2025.12.22
その他 植物科学 ストーリー1995年|青色カーネーション完成
努力がなかなか報われず、このプロジェクトに携わる者にとってはつらい時期が続きました。そんな中、研究員を勇気付けたのが、遺伝子組換えによる青いカーネーションの開発成功でした。
本記事は2014年に弊社コーポレートサイトにて掲載された内容を、再編集したものです。記載の役職・部署名・写真などは、原則として掲載当時(2014年)の情報です。現在とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
バラでは思うように発現しなかったペチュニアの青色遺伝子を、カーネーションに導入したところ、青色色素「デルフィニジン」が蓄積したカーネーションの開発に成功しました。この花は「ムーンダスト」と名付けられ、遺伝子組換えによる花きとして、世界で初めて商業化されました。カーネーションでの成功は、「バラでも色が変わらない理由はない」という確信につながり、研究チームに大きな勇気を与えることになりました。本記事では、この成功がバラの研究に与えた影響について紹介しています。
青いカーネーション「ムーンダスト」の開発成功、商業化へ

バラではうまくいかなかったペチュニアの青色遺伝子ですが、カーネーションでは期待どおり働いて青色色素「デルフィニジン」が蓄積し、花色も青く変化したのです。
この花は「ムーンダスト」と名づけられ、1997年から日本でも販売し、今では品種数も増えました。「永遠の幸福」という花言葉にふさわしい、気品ある美しい花が人気を博しています。
遺伝子組換えによる花きの商業化は、ムーンダストが世界初。現在、この青いカーネーションはコロンビアとエクアドルで生産され、アメリカを中心に、ヨーロッパなどでも販売されています。国内では、濃淡さまざまな色合いの6品種のカーネーションが販売されており、現在では品種によりペチュニアだけはなくパンジーの青色遺伝子も用いられています。

青色遺伝子にひと工夫して「青いカーネーション」が誕生(田中良和上席研究員)
バラでも色が変わらない理由はないと確信

バラはペチュニアの遺伝子を入れてもなかなか目的の色素ができませんでしたが、ひと足先にカーネーションで青色色素が発現。それだけだと青く見えないため、白いカーネーションにペチュニアの青色遺伝子ともう1つ別の遺伝子を組み合わせて入れるというひと工夫をすることで、青色色素だけが蓄積し、青いカーネーションを咲かせることに成功したのです。この方法は後に青いバラやキク、ユリの開発でも参考になりました。
カーネーションで色が変わったということは、バラでも変わらない理由はないということ。すでに青色遺伝子は導入できているわけですから、いつか必ず青いバラができると確信していました。
色のバリエーションも豊富なカーネーション

世界初の青いカーネーションが販売されるようになりましたが、やはり母の日が一番売れます。その日に合わせて、一度にたくさんの花を作るのはとても難しく、農家は大忙しになります。
ムーンダストは色のバリエーションも豊富です。色の違いは色素の量の違いによるもの。青い色素は花びらの細胞の中の「液胞」という所に蓄積するのですが、その中の環境がカーネーションとバラではかなり違います。バラの場合は、液胞内のpHが低いので、色素の量が増えると赤っぽく見えてしまいます。あまり青くなるのに向いていない花だといえるかもしれません。青色色素をキクで作ると、同じ色素でもバラよりもずっと青く見えるのですから不思議なものです。