SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2015年3月25日

#422 小野 晃征 『起きたことは変えることが出来ないので次のプレーに集中する』

スクラムハーフとバックス陣の間に、コーチと選手の間に、そして外国人選手と日本人選手の間に、小野晃征選手はいます。いずれのポジションでも両者を繋げる大事な役割を担っています。まさにサンゴリアスの"中心"選手の1人である小野選手に、シーズンが終了しての心境を聞きました。(取材日:2015年3月12日)

◆チームのスタイルを取り戻す

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—— 2014-2015シーズンを振り返って、どんなシーズンでしたか?

1年を通して色々なことをチャレンジする中で、チームとして日本選手権の決勝まで進めたことは、選手にまとまりが出来たからだと思います。優勝することをチームの全員が目指していたので、良い形でシーズンが終えたということではないんですが、ただチームのスタイルを再び取り戻すことは出来たと思います。

—— 取り戻すことが出来たスタイルとは?

一言で言えば、「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」で、リスクを背負ってプレーして、トライを取りにいくというスタイルですね。

—— プレーしている選手にとって、リスクを背負ってトライを取りにいくスタイルは面白いですか?

プレーしている選手も面白いですし、やっぱりラグビーはトライを取らないと面白くないと思います。ディフェンシブなチームやセットピースを売りにしたチームなど色々なスタイルがあって、もちろんディフェンスもセットピースも大事なんですが、みんなの意識としては「トライを取りにいく」ことが共通認識であって、その上でボールを持っていない時でも取り返してトライを取りにいくことが大切だと思います。

—— 今シーズンの自分自身の調子はどうでしたか?

ファーストステージではプレー時間が短かったんですが、ウインドウマンス中の日本代表ではスタメンで出場する機会がありパフォーマンスも上がって、セカンドステージでは悪くはないパフォーマンスだったと思います。でもワイルドカードトーナメントから調子を崩してしまい、その後は出場出来ませんでした。シーズンを通して考えると、思うようなプレーは出来なかったと思います。

◆ゴールはない

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—— これまでのシーズンと比べて、良くなった部分はどこですか?

初めてバイスキャプテンという役職について、カベさん(真壁伸弥)をサポートして、チームをまとめることが出来たことはプラスになったと思います。有利な方向にチームを動かすポジションなので、相手よりも有利な選択をしなければいけないポジションだと思っているんですが、今シーズンに関しては必ずしも良いパフォーマンスを発揮することは出来なかったかもしれません。

僕のポジションとしては引き出しをたくさん持っていなければ務まらないポジションだと思いますし、相手の選択にも対応出来るオプションを持っていなければいけないと思います。色々なシナリオを勉強しながら、引き出しを増やしていくことも武器になると思っています。

どんな経験でも悪い経験はないと思っています。勝ちにこだわらなければいけませんが、勝っても負けてもしっかりと修正して、どう成長していくかが大事だと思います。

—— これから更に良くなっていくと思いますか?

世界的には1996年からプロ化が始まり、それから急速に進化したスポーツで、1996年のラグビーを見ても、10年前のラグビーを見ても、2、3年前のサントリーのラグビーを見ても、全く違うラグビーを展開していますね。常に新しいアイディアやスタイル、トレーニング方法を勉強し、色々な人とコミュニケーションを取りながら進化していくことが大切だと思うので、ゴールはないと思います。

トレーニング方法を見ても、今までのスプリントトレーニングやウエイトトレーニングはシンプルだったと思うんですが、ラグビーの動きは他のスポーツと比べても難しい動きが多いんです。だから、ラグビーの姿勢に合ったトレーニング方法が、これから更に進化していくと思いますし、ラグビーに合ったトレーニング方法をどんどん取り入れて、成長していかなければいけないと思います。

—— 進化していく中で、変わらず持っていなければいけない部分はありますか?

トレーニング方法が進化していく中でも、自分のポジションを考えていなければいけないと思います。僕は10番なので、「このトレーニングをすることで、10番としてどう活かせるか」ということを考えていなければいけないと思います。あと海外のチームの映像を見る時でも、「10番の選手はどういう動きをして、自分がそこにいればどういう選択をしていたか」などを考えています。進化している中で、自分のポジションにフォーカスして、取り入れていかなければいけないと思います。

◆選手とスタッフの間に立って

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—— バイスキャプテンとしては、今シーズンどうでしたか?

初めてバイスキャプテンをやってみて、新たな視点を持つことは出来たと思います。バイスキャプテンという役職はありましたが、サントリーというチームでは極端に重要な役職ではないと思っていています。それよりも選手としてグラウンドに立つことが一番大切なことだと思うので、シーズン終盤にその役目を果たせなかったことが悔しいですね。

このチームには、ワールドカップで優勝した経験を持つ選手もいますし、テストマッチのキャップを持つ選手もサントリーで優勝した経験がある選手もいて、僕よりも経験ある選手がたくさんいて、そういう選手や若手とコミュニケーションを取りながら、自分たちのラグビーを展開するのがサントリーというチームだと思っています。そこを大事にしながら、カベさんと僕が選手とスタッフとの間に立ってコミュニケーションと取りやっていくだけです。

—— 選手とスタッフの間に立つことは大変でしたか?

それは大変でしたね(笑)。選手を選ぶのはコーチで、選手としては自分たちのベストを出すことが役目だと思います。ただ、グラウンドに立つのは選手なので、選手の中で迷いがあった時には、選手同士で話し合い、コーチに相談をして決めてもらうことになると思います。

—— 若手選手の出場も多く、リーダーとしては大変な部分もあったんじゃないですか?

バックスだけを考えるとすごく若返ったと思うんですが、その中で多くの経験を積むことが出来たと思います。若手の一番の武器はエナジーと勢いだと思うので、シニアメンバーとしては、そのエナジーと勢いをコントロールして、チームの力に変えることが役目だと思います。

—— バックスの若手選手をどう引っ張っていったんですか?

引っ張っていくというよりは、一緒に試合の映像を見ながら、「こういうプレーをもっとやっていこう」とか、細かいところを密に話していました。エナジーがあってもそれだけでは勝てないので、1人のエナジーを他のメンバーに伝えられるようにしていました。

◆チーム力が10%上がる

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—— 今年はワールドカップイヤーですが、ワールドカップへの意気込みは?

9月19日の南アフリカとの試合が初戦になるので、フーリー(デュプレア)とスカルク(バーガー)を相手にプレーしたいですね。

—— 一緒にプレーしていて感じるフーリー・デュプレア選手のスーパーな部分はどこですか?

ワールドクラスの選手は、一緒にプレーすることで他の選手が持っている力を10%くらい上げられると思います。常に100%の力を出して試合をしていても、その中にフーリーみたいな選手が1人入ることで、チーム力が更に10%くらい上がるんです。

試合の中で大事な時間帯が2、3回あると思うんですが、そういう時に良い判断をしてくれて、チームを有利な状態に持っていってくれる存在です。プレッシャーを受けている時にすぐに切り替えて、逆に相手にプレッシャーを与えられる力を持っていると思うので、周りの選手は安心してプレー出来ますね。

—— そういう能力は身に付けられるものですか?

真似しようとはするんですが、出来るかどうかはまた別の話だと思います。フーリーのプレーを見ていて、良いキックやラインブレイクするきっかけとなるパスを出して、見ている方がホッとなると思うんですが、そのホッとなった時がプレッシャーから抜けた時だと思うんです。どうすればそういうプレーが出来るかは分かりませんが、センスなのかなと思いますね。

そういう状況の時に、フーリーにしか感じられないことがたくさんあるんだと思います。今でも世界No.1スクラムハーフですし、そういう選手の力なんだと思いますが、たぶんフーリーに聞いても、はっきりとした答えは返ってこないと思います。

フーリーの凄いところは、自分のプレーを映像などで振り返らないんです。全てが頭に入っていて、その判断をした瞬間に、正しかったのか間違えていたのかが分かっているんです。試合が終わった直後に僕のところに来て、「前半20何分のラインアウトではこういう選択をして、こう走ったんだけど、次の時にはこういうプレーをしていこう」という話をされるんですが、いつも「ごめん、月曜日にビデオを見て振り返るから、その時に話そう」って答えなきゃいけないんです。

フーリーは80分間のプレーが全て頭の中に入っていて、判断を間違えたと思ったプレーがあった時には、試合後に一緒にご飯を食べながら、「後半3分のラインアウトではこうしたけど、あぁした方が良かったな」とか話すんです。

—— 試合直後にその話についていける選手はいますか?

流れは理解できても、他の選手はそこまで見えていないと思います。「そのラインアウトでこういう流れで、こういう判断の方が良かった」という流れは分かるんですが、さすがに誰がどの位置にいたかまでは覚えていません。フーリーは誰がどこにいたのかまで覚えていて、「あの時フォワードの誰がこう走ってくれたから、あぁした方が良かったかな」って話せるんですよ。

フーリーの感覚としては、テレビゲームと同じように上空から全体が見えていて、「こういう動きがあるから、こう判断した」と考えられるんだと思います。フーリーと話していると、そういう感覚で見えているのかなって思いますね。だからこそワールドクラスだと思いますし、なかなかそういう選手はいません。その感覚は学ぼうとしても学べるものではなくて、生まれ持ったセンスなのかもしれないですね。

◆未知の領域に入っていく

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—— 日本代表チームへの期待感が今までにないくらい高まってきていますね

この3年間で日本代表への期待が高まっていると感じますし、ファンの皆さんもプライドを持って応援できると思ってくれていると思います。日本のスタイルも確立され、結果もついてきているので、ラグビーが盛り上がることは良いことだと思います。4月から日本代表の合宿が始まるので、そこで頑張って、期待に応えられるようなパフォーマンスと結果を残したいと思っています。

—— 日本代表としての自信も大きくなっていますか?

この時期はどのチームもワールドカップに向けて準備をしていて、他のチームがどんな準備をしてくるかは分かりませんが、自分たちの「本当のベストはどこまでか」という未知の領域に入っていくので、まずは自分たちのスタイルを意識して、全員が同じ方向を向いて準備をしていくしかないと思います。そして、相手がやってくることに対応出来るチームを作っていかなければいけないと思います。

—— エディー・ジョーンズ監督の一番良いところはどこですか?

グラウンドに立つのは15人ですが、代表に選ばれた選手全員とサポートスタッフ、メディカルスタッフ、トレーナー、マネージャー、そして他のコーチも含めた全員を同じ方向に向ける力が凄いと思います。性格もバックグラウンドも国籍も違う人たちが集まっても、「JAPAN WAY」という同じ方向に向かわせているのが凄いですよね。

◆安定感が求められている

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—— 日本代表の中で、小野選手は何を求められていると思いますか?

エディーさんからは、性格も含めて「プレッシャーを受ける場面でも周りを安定させるスキルがある」と言われているので、ゲームをコントロールするポジションですし、安定感が求められていると思います。

—— プレッシャーを受ける場面でも、精神的には安定していると思いますか?

動じないようにはしています。プレッシャーから逃げたら終わりだと思うので、プレッシャーを受けている場面でいかに良い判断が出来るかということを考えています。プレッシャーに対応するためには良い準備が必要ですし、そのためには誰よりもゲームプランを理解していなければいけませんし、誰よりも多くの引き出しを持っておくことが必要だと思います。相手が何かしてきてプレッシャーを感じたとしても、チームを有利な状況に持っていけるようにしなければいけません。試合中はクールというわけではないですが、常に落ち着いた状態でいたいと思っています。

—— もし試合中に上手くいかない状況になった場合には、どう切り替えるんですか?

起きたことは変えることが出来ないので、次のプレーに集中するようにします。

—— 来シーズンのサンゴリアスについてはどう考えていますか?

プレーヤーズミーティングを増やしてからチームのまとまりが強くなったと思うので、良かった部分は継続して、選手で決めたことはしっかりと選手で責任を持って、パフォーマンスを出さなければいけないと思いますし、チームを強くしていきたいと考えています。

—— 来シーズンもチームの中心として取り組んでいくんですか?

今シーズンはカベさんがプレーで引っ張ってくれて、僕は後ろからゲームをコントロールしていたので、来シーズンの役割はまだどうなるか分かりませんが、10番の責任としては変わらないと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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