2025年7月
なぜ、そこまでやるのか。
震えるほどの感動体験を創り出す喜び


SPECIALIST
なぜ、そこまでやるのか。
震えるほどの感動体験を
創り出す喜び
対談
81Project 代表
永島健志(写真右)
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サントリー株式会社
ビール商品開発研究部
開発主幹 山口豊(写真左)
料理は表現である――。
アートでエンターテインメントな時間と空間の提供を標榜し、
異彩を放つ劇場型レストランを展開する81Projectのオーナーシェフ、
永島健志氏。
美味しさを超え、レストランとしての新しい形を模索する永島氏が
サントリー<天然水のビール工場>東京・武蔵野を訪ね、サントリーのビール醸造家と
味の追求、料理、ビールの可能性について大いに語り合った。
唯一無二の世界観を築いた原点となるもの
山口とても興味深いプロフィールをお持ちだとお聞きしました。料理人を目指したのはいつ頃だったんですか?
永島現在、料理の仕事をしておりますが、始めたきっかけっていうのはすごくシンプルで、10代の頃、手軽なアルバイト先が飲食店でした。そこがスタート地点でした。18歳からの3年間は、海上自衛隊にいまして、ある意味運命的かもしれませんが調理室の配属になりました。希望した部署だったわけではありませんが、アルバイトの経験もあるし、しかも得意だし…みたいな感じでしたね。
その時にすごく強く感じたことは、厳しい環境での職務が続いて、船も1回出たら2ヶ月港に戻らなかったりして、大変でしたが、そうした生活の中で、食事ってすごく大切だったんです。生きている喜びというものに“飲む”“食べる”というのがすごく強く関係しているんだなというのを、本当に感じた船乗りの時代でしたね。
船を降りてからは、まずは食べていくための仕事として飲食の道に入りました。キャリアを積んで基礎を身に付け、腕を磨いていく中で、1990年代から2000年代にかけて、世界一予約の取れない店ともいわれたスペインのレストラン「エル・ブリ」に出会いました。とにかくアーティスティックで、表現があって、すごく革新的。それを見た時に、僕は料理をやりたいというよりは、料理を通じて表現をしたいと再認識しました。「どうしても働かせてくれ」と頼み込んでエル・ブリでの修行を重ねる中で、料理ってもっと自由でいいんだ。もっと表現できるという思いが確信に変わりましたね。

海外で修業時代の永島シェフ
山口マスターズドリーム、「醸造家の夢」というビールづくりを通して、我々も表現したい部分がありました。世の中にまだない、心が震えるほどに美味しいビール。今までつくっていたビールに満足することなく、美味しさだけでもなく、美しさや、そのものが持つストーリーも含めて表現できた時に、お客様に感動を体験していただけると思っています。
永島まったく同感です。料理人は料理のことだけを考えていると思われるかもしれませんが、もっとディテールを積み重ねる、料理を食べる空間や時間、イベントも全部を含んでの体験を提供するのが最終的なゴールだと思っています。
素材にこだわり、世界を巡って見つけた新しいスタイル
山口対談に先立って、サントリー<天然水のビール工場>東京・武蔵野の見学ツアーにご参加いただいたそうですね。
実際ビールづくりのプロセスをご覧になっていかがでしたか?

サントリー<天然水のビール工場>東京・武蔵野の製造工程を見学中
永島今回対談のお話をいただいた時に、マスターズドリームのキャッチフレーズ「なぜ、そこまでやるのか。」っていう、すごく強いキーワードが自分の中にあって、それを心にとめた上で工場見学させてもらいました。そして、納得できる第一印象でした。徹底した管理やクリーンな設備はもちろん、製造工程の説明を聞きながら、自分の仕事に誇りを持って向き合っているっていうことにすごく共感しましたね。

貯酒タンクの中を再現したトンネルにて
山口マスターズドリームで使っているダイヤモンド麦芽はご覧になりましたか?
永島先ほどの見学でその名前を初めて聞きました。通常の麦芽とはどう違うんですか?
山口ダイヤモンド麦芽には味わいがリッチになるタンパク質が多く含まれているのですが、構造がすごく硬いのです。硬いものから味を引き出そうとするとそれ相応のエネルギーが必要となります。我々は研究を重ねた結果、熱反応エネルギーをかけて硬い構造を物理的に壊すことで美味しさを引き出せるという結論に達しました。それを複数回繰り返して評価したところ、3回しっかり煮出すことで美味しさを引き出す「トリプルデコクション」という製法に辿り着きました。
永島ダイヤモンド麦芽は分類でいうと、どう違うのでしょうかね。原種に近いとか?
山口はい、チェコ及びその周辺国でしか採れない古典品種の系譜を継いだ麦芽なのですが、麦芽の研究を重ねていく上で昔からある素材には何かしら美味しさの秘訣があるのではないかと考えて、実際現地に足を運んだりもしました。現地の醸造所の技術者の方と話す機会があって、ダイヤモンド麦芽にすごくこだわりを持って使い続けているので、やはりこの麦芽に秘訣があると感じました。さすがにその秘訣までは教えてくれなかったですけどね(笑)。
永島麦芽の状態から製品になるまでの間、醸造家さんの携わり方っていうのは多種多様なスタイルや方法があると思います。そしてその方法っていうのは、哲学とか芯の通った考え方の上にしか存在しないものですよね。
山口目指したい味、姿自体、醸造家の数だけあるでしょう。我々がそのビールで何を成し遂げたいか、という理想を追い求める、そのゴール設定がすごく大事なのです。マスターズドリームでヒントにさせてもらったのが、先ほどのチェコという国です。チェコは、1人当たりの年間ビール消費量が約150リットルで世界一です。ちなみに日本は約50リットルという状況です。
永島じゃ、3倍だ。
山口チェコでは、ビールがお友達と会話を楽しむお供として生活に溶け込んでおります。だから1、2時間平気で同じジョッキでビールを飲みながらワイワイやっている。どうしてこのビールは長時間楽しめるのだろう、と我々も試してみると温度変化による味わいの違いはありますが、ビールの骨格・芯がすごくしっかりしているので多少の温度変化があっても味が崩れないんです。我々はその領域の美味しさを理解し、更に超えていくことを目指して、およそ10年の開発期間をかけて、単純な味だけではなくていろんな味わいが織り重なる「多重奏で、濃密。」という一つの形に辿り着きました。
永島温度変化があると味わいは変化するじゃないですか。けれど劣化ではない変化っていうところでタイムラグを持ちながら楽しめるっていうのは、今までの日本のビールにはなかった世界ですよね?どちらかというと爽快さとのどごし、というのが主流ですからね。仲間と談話しながら時間をかけて飲むっていう新しい可能性も感じるビールですよね。

マスターズドリームをじっくり味わう永島シェフ
生き物を扱うからこそ生じるブレを、個性に変える

サントリー<天然水のビール工場>東京・武蔵野のセミナールームにて対談するふたり
永島工場見学で拝見した「官能試験」というのは、できあがったビールの味を確認する最終チェックに近いのですか?
山口製造の各工程の最終チェックですね。まず麦芽やホップの状態を工場に受け入れた時点で確認します。原料は自然のものなので、すべてが均一ではありません。原料をしっかり確認し、その状態によってバランスを調整していきます。麦芽がちょっと硬いよねってなったら、煮出す時間や温度を微妙に変えたり、麦汁をつくった時にまたそれを官能して、狙い通りに進んでいるかを確認し、できあがりのビールを想像します――こういう麦汁だったらこんなビールになるだろう。比率やアプローチを変えたらもっといいビールになるかもしれない。――そんな想像です。そして、今度は麦汁に酵母を入れて発酵します。できあがったものを「若ビール」と呼びますが、そこでまた官能して、原料の比率、仕込の状態と酵母の状態まで反映したものをチェック。一つの工程を進んでは、立ち戻って味を検証する、その繰り返しを経て一歩一歩進み、醸造チームみんなが納得できた若ビールを濾過したものがビールとして製品になるんです。
永島料理もまったく一緒で、同じものは基本できません。昨日と今日も違いますし、同じ日であっても、1回転目と2回転目でも変わってきます。この違いをしっかり考えるようにします。考えていくと、それが81らしさであったり、マスターズドリームらしさだったりするんじゃないかと。ただ、「違いすぎてこんなの81じゃないよね」とか「何を飲んでいるか分からない」とはならないように底上げしていく日常の努力が大事だと思います。
山口種類の異なる料理でも、これは81のクオリティだねっていう風に言わせるには、どういう基準、線引きをされていますか?
永島明確に線を引いているわけではありません。料理はチームでつくっていくので、プロの野球やサッカーと同じように、一つとして同じ試合はない。けれどあのチームのサッカーはこうだよね、この球団の野球はこうだよね、というイメージをブレないようにすることが大事だと思います。

代表的な卵料理「カルボナーラの再構築」
山口上位概念みたいな、共通の考え方みたいなところがあっていれば、多少ディテールはズレても、最終的に到達できるものはズレないってことですかね。
永島ズレをコントロールできる範囲に収められればいいと思っています。例えばジャズという音楽。あれはある程度のルールのもとで基本的にはプレイヤーのアドリブで成り立っていく。楽譜どおりが良い演奏、というわけではありません。料理にはレシピが存在しますが、それを完全にコピーしてつくったとしても、同じ料理にはなりません。むしろそうなることを前提とした上で1曲としてちゃんとまとまれば良いのであって、逆にそうなった時にしか発生しない熱量、パッションっていうのも存在すると思うんです。
五感を刺激する至高のコラボレーション
山口今年、81とマスターズドリームのコラボレーション企画がはじまりますね。実際どのような企画が進んでいるのでしょうか?
永島“ARTISTIC JAPAN”と銘打ち、お客様をご招待して、マスターズドリームを飲みながら料理と空間、時間を共有していただく至高の晩餐会を開きます。端的に言えばマスターズドリームと我々のセッションです。マスターズドリームの魅力が、例えば工場を出た時に100だとするなら、300にまで高められたら僕の勝ち、という感じで考えています。特別な場所で、お客様と特別な時間をつくる。普通に料理とお酒を合わせて納得していただくということではなく、楽しませる、感動させるというゴールの中にしっかりと昇華させていくことを目指してプランを練っているところですね。これ以上は言えません(笑)。

コラボレーション企画を語る永島シェフ
山口めちゃめちゃ嬉しいです。ロケーション、空間の雰囲気、演出、料理との相性ですとか、そういったトータルでつくり上げていくことによって、マスターズドリームの体験が新たな次元に進んだら、私自身、本当に嬉しいですね。来ていただいたお客様に大いに満足していただいて、そこにマスターズドリームが貢献するというような状況をぜひつくってください。

サントリー株式会社 ビール商品開発研究部 開発主幹 山口豊
永島ありがとうございます。もう少し話しちゃいますけど、僕らもプロですので、美味しさを削って出すことはありません。増やして出すことはもちろんできるけれど、じゃあそれだけで人が感動できるかって言ったら、もう一つ先に行きたいんです。それは僕の中で企んでいくことですけど、醸造家の夢、「なぜ、そこまでやるのか。」というのにあやかって、飲んでくれた、体験してくれたお客様が、夢ってなんだっけ、自分が命をかけられるものってなんだろう、みたいなことを思って、熱い気持ちになってくれたらいいなと。よし明日も頑張るぞ、と思えるようなそんな夜をつくりたいなと思っております。
美味しさ、感動、その先にあるもの
山口素敵なお話をありがとうございます。話は尽きませんが、最後に永島さんの81はこれから何を目指し、どんな未来を志向しているんですか?
永島81は、国際電話の日本の国番号の81がその名前の由来なんですね。僕らは日本っていうものをすごく愛していますし、誇りに思っています。ですから81が目指すところは、現代の日本を、しっかりと外に伝えていくこと、ギャップなく世界の中の等身大の日本を知ってもらいたい。マスターズドリームであったり、他にも工芸をやっている人、伝統芸能をやっている人たちをたくさん知っていますが、日本というものをしっかり知らしめたい、お勧めしていきたいと思っています。それが向こう10年なのか、終わりなき旅なのか、わかりませんが。
山口世界へ。いいですね。ドイツ語で、1杯飲んで飲み足らずに、もう2杯、3杯飲みたい。今日飲んで、また明日も飲みたい、というビールの美味しさを表す「ヴァイタートリンケン」という言葉がありますが、日本の醸造家がそんなビールを目指して、夢を持ってつくったマスターズドリームを日本の皆様だけじゃなく、世界の皆様に体験していただく。こんなビールをつくる醸造家が日本にいるんだということを伝えたいですね。
今日は本当にありがとうございました。
永島こちらこそありがとうございました。

永島健志 Takeshi Nagashima
「世界のベスト・レストラン50」で世界1位を5回獲得したスペインの「エル・ブリ」にて修行。帰国後は81チーム(エイティーワン)を立ち上げたオーナーシェフ。料理でアートを表現する、独創性のある天才料理人。



