2025.12.22

健康先取り 健康科学 ストーリー

〈第3章 発見〉特茶誕生の鍵となった新素材の探索

第3章発見
第3章発見

黒烏龍茶の大ヒットの陰で、社内では黒烏龍茶に次ぐ新商品のトクホ開発をすでに進めていました。“食事と一緒に飲む”黒烏龍茶に対し、食事以外のシーンで飲める新たな体脂肪低減のトクホ飲料の開発を目指して動きだしていたのです。そのために、まず必要だったのは体脂肪低減に有効な素材を探し出すことでした。

サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社 イノベーション創発部長 阿部 圭一にインタビューを行いました。

本記事は2015年に弊社コーポレートサイトにて掲載された内容を、再編集したものです。記載の役職・部署名・写真などは、原則として掲載当時(2015年)の情報です。現在とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

この記事の要約

黒烏龍茶の大ヒット後、サントリーは食事以外のシーンで飲める新たな体脂肪低減トクホ開発に着手。目標は体脂肪分解・燃焼作用を持つ素材の探索でした。知見とネットワークを駆使し、通常5年かかる素材探索を1年で完了、植物由来のポリフェノール「ケルセチン」を特定。その有効性を確認するヒト試験も約2年後に成功し、「特茶」誕生プロジェクトは大きく加速しました。

素材探索で培った知見をトクホ開発に生かす

素材探索で培った知見をトクホ開発に生かす
新商品のトクホ開発が進行

私は入社後すぐに研究所に配属され、素材探索一筋で研究を進めてきました。健康素材や医薬の探索研究を担当してきたことが、サイエンスへの理解や素材業界との太いネットワークを構築できたという面で、トクホ商品開発を進める際に大いに役に立ちました。

同時に、競合他社の商品開発情報や素材研究の概要も学会情報収集などで把握していたので、そういう意味では独自性とポテンシャルの高さを持った素材を選ぶということにはある程度、強みを発揮できたのです。

新規トクホプロジェクトのリーダーとして研究開発に取り組んでいた私は、その後のトクホの特命プロジェクトチームにも参画することになりました。ここで担当したのは独自素材を軸とした商品アイデアの提案でした。特に黒烏龍茶については、ウーロン茶特有の成分OTPPに脂肪の吸収を抑える効果を発見したことをベースに、独自製法を確立して中味の設計を進めました。

ほとんどの茶ポリフェノールは渋味が強いのですが、このOTPPの舌触りはまさにベルベットのよう。そのため、黒烏龍茶は、フルボディの赤ワインに相当するようなスムーズで厚みのある味わいにできたのが成功のポイントのひとつだと思っています。

求めたのは脂肪分解・燃焼作用を持つ新たな素材

食事中は黒烏龍茶で脂肪吸収抑制
食事中は黒烏龍茶で脂肪吸収抑制
食事以外の時は特茶で脂肪分解
食事以外の時は特茶で脂肪分解

トクホの特命プロジェクトでは、私は素材探索には単なる効果の高さだけではなく、消費者に購入をうながす効能ターゲットが何かという視点や、毎日飲み続けることができる中味かどうかが重要であることを学びました。効能ターゲットのポテンシャルの評価、味の良さと有効性を併せ持ったOTPPのような素材の必要性を理解できた経験は、のちに特茶の開発で生かすことができました。

肥満ターゲット飲料はヒット商品になる大きなポテンシャルを持つことが期待されていました。黒烏龍茶は食事と共に飲むと脂肪の吸収を抑制しますが、さらに脂肪分解・燃焼作用のメカニズムを有するものがあれば、食事以外のシーンでも体脂肪低減商品として両立させることができるはず──。

そこで、我々は黒烏龍茶の発売前から脂肪分解・燃焼効果をもつトクホ飲料を開発しようとしましたが、当時はそれに適した素材を持っていませんでした。そのため、素材探索からトクホ許可には概ね最低5年はかかってしまうのです。

研究ネットワークを生かしたスピード重視の素材探索

ケルセチンの多彩な生理作用
ケルセチンの多彩な生理作用

肥満ターゲットのトクホは大型商品になる可能性が高いため、我々はそんなに時間をかけていては大きな機会損失になると判断し、確実に開発につなげられる素材候補のリストアップから始めました。

コストが高いもの、味に大きな問題があるものは最初から除外し、食経験があり安全性も確認されているもののうち、文献等から脂肪分解・燃焼の効能を示す可能性がありそうな素材に絞って評価を進めることにしました。

そして、この中で選び出したのが、マメ科植物のエンジュ由来のポリフェノール「ケルセチン」でした。今回、ケルセチンというメジャーな成分がヒトで強い抗肥満作用を示す可能性があるという発見ができたのは、正直、驚きでした。

このように、従来とは異なる我々独自のアプローチにより、探索期間を大幅に短縮して1年で完了することができたのです。

脂肪分解・燃焼効果を示す素材としてケルセチンを選び出せたことから、早速トクホ申請に必要な試験、すなわち3カ月間摂取した際に体脂肪が減少することを確認する人での効能評価試験へと進めました。

万策を尽くして臨んだケルセチンのヒト試験

まずは、想定メカニズムに照らし合わせながら試験条件を綿密に点検することからスタート。

素材選抜試験の段階では強めの運動を負荷していましたが、トクホ申請に必要な継続試験では、より日常の生活スタイルと通常の運動レベルを被験者に維持してもらい、予備試験の結果を考慮してケルセチンの量を決定し、飲むタイミングも工夫しました。

また、試験データのばらつきを極力抑えるために、試験現場にメンバーとともに張り付いて生活指導がきっちり徹底されているかを確認するなど、万策を尽くした試験を実施しました。

そして挑戦を始めてから約2年後、祈る思いで待った試験結果は期待通りのものとなりました。ケルセチンの有効性が確認できたことで、トクホ申請へとプロジェクトは大きく加速し、今日の特茶誕生へとアクセルが踏まれたのです。

ケルセチンは非常にポテンシャルが高い成分です。例えば炎症を抑える効果が高いため、当社のサプリメント「グルコサミン&コンドロイチン」にも配合されていますし、他にも脳、血管、腸などにもいい影響を与える可能性があることがわかりはじめています。

つまり、特茶は単なる肥満対策だけにとどまらず、我々が考えている以上にさまざまな効果を期待できるかもしれないということ。今後もケルセチンの新たな可能性を“探索”していきたいと考えています。

Profile
阿部圭一
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社
イノベーション創発部長
Share
  • X
  • LinkedIn
  • Copy