SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2009年11月19日

#181 元 申騎 『本質・持ち味・ラグビーを楽しむ』

◆激しさをもっと

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—— 3連続トライなどした春シーズンからずっと絶好調ですか?

どうですかね?やっぱり春シーズンとシーズンに入ってからの相手チームの状況は全然違うので、春シーズンは簡単にトライをとらせてくれるチームでも、シーズンに入るとそれも変わってくるし、整備されるところは整備されてくるので、そう簡単にどこのチームもトライを取らせてくれるチームはなく、春とはガラッと変わったなと思います。

—— シーズンに入って、全試合出場、2トライですね

僕的にはまだ全然満足はしてないです。もっといけると思うし、もっといいプレーが出来ると思います。まだ納得がいくところまではいっていません。

—— どの辺が満足ではないのでしょう?

もう少し、精度というか、僕的な持ち味、激しさをもっと出していきたいなと思いますね。まだ型にはまってしまっているというか、考えすぎてしまっているところがあるので、もう少し自分の色を出したいと思っています。

—— それは試合と練習でどちらで気をつけていかなければならないことなんですか?

やっぱり練習から意識してやらないといけないなと思っています。

—— その手応えは?

悪くないですね。

◆物質的固執

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—— 今年は春シーズンから大活躍ですが、昨年はほとんど試合に出ていませんでした。それについて自分ではどう思っていますか?

淡々と上に行くチャレンジはしていました。僕自身も這い上がりたいという気持ちは持っていましたし、ずっと2軍のままではいたくないと思っている反面、自分で自分を分析したりですとか、ただ悔しいということだけではなく、もう少し客観的に自分を見て、反省すべきところは反省して、今シーズンを迎えました。

—— 反省点は?

どうしても、物質的固執というのでしょうか。単に1軍になりたいだとか、背番号1桁になりたいという欲があって、それで視野が狭くなっていたんだと思います。そうではなく、そういったセレクション的な部分のフォーカスから、自分のプレーの本質だとか、僕の持ち味だとか、ラグビーを楽しむということにフォーカスをした方がいいんじゃないかと思いました。セレクション的な部分にフォーカスを当てていると疲れちゃうんですよね。

今までずっと2軍にいて、それがメインですから、もちろん1軍に這い上がりたいというのはあるんですが、こうしなきゃいけないということが逆に負の効果として働いてしまって、泥沼にはまってしまいがちな自分がいました。考えすぎてしまったりとか。そうなって、もう少し自分を分析して、自分と語りあったりして、本質的な部分で向き合うことで改善しました。

—— それはオフの頃ですか?

そうですね。ずっと2軍でやっている中で、思ったことをそのまま持ってやっているという感じです。

—— そういったところに自分で気づくといのはなかなか難しいことですよね

2軍に落とされて気づくことの方が多いんですよね。人間って、奈落の底とまでは言いませんが、自分が本来いるべきところにいられなくなると、勉強できることの方が多いんじゃないかと思います。

基本的にラグビーが上手ではないので、一生懸命やるしか僕の取り柄はないので、どうやったら上手になれるかという部分でも頑張っていたんですが、そればっかりにフォーカスすると肉体的にも疲れるし、精神的にも疲れちゃって、地獄絵図ではないですが、地獄に落ちたようなイメージになっちゃうんですよね。

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◆藁にもすがりたい思い

—— 考え方が面白いですね

本質としては、ハングリー精神で、僕としても奪えるものは奪いたいと思っているんですが、あまりにもそういうところにフォーカスを置いてしまうと、練習をしていても疲れるし、つまらなくなっちゃうんですよね。

—— 普通の人だと、そこで違う方向に向いてしまうこともありますね

そりゃなりますよ。僕も実際1年かけてこの考え方までたどり着きましたが、やっぱり途中でいじけたりとか、酒を飲んだり、愚痴をこぼしたりというところは人間のベースですから、そういう気持ちもありつつ、いろんな人に話を聞いたりして、考えを変えてきましたね。

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—— いろいろな人のアドバイスなどもあったんですか?

ありましたね。具体的には言えないですけどね。

—— どんな人に相談したんですか?

学生時代の恩師であったり、いろいろいます。もちろん良く言ってくれる人も、悪く言う人もいましたが、いろんな意見を聞くことで、最終的にそれをかみ砕いて受け止めるのは自分ですね。

—— このままでは終わってしまうという焦りもありましたか?

ありました。かといって、1軍から2軍に落ちて、グチグチ言いながら、1軍で出る時だけ頑張って、2軍で出る時は、2軍の選手に「こんなもんか」とか「元申騎ってこんなやつか」と思われるのも癪だし、そういう男らしくないところは嫌ですね。基本は藁にもすがりたい思いでやっています。

—— そういう経験をしてきて、今のBチームのメンバーに言えることはありますか?

それぞれ頑張っていますし、僕らがこうした方がいいんじゃないなんていう偉そうなことは言えないですね。やっぱり自分で気づいてどうしたいのか、それが間違っていても、そこに向かって1歩走り出していくことの方が大事なんじゃないかなと思います。まずは自分からやり始めないといけないですね。やり始めるまでのエネルギーが結構いるんですよね。始めたら今度はやり続けなければなりません。人によって感じ方も違いますしね。

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◆出会いという部分で感謝

—— エディーさんが来てどうですか?

嬉しいことは嬉しいですね。世界のトップのコーチングスタッフの1人ですから。客観的にプレーを見て、今のはどう思うということを言ってくれるので心強いですね。僕がサントリーに入ってきた時からずっと見てもらっているので、そういう部分でも心強いです。

—— よく話しますか?

よく話します。けれど、そこに甘えるつもりはないです。僕がラグビーをやっていく中で、上手く道筋をつけてくれたという存在です。

—— エディーさんの良さはどういったところだと思いますか?

いろんな引出しを持っているところですね。僕の引き出しも上手く引き出してもらっています。やっぱり自分の潜在能力って、なかなか自分では分からないと思うんです。同じ人に教わって、「よーいドン」で始めても、気づくか気づかないかということもあるし、引き出せるか出せないかということもありますから、人として会って、ラグビーを教えてもらうということに関しては、すごく深いものを感じています。出会いという部分ですごく感謝しています。

—— 将来的に、エディーさんのような立場で、ラグビーを教えるということに興味はありますか?

そうですね。僕もいろんなコーチに助けられて10年もラグビーをさせてもらったので、ある意味そういった恩を返してあげたいとは思いますが、僕自身がコーチに向いているかは分かりません。コーチングというのはとても難しいと思っているので、簡単にコーチをやりたいなんてことは言えないですね。人を見る能力も必要ですしね。人によって言葉遣いも、伝え方も変えなければなりませんし、コーチングというのは難しいと思います。

◆同じ気持ちのままやり続ける

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—— サンゴリアス100キャップも取りましたね

あっという間でしたね。1試合1試合が全てだと思っていて、次がラストゲームと思って100%でやっています。もう31歳ですからね。ラグビー人生がもう長くないことは分かっていますから、大切なものを見失わないようにして、コーチから言われたことを素直に受け止めて、それに対して努力していくという繰り返しでやっていきたいと思います。

—— これだけはやっておきたいということはありますか?

日本代表のキャップですね。それだけ持っていないんです。ラグビーも出来てあと2、3年だと思うので、何とか取りたいです。30歳以上の大会とかがあればすごく有り難いんですが(笑)。

—— 今シーズンの目標は?

ずっと同じ気持ちのままやり続けること、背番号が何番だとかは気にせず、出た時はしっかり自分の仕事をするということを持ってやり続ける、それだけです。

—— チームはどうですか?

充実した最高のスタッフ陣そしてフロント陣の中で、良い力を出していきたいと思います。1人の力では皆誰もできませんが、みんなの力があって、グラウンドに立てるのは15人だけですから、上手く自分の可能性を追いかけて、どこまで自分の可能性があるのかという伸びしろを追及していきたいですね。

—— ラグビーのどこが好きですか?

僕に合っているんでしょうね。肉弾戦というか、人と人がぶつかり合ったり、激しさだったり、そういうところですね。防具も何もないので、人間の本質が出るんですよね。弱い奴は逃げるし、怖がったら負けます。もちろん怖いなと思うことはありますが、そこをどれだけ追いつめて、まっとうに戦える人間になれるかどうかというところの勝負の中で生きているというのが好きです。そりゃ怖いですよ。120kgのでっかいアイランダーが走ってきたら(笑)。けど、そこに立ち向かって行くんですよ。信頼されない人間になったら終わりなので、行くんです。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:植田悠太)

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