2025.12.22

その他 植物科学 ストーリー

1996年|ようやくバラでも青色色素が蓄積。花の色が変化

1996年|ようやくバラでも青色色素が蓄積。花の色が変化
1996年|ようやくバラでも青色色素が蓄積。花の色が変化

この頃になって、ようやくカーネーションだけではなく、パンジーから得た青色遺伝子を導入したバラでも青色色素ができ、花の色もはっきりと変化するようになりました。ただ、遺伝子を導入できたのが赤いバラだったため、この段階ではとても「青いバラ」と呼べるものではなく、花の色は黒ずんだような赤色でした。とはいえ、青色色素がつくられたことで、いよいよ青いバラ誕生への道筋が見えてきました。

本記事は2014年に弊社コーポレートサイトにて掲載された内容を、再編集したものです。記載の役職・部署名・写真などは、原則として掲載当時(2014年)の情報です。現在とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

この記事の要約

リンドウやラベンダーなど、さまざまな植物の遺伝子を試した結果、パンジーから得た青色遺伝子を導入したバラで青色色素の蓄積に成功しました。このとき咲いた花の色はまだ赤黒く濁ったような色合いでしたが 、「ゼロが1になった」──まさに、青いバラ実現への道が初めて開かれた瞬間でした。本記事では、この大きなターニングポイントとなった発見について紹介しています。

見た目にも青いバラの開花を目指す

ラの花色色素合成の経路

青色色素ができても、花の色がどの程度青く見えるかは、遺伝子を導入するバラのもともとの性質に大きく依存します。例えば、青色色素が蓄積する細胞の液胞内のpHが低い(酸性)と赤く、中性だと青く見えます。また、青くなりやすい成分、青くなりにくい成分が液胞内にあるかどうかでも色は大きく左右されます。つまり、青色色素があるだけでは、必ずしも花の色が青くなるとは限らないのです。

そこで、市販されていないバラも含めて数百種の中から、青色色素の含有率が高くなりやすく、青くなる資質を持った品種を40種ほどに絞り込んで、青色遺伝子を入れる実験を重ねて見た目にも青いバラの開花を目指しました。並行して組織培養の方法も改良を重ね、いろいろな品種のバラに遺伝子を入れることができように研究は続けられたのです。

「青いバラができる!」と活気づいた(田中良和上席研究員)

運命の相手となった、パンジー

運命の相手となった、パンジー
バラに青色色素をもたらしたのはパンジーだった

リンドウやラベンダーなどさまざまな遺伝子を試しましたが、バラに青色色素をもたらしたのはパンジーでした。これはまったくの偶然で、「科」と呼ばれる植物の分類の単位の中から代表的な青い花を選び、いろいろ試してみた中で、たまたまパンジーが当たっただけ。特に、これならいけるという確信があったわけではないのです。

日本とオーストラリアで手分けして実験していましたが、青色色素が初めてできたのはオーストラリア側だったので、少しだけ残念な思いでしたね。1994年に私が帰国した頃から日本側の体制も整い、オーストラリアと並行して実験ができるようになっていたので、その後は日本でもパンジーの遺伝子を入れる実験を行うようになりました。

見た目は青くないが青色色素がもたらしたブレイクスルー

右側が、初めて青色色素が発現したバラ。濁ったような赤黒い花色であった
右側が、初めて青色色素が発現したバラ。濁ったような赤黒い花色であった

バラで最初に青色色素が発現した時には、その含有率は半分ほどでした。それでも、その知らせを受けた現場はかなり活気づきました。やはりゼロが1になった瞬間というのは、大きなブレイクスルーになるものです。

その花の色はどうひいき目に見ても青ではなく、濁ったような赤黒い色のバラでした。でも、それに磨きをかけていけば、いつかは青になる──まさに、光が見えたような気がしたものです。

どんなにわずかでも、ゼロと1では可能性という面では全く違う。「これでいいんだ、進んでいる方向は間違っていなかったんだ」という確信が持てました。青いバラプロジェクトにとって、大きなターニングポイントとなった出来事です。

プレッシャーの分だけ、やりがいも大きかった(勝元幸久主幹研究員)

白いバラに青色遺伝子を入れても青くならない!?

青色遺伝子が入りやすく、青く見えやすい品種を選ぶ
青色遺伝子が入りやすく、青く見えやすい品種を選ぶ

同じバラでも、青色遺伝子を導入しやすい品種とそうでない品種がありますが、最初に遺伝子が入ったのは赤いバラ。それでは青くなりにくいので、遺伝子が入りやすく、青く見えやすい品種を選び始めました。

よく白いバラに入れたほうが青くなるのではと言われますが、白いバラには色素を作る能力がないことが多いので、青色遺伝子を入れても青くなるとは限らないのです。

カーネーションよりもバラのほうが青色色素を得るのが難しかったのはなぜか、その理由は今もよくわかりません。おそらく植物には不要な塩基配列を分解する仕組みがあるので、たまたまバラが分解したいと思う配列に一致したのかもしれませんが、それもあくまで想像の域を出ない話。バラもカーネーションも遺伝子の入れやすさという点では大差ないのです。

メンバー全員で信じ続けたプロジェクトの成功

勝元幸久主幹研究員
勝元幸久主幹研究員

「なかなか結果が出なかった時によくあきらめませんでしたね」と言われることがありますが、こういうプロジェクトでは携わっている本人が「無理だ」と思っていたら絶対に実現できないのではないでしょうか。

少し前のめりに「出来ない理由などない」と信じ込むくらいでちょうどいい。もし、チームのメンバーに1人でも「無理だ」とあきらめている人がいたら、アプローズは誕生していなかったと思います。

多くの人の期待や夢を背負っているプレッシャーはありましたが、それさえも心地いいものでした。誰も気にもとめない仕事なら、プレッシャーもない代わりにやりがいもない。それだけ期待されているんだと受け止めて、仕事をしてきたつもりです。

Profile
田中良和
上席研究員
勝元幸久
主幹研究員
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