2026.09.11
その他 植物科学 ストーリー「世界初」の、その先へ。バラの“青”の可能性をひらく研究
―IHC2026でコピグメント効果を利用した研究成果を発表―
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社(SIC)は、2026年8月に京都で開催された「第32回国際園芸学会議(IHC2026)」において、より青いバラの実現に向けた研究成果を発表しました。
今回報告したのは、青色色素と、それ自体はほとんど色を持たない「コピグメント」と呼ばれる成分(補助色素)との相互作用を利用し、violet-blue(青紫)の花色を実現したバラです。
サントリーは1990年に青いバラの研究を始めました。バラには、多くの青い花がもつ青色色素「デルフィニジン」をつくるための遺伝子がありません。サントリーグループは2004年、この色素をつくるための遺伝子をバラに導入し、デルフィニジンを蓄積するバラの作出に世界で初めて成功しました。これが2009年発売の「SUNTORY blue rose APPLAUSE(アプローズ)」です。その後もSICでは、より青いバラを目指し、青い花がもつさまざまな仕組みに着目した研究を続けています。
今回の研究は、新たなアプローチとして「コピグメント効果」に着目し、より青い花色の可能性を探ったものです。
花の色は、「色素」だけでは決まらない
花の色は、色素の種類や量だけで決まるわけではありません。周りの成分や、花びらの中の環境によって大きく変わります。
そのカギを握るのが「コピグメント」です。コピグメント自体はほとんど無色ですが、青色色素と相互作用することで、色をより青く、より深く見せるはたらきがあります。自然界の一部の青い花は、この仕組み―「コピグメント効果」―によって青色を生み出しています。たとえば、青色色素とともに「フラボンC-配糖体」という無色の成分が共存することで、鮮やかな青色をつくり出している花が知られています。ところがバラは、青色色素だけでなく、その相方となるフラボンC-配糖体も、もともとつくることができません。そこで今回の研究では、この「コピグメント効果」に着目しました。
まず試験管の中で青色色素とさまざまなコピグメントを混ぜて色の再現実験を行い、青色色素にフラボンC-配糖体を組み合わせると、確かに青みが強まることを確かめました。次に、この組み合わせをバラの花の中で再現するため、必要な成分をつくり出すための複数の遺伝子をバラに導入しました。その結果、花びらの中で青色色素とフラボンC-配糖体がともにつくられ、violet-blue(青紫)の花色を実現できました。さらに、フラボンC-配糖体の割合が多い株ほど、より青くなるという関係も見えてきました。バラをより青くするという目標に対して、これまでとは異なる仕組みから可能性を探った成果です。
「これまでの花色改変は、どの色素を植物につくらせるかが大きなテーマでした。今回私たちは、その先にある『つくられた色素が周囲の成分とどのように相互作用し、花色として現れるのか』という発色機構そのものに着目しました。今回の成果は、花色を分子間の相互作用まで含めて設計するという、新たな花色改変の可能性を示すものだと考えています。」
植物での再現、そして圃場での実証
試験管内で見いだしたコピグメント効果を、今回はバラの花で再現し、さらに自然環境のもとで実証しました。咲いた花の色と、花びらに含まれる成分の両面から評価を重ね、日本での温室試験に加え、世界有数のバラ生産国であるコロンビアでも3年間の栽培試験を行い、花色が安定して保たれることを確認しています。試験管から植物、そして圃場へと段階を追って積み上げながら研究を重ねています。

研究成果が実際の花として現れると、得られた知見を確かめられる一方で、次に取り組むべき課題も見えてきます。今回のviolet-blueも完成形ではなく、花色を生み出す仕組みをさらに理解するための新たな手がかりの一つです。
「今回の成果は、より青い花色を実現できたというだけでなく、花色が生まれる仕組みへの理解をさらに深めるものでもありました。色素の種類や量、周囲の成分、花びらの中の環境など、さまざまな要素が組み合わさって花色は生まれます。その組み合わせを理解することは、これまでにない多様な青の表現につながる可能性があります。今後も、それらの仕組みと向き合い、一つずつ紐解きながら、まだ見ぬ青いバラの創出を目指して挑戦し続けます。」
バラの“青”の可能性を、さらに広げる
2004年に世界で初めて青色色素デルフィニジンを蓄積するバラの開発に成功してから20年以上。SICでは、一つの方法にとどまらず、花色を生み出すさまざまな仕組みに目を向けながら、より青いバラの実現に向けた研究を続けています。
今回の成果も、SICやサントリーフラワーズ、海外の生産パートナー、国内の大学・研究機関との国際的な共同研究の中から生まれたものです。
より青いバラを目指すことは、植物がどのように色をつくり出しているのかを、より深く理解することでもあります。今回示したコピグメント効果を利用するアプローチは、青色化が難しい他の花にも応用できる可能性があります。SICは、今回得られた知見をさらに発展させ、青という花色が持つ可能性をさらに広げ、多彩な花色の創出につなげる研究を進めるとともに、花色発現メカニズムの理解や新たな花色の創出、植物科学のさらなる発展につなげていきます。
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