Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ソルティ・ドッグ

ピナクルウオツカ 45ml
グレープフルーツ
ジュース
適量
ビルド/オールドファッションドグラス
縁を塩でスノースタイルにしたグラスに氷を入れる。材料を注ぎ、ステア

ソルティ・ドッグ・オールド・スタイル

ビーフィータージン
47度
45ml
グレープフルーツ
ジュース
適量
少々
アロマチック
ビターズ
1dash
シェーク/オールドファッションドグラス
氷を入れたグラス

しょっぱい奴をカクテルにした

ウオツカベースでとてもすっきりとしていて飲み口のいいカクテルのひとつに「ソルティ・ドッグ」がある。若い頃、やたら飲んだ。1970年代後半から80年代のはじめにかけてのこと。グレープフルーツが日本にたくさん輸入され、カクテルにも使われるようになった時代だった。

年齢を重ねて飲む機会は減っていったが、最近また口にするようになった。これは「ピナクルウオツカ」のお陰である。「ピナクルウオツカ」と果汁のミックスは最高だ。グレープフルーツジュースをよりみずみずしく、独特のふくらみのあるジューシーさに変貌させる。

さて、この「ソルティ・ドッグ」はとてもポピュラーで、いまさら紹介するほどではないかもしれない。しかしながら時の流れとともにレシピが変化した、ちょっと謎めいたカクテルなのだ。

現在わたしたちはウオツカとグレープフルーツをビルドというグラスの中で直接ミックスする、シンプルなレシピのものを味わっている。そしてグラスの縁を飾る塩はスタイリングだけでなく、グレープフルーツの味わいに潮風のような清涼感をもたらしている。

ただしこのスタイルが生まれたのは1960年代のアメリカである。そして前述したように、日本のバーで「ソルティ・ドッグ」が日常的につくられるようになったのは1970年代後半からのことになる。

アメリカで流行し、日本で一般化する以前、かつてのレシピはかなり違ったものだったようだ。いろいろな情報があるが、19世紀にはすでに存在していたようで、原型は「ソルティ・ドッグ・コリンズ」と言うらしい。これはドライジン、ライムジュース、塩をシェークするというもの。

ウオツカではなくジン。グレープフルーツでもなくてライムである。グラスを塩でスノースタイルにもしない。そのためいろんな憶測が生まれる。

まず、ほんとうにドライジンだったのか。19世紀までのジンの主流は、砂糖を加えたオールド・トム・ジンであった。当初はオールド・トムだったかもしれない。さらには新鮮な果実の流通が難しい時代であり、ライムジュースもおそらく、加糖されたコーディアル・ライムジュースだったであろう。つまり甘みはきちんとあったに違いない。

ただし、カクテル名として、当然塩は不可欠となる。この連載『第16回カルフォルニアの夢』でも述べたが、かつてイギリスでは船の甲板員のことをスラングで“ソルティ・ドッグ”と呼んでいた。潮を浴びる仕事だから“しょっぱい奴”ということなのだ。

アメリカ人がシンプルなレシピにアレンジ

面白いことに、現在のレシピに落ち着く前の、もうひとつ別のレシピがある。太平洋戦争終戦後に進駐軍が集う将校クラブで、日本人バーテンダーが連合国の将校たちから教わったものだ。

レシピ欄にオールド・スタイルとして紹介しているので、そちらをご覧いただきたいのだが、ドライジン、グレープフルーツジュース、塩、アロマチックビターズをシェークする。

1940年代後半から1950年代にかけてのことだから、ドライジンというのは素直に受け入れられる。シェークというのもわかる。ウオツカをベースにしてこれらの素材をシェークするとアルコール感が希薄になるというか、腰の弱い味わいになってしまう。

オールド・スタイルはなかなかに美味しい。ジンの香味がほどよく落ち着いていて、グレープフルーツの味わいには塩のミネラル感があり、スイカに塩の相性といえばわかっていただけるだろう。アロマチックビターズがうまく溶け込んでいるし、独特のジューシーさがある。

ここでまたひとつ気になることがある。ライムジュースからグレープフルーツジュースへの変化である。オールド・スタイルで使われていたグレープフルーツジュースは、はたして果実を搾ったフレッシュなものだったのだろうか。当時のことをご存知だったバーテンダーの方は世を去られてしまい、聞くことは叶わない。

アメリカ・フロリダは19世紀後半にはグレープフルーツの大生産地になっていたから、アメリカ進駐軍ならば本国から輸送してくることは可能だったのかもしれない。それともアメリカにはグレープフルーツのコンクジュースが存在していたのか。

英語のconcentrated(濃縮した)から名づけられたというコンクジュースは、100%果汁飲料が出まわる以前、水やソーダ水に溶かして飲むこの瓶詰コンクというものが主流だった。わたしの子供の頃は粉末で水に溶かすものもあった。

だからカクテルにどんなものを使っていたのか、とても悩ましいのだ。

日本ではフレッシュなグレープフルーツを昔はなかなか口にできなかった。よほどのセレブだけが味わえた果実であった。1971年に輸入自由化になった農産物品目のひとつであり、日本人が日常的に味わうことができるようになったのはそれ以降のことになる。

ちなみにグレープフルーツ果汁の輸入自由化は1986年。30年ほど前のこと。誰もが日常的にグレープフルーツジュースを口にするようになってから、さほど時間は経っていない。

前述したように現在のレシピで、グラスの縁を塩で飾るスタイルになったのは1960年代のアメリカ。シンプルで気軽に飲めるカクテルにしたのはアメリカ人らしいといえる。

アメリカは1970年代、ウオツカ、ジン、ホワイトラム、テキーラなどのホワイトスピリッツ(透明な蒸溜酒)のブームが起こった。そこでさまざまなレシピが生まれた。

その先駆けとなったカクテルが「ソルティ・ドッグ」といえるだろう。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ピナクルウオツカ
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ビーフィータージン
ビーフィータージン

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