2025年6月
金物の町“燕三条”から世界のものづくりへ


SPECIALIST
金物の町“燕三条”から
世界のものづくりへ
燕商工会議所
事務局長
高野雅哉
「燕三条」ブランドで有名な、新潟県の燕市と三条市は
金属洋食器の国内シェア90%を誇る金物の生産地。
また、最先端の技術を用いた金属加工品も生産されており、
国内外のメーカーから注目を集める、ものづくりの地となっている。
燕商工会議所の高野雅哉さんにお話を伺い
産地としての燕三条の強さと、その背景にあるものを探った。

燕商工会議所 事務局長 高野雅哉
質も量も他の追随を許さない、燕三条の金属加工業
――高野さんは燕商工会議所の職員として、長年、燕三条で生産される製品の販促に携わってこられたそうですね。産地としての特徴を教えてください。
高野燕市、三条市で金属加工業に携わる企業は1500社に上り、スプーンやフォークなど金属洋食器の国内シェアは90%を占めています。また、日用品だけでなく、半導体の製造装置、有機ELの製造装置、医療機器、食品製造機械や車体なども生産されていて、最先端の部品と日用品が同じ工場でつくられていることも珍しくありません。高品質の製品を競争力ある価格で大量生産できるのが燕三条の強みです。


氷用のトングを製造する工程。ステンレスを切り出し、プレスして成型し、曲げて完成。工程ごとに異なる機械が使われている
――燕三条が産地として世界で評価されたきっかけは何でしょうか?
高野20年ほど前、世界的ブランドのデバイス製造に燕三条が関わっていることが報道された影響が大きかったですね。大量生産できるだけでなく、高度な技術を持つ職人さんたちを抱える地域として注目を集めました。そもそも金属加工がきちんとできて大量生産も可能な国というのは日本以外に数か国しかありません。その意味で燕三条は世界の産地の一つになりつつあります。
表面の凹凸はナノレベル!職人の良心が宿る「磨き」の技術

――燕三条が誇る技術には、どのようなものがありますか?
高野磨き、溶接、金型づくりの技術など、いろいろありますが、やはり金属の磨き、研磨といった表面処理の技術は、他地域では真似ができないレベルを誇ります。過去に、新潟県の工業試験場で、ステンレス製品の表面の粗さを計測してもらったところ、ナノレベルの数値でした。あまりに低い数値なので、試験場の方が計測装置の故障を疑って、何度も計測し直したそうです。それくらい桁違いのレベルなんです。
――まさに職人技ですね。「なぜ、そこまでやるのか」という職人魂を感じます。
高野職人さんたちは無意識のうちにやっている感じですよ。「なぜ、そこまでやるのか」と聞いても「単純にツルツルの方が綺麗だから」と答えるんじゃないかなあ。基本的には、布で出来た丸いディスクをモーターで回転させ、製品を押しあてて磨くのですが、工業製品ですからスプーン1本を磨く時間は数秒もないと思います。条件反射的に完璧に仕上げるのが、彼らのDNAなのかもしれません。
――そのDNAはどこから来ている、とお考えですか。
高野断言はできませんが、燕三条に限らず日本の中小企業は、会社を拡大することより、事業を継続させることに重きを置くところが多いですよね。経営者は若い世代に技術を教え、会社や家業を壊さないよう信頼されるものをつくり、会社を守ることに全力を尽くす。長年それを続けるうちに、各社のブランドが築かれていきます。その意味で燕三条の製品には、つくり手の良心がこもっていると感じます。ビジネスのために適当につくればいいや、という感じではなく、とことん真面目につくっていますから。
サントリーの醸造家と燕三条の職人に共通する、ものづくりのDNA

――高野さんはビールはお好きですか?
高野好きですね。今回、取材を受けるということでマスターズドリームを飲みましたが、本当においしかった!クラフトビールとは味の方向性が違っていて、味が濃くてコクが深いのに雑味がない。

――ありがとうございます。マスターズドリームは苦味、コク、甘み、香りの絶妙なバランスが特長です。どんなシーンで飲みたいですか?
高野ビール自体が美味しいから、ピクニックとか屋外で飲んでも美味しいでしょうし、魚も肉も合いそうだから、家で飲んでも豪華な晩酌になるでしょうね。ひと缶数百円で、これだけ贅沢な気分を味わえるのは最高です。
――サントリーの醸造家たちが「世界のどこにもない、心を震わせるほどうまいビールをお客様に届けたい」という夢を掲げ、素材、製法にこだわり抜いてつくりあげたビールです。高野さんのご感想を伝えたら、醸造家たちも喜ぶでしょうね。
高野サントリーの醸造家さんたちは、燕三条の職人さんたちと同じDNAを持っておられるのだと感じます。ビールの原料は金属以上に状態が不安定でしょうから、これだけ美味しいビールをつくるには、醸造家さんたちのオペレーションが重要になるでしょうね。醸造家の方たちに敬意、それから感謝を表したいです。こんなに美味しいビールをつくってくれて本当にありがとう、という気持ちです。
――6月には、燕三条で製造されたステンレス製の靴べらが、マスターズドリームのノベルティとして登場します。

厚さ1mm、軽量でシンプルなデザインの靴べら。マスターズドリームの缶のテクスチャーとマッチする、ツヤ消しの加工が施されている
高野艶消しのスクラッチ加工ですね。マスターズドリームの缶とも雰囲気がマッチしていてカッコいいじゃないですか。私も金属製の靴ベラを持ち歩いていますが、このノベルティの方が良いかもしれない(笑)。スーツのシークレットポケットにぴったりおさまるサイズだし、軽くて使いやすそうです。
――製造元のお話では、マスターズドリームのロゴとMADE IN JAPANという小さな文字を同時に刻印するのが、難しいとのことでした。

高野まさにこれが職人技ですよ。小さな文字をクリアに出そうと強くプレスし過ぎると、ロゴの方にひずみが出てしまうんです。これを一発で刻印できるのは、高い技術があってこそ。この靴べらを量産するのは、燕三条でなければ難しいでしょうね。
――最後に、日本のものづくりを代表する地域として、燕三条が掲げる目標をお話しください。
高野常にフロントラインを走り続けなくてはならないと思っています。他では真似できない高付加価値な商品をめざす燕三条の姿勢は、サントリーの醸造家さんたちとも通じるかもしれませんね。また、私たちの最大の強みである、最先端の製品と日用品の両方を、高い品質で量産できる体制を維持するには、やはり若手の職人、エンジニアの確保、育成が欠かせません。世界に誇る燕三条の技術をしっかりとPRし、ものづくりに興味を持つ若者を増やし、人材育成していくことが当面の目標です。
――ありがとうございました。

高野雅哉 Masaya Takano
1988年、新潟大学経済学部卒業後、燕商工会議所入所。2003年には、燕市の磨き屋職人の共同受注グループ「磨き屋シンジケート」発足の仕掛け人となり、ステンレスタンブラーなどの大ヒット商品を生み出す。その後「燕市金属酒器乾杯運動」も展開するなど、燕市産の製品の販促に携わる。

