Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ウイスキー・ズーム・カクテル

アルバータ
ダークバッチ
2/4
ハチミツ 1/4
生クリーム 1/4
シェーク/カクテルグラス
十分にシェークする

カルガリーで生まれるウイスキー

いくつかのカクテルブックを眺めると、アルファベット順索引の最後に登場するのが「Zoom Cocktail」である。基本はブランデーベースで、あとはハチミツと生クリームというシンプルなものだ。これを十分にシェークする。

ベースをウイスキー、ジン、ラム、ウオツカなどの他のスピリッツに変えた場合は、「ウイスキー・ズーム・カクテル」といったようにアタマに使用するスピリッツ名をつける。

ズームとは、ハチミツを使うことに理由があるらしい。手元にある辞書によれば、Zoomは、ある場所にブーンと大きな音を立てて急に動く、疾走する、とある。飛行機の急上昇やクルマのスピード感のあるエンジン音などとともにミツバチのブーンという羽音も当てはまるようだ。

ちなみに馴染みあるカメラのズームレンズの画像拡大縮小に関しては、この単語訳の4番目に登場していた。

では、「ズーム・カクテル」をどう楽しむか。大いに遊べるのがカクテルのいいところである。組み合わせとしておすすめするのがカナダのアルバータ州特産品、ウイスキーとハチミツである。

これは今年の春に「アルバータ プレミアム」と「アルバータ ダークバッチ」というカナディアンウイスキーが日本に登場したことがきっかけとなり、アルバータ州に関していろいろ調べてみたら「ズーム・カクテル」に辿り着いた。まずはそのウイスキーの話からはじめよう。


アルバータ州はカナダの西部に位置し、アメリカのモンタナ州と国境を接している。ひとつの州とはいえ、面積は日本の国土の約1.75倍と広大だ。周辺は北米大陸中央を南北に伸びるプレーリー(温帯草原地帯)と呼ばれる平原が広がる。

州内最大都市(州都はエドモントン)のカルガリーはカナダを代表する商業都市である。しかしながら自然が豊かで風光明媚な地。カナディアンロッキーをベースにしたマウンテンリゾートに代表される観光地として世界的に名高い。

そのカルガリー近郊でのアルバータ蒸溜所のウイスキーづくりにはグレイシャル・ウォーター(glacial water/氷河の水)と呼ばれる、ロッキー山脈の氷河から溶け出した清冽なまでもの水を仕込みに使用する。

さらには高品質なライ麦の産地でもあり、アルバータ蒸溜所は北米においてライウイスキー製造の権威として一目置かれている。現在、カナダで唯一、穀類原料にライ麦を100%使用したシングルライウイスキー「アルバータ プレミアム」を生んでいるが、“カナダの至宝”とまで称賛されるほど評価が高い。

もうひとつの「アルバータ ダークバッチ」はライウイスキーを91%、バーボンウイスキー8%、オロロソシェリー1%という配合費でブレンドしたユニークなブレンデッドウイスキーだ。

カナディアンウイスキーの大きな特長として、ライ麦、大麦、トウモロコシなどの穀類を原料にしたウイスキーだけでなく、9.09%までカナダ産以外のスピリッツやワインの添加を許されている点が挙げられる。その象徴が「アルバータ ダークバッチ」である。

カナダ随一の養蜂州

次にハチミツ。アルバータ州はカナダ全州の中でも年間晴天日が最多。安定した気候のもとでライ麦、小麦、大麦、菜種栽培、平原で飼育されるアルバータ牛など名産が多い。さらにはカナダ随一の養蜂州である。

カナダといえば国旗に象徴されるメープル(楓・かえで)のシロップが知られている。しかしながら世界に流通しているメープルシロップの約70%は東部ケベック州産で、他は隣接するオンタリオ州産である。反対に西部のアルバータ州はプレーリーを蜜源とするハチミツの里として名高い。

アルバータ産カナディアンハニーはクローバーや菜の花、ヤナギラン、アルファルファ、タンポポなど草花をメインとしており、風味豊かで滑らかな美味しさにファンは多い。日本にもたくさん輸出されている。

さて、このアルバータ産カナディアンハニーを使って「ウイスキー・ズーム・カクテル」を楽しむのにはどちらのウイスキーがふさわしいか。

試してみたところ「アルバータ ダークバッチ」がおすすめだ。伝統的なライウイスキーの風味にバーボンとシェリー酒が繊細に溶け込み、深く芳醇な香味に洗練された現代的なテイストを感じ取ることができる。その独特の香味が「ズーム・カクテル」に生きる。

「アルバータ ダークバッチ」にカナディアンハニーの優しい甘みと生クリームとが融合することによって、滑らかで余韻にカスタードクリームの味わいに似たふくらみのある味わいをもたらす。アフターディナーカクテルとしてふさわしい。

もちろんシングルライウイスキー「アルバータ プレミアム」ベースもいける。ただしこの“カナダの至宝”は軽快で煌めくようなしなやかさを特長としているだけに、生クリームの主張が強くなり、サラッとした穏やかな風味に落ち着く。味わい深さからいえば「アルバータ ダークバッチ」ベースのほうがふさわしい。

カクテルは、「ズーム・カクテル」のように同じ土地の特産品をミックスする面白味もある。是非、アルバータ産の味わいを楽しんでいただきたい。

(「アルバータダークバッチ」は現在取り扱っていません)

カナディアンウイスキー・ベースのカクテルに関するエッセイはこちら

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イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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