という意識でいれば、毎日毎日が大切になります。ただ、その中で怪我をしてしまっていたので、出来ることが限られてしまっていて、歯がゆい思いを抱いていましたね。

—— 怪我をしているという条件の中では、やり切ったという思いはありますか?

36歳まで現役でやらせてもらったので、やり切ったと言えばやり切ったと思います。

—— 日々の大切さは若手選手にも伝えたいですね

プレーの中で伝えられれば良かったんですが、僕の中で出来ることがスクラムしかなかった上、最後の方には100%で組めたスクラムがあまりなかったので、伝えきれなかった部分があったかもしれません。僕にはスクラムの重要性を伝えなければいけない責任があったんですが、それを伝えきれなかったので、後輩たちには申し訳ないことをしたと思っています。

練習の時にスクラムで押せば、押された方は「まだまだなんだな」と感じることが出来るので、僕が押し切れば良かったんですが、最後の方では僕が押されてしまうことがあって、申し訳なかったなと思っています。

◆会社に恩返し

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—— 今後は社業に専念するわけですが、何を目標にしていますか?

僕の中では、もう1年ラグビーをやることになれば、その後は会社の社会貢献活動の部門に進みたいと思っていましたが、今年度で引退するので、これからはまた一から営業を学んで、一生懸命取り組ませてもらって、将来としては2019年のワールドカップに携われるようになっていきたいと思っています。会社に恩返しというわけではないですけど、自分のスキルをアップさせて、営業として頑張りたいと思います。

—— 将来的にラグビーを人に教えるという選択肢はありますか?

ここまでラグビーをやらせてもらったので、教えられることがあるならば教えたいですね。ただ、自分の経験を伝えることは出来ても、人に教えることはそんな簡単なことではないので、教えるためには勉強しなければいけないと思います。人に教えるための勉強もしてみたいですが、まずは社業をやっていかなければいけないと思っています。

—— 更にその先はどうですか?

ずっとサントリーで働いていこうと思っていますし、上を目指してやっていこうと思っています。

—— サンゴリアスにはどうなっていって欲しいですか?

もう9位にはならず、常に強いチームで居続けて欲しいと思います。今はどのチームも強くなっていて、サントリーが9位になったのも紙一重だったと思いますが、常に上位にいるチームと、そうではないチームには、やっぱり違いがあるんです。勝って当たり前ではなくて、1戦1戦で勝とうという強い意志があるかどうかだと思います。そこが大きな違いで、以前のサントリーはそういうチームだったと思います。

—— そういうチームになるためには、選手個々は何を意識すれば良いと思いますか?

周りから見ていて、「悪くは無いけど、あまり伸びてないな」と感じる人って、結構いると思うんですよ。それを日々1%でも2%でも伸ばそうと努力出来るかどうかが大切で、自分自身にマインドを向けられるかどうかで変わってくると思います。「こう言われたからこうしよう」で止まってしまうのではなくて、その先を考えられる選手の方が強くなります。

—— サンゴリアスに期待していますか?

もちろんです。期待しかありません(笑)。良い選手が揃っているので、チームにおいて大事な部分を更に磨いていって欲しいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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