バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

ミスター・ボージャングルズ

ジムビームのオン・ザ・ロックを飲むと思わず口ずさむ曲がある。

『Mr.Bojangles』。はじめて聴いたのは中学1、2年生だったような気がする。サミー・デイヴィスJr.の熱い魂の歌声だった。ませガキは歌詞を見て、とてもとても切ない曲だと感じ入ってしまい、目からポタポタと涙があふれでてしょうがなかった。

老いたボードビリアンを歌った曲だ。若者がニューオーリンズの留置場でひと晩過ごすはめになり、鉄格子の中で落ち込んでいた時に老人と出会う。アメリカ南部の旅回りを長年していたタップダンサーでボージャングルズと名乗るその老人は、踊りながら若者に人生を語ってみせる。

白髪頭。着崩れたシャツにだぶだぶのズボン。履き古したタップシューズ。それでも高く飛んで、両足の踵をカチッと合わせ、しなやかに着地する。鉄格子の中を端から端まで踊り、笑い、手で脚を叩き、またステップを踏む。

こんな内容の詩が軽やかなリズムながら哀愁漂うメロディに乗って歌われる。その後、ボブ・ディラン、ジョン・デンバーの歌声でもこの曲を聴いた。ニーナ・シモンにも深い味わいがあった。誰が歌っても、アレンジが異なっていても、こころに響く。でも、涙することはなかった。

 

ところが大学生となり、再び涙する日が来る。いまから30年以上も前のことだ。カフェバーという形態の店が流行っていた。

懐かしのアメリカン・ポップスを流すお気に入りの1軒があった。その夜はぼんやりとした不安を抱えていた。なんとか就職先が決まったのだが、さてどうしたものやら。嬉しいはずなのに、いざとなったら社会人として生きる自分の像が浮かんでこない。

ジムビームのオン・ザ・ロックを嘗めながら、若く、足りていないアタマで未来図を描こうとしていた。

オーナーが声をかけてきた。「就職おめでとう」とお祝いの言葉を述べてくれ、そして「なんだか嬉しそうじゃないな」と言って笑う。彼のその表情に安堵して、正直に自分の胸の内を吐露した。

すると「いくら考えても無駄。なるようにしか、ならない」と、オーナーは驚くほど冷めた口調で返し、「今夜は俺のおごりだ。気がすむまで飲んで、帰って寝ろ」と突き放してきた。場外ホームランのような見事な助言を期待していたので拍子抜けの度合いは凄まじかったが、おごりという言葉の魅力が気持ちを相殺した。

for Bourbon Whisky Lovers