2026.02.13

サントリー“君は未知数”基金2025採択団体訪問記/アーティストと子どもたちがつくりあげる、身体感覚を大切にした「芸術家と子どもたち」のワークショップ

サントリー“君は未知数”基金2025採択団体訪問記/アーティストと子どもたちがつくりあげる、身体感覚を大切にした「芸術家と子どもたち」のワークショップ

小中学校や児童養護施設、少年院などを舞台に、子どもと現代アーティストの出会いの場を創出している「特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち」。1999年の発足以来取り組んできた、現代アーティストと子どもによるワークショップは、双方に何をもたらしているのでしょうか。今回はワークショップが行われている東京・江戸川区立二之江中学校に伺い、代表の堤康彦さんにお話を聞きました。

ニーズに合わせたオーダーメイドのプログラム

「芸術家と子どもたち」という名の通り、プロの現代アーティストと子どもたちの出会いの場をつくり出している同団体。メインになっているのは、「ASIAS」(エイジアス。「Artist’s Studio In A School」の略称)という活動です。
ダンス、音楽、演劇、美術を中心としたジャンルのアーティストが保育園・幼稚園、小学校、中学校、特別支援学校に出向き、先生・職員と協力しながらワークショップ型の連続授業を実施。学校以外にも、児童養護施設や障がい児入所施設、さらには子ども食堂などの子どもの居場所や少年院など、幅広い場所で体験型のプログラムを展開しています。

小学校特別支援学級で実施したダンスのワークショップ(2024年度)

また、東京都の協力のもと、アーツカウンシル東京と共催している「パフォーマンスキッズ・トーキョー(PKT)」という事業も。こちらは小中学校や地域のホール、児童養護施設等でアーティストがダンス、音楽、演劇などのワークショップを行い、10日間程度でオリジナルの作品をつくって発表公演を行うものです。

東京・中野区の野方区民ホールで開催した、PKTの発表公演の様子(2025年度)

ASIASで特徴的なのは、学校や施設側への事前ヒアリングを丁寧に行っていること。「子どもたちの様子やニーズにあわせ、オーダーメイドでプログラムをつくっています」と理事長の堤康彦さんは話します。

「僕たちは学校や施設とアーティストをつなぐコーディネーター役を担っています。開催先の学校の先生や施設の職員の方にヒアリングし、ときには普段の授業の様子を見学させてもらったうえで、ジャンルやアーティストを選定し出演を交渉。無事にアーティストが決まったら、アーティストと先生・職員による授業づくりのサポートを行います。

パッケージ化されたプログラムをたくさんやっていくという方針ではないので、当然手間はかかるのですが、やっぱり子どもたちや先生の思いを大事にしたいなと思うんですよね。“そこにいる子どもたちにとってどんな体験が必要か”ということを常に念頭に置いて活動しています」

芸術家と子どもたち 事務局長 兼 コーディネーターの中西麻友さん(左)と、理事長の堤康彦さん(右)

誰を起用するかはプログラムの要になるので、ミスマッチを起こさないことは前提にしつつ、積極的にネットワークを広げてきました。1999年の発足以来、ワークショップに参加したアーティストは約300名にのぼります。

「新しいアーティストを発掘していくために日頃からアンテナを張り、リサーチを重ねています。まずはプロとしての創作活動が魅力的かどうか。そして、どういうことを大事にしてクリエイションをしているのか、どういう現場が向いているのか。人柄も大事ですし、どのくらいの年齢の子どもと相性が良いかというところも重要な視点だと思います」

2024年度のASIASは、138の学校・施設で66名/組のアーティストがワークショップを行い、3,997名の子どもたちが参加。PKTには17名/組のアーティストと1,120名の子どもたちが参加しました。

ワークショップを通してアーティストも刺激を受ける

今回“君は未知数”基金事務局のメンバーが訪れたのは、江戸川区立二之江中学校です。この日は振付家・ダンサーの井田亜彩実さんと、アシスタントの黒須育海さん、中村理さんが2年生のクラスで創作ダンスのワークショップを行っていました。

二之江中学校でのワークショップの様子

井田さんはこれまでにも数回、芸術家と子どもたちのワークショップに参加していますが、中学生を対象にするのは今回が初めてだそうです。

今回は2年生の4クラスに対して、8日間、1クラスあたり10コマのワークショップを実施。最終日には、集大成として保護者などを招いて発表会を行います。この日は2回目のワークショップでした。

井田さんは「決まっているのは『最後に創作ダンスの発表をする』ということだけで、それまでのプロセスや内容はクラスごとに異なります」と話し、こう続けます。

「初回のワークショップのとき、前半は全クラス同じことをやったんですね。そうしたら、常に元気なクラスもあれば、決まった振り付けを踊るよりも自由に動いてもらうほうが反応がいいクラス、静かな動きのほうが集中できるクラスなど、各クラスのカラーが見えました。2回目のワークショップは、そうした傾向を踏まえてそれぞれに内容を変えて実施しています。

ワークショップを進めると、普段は主張するタイプじゃないけど、動いてもらうとおもしろくなる子っているんですよ。そんなふうに、どの子も輝ける、前向きに考えられる内容にしたいと考えています」

振付家・ダンサーの井田亜彩実さん

芸術家と子どもたちのワークショップでは、「教える/教えられる」という一方向の関係性ではなく、アーティストと子どもたち、あるいは子どもたち同士が、双方向の関係性を築けるようにすることを大事にしています。
作品をつくる(結果を出す)ことよりも、むしろそのプロセスや、そこで行われるコミュニケーションを大切にする。そうすることで子どもたちが、新しい自分を発見したり、友だちの自分とは違う表現を認めたりするのです。

さらに、井田さんは「ワークショップを通して私自身も刺激を受ける」といいます。

「似たようなワークを違う学校でやることもあるのですが、毎回『そうきたか』と新鮮な驚きがあります。ずっと創作活動を続けていると枠にはまっていってしまいがちですが、子どもたちからもらう刺激がほかでのアウトリーチに活かされますし、自分の創作活動にもアイデアとして取り入れられるなと思うことが多いですね。
教える/教えられる側というよりは、いつも『一緒に見つけよう』という気持ちで参加しています」

ワークショップは、クラスごとの傾向に合わせて異なる内容で進められた。写真はグループに分かれてテーマを設定し、ダンスを創作している様子

二之江中学校でワークショップを行うことになったのは、2年生の主任教諭である藤川哲朗先生からの問い合わせがきっかけでした。藤川先生は、芸術家と子どもたちのパンフレットを偶然目にし、「子どもたちが楽しそうにワークショップに参加している写真を見て、本校でもやりたいと考えました」と話します。

「繊細でナイーブな生徒が多いので、ワークショップを通して自分の殻を破り、自由に気持ちを表現してほしいという思いがあったんです。
開催に至るまでには、井田さんや芸術家と子どもたちの方に何度か来校いただき、打ち合わせを重ねました。各クラスの様子や生徒たちの傾向を伝え、どんな内容にするのがいいかを一緒に考えて。時には実演してもらいながら、少しずつプログラムを練っていきました」

実際にワークショップが始まったいま「井田さんをはじめ、ダンサーの方たちが親近感を持って接してくださっているので、かしこまりすぎず、すごくいい雰囲気で進められているなと感じます」と藤川先生。「これから回を重ねるにつれ、表情や声、自己表現にもっと変化が見られたらいいですね」と続けました。

ワークショップを見守る藤川哲朗先生

デジタル社会のいまだからこそ、求められるもの

芸術家と子どもたちが活動を始めてから四半世紀。堤さんは、子どもたちを取り巻く環境にさまざまな課題があることを感じてきました。

「団体を立ち上げた1999年ごろは、これから景気が良くなっていくのかなと思っていたんです。でも実際は、そのままずっと不況が続いた。このことは経済の課題にとどまらず、やっぱりいろんな形で子どもたちにも影響を与えているんですよね。貧困の問題もありますし、大人が元気じゃなくなったことで子どもが夢や希望を抱きにくくなってしまったり、自信が持てなくなったりしている側面もあると思います」

社会が変化するなかで、創作ダンスなどのワークショップは「いろいろなもののデジタル化が進むいまだからこそ必要とされている」と話します。

「アーティストがもたらす“創造性”と“コミュニケーション”が求められているのだと思います。コミュニケーションというのは、単にうまく喋るとか、自分の思いを伝えるというだけではなく、会話以外の方法で人と関わったり、信頼関係を築いたり、他者との違いに気づいたりすること。身体を使ったワークショップでは、五感を大事にすることで、誰かと手を合わせたときの感覚とか、そういうものを感じてくれると思います」

芸術家と子どもたちでは、特別支援学級や児童養護施設でのワークショップも実施しているといいます。

「特性があったり、発達に凸凹があったりする子が、ワークショップのときにすごく輝くのを目にしてきました。アーティストにもないような発想の動きをしたり、アイデアを出してくれたりすることも。そうしてみんなの前で評価されることが、子どもたち同士の普段の関係性も変えることがあるのではないかと思います。

また、児童養護施設でかなり自閉傾向のある子がいて、ワークショップに参加した当初は集中したり、コミュニケーションをとることが難しい様子でした。ただ、ワークショップには毎年のように参加してくれて、10年ぐらい経ったときにはすごくしっかりしていて。もちろんワークショップだけがもたらした変化ではありませんが、成長過程の経験のひとつとして、ワークショップでも『自分を表現していいんだ』というポジティブな気持ちを感じてもらえたかもしれないなと思いましたね」

児童養護施設でのダンスと美術のワークショップ(2025年度)

「活動を続けてきて、子どもたちだけでなくアーティスト側も変わってきているなと感じます」と堤さん。「以前はアトリエやスタジオの中でクリエイションするというイメージが強かったのですが、いまは社会と関わって何かをつくったり、社会課題に対してアートで向き合ったりするようなアーティストが増えてきたのではないでしょうか。だからこそ、ワークショップを通して子どもたちと出会いたいという人が増えているのだと思います」と続けました。

“君は未知数”に感じるシンパシー

時代を追うごとに、活動内容だけではなく団体の体制もさまざまに変化してきました。
だんだんと関わる人が増え、現在は10名強のスタッフで運営。活動を次のステップに持ち上げたい気持ちが生まれ、その礎を築くべくチャレンジしたのが“君は未知数”基金への応募でした。

今回採択されたのは、事務局体制強化のための基盤構築です。人事・ボランティア担当者やコーディネーターの採用と育成、ボランティアの活用を行うことで、人材採用や育成のノウハウを獲得。支援現場を担う人材の不足を解消することで、さらなる成長、発展の基盤を築くことを目指しています。堤さんは事業の進捗についてこう話します。

「実際に2025年12月から1名、新たに人事担当者を採用しました。人材を確保することによって、ボランティアも含めたスタッフの質の向上、そしてみんなのモチベーションを高めることにつなげられたらと考えています。スキルを磨くという点では、いまは経験のあるスタッフが現場に新しいスタッフを連れていき、一緒に学んでいくことが多いのですが、団体や活動の規模を大きくしていくなかでは、そういう人材育成的な部分を少し体系化していきたいですね」

最後に「君は未知数」の活動に対して抱く思いを伺うと、「すごくシンパシーを感じる」と堤さん。「“君は未知数”基金の募集要項やToC冊子には、いまの社会課題をしっかり捉まえたうえで、企業としてどう行動していくかがしっかり書かれていた」と話し、こう続けました。

「サントリーさんの、現代の子どもたちを巡る問題、特に10代の少年少女が抱えている課題の捉え方に深く共感しました。募集要項などを読んで、虐待や貧困、孤立などに対するアプローチを考えたときに、我々が大事にしている身体感覚や創造性のようなものを、サントリーさんもきっと大事に考えてくれるんじゃないかと思ったんです。

先日の、“君は未知数”アドバイザーである山極壽一先生とのダイアログもとても勉強になりましたね。“君は未知数”としてデジタル社会での身体感覚の大切さにもしっかりと目を向けているんだなと、あたらめて感じました。

事業の社会的インパクトを高めるためには、パッケージ化して効率化し、誰でもできるようにしていくことも必要です。でも、いま我々がやっているワークショップは、子どもたち一人ひとりに合わせてつくっています。そこの折り合いをどうつけるかということも、“君は未知数”のプロジェクトを通じて探っていけたらと思います」


【特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち】
東京都豊島区池袋本町4-36-1 旧文成小学校2F
03-5906-5705
https://www.children-art.net/

ページの先頭へ