2026.03.23
ウイスキーブレンダー×武蔵野ビール工場長 異なる酒をつくる2人が、同じ哲学に行き着くまで。
サントリーが誇る「ウイスキー」と「ビール」。それぞれのトップランナーとして活躍しているのが、サントリーホールディングス株式会社 大阪秘書室部長 兼 マスターブレンダー補佐の野口雄志さんと、サントリー株式会社 武蔵野ビール工場 工場長の丸橋太一さんです。前編に引き続き、後編ではおふたりの交流の始まりから、フィールドを超えて実現したコラボ、後輩たちに託す想いまで、たっぷりと語り合います。

エディンバラから始まった、酒づくりの対話
東京都府中市にある、サントリーの武蔵野ビール工場。入社から四半世紀にわたって、サントリーの酒づくりを牽引してきたトップランナーのおふたりが、できたての「ザ・プレミアム・モルツ」を片手に再会しました。

――野口さんと丸橋さんの付き合いは、2009年からだそうですね。
野口さん:私がスコットランドに駐在していたときに、丸橋さんもちょうどドイツに駐在していて「エディンバラの伝統的なビール工場を見学したい」と連絡をくれたんです。それで、一緒に見学に行ったのが最初ですね。
丸橋さん:もともと、野口さんのことは”伝説的(笑)なブレンダー”として知っていました。入社年次も近くて、社内の集まりで見かけることもあったのですが、きちんと話したのはそのときが初めてでした。
野口さん:現地では手に入らない「ザ・プレミアム・モルツ」をお土産に持ってきてくれたんですよ。それも、普通の人なら運べないだろう……というくらいたくさん(笑)。あれは、うれしかったですね。
丸橋さん:だって、どうしても、野口さんに飲んでほしくて(笑)。

野口さん:丸橋さんは本当にビールが好きで、現地のパブにも一緒に飲みに行きましたよね。いろんな種類のビールを楽しそうに飲みながら、でもつくり手として冷静に分析していて。「あぁ、この人は本当にビールを愛しているんだな」と、感じました。
丸橋さん:あの夜は本当に面白かったですね。私は野口さんが、ウイスキーの本場・スコットランドという、ある意味でアウェイな環境のなか、「美味しいウイスキーをつくる」という信念で頑張っている姿に感動しました。日本のウイスキー文化をここまで背負って戦っているんだな、と。
野口さん:文化の違いもあるなかで、当時は本当に一生懸命でしたね。
丸橋さん:お互いフィールドは違いますが、話せば話すほど「美味しいものをつくろう」という想いが一致しているんですよ。余計な説明をしなくても、わかりあえる。「こういう人がいるんだ、サントリーに入ってよかったな」と思いましたね。
ウイスキーとビール、それぞれの“ずるさ”と魅力
――それぞれフィールドが違いますが、お互いに対して「うらやましいな」と思うところはありますか?
丸橋さん:ウイスキーに対してうらやましいなと思うのは、やっぱり「時間」ですね。時間の積み重ねがつくるおいしさや価値観、そこから生まれるストーリーというのは、ビールではなかなか出せませんから。ウイスキーは、人にずっと寄り添っているお酒という気がするんです。そこは「ウイスキーってずるいな」と思いますね(笑)。
野口さん:いやいや、ビールはビールで「ずるい」ですよ。ビールは圧倒的な流通量を誇りますし、世の中に与えるインパクトと常にあり続ける圧倒的存在感。生活者の方々との接点も多いですよね。

野口さん:今でこそ、ウイスキーは人気になりましたが、何をやっても売れない時期が長くありました。特に私が入社した2000年頃は、ウイスキーの需要が低迷し続ける真っ最中。「サントリーウイスキー角瓶」のハイボールで人気を盛り返したのが2008年頃です。ウイスキーが売れなかった時代を知っている人間としては、「絶対にあんな思いをしたくない」と強く思っています。
丸橋さん:野口さんは、これだけ世界中でサントリーのウイスキーが飲まれるようになっても、いつもそういう危機感を口にしていますよね。それだけウイスキーの未来を考えているんだなと思います。

丸橋さん:逆にビールの魅力を話させてもらうと、お客様が飲んでいるシーンを目にしやすいことですね。居酒屋に行けば、自分たちがつくったビールをお客様がどんな顔で飲まれているのかが、すぐにわかります。もうひとつ、長い時間をかけるウイスキーとは違い、ビールは1〜2か月後にはできあがるので、「自分でつくった感」が味わえるのもいいところです。
野口さん:そこはやっぱりうらやましいですよね。ウイスキーは自分で仕込んだ原酒が商品として並ぶのは何年、何十年も先なので、自分でそこを見届けることができないことのほうが多いですから。
海外で得た自信。そして、ウイスキーとビールのコラボへ
――おふたりの共通点のひとつに、海外での経験があります。海外での学びは、今のお酒づくりにどのように活かされていますか。
野口さん:海外に行って、改めてサントリーは「品質重視」をトップに据えている会社なのだと実感しました。「サントリーといえば、クオリティだ」と、現地のスコッチウイスキー業界の方々に言われたときは、誇らしかったですね。
2015年、スコットランドのラフロイグ蒸溜所にて麦汁のようすを観察。
野口さん:スコットランドからウイスキーづくりを学び、日本で経験を積み重ね、追いつこうとしてきた努力が、技術として蓄積されてきた。それが本場でも通用しているのだと、自信につながりました。
丸橋さん:私は「ドイツでは学ぶことしかないはずだ」と思っていたのですが、サントリーで学んだことを持って行ったら、「お、意外といい勝負ができる」という感覚がありました。サントリーで5年学んでからドイツに行きましたが、現地の醸造家の方と話していると、自分も同じ土俵で、同じ立場で話ができているというのが、すごい自信になりましたね。
――そんなおふたりがタッグを組んで発売したのが、「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム〈原酒樽熟成〉」シリーズです。このコラボレーションの経緯を教えてもらえますか。
丸橋さん:野口さんに 「木樽で熟成して美味しいビールって、できないですかね?」と気軽に相談したら、いろいろなアイデアをもらえたんです。そこから何度か相談を重ねて、1本6000円ほどするプレミアムなビールができあがりました。これは今でもすごく好評で、野口さんには感謝しています。

野口さん:本当に美味しいビールができあがりましたよね。「山崎」と「白州」の2種類の木樽を使ってつくられましたが、それぞれの個性がありながらも完璧なバランスを備えた仕上がりになっていました。丸橋さんと一緒にいいものがつくれて、私もうれしかったです。
「ビール開発の難しさ」と「ウイスキーづくりのもどかしさ」
――お互いに「この機会に、これはぜひ聞いてみたい」という質問はありますか?
野口さん:ウイスキーは、ある意味では原酒のブレンドによって最終製品を仕上げるため、後からブレンドで微調整することもできます。しかしビールの場合は、ブレンドするわけにもいかないですし、できたものがそのまま商品になる。そういう後戻りができないなかで、どうやって新しい味やプロセスを組み立てていくのか、ぜひ聞いてみたいですね。
丸橋さん:ビールは、科学的なデータの裏付けをしっかりと用いながらつくっていきます。条件が違う4つのビール工場が、常に美味しいものをつくるためには、人の五感だけではやはり限界があるんです。常に美味しいビールをつくるには、その本質的なメカニズムを理解することが重要になってきますね。

丸橋さん:「五感」でおいしさを追求する部分はもちろん大事にしていますが、「科学的」な根拠で考える部分も必要。この2つのバランスをうまくとることが大事だと思います。
野口さん:なるほど、感覚的なところと科学的なデータとを、うまく織り交ぜながらつくるんですね。その点はウイスキーも同じところもありますが、その微妙なニュアンスに、きっと違いがあるんでしょうね。
丸橋さん:先ほども話に出ましたが、私からは「自分で仕込んだ原酒を自分で仕上げることができない」点について。もどかしさのようなものがあると思うのですが、それとどう折り合いをつけているんですか。
野口さん:それはある意味、ウイスキーづくりに携わる者の宿命ですね。ただ逆に、過去から現在、現在から未来へのつながりを感じられるというやりがいもあります。

野口さん:先達が残してくれた原酒を使って、ウイスキー製品に仕上げるのですが、いい原酒はやっぱり使いやすいんです。後の世代のブレンダーにも、そう思ってもらいたいですからね。「こんないい原酒をつくっておいてくれて、ありがとう」と言ってもらえるよう、先達たちに感謝をしながら、同時に将来に向けた原酒づくりを続けていきたいと思います。
丸橋さん:本当にすごい世界ですよね。自分が飲めるかどうかもわからない、自分が仕上げられないかもしれない原酒を、魂を込めて仕込んでいくというのは。私も、自分が美味しいと思うビールを飲みたいからつくるというだけでなく、ちゃんと未来を考えたビールづくりをしないといけませんね(笑)。
トップランナーたちが、後輩サントリアンに託したい想い
――最後に、これからサントリーの仲間になる人たちへメッセージをお願いします。
野口さん:サントリーの仲間には、まずは「お酒という“文化”が好き」でいてほしいですね。たとえあまり飲めない体質であったとしても、お酒の味わいや香り、お酒というものが生み出す場や環境、背景にある“文化”や“ものがたり”を好きでいてほしいと思っています。私たちは工業製品ではなく、人の心に触れる「嗜好品」をつくっています。だからこそ、数字やデータだけで判断せず、愛情のこもった「モノ」として、お酒を自分で体感することを大切にしてもらいたいと思います。
丸橋さん:技術が進歩しても、お酒づくりはまだまだわからないことだらけ。これから何十倍も、何千倍もおいしくできる余地が残されています。「もっと美味しくできるはずだ」という無限の可能性を信じて挑戦する。そんな「ゴールのない世界」ですが、お客様の「美味しい」のために頑張るマインドを大切にしてほしいですね。
野口さん:やればやるほど、わからないことが増えていくような世界ですからね。
丸橋さん:本当にそうですね。でも、だからこそ、奥が深くて、面白いんでしょうね。
サントリーの酒づくりの未来に、声を揃えて「Skål!(スコール:カンパイ!)」
※社員の所属・役職、内容は取材当時のものです。
編集:サントリーホールディングス株式会社 人財戦略部
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野口 雄志Yushi Noguchi
サントリーホールディングス株式会社
大阪秘書室 部長 兼 マスターブレンダー補佐
2000年にサントリーに入社以来、一貫してウイスキーづくりに従事。スコットランドのヘリオット・ワット大学、モリソン・ボウモア・ディスティラリー社、ビームサントリーUKへの派遣を経て、2018年に製品の香味設計を行うブレンダー室部長、2022年同室長に就任。2024年からはサントリーウイスキーのマスターブレンダーでもある鳥井信吾副会長の秘書業務に加え、マスターブレンダー補佐としてサントリーウイスキーの品質を守り続けている。

丸橋 太一Taichi Maruhashi
サントリー株式会社
武蔵野ビール工場 工場長
2001年、サントリーに入社。群馬ビール工場を経て、ドイツ・ミュンヘン工科大学へ派遣。帰国後はビール商品開発研究部で「ザ・プレミアム・モルツ〈香るプレミアム〉」や「マスターズドリーム」を開発。その後、群馬ビール工場技師長を経て、再びビール商品開発研究部にて、「パーフェクトサントリービール」「サントリー生ビール」の開発に携わり、2024年より現職。製造現場と開発研究の両面から、サントリーのビール事業を牽引。