SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2013年12月25日

#360 田原 太一 『自分の中に矢印を向けてエナジーに変える』

シーズン終盤の大事な試合、負けたら終わりという試合に突如メンバー入りするケースが多い田原太一選手。活躍がシーズン終了間際なので、なかなかスピリッツ・オブ・サンゴリアスに登場してもらうタイミングがありませんでした。毎年、決して多いとは言えない出場数ながら、今シーズン9年目を迎えました。田原選手への久々のロングインタビューです。

◆急きょ出場でも不安はありません

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—— 久しぶりにスピリッツ・オブ・サンゴリアスへの登場ですね

僕は喋るのが下手なので、あまり登場しない方が...。

—— 田原選手は毎年ファイナルが近づくとメンバーに選ばれるという印象を受けますが、今シーズンは違いましたね

個人的には先発で多くの試合に出場することを考えていますが、どうしてもシノ(篠塚)を超えられず、サポートに回ることが多いですね。今シーズンは2ndステージのNEC戦には出場しましたが、そこから継続して出場出来ていないので、まだまだ成長途中だと思います。

ファイナルが近づくとメンバーに選ばれることはありますが、僕自身がそれを狙っている訳ではなく、怪我をしないという部分だと思います。その点は丈夫な身体に生んでくれた親に感謝しています。どうしてもファイナルが近づくとタフな試合が多くなり、チーム全体的に怪我が多くなってしまいますからね。

—— ファイナルでは、リーグ戦と違い負けたら終わりという試合になりますが、そういった試合でも普段通りの力を発揮する秘訣はありますか?

春からずっと一緒にトレーニングをしているメンバー45人が、同じ方向を向いてやっているラグビーなので、急きょファイナルでの出場となった場合でも不安や違和感はありません。リーグ戦でもサテライトの試合でも、同じターゲットに向かってラグビーをしていて、そこはブレないチームなので、不安などはありません。僕だけじゃなくて、他のメンバーの誰が出場しても同じようにサポートしてくれるし、同じようにプレーしてくれるので、チームが一丸となっているという強みがあります。

ファイナルで試合に出る時は負けたら終わりというプレッシャーもありますし緊張もしますが、出場出来ない時の方が多いので、試合に出られる喜びと自分のプレーをやり切るということ、グラウンドに立てない選手の気持ちもよく分かるので、そういう部分をどれだけグラウンドで表現出来るかを考えています。あとはサントリーラグビーをどれだけ出来るかにフォーカスしています。

—— グラウンドに立てない選手の気持ちとは、具体的にどういう気持ちですか?

出られなかったシーズンもたくさんあったので、そういう時にどういう感情で試合を見ていたとか、グラウンドに立てずに負けた時の悔しさは本当に強いものなので、僕が出場した時にはグラウンドに立てなかったメンバーには感じさせたくないですし、送り出した23人がしっかりと結果を出してくれたと迎えてくれるように、サントリーラグビーを信じでやり切ることが大事だと思います。

メンバー全員が優勝すること、2冠を獲ることを目指してトレーニングをしている中で、試合のメンバーに選ばれなかったとしても、メンバーをサポートして、チーム45人で対戦相手にぶつかっていくんです。そこで試合に負けたとしたら、チーム45人のチーム力で負けたということです。個人的にグラウンドに立てなかった悔しさもありますが、チームとして負けた悔しさの方が大きいと思います。

◆負けたことから何を学ぶか

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—— 2ndステージNEC戦の出来はどうでしたか?

1stステージのNEC戦でも相手ボールのラインアウトは100%取られていて、2ndステージでもほぼ100%近く取られてしまったので、プレッシャーをかけられなかったという個人的な反省点はあります。あとブレイクダウンやタックルに関しては、練習でやっていることを少しずつは出せているんですが、単発になってしまっていたので、80分間出し続けること、そして毎試合出来るようになることにフォーカスしていかなければいけないと思います。それが出来ればチームメイトからの信頼を得ることになると思いますし、信頼を得られればグラウンドに立つ時間は増えると思っています。

—— 昨シーズンは全勝でシーズンを終えましたが、今シーズンはすでに2回負けてしまいました。何か違いはありますか?(2ndステージ第3節終了時点)

負けたことから学ぶこともあります。2年前の東芝戦で負けて、そこからチームがどう進むかを考え直させられた試合もあるので、負けたことを悔やむよりも負けたことから何を学ぶかが大事だと思います。直弥さん(大久保監督)も言っているんですが、「負けたという結果は変わらないんだから、これから先、自分たちがどうなるかに目を向けないといけない」という部分が大事だと思います。負けたことは悔しいですが、このチームはなぜ負けたのか、次はどうするかという対策を立てられるチームなので、悔しい半面、楽しみでもあります。

—— 2ndステージでパナソニックに負けた翌日、サテライトでもサニックスに負けてしまいましたね

負けた次の試合は、どうサントリーラグビーをやるかという部分ですごく大切なんですが、サニックス戦では100%出し切れませんでしたし、僕自身も出し切れなかったので、反省すべき試合でした。

反省してももう遅いんですが、最初20分の試合の入りの部分やフィジカルの部分で、もっと体を張らなければいけなかったと思います。サテライトの試合でも、トップリーグでの試合に繋がると思うので、もっともっと成長しなければいけないと感じました。

—— 連敗後の2ndステージ第4節のトヨタ自動車戦がすごく大事になりますね

チームとして負けから何を学ぶかという部分が明確になっているので、その部分へのフォーカスと、どうやってサントリーラグビーを進化させていくか、あとはアタッキングラグビーをどれだけ徹底出来るかがポイントになると思います。

相手のトヨタ自動車も負けられない戦いが続くと思いますし、そういう相手にどれだけ勝利に対してハングリーに戦えるかだと思います。それに向かって、練習から1つ1つのプレーの精度を上げていかなければいけないと思います。

—— 昨シーズンと比べて、今シーズンのハングリー度合いに変わりはありますか?

ハングリーさは低くなっていることはなくて、1試合1試合ハングリーになるという意識はすごく高いと思います。今シーズンのスローガンは「STILL HUNGRY」なので、常にハングリーでいなければいけないと思いますし、45人全員がもっともっと貪欲にならなければいけないと思います。そして、それをグラウンドで出さなければいけないと思います。

◆20年後もアタッキングラグビー

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—— 社会人9年目になりますが、これまでを振り返って、これだけ勝つチームになったのは、どこがきっかけだったと思いますか?

芯が通ったというか、1つの帰るべき場所が出来たことが大きいと思います。エディーさん(ジョーンズ前監督/現日本代表ヘッドコーチ)が、「サントリーはどういうラグビーをするのか」ということを導いてくれました。直弥さんも言いますが、「10年後も20年後もサントリーはアタッキングラグビーをしていかなければいけない」ということだと思います。

この試合に対して、こういう準備をするのではなくて、この試合でどれだけサントリーラグビーが出せるか、ということにフォーカスしています。

—— 他のチームに研究されたり、レベルアップしてくる中で、アタッキングラグビーを続けるポイントは何ですか?

勝ちに対する貪欲さだと思います。パナソニックのようなディフェンシブなチームだったり、東芝や神戸製鋼、トヨタ自動車のような体が大きくフィジカルなチームなど、色々なチームがある中で、お互いに勝ちたいという想いは強いと思います。16チームの中で、1つも負けていいと思っているチームはありませんが、その中でどれだけチーム全員が勝ちに対して貪欲になれるかが勝負だと思います。

試合の中で、フォワードが負けては試合に勝てないと言っても良いほど、重要なポジションでプレーしていると思うので、もっともっと成長していかなければいけないと思います。フォワードがしっかりとブレイクダウンを取って、ゲインラインを越えるフェーズを作ってアタックしていけば、バックスもプレーしやすくなって、アタックのオプションも増えると思うので、ブレイクダウンにかける人数など、もっと精度を上げなければいけないと思います。

◆試合中の修正能力

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—— 1つ年下に篠塚選手がいますが、田原選手が1年目の時は多くの試合に出ていたんですか?

何試合かは出ましたが、出させてもらっていた部分が大きかったと思います。

—— 今はラインアウトリーダーをやっていますが、当時からラインアウトについてはこだわりがありましたか?

当時はそういう役割もなかったと思います。正直な話、最近になってラインアウトについて考えるようになりました。海外の選手の情報から、こう考えればもっとオプションが選択出来るという部分も見えてきました。僕だけじゃなくて、シノや隆道(佐々木)、ツジ(辻本)、真壁などが同じ意識で、同じ見方が出来ればどんどん精度は上がっていくと思います。

僕が持っていること全てが正解だとは思っていませんし、海外の選手から聞いたこと全てが正解だとも思っていません。ただ海外のトップでプレーしている選手の考えていることは、すごく明確になっていると思います。サントリーのラインアウトのジャンパーは背が低い選手が多いので、そういうメンバーでどうやってラインアウトを取っていくかを高めていかなければいけないと思います。

—— ラインアウトの面白さはどこにありますか?

アタックに関しては、どれだけ相手の裏を取れるかだと思います。相手の予想外のところで取れると嬉しいですね。基本的には相手が横にいない状態になるようにコールをします。あと、やられると思った時に良いボールが来たおかげで切り抜けることもあります。

ディフェンスに関してはターンオーバーすることがいちばんですね。ターンオーバーの仕方も、罠を張って、そこでどれだけ引っかかってくれるかという部分で、駆け引きが上手くいくかどうかです。

—— ラインアウトで相手の自由にやられてしまっている時はどう対応するんですか?

試合中の修正能力が重要になるんですが、その部分はまだ力が足りないと思います。あとはコミュニケーション不足で、読み通りのところにボールが来たのに飛べないということもあると思います。ラインアウトのポイントは、ジャンパーとリフターの精度になるので、そこにもっとフォーカスしてトレーニングをしていかなければいけないと思います。今は昔に比べるとやることが明確になってきて、基本的な部分を徹底的にやることが大事になります。

—— 試合後はどうやって振り返っているんですか?

映像を見たり、コーチが数値を出してくれるので、それを見ながら振り返ります。目で見ていちばん分かるのは数値なので、どこまで精度良く出来たか、どこまで相手にプレッシャーをかけられたかなどは、数値が判断基準になってきます。

◆ラインアウトについて考えることは負けたくない

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—— スクラムについてはどうですか?

サントリーはサイズ的に大きい方ではないので、ラインアウトと一緒で、どこにフォーカスを当ててスクラムを組むかが大事になります。今は8人全員が同じ意識で出来ているので、強みではあると思います。

ザキさん(尾崎)やガヤさん(池谷)という長年スクラムを組んできた方が、若い選手にどうやって組むかを教えてくれているので、どんどん良くなってきていると思います。2年前と比べると、フォワードのサイズも大きくなってきていますし、それでスピードが落ちた選手もいるかもしれませんが、新田さん(S&Cコーチ)や若井さん(S&Cコーチ)が、コミュニケーションを取りながら、選手のベストの状態をキープしてくれていると思います。

—— モールについてはどうですか?

1つの武器ではあると思いますが、今はボールを動かすスタイルになっています。ゴール前ではモールで押すこともありますし、押しながら相手のディフェンスを見てバックスで攻めることもあります。

—— 試合に出続けることはあまりないかもしれませんが、少しずつでも毎年試合に出続けていて、サントリーでは珍しいタイプだと思いますが、自分自身どう思いますか?

自分でも珍しいタイプだと思います(笑)。単純に何があっても良いように準備をすることが大事だと思います。そのいちばん良い例は1stステージでの神戸製鋼戦で、仲宗根が出場した場面だと思います。試合の前日にアクシデントがあり、仲宗根が急きょ出場することになったんですが、メンバーと同じことをやってきているので、試合でも普段の力を出すことが出来たんだと思います。

今のチームは、誰1人メンバーから外れたからといってそこで諦めるのではなくて、何があっても良いように全員がしっかりと準備をしているので、その準備がしっかりと出来ていれば、何が起きても、誰が出ても問題はないと思っています。

—— 田原選手の強みは何ですか?

恥ずかしいんですが、強みがあるのかなって思うんですよ(笑)。足が速いわけでもないですし、ウエイトが人より上げられるわけでも、フィットネスがあるわけでもないですからね。ただ、最近思うことは、ラインアウトについて考えることは負けたくないと思っています。

ラインアウトやスクラムで上手くいけば、フォワードは盛り上がりますし、バックスも盛り上がると思います。逆にラインアウトを取られたり、スクラムで押されたりしたら、バックスが不安になると思います。ラインアウトは真ん中に来たボールをお互いに取り合うといういちばんやりやすいコンタクトだと思うので、チームに勢いを与えると思いますし、チームに対して何かのきっかけになると思います。

◆作法が気になる

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—— 社員寮の中でラグビー部では最年長ですが、何か役割はありますか?

特に役割ということはありません(笑)。僕自身も経験したことがあるんですが、グラウンドで上手くいかないことがあると、部屋にこもりたくなる時があるんです。今の若手選手でもそういう気持ちになる時があると思うので、外にご飯を食べに誘ったりします。そこで愚痴や不安に思っていることを話したり出来れば気持ちも軽くなると思いますし、独身選手は同じ寮に住んでいるので、寮で鍋をして一緒に食事をしたりしています。啓希(宮本)や健雄(金井)が率先して企画してくれています。

僕と1年目の選手とは、年齢でいえば8~9歳くらい離れていて、最初はグラウンドの外で一緒に食事をして話をするということはイメージ出来ませんでしたが、今は楽しく食事などをしています。

—— 田原選手が若い頃には、寮で先輩から食事に誘われたりしたこともありましたか?

僕自身も先輩からそうやって誘ってもらって話を聞いてもらったこともあるので、僕も後輩たちに同じことをしています。ただご飯だけに誘ってもらったとしても、僕の中では感謝の気持ちがあったので、それを後輩に同じようにしています。

後輩と一緒にご飯に行くと、作法がすごく気になるんです。頼んだご飯を残すとか、肘をついて食事をするとか、僕が小さい頃に父親から散々注意されてきたことを、出来ない後輩がいると注意しちゃうんです。後輩としてはそこで作法の注意なんてされたくないだろうと思うんですが、例えば結婚することになって相手の親御さんと食事をする時に、肘をついて食事をしたら結婚なんてさせてもらえなくなるかもしれないじゃないですか。僕も結婚していないので、何とも言えませんが(笑)。

そういう細かいことに気を配れるかということも、グラウンドに繋がってくると思うんですよ。僕は、食事をしていると、ノム(野村)から箸の持ち方を注意されます。僕は怪我をして指が曲がってしまっていて、ちゃんと箸が持てないんですが、ノムからは毎回「箸もちゃんと持てないで、何言ってんだよ」って言われます(笑)。ノムが僕に言うのは半分冗談もありますが、ノムは若手選手に細かなことに対してしっかりと言ってくれています。

◆何か足りない部分がある

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—— なかなか試合に出られない選手に対して、どういうアドバイスをするんですか?

今は本当にチームで戦っている感じが強いので、グラウンドに立てる、立てないという悔しさは正直ありますが、試合に出られなかったとしても、次の試合の準備や何が起こっても良いように準備すること、チームのためにグラウンド内外で自分は何が出来るのかを考え、しっかりと準備することだと思います。色々なことに対して準備をしていれば、何が起こっても大丈夫だと思います。何か起こったことに一喜一憂するのではなくて、長い目で見ることが大事だと思います。

一生懸命練習したのに試合のメンバーに選ばれなかったとしたら、そこには自分の中で何か足りない部分があるということだと思います。その部分を見つけ、どう解決していくかを考え、自分の出来ることをグラウンド内外でやることだと思います。

よく直弥さんが、「個人が1%強くなって、選手45人全員が1%強くなれば、チームは更に強くなる」と言うんですが、そういうことだと思います。自分の足りない部分を見つけ、そこを改善することが必ずチームの進化に繋がると思います。

自分の中で良くなっていると思っていても試合に出られないのは、やはりチームから求められていることに対して、何かが足りないんだと思います。試合に出られないということに対しては、たぶんこれが答えなんだと思います。試合に出られないことは悔しいことだと思いますが、それを表に出すんじゃなくて、自分の中に矢印を向けてエナジーに変えるべきだと思います。ラグビーは個人競技ではなく、グラウンドに立つ15人の戦いであり、サントリーというチームの戦いなんです。

—— これからの目標は何ですか?

目標はチームとしても個人としても、勝つことです。試合に出るためにはライバルに勝たなければいけませんし、今の自分では絶対にダメなので、自分にも勝たなければいけないと思っています。あとは朝練の眠気に勝つことです(笑)。

—— ファンの人から注目して欲しいポイントはどこですか?

僕個人のことよりも、やっぱりサントリーラグビーを見て欲しいですね。僕が試合で目立つことではなくて、どれだけサントリーラグビーをワクワクして見せられるかだと思います。ラインアウトでも、僕個人でやっている訳ではなくて、高く上げてくれたリフターであったり、良いところに投げてくれたスロワーであったり、そしてその場所にタッチを蹴ってくれた選手、そこまでボールを繋いでくれた選手があっての1つのラインアウトだと思うので、僕個人には注目しなくても大丈夫です。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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