2026.09.24
その他 植物科学 ストーリー花色の青色化に寄与する「エンビゲニン」の生合成に関わる酵素遺伝子を同定
―「第43回日本植物バイオテクノロジー学会」で発表―
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社(SIC)は、花色の青色化に寄与する「エンビゲニン」(メチル化フラボンC-配糖体の一つ)の生合成に関わる2種類のメチル基転移酵素遺伝子を新たに同定しました。本研究成果を「第43回日本植物バイオテクノロジー学会(鳥取)大会」で発表しました。
研究の背景
花の色は、アントシアニンなどの色素だけでなく、補助色素である「コピグメント」と呼ばれる成分によっても大きく変化します。アントシアニンは本来、赤から紫色を呈する色素ですが、それ自体はほぼ無色の「コピグメント」と分子的に会合(相互作用)することで、青みを増したり色調を深めたりします。この現象は「コピグメンテーション(コピグメント効果)」と呼ばれ、一部の植物で青い花の発現に関わっています。
シャガ(Iris japonica)などに含まれるメチル化フラボンC-配糖体は、青色化に大きく寄与するコピグメントとして機能しますが、その生合成に関わるメチル基転移酵素遺伝子はこれまで明らかになっていませんでした。
そこで本研究では、メチル化フラボンC-配糖体の一つである「エンビゲニン(4′,7-ジメチルイソビテキシン)」に着目し、その生合成酵素遺伝子の同定と機能解析に取り組みました。
研究成果
① 青色化に有効なコピグメントを実証
デルフィニジン型アントシアニンとの色再構成試験により、イソビテキシンの7位がメチル化された「スウェルチシン」が青色化に有効であり、さらに4′位もメチル化された「エンビゲニン」によって青色が増強されることを確認しました。

② 2つの新規酵素遺伝子を同定
花弁のトランスクリプトーム解析から候補遺伝子を絞り込み、イソビテキシンからスウェルチシンを合成する酵素をコードする「フラボン7-O-メチル基転移酵素遺伝子(F7MT)」をツユクサの変種であるオオボウシバナ(Commelina communis var. hortensis)から、スウェルチシンからエンビゲニンを合成する酵素をコードする「フラボン4′-O-メチル基転移酵素遺伝子(F4′MT)」をシャガ(Iris japonica)から、それぞれ単離しました。系統解析からは、これらの酵素がアントシアニン型のメチル基転移酵素とは異なり、フラボン・イソフラボン型の酵素に近いことも分かりました。

③ 植物での機能を確認、次の課題へ
両遺伝子を導入したペチュニアで酵素活性を確認しました。しかし、エンビゲニンの蓄積量は低く、その一因としてF4′MTのスウェルチシンに対する活性の低さが示唆されました。現在は、これらの酵素の基質特異性を理解するため、X線結晶構造解析やAlphaFoldを用いた立体構造解析を進めています。
研究の意義と今後の展望
新たな花色を生み出すためには、色素だけでなく、それらとともに働く成分や、その生合成の仕組みを深く理解することが重要です。
今回、青色化に寄与するエンビゲニンの生合成酵素遺伝子2種を同定したことで、メチル化フラボンC-配糖体を本来もたない植物でも生産できる可能性が示されました。
今後は、酵素の立体構造から基質認識の仕組みを解明し、酵素活性の向上につなげていきます。こうした基礎研究の積み重ねを通じて、花色形成メカニズムの理解をさらに深め、新たな花色の創出や植物科学のさらなる発展につなげていきます。
発表概要
学会名
第43回日本植物バイオテクノロジー学会(鳥取)大会
会期
2026年9月4日(金)~9月6日(日)
会場
とりぎん文化会館、鳥取市民会館
演題名
メチル化フラボンC-配糖体 エンビゲニンの生合成に関わるメチル基転移酵素遺伝子の同定と機能解析
発表者
槙嶋 理華子¹、中村 典子¹、田中 良和¹、菅原 孝太郎²、勝元 幸久¹、興津 奈央子¹、村山 和隆³
所属
¹ サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社
² 公益財団法人サントリー生命科学財団
³ 東北大学

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