2025.12.22

健康先取り 健康科学 ストーリー

〈第2章 挑戦〉一気に拡大したトクホ市場に打って出た「黒烏龍茶」

第2章挑戦
第2章挑戦

トクホ制度ができたのは1991年のことですが、本格的に注目されるようになったのは2003年のこと。体脂肪低減関連のトクホに人々の関心が集まるようになり、一気に市場が拡大したのです。そんななか、サントリーはこれまで蓄積してきたポリフェノールサイエンスを生かし、先行する製品とはコンセプトの異なる商品を打ち出します。

サントリー食品インターナショナル株式会社 研究開発部長 福山勝実にインタビューを行いました。

本記事は2015年に弊社コーポレートサイトにて掲載された内容を、再編集したものです。記載の役職・部署名・写真などは、原則として掲載当時(2015年)の情報です。現在とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

この記事の要約

サントリーは2002年、トクホ市場参入のため「肥満」領域に照準を合わせプロジェクトを発足。長年の研究から、ウーロン茶重合ポリフェノール(OTPP)が「脂肪の吸収を抑える」新たなメカニズムを発見しました。OTPPは味に影響せず、美味しさも実現。トクホ許可に2年、構想からは丸4年を経て2006年に発売された「黒烏龍茶」は、発売1年で1,000万ケース突破の大ヒットとなりました。

本格的にトクホ開発に取り組みだした2002年

サントリーがトクホ開発に取り組み始めた2002年当時、トクホ市場全体も、「肥満」を対象とした領域も、ともに広がり始めていた
サントリーがトクホ開発に取り組み始めた2002年当時、トクホ市場全体も、「肥満」を対象とした領域も、ともに広がり始めていた

2002年、“健康”と“食品”をつなぐ商品を開発して、新たなビジネスを起こそうと特命プロジェクトチームが発足し、当社でも本格的にトクホ商品の開発が始まりました。

食品の領域で健康というものを考えると、単に栄養がとれるだけではなく、食品の3次機能とも言われる“体調節機能”に着目して、健康を悪化させる前に日々きちんとケアしていくということが大事になります。それをもっとも端的に実現できる領域としてトクホがあるのだから、必ずや大きなマーケットになる──。そう確信して、きちんとトクホに取り組んでみたいとプロジェクトチームから経営側に答申したのです。

トクホ商品を開発するからには、当然、その商品を摂取することにより、体のなかでどんな成分がどのように作用してどんな効果効能が現れるのかといった、エビデンスを明確にしなくてはなりません。そこで、まずプロジェクトチームでは今までのポリフェノールサイエンスのなかで蓄積してきた健康データなどをきちんと洗い直して、その枠組みの中に組み上げていくという作業を始めたのです。

トクホに取り組むうえで、まずどの領域を目指すのか議論したところ、日本人が抱える健康に関する悩みの中でもっとも大きいのは“肥満”だろうという結論に至りました。肥満は万病のもとですし、食品とも密接に関係しています。さらに肥満予備軍も含めれば、悩みを抱える人たちの絶対数はかなりのもの。需要があることは確信していました。

黒烏龍茶発売を前に、急激に拡大し始めたトクホ市場

急拡大するトクホ市場にあって、黒烏龍茶の発売は「肥満」対象の市場規模を大きく伸ばす役割を果たした(「公益財団法人日本健康・栄養食品協会プレスリリース」(平成27年4月1日)より)
急拡大するトクホ市場にあって、黒烏龍茶の発売は「肥満」対象の市場規模を大きく伸ばす役割を果たした(「公益財団法人日本健康・栄養食品協会プレスリリース」(平成27年4月1日)より)

そこで目を付けたのが、過去から蓄積してきたウーロン茶ポリフェノールの研究成果です。
すでに「サントリー烏龍茶」は我々の商品のなかで大黒柱のひとつとなっていましたし、そこにエビデンスとして成立するデータがあれば絶対にいけるはず──。

単にウーロン茶の痩身効果を証明するだけではなく、トクホ商品になれば国が許可したということになるので、一般の消費者の見かたも変わってきます。我々はそこを目指して、黒烏龍茶の商品開発とトクホ申請に向けて動き出しました。

トクホ制度は1991年から始まっていましたが、消費者に浸透しているとは言えない状態でした。しかし、他社からさまざまな商品が発売されて世の注目を集め、それらのヒットをきっかけにトクホ市場は拡大していきました。

プロジェクトチームの立ち上げから一年後に、黒烏龍茶と同じ肥満領域トクホで他社製品が先行して売れ、いわば後れを取ったような形にはなりました。ただし我々に焦りはありませんでした。OTPPという新規成分の未知なるメカニズムを解明し、効能や安全性をきちんと確認するというステップに時間がかかることはわかっていましたし、その点では腹をくくっていたからです。

最も大切だったことは、OTPPに確かな効果があるというデータを、確実に出すことだったのです。また、新たなメカニズム(脂肪の吸収を抑える)が新たな魅力に繋がるという認識もありました。

先行する他社製品との差別化を図る

先行する他社製品との差別化を図る
黒烏龍茶のコンセプトは「脂肪吸収を抑える」

他社とどう差別化するのかという議論は社内でも持ち上がっていました。そこで我々が押したのはコンセプトの違いです。同じ体脂肪低減関連のトクホとはいっても、他社の「体脂肪燃焼」に対して、我々の黒烏龍茶のコンセプトは「脂肪吸収を抑える」というものであり、そもそものメカニズムが違ったのです。

脂肪は3つの脂肪酸が結合してできていますが、その脂肪酸の結合をといて分解されていないと人間の体には吸収されません。それを分解するリパーゼという酵素の働きを妨げて、人間の体のなかに吸収できないようにするのがOTPPのメカニズムです。

また、黒烏龍茶はその黒い色からすると意外なほどまろやかで飲みやすい。トクホ飲料というものは健康成分を入れるわけですから、味的な影響というものは常に付きまといます。

その点、OTPPは色素成分に近いものなので色には大きく影響しますが、味にはほとんど作用しません。だから、飲みやすさや美味しさというものをトクホでありながら実現することができたのです。

我々は清涼飲料の会社ですから、「お客様に美味しいものでのどを潤し、健康になってもらう」というのが基本です。いくら“良薬口に苦し”と言っても、おいしくなくては毎日続けるのは難しくなってしまうからです。この考えは後の特茶の開発にも受け継がれています。

また、色が黒すぎるのではないかという議論もありましたが、この黒い色こそ健康成分がたっぷり入っている証だということで、商品名も「黒烏龍茶」としました。トクホとして申請して許可されるまでに2年、商品の構想からは丸4年かかって、ようやく黒烏龍茶は発売されました。

発売後1年で1000万ケースの大ヒットに

開発にあたって、もっとも苦労した点といえば、やはり数あるウーロン茶ポリフェノールの中から本当に効果のある成分を特定し、それを証明しなくてはならなかったことでしょう。ウーロン茶ポリフェノールとひと口に言ってもその種類はじつに多様で、いったい何種類あるのかもわからないほどたくさん存在します。その中から効果があるポリフェノールを特定していくのは地味ですが、大きなエネルギーと根気、そして運が必要な作業でした。

黒烏龍茶は、食事と一緒に摂取することにより「食後の中性脂肪の上昇が20%抑制される」「脂肪排泄が約2倍に増加する」という効用と飲みやすさ、美味しさが相まって、発売から1年で販売数量が1000万ケースを突破するほどのヒット商品となりました。

やはり、主力商品であるサントリー烏龍茶の安心感が受け継がれ、実際に飲んでもおいしかったために、消費者の期待を裏切らなかったのが大きいと思います。そして、前からあった「ウーロン茶は痩せる」という世評をきちんとサイエンスで裏付けるというわかりやすさ。そういったことが、黒烏龍茶のヒットにつながったのではないでしょうか。

Profile
福山勝実
サントリー食品インターナショナル株式会社
研究開発部長
Share
  • X
  • LinkedIn
  • Copy