2025.12.22

その他 植物科学 ストーリー

1990年|青いバラプロジェクト、始まる

1990年|青いバラプロジェクト、始まる
1990年|青いバラプロジェクト、始まる

青いバラを創る──そんな不可能への挑戦が始まったのは、1990年のこと。サントリーはオーストラリアのベンチャー企業フロリジン社(当時はカルジーンパシフィック社、以降フロリジン社と記載)と共同で、この一大プロジェクトに取り組むことを決めました。80年代にバイオテクノロジーが飛躍的に進歩し、その技術を用いれば青いバラを開発できると期待されていたため、同様のプロジェクトに取り組んでいる研究チームは世界中にいくつもあり、水面下での競争はすでに始まっていたのです。

本記事は2014年に弊社コーポレートサイトにて掲載された内容を、再編集したものです。記載の役職・部署名・写真などは、原則として掲載当時(2014年)の情報です。現在とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

この記事の要約

「不可能の象徴」とされていた青いバラの開発プロジェクトは、1990年、オーストラリアの企業との共同研究から始まりました。世界的な特許競争のなか、青色遺伝子の特定とバラへの導入という、2つの大きな技術的な壁が立ちはだかります。田中研究員は単身オーストラリアへ渡り、その困難な挑戦に立ち向かいました。本記事では、壮大な目標に挑んだプロジェクトの始まりと、当時の研究員たちの奮闘を紹介しています。

開発成功のための2つの技術的な課題

当時のプロジェクトメンバー:オーストラリア(1990年)
当時のプロジェクトメンバー:オーストラリア(1990年)
サントリーの研究員:日本(当時)
サントリーの研究員:日本(当時)

青いバラを咲かせるために解決しなくてはならない、技術的な課題は2つ。1つは「青い花に含まれる数万種類の遺伝子の中から青い色素(デルフィニジン)を合成するために必要な遺伝子(青色遺伝子)を取り出す」ということ。もう1つは「バラの細胞に遺伝子を入れ、その細胞から遺伝子組換えバラを作製する方法を開発する」ということです。特に第一の課題である青色遺伝子は特許権で保護できるため、ライバルよりも早く見つけ出し、特許出願する必要がありました。

不可能の象徴「青いバラ」への挑戦が始まった(田中良和上席研究員)

青いバラ研究のため、新天地オーストラリアヘーー

フロリジン社での実験の様子(1990年)
フロリジン社での実験の様子(1990年)

青いバラの開発をオーストラリアのベンチャー企業フロリジンと共同で行うという話を耳にしたのは、入社6年目の頃。私は植物に特別な興味を持っていたわけでもないので、それまで世の中に青いバラが存在しないということさえ知りませんでした。ただ、ちょうど変化が必要だと感じていた頃でしたし、海外で仕事をしてみたいという気持ちもあったので、名乗りを上げることに。

当初、私は微生物の研究グループに所属していたのですが、プロジェクト発足とともに、植物の研究グループに異動になり、そのままオーストラリアに飛びました。独特のオーストラリア英語や日々の研究の前後関係が把握できてないことから初めは苦労しましたが、明るい仲間に助けられ、すぐに慣れました。

社長から届いた直筆のクリスマスカード

遺伝子レベルになると、微生物も植物もあまり変わりがないので、技術的には大きな問題はなかったですね。よく、3万個の植物の遺伝子の中からたった2個の青色遺伝子を探すというと、気が遠くなりそうだと言われるのですが、今までカビの遺伝子などを扱ってきた私にとっては当たり前の作業だったので、そんなに苦にもなりませんでした。

クリスマスには、当時の佐治敬三社長から「青いバラを恋人のように待っています」という直筆のメッセージが書かれたクリスマスカードが届きました。お洒落なメッセージはもちろんですが、海外に送り出した社員一人ひとりを忘れずにいてくれていることが嬉しかったですね。このカードは今も大切にしています。

何千万年も前のバラの祖先は青かった!?

田中良和上席研究員
田中良和上席研究員

植物の遺伝子を調べるうちに、バラの祖先は青色遺伝子を持っていて、何千万年も前には青いバラが咲いていたかもしれない、ということがわかりました。

現在のバラ科の植物はどれも青色遺伝子を持っていませんが、それはバラの祖先にとって生き延びるのに不要だったということです。進化の過程のどこかで青色遺伝子をいらないものとして捨ててきてしまったのかもしれません。

今となっては、遠い昔に咲いていた青いバラがどんな色だったかは想像するしかありませんが、タイムマシンがあったら、ぜひ見に行ってみたいですね。おそらく今のバラとは色だけでなく形もまったく違う花だったはずです。

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田中良和
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