2026年6月
なぜ、そこまでやるのか。
気持ちが上がるような力を引き出すために


STORY
なぜ、そこまでやるのか。
気持ちが上がるような
力を引き出すために
対談
アーティスト
蓮輪友子 (写真右)
×
サントリー株式会社
ビール商品開発研究部 開発2G
開発主幹 浅野翔(写真左)
移ろう色彩と光が時の流れを凝縮する――。
数秒、ほんの一瞬の映像。その動きをとらえ、平面に落とし込む。
独自の抽象世界を鮮やかに、ダイナミックなタッチで描くアーティスト、蓮輪友子氏。
大阪市内にある蓮輪氏の“銭湯アトリエ”を、サントリーのビール醸造家 浅野翔が訪ね、
2026年6月16日に発売する「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム 梅子黄」の
パッケージ制作へのこだわりや味わいについて語り合った。
オリジナリティが確立するまで
浅野アトリエと聞いて、どんなところだろうと想像を巡らせながら今日伺いましたが、銭湯をそのまま使われているとは、驚きました。
蓮輪普段は東京で活動をしていますが、展覧会など作品発表の機会があると、どうしても大きなサイズの絵が必要になり、キャンバスを平置きできるスペースを求めていました。私の絵は、ザーッと勢いよく描いているように見えますが、実はすごく筆をコントロールして、ゆっくりとタッチをつくっています。その時に縦置きにすると絵の具が流れてしまい、思い通りに描けないので、とにかく広いスペースをと思い、こちらを使用しています。

“銭湯アトリエ”にて、制作中の作品と向き合う
浅野とても懐かしい雰囲気がありつつ、アトリエという用途に姿を変えても、なぜかぴったりはまっていて、不思議な感覚です。
蓮輪ここはもともと実家の銭湯でして、すでに店じまいをしていたので、そこは渡りに船という感じでした。
浅野銭湯のお嬢さんである蓮輪さんが、画家を目指したのは、何かきっかけがあったのですか?
蓮輪子供の頃の夢は画家ではなかったのですが、ずっと絵を描くことと一緒に育ってきたので、描くことが当たり前のように感じていました。後に絵で学校に行けることを知って、京都の芸術大学を自然に受けていました。絵をやるなら油絵と思い込んでいたところがあって、その時に出会った先生に影響を受けて抽象画を描くようになりました。

アーティスト 蓮輪友子
浅野絵画はまったくの素人なのですが、抽象画は何を、どうイメージして描いているのか、僕自身想像もつかなくて…実際はどうなのでしょうか?
蓮輪私もよくわからないのですが、自分の見方、考え方としては“リズム”と思っています。色の塊を描きながら、ポンポンとパズルを解いていくような感じでしょうか。私の場合は実際のモチーフ(動画)をもとにして、それを起点に描きます。白から始まって、この塊がここにあって、この要素がここにあってという感じで、それがうまくはまっていく時、パズルがすっと完成に向かう時などは、良い仕上がりになる感覚があります。

2026年初夏の展示会用に描かれた最新作、タイトルは“De Ham”(サイズ:1303×1940mm/Oil on canvas)
表現し、伝えるために挑戦を重ねること
浅野抽象画からは、考え方や技法を学ぶことができるのですか?
蓮輪大学に入った頃、砂漠が好きで、砂漠の絵ばかりをずっと描いていた時期がありました。空は青く、砂漠の茶色があり、2つに画面を分割していたのですが、それが説明的すぎると先生から指摘を受けました。「その空を、空は青いから青ではなく、消してみなさい」とアドバイスをいただき、消してみたら、色で説明をすることができなくなり、そこからダイブするというか、形がないものの中から形を見つけていく作業に入っていき、挑戦が始まった、という感じです。誰にも頼まれていませんし、常に挑戦だと思っています。正直、抽象画は全然受けませんし、理解もされにくいのですが、私はそこに頑張りがいがあると感じて、続けています。

愛用の画材。求める色に近づくまで試行錯誤を繰り返す
浅野マスターズドリームのテーマ「なぜ、そこまでやるのか。」という言葉には、醸造家として夢のビールをつくる気持ちと、これまで培ってきたビールづくりの技術のすべてが込められているのですが、蓮輪さんのお話を聞いていて、共通するところがあると思いました。実際、「飲んだらおいしかった」で完結するのですが、そこに至るまでのプロセスの中に、根底にある考え方や、技術の蓄積、様々なトライアルが込められていると感じました。
浅野蓮輪さんは、作品ができた時に、「ここを見て欲しい」という気持ちはありますか?
蓮輪あります。素敵な色や絵を目にした時に気持ちが上がるというか、高揚するといいますか…その鼓舞されるような感じを私の絵から受け取ってくれると嬉しいです。ビールの醸造でも「こんな風に味わって欲しい」という想いはありますか?

刷毛を使い、動きのあるイメージをゆっくりとキャンバスに定着していく
浅野麦芽とホップ、あと酵母に発酵してもらう。自然のものでできているので、原料の一つひとつにばらつきがあります。酵母もその時々で機嫌の良い時と悪い時があり、それをコントロールして、最終的にお客様には、いつもと同じ「この味わい、このおいしさだ」というマスターズドリームをお届けしたいですね。難しい作業ではありますが、やりがいでもあると思っています。
つくり手として、追いかける伝統と革新
蓮輪他の人の作品や映画、音楽に触れて、自分の想像してこなかったことをイメージできた時にパズルが進むというか、絵が進むことが結構あるのですが、ビールをつくる工程で予想外の味わいが出てきて、それが新しいビールづくりに役立ったことはあるのでしょうか?
浅野それは良くも悪くも、ですね。原料の品質や酵母のパフォーマンス次第で、当初の狙いとは異なる味わいのビールができたりすることもありますし、一方で、他の食品や飲み物、お酒などからいろいろな技術や発想、アイデアを取り入れた時に、思ってもみなかったビールができた、という経験もあります。いつもと違うけど、失敗ではなく、思いがけない方向へのジャンプにつながっていくこともあると思います。
マスターズドリームも、伝統や過去の知見・技術を大事にしながらも、新しいことに挑戦し続けることはいつも意識しています。
蓮輪マスターズドリームは、濃くてヨーロッパのビールに近い味わいがしますね。時間をかけて味わいながら飲む、おしゃべりしながらゆっくり愉しむ大人のビールだと感じています。
浅野ありがとうございます。そこは、こだわりのある所で「次の一杯がまた飲みたくなる。次の機会にもまた飲みたくなる。」という気持ちになるようなビールを目指して、ブレずに守り続けています。
季節の移ろいを映す、光と色彩のグラデーション
2026年6月16日に発売する限定醸造のマスターズドリーム 梅子黄のパッケージは蓮輪氏とマスターズドリームのコラボレーションとして企画された。日本の季節の移ろいをきめ細かく知らせる七十二候の一色<梅子黄(うめのみきなり)>をテーマに、中味・缶のデザインの両方から追求。このビールを味わいながら、会話はさらに続いた。

七十二候、梅子黄は、6月16日頃から6月20日頃、青い梅の実が少しずつ黄金に色づき始める時期
蓮輪これは、色がとてもきれいですね。赤褐色というか…ビールづくりでは色も意識をしているのですか?
浅野濃い色の麦芽を使ったり、ビールをつくるプロセスの中でどの程度熱をかけるかによって、出来上がりのビールの色合いが変化します。ビールの色は見た目だけでなく、香りや味わいにも影響します。原料や製法でいろいろな味わい、香り、色のビールができるのですが、ぜひ、味わってみてください。

完成したマスターズドリーム 梅子黄をじっくり味わう
蓮輪うわっ、飲んだ時に風景がフラッシュバックして来ました。これまでいろいろな国に行ったことがありますが、行く先々の方々と飲んだビールの味わいや情景がフラッシュバックします。マスターズドリームを飲むと当時に戻れますね。とてもおいしくて、記憶に呼びかける味わいがあります。
これはなんとなくのイメージですが、絵を描く時に視覚と聴覚ばかりを頼っていたのですけど、この味わいなら味覚や嗅覚からも、パズルを進めるヒントになる気がしました。
浅野この限定品の複雑で奥行きのある味わいは、フロアモルトという伝統的な製法の麦芽によるところが大きいです。職人が昔ながらの手作業を模したようなつくり方をしているので、麦芽の品質がいい意味でバラついていて多様性があります。マスターズドリーム 梅子黄では、それをふんだんに使用することでやわらかな苦味、コク、甘みへとゆるやかに移ろう、“上質で、濃密。”な味わいを実現しました。今回の限定品では初夏の揺らぐような季節の移ろいを表現した「多重奏で、濃密。」な味わいに仕上がっていますので、ぜひお愉しみ下さい。

サントリー株式会社 ビール商品開発研究部 開発2G開発主幹 浅野翔
蓮輪梅子黄という色はまったく知らなかったのですが、そのお話を聞いて、私は動画をもとに絵を描くので、まず動画をどうしようかと思いました。ご依頼いただいた時期は夏ではなかったので、できるかぎりイメージを膨らませようと、醸造が行われるサントリーの群馬工場近くの赤城山に登ったり、近隣の街を訪ねて、そこに暮らす人たちを観察したりもしましたが、とても綺麗なところでしたね。

制作プロセスでのこだわりやビールの愉しみ方で意気投合
浅野絵を描く前は取材などされるのですか?
蓮輪なるべくリアルにしたいので、全然知らないところより、ちょっとでも自分ごとに近づけながらできればと思い、事前に取材をするようにしています。それはとても大事なことでして、勝手にやっているのですが、この絵を仕上げる時にやっぱりパズルが発生して、行き詰ってしんどくなってしまいました。そういう時に、現地の様子などをちょっとでも想像して自分なりに近づけると、超えることができるというか。山に登り、その時期の新緑の色だと思われる黄緑を探して、動画に撮り、それをブラしたり引き伸ばしたりしながらパッケージの原画を描きました。特に絵を目にした時に“気持ちが上がる”ことを意識しながら、この黄緑に後ろから光が当たる、透過したような状態を表現しました。
浅野蓮輪さんの動きのある作風と相まって、七十二候の繊細な移ろいの空気感がパッケージに映し出されているようで、本当に素敵な缶に仕上がりましたね。このビールの味わいにピッタリだと思います。

原画を前に、でき上ったばかりの缶の出来栄えを作者自ら確認する
変化し、進化することへの期待感
浅野移ろいといえば、蓮輪さんはこれから、どのような作品に挑んでいくのか。何かビジョンはありますか?
蓮輪現在のところ、いいイメージのゴールがあるので、そこに向けてちょっとずつちょっとずつやっていこうと思っています。今のこの環境があって、絵があって、そこに人がいて、動きがあって、という状態を一枚の絵で成立させることを抽象的に頑張っていくことを目指しており、それをしっかりやっていきたいと思っています。多分抽象表現の世界も、もう古くなり、絵自体も本当に古い昔のメディアだと思うのですが、ここまで描いてきたら「描くしかないやろ」といった心持ちでキャンバスに向かいパズルを解いていこうと思っています。
蓮輪マスターズドリームはどうなっていくのですか?
浅野マスターズドリームの開発でヒントにさせてもらったチェコという国では、人々の生活にビールが溶け込んでいて、文化になっています。日本でも、マスターズドリームを通して、ビールを愉しむ文化を育てていきたいです。ビールを傍らに、仲間と一緒に長い時間を過ごす、食事がなくてもビールだけでずっとワイワイやれるような、そんな風景を日本でもつくれたらと思いますね。
蓮輪本当に、そんな時間を過ごしたいですね。これからもマスターズドリームの挑戦を愉しみにしています。
浅野本日はどうもありがとうございました。


蓮輪友子 Tomoko Hasuwa
大阪府生まれ。 京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修了。 個人的な経験とテーマを交錯させながら、ふとした瞬間を捉えた数秒間の動画から抽象世界を構築し、キャンバスに落とし込む。 近年は国内だけでなく、海外での活動も多い。



