SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2014年2月26日

#368 小野 晃征 『チーム全員が同じ方向を向いている強さ』

すっかりサントリーの10番に定着した小野晃征選手。9番フーリー・デュプレア選手とのコンビは、サントリーのアグレッシブ・アタッキング・ラグビーの要でもあり、またニュージーランドで育った小野選手は英語と日本語を使って、普段から外国人選手と日本人選手のコミュニケーションをより深くする役割も担っています。まさにサントリーの中核選手として活躍する小野選手に、日本選手権を前にしての現状と展望を聞きました。

◆世界一頭の良いラグビー選手

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—— 最近の調子はどうですか?

シーズンを通して、徐々に良くなってきていると思います。今年の2月、3月くらいをターゲットに、体とメンタルのパフォーマンスが上がってくるようにプログラムが作られています。いま振り返ると、夏の網走合宿からチームを作って、プレーオフファイナルにチームを持って行ったコーチやスタッフは、すごいと思います。そのプログラムに合わせて、自分の調子が上がってきている感じです。

—— 個人的には昨シーズンよりも成長していると思いますか?

試合でプレッシャーを受けている中、色々なシチュエーションを経験できたことで成長していると思います。プレッシャーを感じるような状況でも、落ち着いて判断ができるようになってきたと思います。

—— プレーオフトーナメントファイナルでは、残念ながら負けてしまいましたね

チームの誰もが目標にしていた“決勝で勝つ”ということが果たせなかったので、悔しかったですね。ジョージ(スミス)やフーリー(デュプレア)と話していると、チームでの責任感を強く感じていて、チームを背負ってプレーしていると感じます。2人と話していて、「もう少し出来たんじゃないか」というよりは、「自分のパフォーマンスにがっかりする」ということの方が大きいように思います。

—— 試合中にジョージ・スミス選手やフーリー・デュプレア選手の凄さを感じるところはどこですか?

9番と10番でゲームをコントロールしているので、僕の場合は、フーリーとコミュニケーションを取ることが多いんですが、すごく前向きだと思います。「起きてしまったことはしょうがない」と考えていて、ミスでも良いプレーでもすぐに忘れて、次に何をしなければいけないかを意識していますね。

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—— 小野選手も前向きでしょう?

はい、僕も前向きに捉えるタイプで、フーリーに「次はどうしようか」と相談するんですが、フーリーは僕より更に経験と知識が豊富なので、試合をしていても“ラグビーが見えている”と感じます。

—— 例えばどう見えているんですか?

普通の選手だったら「スクラムが安定しているから、こういうプレーが出来る」と考えると思うんですが、フーリーの場合は、「スクラムの右側が浮いて、相手のスクラムハーフはこうプレッシャーをかけてくるから、こういうプレーが出来る」と、すごく細かいところまで見ているんです。フーリーとそういう話をすると、次は自分もそういうところを考えながらプレーしよう、と思えますね。

—— フーリー・デュプレア選手と一緒にプレー出来ていることは、良い経験になっていますか?

今まで出会ったラグビー選手の中で、一番頭が良い選手だと思います。エディーさん(ジョーンズ/日本代表監督)も、「きっと世界一頭の良いラグビー選手」と言っていました。

他の選手は、試合が終わって映像を見ながら振り返って分析して分かることを、フーリーの場合は、試合中に整理できているんだと思います。だから、フーリーが試合の映像を見ながら振り返っている姿を見たことはありません。たぶん全部が頭の中に入っているんだと思います。

—— フーリー・デュプレア選手とセットで試合に出ることが多いと思いますが、試合に出ている時の自分たちの役割は何だと思いますか?

控えに日和佐とトゥシ(ピシ)がいることが多いので、2人が出たら試合のテンポを上げて、トライを2つ3つ獲ってくれると思っているので、まず僕らはリードした状態で2人と交替しなければいけないと思っています。ゲームを組み立てて、良い状況で交替したいと思っています。

それが40分なのか、50分なのか、60分なのかは、相手にもよりますし、チームの状況にも関係しますが、自分たちが試合に出ている間は、しっかりとゲームを組み立てたいと思っています。

◆日本語と英語は半々

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—— よく英語を話すところを見かけますが、普段は日本語よりも英語を話す方が多いですか?

妻がニュージーランド人なので、日本語と英語は半々くらいだと思います。

—— クラブハウスで外国人選手と話をする時はラグビーの話が多いんですか?

ラグビーの話もしますし、ワールドクラスの選手が集まっているので代表の話もしますが、海外で起きていることや自分の国で起きていることなど、ラグビー以外の話もします。サントリーにいる外国人選手はラグビーだけにフォーカスしている訳じゃないと思うんですよ。

フーリーの場合だと、ゴルフがすごく上手でゴルフの話もしますし、ヒューイ(ピーター・ヒューワット/アシスタントコーチ)はクリケットの話をしたりします。ライノ(ニコラス ライアン)はリーグラグビーも好きですし、アメフトも好きですね。

—— クリケットは日本ではあまりメジャーではありませんね

ルールは全然違いますが、野球と似ていると思います。時間も長いですし、広い場所が必要なんです。野球場よりも広い場所が必要だと思います。僕もニュージーランドで育ったので、ルールは知っていますし、友達と公園でクリケットをして遊んだりはしました。

—— どっちがメジャーなんですか?

ニュージーランドでは、夏にラグビーをやることはないですし、冬にクリケットをやることもありません。シーズンが完全に逆なので、ラグビーとクリケットを比べようがないんですよ。

—— プレーオフトーナメントファイナルの前に雪が降り、グラウンドにも雪が積もりましたが、ニュージーランドも雪が降りますか?

ニュージーランドでも雪は降りますが、山の方に行かなければ積もらないですね。サニックス時代、福岡にいた時も雪は降っても積もらなかったんですが、東京に来て雪が積もったので大変だと思いました。家の周りで滑ったりして少し遊びました(笑)。

◆勝つことでラグビーが広がっていく

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—— 2019年に日本でラグビーワールドカップが開催されますが、どういうチャンスがあると思いますか?

ラグビーは日本の国技な訳ではないので、まずは2019年のワールドカップを成功させれば、次世代の子供たちがラグビーに興味を持つきっけかになると思います。ワールドカップが日本で開催することは、ラグビーを人気スポーツにするチャンスだと思うので、そこが一番大事だと思います。

—— ワールドカップでは日本代表以外の試合もありますが、日本代表の試合も含めて多くの観客が来るためには、どうすればいいと思いますか?

まずは日本代表が勝たなければいけないと思います。そこが選手としてのいちばん大きな責任だと思います。代表が勝てば、それだけ人気も出てくると思いますし、昨年ウェールズと試合をして、僕は出ませんでしたが、世界のトップのチームに勝つことでメディアにも取り上げてもらい、興味を持つきっかけにもなると思いました。

選手としては勝っていくしかないと思います。そうすればお客さんも増えると思いますし、子供たちにも広まっていくと思います。今の子供たちが考えるスポーツは、野球やサッカーが最初に来ると思いますが、選手として勝つことで、ラグビーが広がっていくと良いと思います。

—— 日本代表のレベルも上がっていると思いますか?

トップクラスの相手と試合が出来ることがいちばんだと思います。以前は世界ランキングが近い国と多くの試合をしていましたが、次のレベルまで上がれなかったんです。今はトップ10の国と、年に2~3試合出来ているので、ランキングが近い相手と戦った時に、次のレベルのラグビーが出来るようになっていると思います。

—— 世界トップの国々と日本代表との差はどこにありますか?

ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンの代表が戦うラグビーチャンピオンシップという大会があります。今アルゼンチンは少しランキングが下がっていますが、その大会に出ている国は世界のランキングでもトップ3に入ってくるんです。その大会で、毎年お互いに2試合ずつ戦うんですよ。世界トップクラスの選手同士が、1年に5~6回も試合をしていたら、必然的にレベルは上がりますよね。

イングランドやフランスなど勢いもありますが、なかなか世界トップ同士のテストマッチの経験が少ないので、トップ3との差は大きいと思います。2015年にイングランドでワールドカップがありますが、その前にイングランドはニュージーランドとテストマッチを3回行うそうです。イングランドもそこを意識していて、その差を埋めようとしています。

エディーさんもそこを意識していて、日本の前にイングランドでワールドカップがあるので、去年はウェールズなどヨーロッパのチームと日本代表に試合をさせて、経験を積ませたんだと思います。

◆ベストを出すしかない

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—— 今の自分の課題は何ですか?

代表のテストマッチは、国内のリーグ戦とは全然違うスピードだと思いますし、フィジカルも違います。常に代表を意識してトレーニングをしなければいけないと思っています。そこが課題だと思います。

—— 国内でもファイナルラグビーのような試合を多く経験した方がいいということですか?

そうですね。今シーズンから2ステージ制になりましたが、2ndステージはタイトな試合が多かったと思います。それに堀江翔太選手や田中史朗選手など、海外でのプレーを経験している選手は、国内に戻ってくるとレベルが違うと感じますね。もっと日本人選手は海外に出ていくべきだと思いますね。

—— 具体的には、どういうところでレベルが違うと感じますか?

単純なところで、ゲームスピードとフィジカルですね。

—— 小野選手は海外に出てみたいという意識はありますか?

チャンスがあれば、海外でもプレーしてみたいと思います。

—— 日本選手権4連覇に向けて、現在のチーム状況はどうですか?

まだ準決勝の相手も分かりませんし、今の時期は一度体をフレッシュにすることが大事だと思います。そして試合の週になったら、少しずつ相手を分析して、変えるべきところがあれば変えていこうと思っています。

長いシーズンの中で、オンとオフが大事だと思うので、体はトレーニングをしていますが、メンタルの部分ではなるべくリラックスするようにしています。これからあと2試合戦える体を作り、今シーズンのベストな状態に持っていければと考えています。

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—— 昨シーズンよりも厳しい戦いが多いと思いますが、勝ち抜く自信はありますか?

これからもサントリーのアグレッシブ・アタッキング・ラグビーは変わらないですし、昨シーズンみんなが自信を持って、信じてプレーしていたから連覇が出来たんだと思います。決勝に行くことが目標ではなくて、そこで勝つことが大事になります。相手も同じ想いだと思うので、その中でその日のベストを出すしかないと思っています。

フーリーは過去いろいろな大会の決勝に出ていて、この前のプレーオフ決勝が19回目だったそうです。プレーオフ決勝の前に、決勝を何回も経験しているフーリーに話を聞いてみたんですが、「ここまで来られたことは目標ではないけれども、決勝を戦えない他の14チームが目標にしている決勝を戦うことが出来るんだから、ここまで来たら勝ちか負けしかないし、緊張しても意味がないよ」って言われました。「勝ちか負けしかないからベストを出すしかない」って言われて納得しましたし、そんなにシンプルなものなのかって思いましたね(笑)。

—— 改めて、サントリーのラグビーの良さはどこにありますか?

選手全員がやりたいラグビーを理解しているところだと思います。誰が出てもサントリーのラグビーが出来るということは、チームの強さだと思います。トップリーグの試合でもサテライトの試合でも、サントリーのラグビーは変わりません。試合に出ていない選手も一緒のスタイル、一緒の準備、一緒のプレーを目指してやっていて、チーム全員が同じ方向を向いているところが強さだと思います。

—— アタッキング・ラグビーは面白いですか?

ボールを持っていなければ点は取れないので、ボールを持ってプレーすることをテーマにしてやっているのは楽しいですね。

—— 現時点で、考えているやりたいラグビーのどの辺まで来ていますか?

年齢で考えると、半分くらいまで来たかなと思います。ニュージーランドでラグビーを始めて、楽しいからここまでラグビーを続けてきたので、“ラグビーが仕事”と考えるようになった時には、辞めた方がいいかなって思っています。

家族はニュージーランドにいますし、実家もニュージーランドにあって、そういうところから離れて好きなことをやっているのに、自分が楽しめなければ帰るべきだと思っています。楽しいと思えているうちは日本でプレーしたいですね。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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