【山口周×コクヨ×サントリー】"無駄"を削る組織に、未来はない。「雑談」は最強の投資だ

【山口周×コクヨ×サントリー】"無駄"を削る組織に、未来はない。「雑談」は最強の投資だ

会議室では生まれない発想が、ちょっとした立ち話から生まれることがある。
そんな「雑談」の価値を、経営の観点から改めて捉え直すイベントが、サントリービバレッジソリューション主催で行われた。
独立研究者・山口周氏をはじめ、コクヨ、サントリーの実践者による講演から、雑談が企業にもたらす価値と、それを生み出す設計のヒントをレポートする。

雑談は、組織を正常に機能させる「情報回路」だ

「“雑”って付く言葉は、だいたい良い言葉ではないことが多い。でも“雑談”は違う。よく考えると、これは非常に重要なテーマだと思います」

そう語るのは、人文知を起点に、数多くの企業の経営課題に向き合い続けてきた山口周氏だ。

組織をひとつの「情報処理システム」として捉えると、雑談の見え方は一変すると言う。

雑談は、組織を正常に機能させる「情報回路」だ

情報を受け取り、社内で議論・統合を行い、意思決定へと変換する。突き詰めれば、企業も行政も、ビジネスの本質は情報処理にほかならない。

この視点に立つと、雑談は「情報処理システムの内部における『非公式な情報流通の回路』」だと定義できると、山口氏は語る。

つまり、雑談は単なる「休憩時間に交わす会話」ではなく、組織という情報処理システムを、正常に機能させるために欠かせない回路なのだ。

「では、雑談という“非公式な回路”が組織にもたらす効果とは何か。私は3つに整理できると考えます」(山口)

まず1つ目は、「マネジメントにおけるコミュニケーションの補完」だ。

EQ(心の知能指数)の提唱者、ダニエル・ゴールマンの研究では、「優れたリーダーは6つのリーダーシップ・スタイルを状況に応じて使い分ける」と言われている。

しかし、日本を代表する企業の幹部候補約8600人を対象としたアセスメント(客観的な適性評価)では、約半数が1〜2つのスタイルしか実践できていなかったという。

その大半が、細かい指示で進捗を監視する「指示命令」型と、自ら課題解決の先頭に立つ「率先」型に偏っていた。

6つのリーダーシップ・スキル 『EQリーダーシップ 新装版 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方』(ダニエル・ゴールマンほか、日経BP)をもとにNewsPicksで作成

「おそらくこの2つのスタイルに偏っている管理職は、極めて多忙でありながら、チームとしての成果が出せていない状況に陥っているはずです。

なぜなら、“部下とコミュニケーションする場”が設けられていないから。

マネジメントとは本来、言葉を介して行うものです。指示命令型や率先型のような、会議や文書で済むスタイルだけを実践している限り、マネジメントの本質的な役割は果たせない。

私がコンサルティングの現場で叩き込まれたマネジメントの原則は、『ポジティブなフィードバックはスピード重視。手段は問わない。しかし、ネガティブなフィードバックは必ずFace to Faceで行うこと』でした。

つまり、非公式、かつ一対一の場を設けることは重要なのです」(山口)

マネジャーのコミュニケーション不足を課題視する企業は多い。しかし、それは個人の資質の問題ではなく、”対話する機会”が存在しないことが大きく影響しているのだ。

雑談はその入り口になると、山口氏は続ける。

「社長直轄のプロジェクト」が危ない理由

続いて、2つ目の効果として挙げたのが「情報のダブル・トリプルチェック」だ。

「航空機のコックピットを例に考えてみましょう。コックピットは、お互いのミスを補い合えるよう、機長と副操縦士の二人で運航することを前提に設計されています。

ところが、経験豊富であるはずの機長が操縦桿を握っている場合のほうが、副操縦士が操縦している場合よりも事故率が高くなるというデータがある。

なぜなら、副操縦士は違和感や異変に気づいても、機長の操縦判断を指摘しづらいからです。

本来であれば、計器のデータや、操縦中に肌で感じた小さな違和感も、事故を防ぐための重要な情報として共有されるべきものです。

ところが、それらが機長に伝わらなくなることで、副操縦士と異変を検知するセンサーが機能しなくなってしまいます。

センサーが機能しなければ、本来流れるはずの情報も途絶え、情報の回路がひとつ切れた状態になる。

つまり、事故の原因は機長の操縦技術ではなく『情報が上がってこない組織構造』にあるのです」(山口)

「社長直轄のプロジェクト」が危ない理由 Getty Images

同じ構図は、日本企業にも当てはまる。

部下に懸念を感じたらすぐに報告するように伝えても、意見が上がってこない。管理職なら、一度は覚えのある悩みではないだろうか。

これは「情報回路の設計の問題」だと山口氏は続ける。

「あるヨーロッパのビジネススクールの研究では、300件超のプロジェクトを分析した結果、『ジュニアリーダーのチームより、シニアリーダーが率いるチームのほうが成功確率が低い』という傾向が示されています。

一見、権限が大きく、資本力も政治力も持つリーダーほど、プロジェクト進行は有利に見えます。

しかし実際には、その「権威」ゆえに周囲は異を唱えづらくなり、「その判断は間違っているかもしれない」という重要な情報がリーダーに届かなくなります。

つまり、リーダーの能力が低いのではなく、権力が大きくなるほど、現場の情報は見えにくくなる。

言い換えれば、『権力』と『情報の可視化』はトレードオフの関係にあると言えるでしょう。

そう考えると、社長直轄プロジェクトは、実は一番危ないといえるかもしれません」(山口)

「社長直轄のプロジェクト」が危ない理由

こうした構造的な問題を考えるうえで、山口氏は「権力格差指標(PDI)」に着目する。権力の弱い立場が、不平等な上下関係をどれだけ受け入れているかを測る指標だ。

「権力格差指標の高さを国別で見ると、日本はグローバル平均より高い。目上の人への反論や異論が起こりにくい国民性が起因しています。

だからこそ、『危険を感じたら報告せよ』という規律や、性善説に頼るだけでは、本来届くべき情報は上まで届かない。

本音を語りづらい日本企業こそ、危険な情報が上がりやすい回路を、意図的に設計する必要がある。

例えば、ある上場企業の経営者は、自身の社長就任が決まった際、『自分に気を使わず、思ったことを言うだろう』と感じる人物に、まず連絡を取ったといいます。

そうして、雑談という形で、公式の会議で出た話を客観的に精査する回路を作った。

率直に話せる関係を築くことは、情報精度を高めるインフラを整えることに等しいといえるでしょう」(山口)

イノベーティブな企業は、雑談を意図的に設計する

最後に、3つ目の効果として挙げたのが「イノベーションにつながるアイデアの創出」だ。

これについて山口氏は、マサチューセッツ工科大学(MIT)にかつて存在した『20号館(Building 20)』を例に挙げる。

第二次世界大戦中、レーダー開発のために急造された木造バラックだったが、全く異なる領域の研究者たちがこの場所に集い、偶発的なイノベーションを生み出した伝説的な建物だ。

イノベーティブな企業は、雑談を意図的に設計する

「建物が存在した55年の間に、ノーベル賞受賞者を9人輩出し、世界的な音響機器メーカー・BOSEの歴史もこの『20号館』から始まっています。

こうした多彩な知的成果の源泉は、領域をまたいだ偶発的な対話でした。

コーヒーを飲みながら、食事をしながら、全く異なる発想の持ち主と言葉を交わす。その雑談が、イノベーションを生み出す火種になったのです」(山口)

これにならように、世界を代表するイノベーション企業は、“偶発的な対話”が生まれる環境を意図的に設計していると、山口氏は続ける。

「例えばGoogleでは、スナックやドリンクのリフレッシュスペースを24時間開放しています。個人ブースで完結しがちなアメリカの職場環境に、あえて社員同士が雑談する場を設けている。

日本では、トヨタ自動車が『人間関係諸活動(HUREAI活動)』と呼ばれる社内クラブを奨励しています。

トヨタは業務ごとに部門を分ける機能別組織のため、縦の交流はあっても、部署をまたいだ横の交流が生まれにくい。

社内クラブで毎週顔を合わせる相手が別部門にいれば、雑談を通して、公式文書では届かない現場の声が拾えるようになりますよね。

両社とも、 “意図的にデザインされた雑談”を、組織インフラとして機能させているのです」(山口)

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組織変革を模索する企業が出した「体験」という答え

マネジメント・ガバナンス・イノベーション──山口氏が提示した「雑談がもたらす3つの効果」は、今の日本企業が直面する課題を解決するカギとなるだろう。

では、「組織の根幹を支える回路」を日本企業はどう実装すべきか。コクヨ・新居臨氏は、その答えを模索してきたひとりだ。

「社員のやる気低下、人材の流出と後継者不足、部下を育てられない管理職の増加。そしてAIが台頭するなかで、独自のイノベーションをどう生み出すか。

私自身、オフィスや働き方のコンサルティングを手掛ける中で、多くの企業から、こうした組織変革の課題を聞いてきました。

実はコクヨ自身も同じ課題に直面しており、経営サイドから解決策を探ってきた一社です」(新居氏)

組織変革を模索する企業が出した「体験」という答え

コクヨでは、経営層主導で組織カルチャーの変革を目指し、さまざまな施策を試みていた。しかし、いくら号令をかけても社員は動かなかった。

そこで同社が選んだのが、オフィスを起点とした「体験文化」を通じて、組織カルチャーを根本から変えていくアプローチだ。

このアプローチを設計する上で、組織文化研究の古典であるエドガー・シャインの『文化の3層構造』を参照したと、新居氏は語る。

コクヨが考える組織文化の3層構造

「表層は、雑談や挨拶といった、目に見える具体的な振る舞いです。中層は、経営理念やビジョンなど、言語化された価値観。

そして深層には、言語化されていない暗黙の前提が潜んでいる。『うちの会社・人材はこういうものだ』という、組織に染み付いた認識です。

この深層こそ、会社の核を形成するものであり、ここが変わらない限り、組織は変わらない。だからこそ、まずは表層から順に変えていくことが重要だと思いました。

社員が自主的に動ける闊達なオフィス空間を作ることで、組織内で『自由にやっていい』という価値観認識が明文化され、やがて暗黙の前提になっていく。

この循環を目指して、私たちは“オフィスでの体験価値の提供”に力を入れてきました」(新居)

そうしてコクヨが生み出したのが、社員主導の“大人の文化祭”、「CULTURE SNACK」だ。

CULTURE SNACK 写真提供:コクヨ

この取り組みでカギとなるのが、「A面」「B面」という言葉だ。経営会議でも頻出するこのワードについて、新居氏はこう説明する。

「A面は、業務上のつながりを指します。対するB面は、趣味や地域活動など、業務外の関心によって生まれたつながりを意味する。

CULTURE SNACKは、B面の拡張にフォーカスした取り組みです。

社内外の140を超えるチームが、自分たちの『好き』を活かした物販やワークショップ、パフォーマンスを展開し、今や、近隣企業や地域住民まで巻き込む規模に育っています。

面白いのは、社員の自発的な提案から、新たなB面の取り組みが生まれているケースが増えてきたこと。

例えば『バーを常設したい』といった社員からの相談を受け止め、実現していく。その窓口を担っているのは総務部です。

数年前まで総務部は、管理業務やガバナンスに徹する“守りの部門”でした。でもいまは『新しいことをやりたくなったら、まず総務に相談する』という空気になってきている。

この変化こそが、組織文化が変わった何よりの証拠だと思っています」(新居)

CULTURE SNACK 「CULTURE SNACK」により、事業部や年代を超えたコミュニケーションが増加。若手社員が自身のスキルを伸ばすきっかけにもなっているという。(写真提供:コクヨ)

さらに、「B面で生まれたつながりは、A面の通常業務にも成果として表れている」と、新居氏は付け加える。

事業部の壁を越えた新規プロジェクトが生まれ、従業員サーベイの『挑戦する風土』スコアも、目に見えて上がったという。

企業自身が、「組織の根幹を支える回路」を設計・構築し、組織変革を実現した、稀有な例と言えるだろう。

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いつもの「自販機」が、組織変革の一歩になる

とはいえ、コクヨのような組織全体を巻き込む改革は、一朝一夕には実現しない。

ならば、「オフィスの自動販売機」という、身近な存在から始めてみるのはどうか──。サントリーが提案するのは、小さな一歩から始める組織変革だ。

このアプローチから生まれたサービスが、「社長のおごり自販機」である。

社長のおごり自販機 おごり自販機をもっと詳しく見る

サントリービバレッジソリューションの圖師淑隆氏は、サービスが誕生した裏側をこう語る。

「これまでの自販機の価値は、『近い・早い』でした。

喉が渇いたときにサッと立ち寄れる、一番近くの小売店のような存在です。オフィスなら、デスクから歩いてすぐに飲み物を購入できる。

『社長のおごり自販機』は、あえてそうした既存価値をひっくり返して、『不便益』をヒントに考えたことから生まれました。

自分だけではなく、誰かと同時にボタンを押さないと飲料が出てこない自販機を作ったら、そこから偶発的なコミュニケーションが生まれるかもしれない。

そんな発想から、「挨拶以上、食事未満」のコミュニケーションの創出という、このサービス最大の魅力が生まれました」(圖師)

いつもの「自販機」が、組織変革の一歩になる

「おごり自販機」の導入によって、実際に組織に変化が生まれた企業がある。

あるビルメンテナンス系企業は、トップダウンで業務を正確にこなすことが評価される、硬直した組織文化を持っていた。

そんな中、新社長から「社内のイノベーションを強化せよ」という指示が、同社の経営企画に下される。小さな変革の一歩として担当者が目を付けたのが、『社長のおごり自販機』だった。

導入後の効果は大きかった。

自販機の前で社員が談笑する風景がオフィスの日常へと変わり、自販機前での雑談がヒントとなって生まれた「社内プチ留学制度」は、わずか1年半で制度化にまで至ったという。

その他にも、導入から2年で、社員主導のプロジェクトが8件立ち上がった。

「制度設計を大きく変えることだけが組織変革ではありません。小さなツールが、組織という大きな文化を変えることもある。

『社長のおごり自販機』という、ユニークな名前から伝わるように、『うちの会社で、こんな面白いことをやっていいんだ』という新しい風土を可視化することも、社員の心を動かしたと思います」(圖師)

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「無駄」がなければ未来は先細りする

しかし経営層は、依然として「雑談が組織文化を変える」という発想に腹落ちできずにいる。

上述した導入企業でも、役員から「雑談が業務にどう影響があるのか」と懐疑的だったという。

「導入する前は、『飲料を無料で提供して雑談が生まれることが、組織の生産性とどう結びつくのか』と、疑問に思われる経営層は多い。

しかし自販機の前に従業員が自然と集まり、笑顔で話す姿を見た瞬間、『こういうことか』と納得していただける。

雑談と生産性は、同じ土俵で比べるものではありません。雑談が生む組織風土の上に、はじめて効果が生まれる。そう感じています」(圖師)

このエピソードを聞いた山口氏は、雑談と生産性を短絡的に結びつける考え方について、釘を刺す。

「無駄」がなければ未来は先細りする

「雑談の効果を短期で測ろうとすること自体、間違いだと思います。

組織の本当の健全性は、2〜3年では見えない。端的に言えば、30年単位で見ないとわからない。雑談のような取り組みは、中長期で効いてくるものです。

短期で検証できる物差しで測れば、『いらない』という結論になりやすいでしょう。

測れないものに有用性があることに納得していただかないと、雑談を組織に根付かせるのは難しいと思います」(山口)

そして、雑談の価値をこう再定義する。

「雑談は、大抵の場合、無駄です。

でも考えてみてください。自分の人生に大きな影響を与えた人との出会いは、最初から『この人に会うとリターンがある』と計算して始まりましたか。

必ず、偶然から生まれているはずです。

『得にならないコミュニケーション』を切り捨てていくと、本来得るべき情報も、アイデアの種も、すべて遮断されてしまう。

無駄を排除し続けた先にあるのは、先細った未来です」(山口)

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もし企業のオフィスに、社員が思わず誰かと言葉を交わしたくなる設計がなされていたら──。

そこから生まれた何気ない雑談が、数十年後の組織をきっと変えることになるだろう。

日本企業が変わる一歩は、大きな制度改革ではなく、誰かと一緒にボタンを押さなければ飲み物が出てこない、小さな「不便」をひとつ置いてみることかもしれない。

この記事の著者 / 編集者
執筆:周藤瞳美
撮影:小池大介
デザイン:小鈴キリカ
編集:前川結貴