SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2010年3月10日

#192 真壁 伸弥 『自分を思いっきり底辺に置いて傍から見る』

◆負けません

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これ(インタビュー)いつも緊張するんですよね(笑)。

—— 宜しくお願いします。ラグビーノートをつけていた様ですが、1シーズンでどれくらいのボリュームになりましたか?

非常に言いづらい話なんですが、途中から紙になりました。

—— え?ノートを失くしちゃったりしたんですか?

合宿で失くしました。鹿児島合宿の時ですね。失くしてどうしようかなと思っていたんですが、失くしたショックもあって、そこから紙になりました。今までもそこまで見直すようなことはしていなかったので、紙になってもあまり変わらないですね。けどやっぱり失くした時は「ヤバイ」と思いました。

—— 気持ちとしては、手帳やスケジュール表を失くしたような感じですか?

そうですね。そういう感覚です。でもその時にちょうど新しいディフェンスシステムを取り入れていて、そのことをいろいろ書いていたので、不味いなという感じでした。それからしばらくは剛さん(有賀)とかに「どうでしたっけ?」って聞いたりしながら、書いてあったことを思い出していました。キャプテンにも聞いたりしました。みんな僕のことを分かってくれているので、聞きづらいということはなかったです(笑)。

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—— 新人王おめでとうございます。

ありがとうございます。あまり「新人王を取るぞ」という、意気込みを持ってやってきたわけではなかったので、正直びっくりしましたが、振り返ってみると、僕しかいなかったのかなと思います(笑)。最終節が近くなるにつれて、周りから「新人王取れるぞ」とか言われたりして、その時点では「それはないでしょう」と思っていたんですが、周りのチームを見てみると、あまり出ている選手がいませんでしたね。

—— 全試合出場ですか?

そうですね。ジャパンの後、途中で一時リザーブになりましたが、一応ぜんぶ出ました。

—— 印象的な試合は?

東芝戦です。負けた時の、プレーオフでの東芝戦です。

—— どういうところが印象的ですか?

リーグ戦でサントリーが勝った後に、大野さん(均/東芝)から、「このままでは終われない。次は絶対勝つから。本気で行くぞ」というようなメールが来て、このままでは不味いなと思いました。「今回は本気じゃなかったのか」とも思いました(笑)。

—— どういう返信をしたんですか?

「負けません」と返しました。今までの大野さんや東芝を見ていても、やはりあの大勝した試合の東芝は本物ではないと思っていたんですが、2試合目はガツガツ来られて、完全に受け身になってしまいました。分かっていたのに、それに対して自分が出せなかったですね。試合が始まって、「違うぞ、ここでやらなきゃ」と思ったんですが、結局受けっぱなしの80分間になってしまいました。

◆飲めるぞ

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—— メールでのやり取りは普段からしているんですか?

そうでもないです。試合の前後ですね。いつも急に来るんです。それも夜中の2時とか3時に来るんです。

—— いちばん初めのきっかけは?

ジャパンで一緒になってからです。ロック同士なので、「飲めるのか?」という話から始まって、「飲めるぞ」と答えたら、大野さんも飲むことがすごく好きで、誘ってもらうようになりました。

—— 大野選手は憧れの選手でしたよね?

そうです。だから逆らえないです(笑)。

—— 憧れていた人と、実際にコミュニケーションをとるようになってどうでしたか?

イメージ通りの人でした。お酒に関しては、強いだろうなと思っていた通りで、優しいですし、豪快で熱狂的なところもあって、本当に素晴らしい人だなと思いました。あと東芝には学さん(鈴木)という先輩もいて、同じロックで、ATQ(Advance to the Quarterfinal)で一緒だったんですが、その先輩も大野さんと仲がよくて、良く呼ばれます。

—— プレーオフで負けた後は何かやり取りをしたんですか?

納会の時ですね。納会の日に「今日納会だろ?飲むのか?」とメールが来て、その時「飲まない」と返したら、「あそ」と、そのまま終わりました。

—— マン・オブ・ザ・マッチを今シーズン最多の3回受賞しましたね

ラッキーですね。実力で取ったわけではないと思っています。新人だからという部分が大きいと思うので、今年取ったマン・オブ・ザ・マッチはあまり考えないです。来年から取ることが大事ですね。

—— ベストフィフティーンはどうですか?

何で選ばれたか不思議です。どう考えても、ヒーナン(ダニエル/三洋電機)には劣っていますし、周りの方々からの期待を込めてという部分で、受賞したと思っているので、次から頑張らなきゃいけないなと思っています。

◆確かに

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—— 良かった試合で印象的だったのは?

トヨタ戦ですね。抜け出してトライを取った試合です。あぁいうプレーはあまりしないタイプの人間なので、あれが出来て、また少しラグビーが好きになりました。

—— あのシーンは、誰がタックルに来てもこのままインゴールまで走りきるぞという感じでした

そういう感じにはふだんならないですね。あの時は何ででしょうね。会社の方とかがたくさん来てくれていて、何か見せなきゃいけないという気持ちで、少し欲が出ていたんでしょうね。そういうのが今まではなかったので、期待に応えたいという気持ちが、あぁいうプレーになったんだと思います。

—— その後も、「そういう気持ちで行こう」とはならなかったんですか?

そう思ってはいたんですが、自分でもよく分からないんですが、慣れなのか、何なのか、毎週試合があるという中で、試合に対するテンションの上げ方に、慣れてきちゃったんだと思います。

—— あぁいうトライは、サントリーでもあまりないトライですね

トヨタ戦くらいまでは、あまり考えないでラグビーをしてましたからね。気持ちとがむしゃらさだけでやっていました。ジャパンに入ってから、そういう面での考え方が変わって、何も考えないで、ただがむしゃらにやっていてもダメだと感じて、変わったんだと思います。もっとスキル面での上達をしなければいけないし、ラインアウトも勉強しなければいけないし、思考がそっちへ傾きましたね。ただ走ってるだけじゃダメなんだって。

けど、やっぱりいろいろ考えながらラグビーをやることは、僕には向いていないのかなという感じです(笑)。シーズン後半に、先輩に「がむしゃらさがなくなってきてるな」と言われたりもしましたから。「確かに」という感じです。

◆そうじゃないな

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—— 来シーズンはどういうスタイルで行きますか?

まだ定まってないです。最初の頃は何も考えないで行って、良い結果が出ましたが、後半考えてやるようになって、いろんなことが吸収できたので、それはそれで自分のためになったんですけど、結果としてはパフォーマンスが落ちたので、どうなのかなと思っています。

がむしゃらにやろうと思っても、意識の問題なので、やっぱり考えてしまったりもするので、100%がむしゃらということはもう出来なくなってきました。そういう中でどうするかを、自分で考えているところです。何せ不器用なんで、その辺のバランスをうまくコントロールできないんですね。

—— 自分の強みは走ることだと言っていましたが、その辺は変わらないですか?

とにかくフィットネスを強化し直して、ムラがあっても走りでカバーするくらいの気持ちでやろうと思っています。

—— ジャパンの後、少し太ったそうですが?

今はもう戻りました。次にジャパンに呼ばれたら、もう同じ失敗はしないです。

—— 来シーズンに向けて、課題は何ですか?

自分のコントロールですね。開幕戦から後半戦になってからも、しっかり自分のパフォーマンスが出来るように、その時の自分に応じてしっかりコントロールすることですね。今までは、周りから「ちょっと疲れてるだろ?」と言われると、「そうなのかな」と思って、走る量を減らしていたりしたんですが、「そうじゃないな」と。自分でしっかり把握して、自分でコントロールして、やっていきたいです。僕は周りから「ちょっと疲れてるんじゃないの?」と思われるくらいがちょうどいいんです。

—— 大学時代と変わったところは?

ひとつひとつのプレーの責任ですね。これだけラグビーに真剣に向き合う1年間は初めてで、ATQとかもありましたが、大学の時はそこまで考えていませんでした。周りの人もそういう環境でしっかり考えている中で、自分もそこに入ってやっている以上、しっかり責任を持ってやらなきゃいけないなと感じました。

—— そういう1年を過ごせる環境にありますね

幸せですね。会社もあって、部署の方も「ラグビー頑張って来い」と言って気持ちよく送り出してくれるので、会社も含めて本当に幸せな環境です。

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◆ならなきゃ不味いな

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—— ドキドキはしなくなりました?

しなくなりました。昔はすごく緊張して、キックオフのホイッスルが鳴った瞬間に緊張が解けていたんですが、その当時は、結構上手くやっていて、その緊張がなくなってから、パフォーマンスが落ちて来たということも考えられるので、それが良いことなのかどうかという疑問はあります。

—— ドキドキ感をよみがえらせるための何か秘訣はあるんですか?

やっぱり目標がなきゃダメなのかなって思っています。約束のための目標だと、それに向かって全力で行けるんですけど、自分の中での目標だと、そこまでがむしゃらになれないんです。

—— どんな約束ですか?

高校時代の仲間との約束です。全員が本気で仙台育英に勝とうと思っていたんですが、結局勝てなかったんです。それでラグビーを続けるのは自分だけだったので、ラグビー部全員から「ラグビーを続けるんだったら頑張ってくれ」ってジャージやいろいろなものを渡されました。その時は「目指してみよう」と思う程度だったんです。

それから大学時代にユースに選ばれた時に連絡がきて、遠くからでも自分のことを気にしてくれる方が多かったんですよ。仙台で勝手に盛り上がってるので、「これはならなきゃ不味いな」って思いましたね(笑)。

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—— 仙台でジャパンの試合がありましたよね?

ありましたけど、出られなかったんです。みんな見に来てくれたんですけど、小学生にラグビーを教えているところを見に来た感じになりました(笑)。あの時はその場にいたくなかったですね。次の試合からは、試合に出られたんですけどね。地元だし、「出してくれよ」って思いました(笑)。父兄の方々がたくさん来てくれて、しかも大きな紙に「真壁」って書いてくれていたのに、試合に出られなくて本当に泣きたくなりました。

—— それが次の目標ですね

それも目標のひとつでもあります。あと目標といったら次のワールドカップですね。ATQでニュージーランドに行った時にお世話になった方がいるので、頑張りたいですね。その人にはATQの後に、旅行でニュージーランドに行った時もお世話になったので、会いたいですね。そういう目標を掲げているんですけど、目標が漠然としすぎているので、がむしゃらになれないんですよ(笑)。

◆申し訳ない

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—— サントリーがリーグ戦であれだけ強かったのに、プレーオフや日本選手権ではあぁいう結果になってしまいました。サントリーとして来シーズンへ向けてどうですか?

優勝しないとダメというか、優勝だけを見て1年間やってきたので、負けた時に本当に何をしていいのか分からなかったんです。その後に思ったことが、会社の同じ部署の人や仲間、先輩や同期に対して「本当に申し訳ない」ということでした。勝ちと負けで、これだけ変わる部署もあるんだなと思いました。来シーズンは応援して下さった方々のためにも、頑張りたいです。特にうちの部署(笑)。

部長が本当に応援して下さっていて、この前の飲み会の時にも「来年は仕事はいいからラグビーに専念しろ」って言って下さったんです(笑)。これはこの部署の時に優勝しなきゃいけないな、もし他の部署だったら、これだけラグビーに専念出来ないと思いました。

—— いちばん印象的に残った試合で、良い印象はトヨタ戦で、悪い印象は東芝戦、その他にありますか?

やっぱりジャパンが印象強かったですね。出場はたった18分だけでしたが、最高に楽しかったですね。ぜんぶディフェンスしてました。ずっと何で仙台で試合に出してくれなかったんだって思っていましたが、試合に出た瞬間、「もういいや」って思いましたね(笑)。

—— その楽しさはどんどん味わいたいですね

味わいたくなっちゃいましたね。

◆俺、選手か

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—— ジャパンの時はドキドキしました?

しなかったです。早く出してくれって思っていました。そういうことはあまりないんですよ。いつもは「もうちょっと試合見ていたい」なんて思ったりするんですが(笑)、あの時は「早く試合に出してくれ」って思っていましたね。

—— ジャパンから帰ってきて、サントリーでもリザーブになりましたが、その時も早く出せと思ったんですか?

ぜんぜん(笑)。三洋戦の時もリザーブだったんですけど、その時は違う意味で、もっと試合を見ていたいと思いましたね。あの試合は凄く面白い試合でした。いちばんいい席で見れていましたし(笑)。ずっと見ていたいと思っていて、いざ名前を呼ばれた時に、「あ、俺、選手か」って思うくらい、あの試合は見入っちゃいました。

—— そんな試合に出てみてどうでしたか?

あまりの強さにびっくりしました。見ている時は「もっといけるだろ」とか思っていましたが、実際に自分が相手をしてみたら、本当に強くてヤバいと思いましたね。自分が入る前の60分間戦っていた皆は、凄いと思いました。

—— エディーさん(ジョーンズGM)からのアドバイスは?

エディーさんにはちょくちょく教えてもらいましたが、必ず「出だしの5歩は必ず全力で走れ」って言われていましたね。スタートの5歩を全力でいくと、気持ち的に軽くなるというか、メリハリが効くというか、違う感じがしたんです。いつもは遅く起き上がって、次のところへジョグで行くんですけど、起き上った瞬間に、どこでもいいからボールのあるところへダッシュするんです。

そうすると次のプレーが凄くスムーズにいくんですよ。それを実感した時に、「この人は本当にすごい人だ」と思いました。それからぜんぶこの人の言うことを聞いていこうと思いましたね。そしたら、今シーズンはロックに対しては、それしか言われなかったです(笑)。ロックはそれがすべてなのかなとも思いました。

—— 清宮監督からは?

清宮さんの威圧感で、やらなきゃいけないなって思ってやっていました。清宮さんのブログに「がむしゃらと何でも最初に帰ってくる姿勢というところで使っている」と書かれていたので、それがなくなったら使ってもらえないのかって、間接的にプレッシャーを与えてくる人なんだなって思いました(笑)。けど、その部分では、100%全力を出そうと思ってやっていました。

◆ぜんぜん大丈夫

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—— 1年間やってみて、改めて気がついたことは?

自分では疲れている疲れていると思っていたし、周りからも「11月以降は、大学でも経験していない分疲れるから」と言われて体をケアしていましたが、実はプレッシャーによって疲れている気になっているだけで、体は自体は疲れていないということが、1週間半休んだ後に、練習を再開してみて分かりました。

プレッシャーで疲れていると体が勘違いしてしまったところもあるし、高校大学時代には練習後にもう少し練習していたところを、疲れているということを理由に怠けていたりしていたところがあって、結局その悪循環でパフォーマンスも落ちてしまったと思うんです。自分が思い切り走らなければいけないプレーなのに、練習で体を思って、力を抜いていたせいで、そのパフォーマンスが落ちていたんじゃないかなって。

—— 1年でそのことに気がついただけでもいいことだと思います

自分は最初から最後まで全力でいかないと、自分の感覚というものが掴めないと思うんです。疲れているだろうけど、自分のルーティーンをやり続けないとダメだと思いました。1週間半休んでいる間は、普通に元気でしたからね。

—— ご飯や睡眠はちゃんと取っているんですか?

そうですね。この1年間で「死ぬほど疲れた」ということがなかったですね。よく考えたら、高校の時に倒れたことがあるんですよ。そいういうことがないので、「ぜんぜん大丈夫」なんじゃないかと思いますね。これをチームメイトが見たら、何て思うか分からないですけど。

—— それに気がついたことは収穫ですね

それで次のシーズンやってみて、ダメだったらまた考えなきゃいけないですけどね。けど、今年のペースでは、ぜんぜん体は持つと思います。まぁ、トレーナーさんが凄く考慮して、練習メニューを組んでくれたからだとは思いますが、それに上乗せして自分なりの練習をやるべきだったと思います。

—— いろいろ考えて、自分を冷静に見つめている部分がありますね

小学校の時だったと思うんですが、凄く印象に残っている言葉が、「第三者の目の方が正しいことの方が多い」って言われていて、なるべく自分のことを考えるときは、客観的に見る、自分のことを思いっきり底辺に置いて、傍から見てみるようにして、どういう風に見られているかということを考えると、自分が分かるということですね。そういうことを考えて、ラグビーをやっているんですけどね。

—— そういうふうに見ることができる、もうひとりの自分がいるということは力になりますね

考え出すと、長いですけどね(笑)。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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