2026.10.06
美味追求 植物科学 ストーリー乾燥に強いホップを支える仕組みに迫る
―IHC2026で乾燥耐性メカニズムに関する研究成果を発表―
サントリーグローバルイノベーションセンター(SIC)は、2026年8月に京都で開催された「第32回国際園芸学会議(IHC2026)」において、ホップの乾燥耐性メカニズムに関する研究成果を発表しました。
今回の研究では、乾燥耐性に関係するゲノム領域を明らかにし、その領域に存在する候補遺伝子「HlMYB113」を特定しました。さらに、この知見をもとに、乾燥に強いホップを遺伝情報から効率的に選抜するための分子マーカーを開発しました。

SICは2010年から、チェコのホップ研究所(Hop Research Institute Co., Ltd.)と共同でホップ研究を進めています。高品質なホップの産地として知られるチェコでは、近年、少雨などによる土壌の乾燥がホップの収量に影響を与えています。SICでは2018年から、乾燥に強く、高い品質を備えたホップの開発に取り組んできました。

今回の研究で焦点を当てたのは、育種によって得られてきた「乾燥への強さ」を、遺伝情報からどこまで捉えられるかという点です。
乾燥への「強さ」を、遺伝情報から捉える
今回の研究では、乾燥条件下におけるホップの生育や収量などの特徴と、それぞれの個体が持つ遺伝情報との関係を解析しました。
その結果、第3染色体上に乾燥耐性に関係するゲノム領域を見いだし、その中から候補遺伝子「HlMYB113」を特定しました。乾燥耐性系統では、公開されているホップ参照ゲノムと比較して、HlMYB113のプロモーター領域に複数の一塩基多型(SNP)が確認され、これらの遺伝的特徴を持つホップは、乾燥条件下でも地上部が有意に大きく生育しました。
さらに、この知見を利用し、乾燥耐性を持つホップを遺伝情報から効率的に選抜するための分子マーカーを開発しました。
今回の解析で重要なのは、遺伝子の候補を見つけたことだけではありません。育種の中で実際の植物を見ながら捉えてきた「乾燥への強さ」と、ゲノム解析から得られた遺伝情報が結びついたことで、乾燥耐性という性質をより深く理解するための手がかりが得られました。
「乾燥耐性ホップを育種する上で分子マーカーの開発は品種開発の加速と安定した個体選抜に繋がります。
今回の研究によって育種効率が飛躍的に向上し、乾燥耐性品種の育成が容易になる事で、ホップ生産の安定化や、それを用いた美味しいビールの製造の安定化に寄与すると考えています。」
見えてきた仕組みから、次の研究へ
今回、乾燥耐性に関係するゲノム領域と候補遺伝子が見えてきました。一方で、HlMYB113の遺伝的な違いが植物の中でどのように働き、乾燥条件下での生育を支えているのかなど、さらに明らかにすべきことがあります。
また、研究で得られた知見を、今後の品種開発にどのように生かしていくかという検討も続いています。SICとチェコのホップ研究所が共同で開発した乾燥耐性を持つ新品種は、現在、チェコ共和国のザーツ地方で大規模な試験栽培を実施し、品質や収量などを評価しています。

「乾燥耐性を付与する候補遺伝子HlMYB113が明らかとなりました。
今後はこの遺伝子がどの様に乾燥耐性を付与するか明らかにし、そのメカニズムを応用する事で他作物での乾燥耐性付与も可能になると考えています。」
高品質なホップを将来にわたって
ホップの品質は、遺伝的な特徴だけでなく、気候や土壌などの栽培環境にも影響を受けます。変化する環境の中で高品質なホップを安定して生産するためには、植物が持つ性質を科学的に理解し、その知見を育種や栽培へとつなげていくことが重要です。
今回IHC2026で発表した成果は、乾燥耐性という性質を遺伝情報から理解し、将来の育種につなげていくための新たな手がかりとなるものです。

SICでは、ホップの乾燥耐性を支える仕組みへの理解をさらに深めるとともに、その知見を高品質なホップの持続的な生産や、植物の環境ストレス耐性に関する研究の発展につなげていきます。
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