2025年10月31日
#982 トニー・マッガーン 『歴史の中に新しいトロフィーを加えたい』
今シーズンから加入したマッガーン アシスタントコーチ。サンゴリアスのより一層の強化にどんな力を発揮してくれるのか、期待が高まります。(取材日:2025年10月上旬)
◆夢を追っている人のその夢を達成するために
――海外のチームでのコーチの経験が豊富ですね
日本では2005年の時にIBMでコーチをしました。その後、アイルランドのマンスターでコーチをして、オーストラリアでもコーチをしました。マンスターではヘッドコーチもやりました。
――海外に行こうという気持ちは常に持っているんですか?
そうですね。最初はオーストラリアで体育の先生から始まって、ブリスベンの高校の1軍のコーチングをして、その後にブリスベンのラグビーユニオンのファースト・グレードのコーチをして、クイーンズランドの学校代表、オーストラリアの高校A代表。そうやって情熱を育てていって、ちゃんとハードワークすれば自分の仕事になると思ってやってきました。
――教えることが好きなんですね
そうですね。好きですね。
――なぜ教えることが好きなんですか?
若い世代の手助けする、夢を追っている人のその夢を達成するために手助けしたいと思っています。
――ご自身も若かったですよね?
目標達成のために誰かを手助けする、それが教育現場かラグビーかで、同じ要素があると思っています。
――選手としてはどんな選手だったんですか?
ラグビーリーグでプレーしていて、ユニオンは少しだけでした。そんなに高いレベルではありませんでしたが。
◆気持ちの良い場所から出てチャレンジ
――選手としてプレーするよりも教える側を目指したのはいつ頃ですか?
1996年頃にちゃんとコーチングを始めました。その時も少しは選手もやっていて、1999年に選手は引退しました。コーチングをしながら選手をやることは厳しくなってきて、教育とコーチに絞って行きました。
――教えることに最初の喜びを感じたのはいつですか?
1996年ですね。教育とコーチングの1年目の時です。その時に選手が「前は誰も手助けしてくれなかった。ありがとう」と言ってくれた時、そういう言葉をたくさんもらった時に嬉しかったですね。
――自分が選手時代の時にもそういうコーチはいましたか?
みんな、人生の中にはそういうコーチがいると思います。それは両親かもしれませんし、叔父さんか、兄弟か。オーストラリアではボランティアのコーチがたくさんいて、自分の時間を犠牲にしてコーチングしてくれる人がたくさんいることは嬉しいことですし、学ぶということに関しては私もラッキーだったと思います。
――家族が先生だったりしたんですか?
いいえ、違います。牧場をやっていました。
――一度日本でコーチをして、また日本でコーチをしようと思ったのはなぜですか?
日本に住むことが楽しいですし、東京が好きですし、人も環境も好きです。サントリーは大きな成功を得たクラブで、オーストラリアに残ることは簡単でしたが、素晴らしいチャレンジだと思ったので、人生を楽しむという意味でも、気持ちの良い場所から出てチャレンジしようと思いました。個人的にも日本で住むことは良い環境だと思いましたし、プロフェッショナルな環境に身を置くことも素晴らしいことだと思いました。
◆全体としてのバランスが必要
――教えられる側の日本人は何か特徴がありますか?
コーチしやすいですね。規律がとてもあって、チームを中心に考えることが出来ます。コーチとしてはとても良い環境だと思います。
――なぜコーチしやすいんですか?
何か見せたり手助けしようとした時に、学びたい姿勢、成長したいという姿勢があって、それを自分の中に取り入れてチームのために動くので、そこの質は高いと思います。自分のためにも成長したいし、チームのためにも成長したいという気持ちがあるので、コーチしやすいですね。
――サンゴリアスは教えやすいですか?
素晴らしいです。ラグビープログラムとして素晴らしいものがありますし、モチベーションが高い選手がたくさんいます。スタッフも素晴らしい人たちばかりで、選手に対してもクラブに対してもコミットしていて、全員が同じ方向を向いてハードワークしています。そこが素晴らしいと思います。
――サンゴリアスはここ数年、優勝できていません。それに関してはどう思いますか?
特にありません。まだチームに来たばかりで、誰がいちばん良くて、自分たちはどの位置にいるのかと分かるほど見ていないので、練習試合を重ねていくと、そこで基準が出来てくると思います。代表などでチームから離れている選手もしますし、全員のことを見ることが出来るまでは、そのコメントは難しいかなと思います。
――これまでは比較的、厳しい監督の時に勝っているように感じるのですが、今の時代は厳しいだけでは難しいと言われています。教育者としてもそう感じることはありますか?
そう思います。日本のことは、まだあまりよく分かりませんが、オーストラリアでは確実に厳しいばかりの人ではダメです。いちばん上に立つ人間はバランスが大事です。そしてスタッフもバランスが無いといけません。何かについて厳しく言うことは良いですが、優しくする人も必要で、全体としてのバランスが絶対に必要です。最近の選手には、プログラムでも違う要素が必要で、違うパーソナリティーが必要になってきます。以前までは「これは俺らがやること。これはこうやってやる」と言えば「すぐにやります」という感じだったことが、今はすぐに「何で?」が出て来て、「それは僕には合いません」とか返ってきます。そういうところでも、全員をカバー出来るようにしていかなければいけません。
――それによって教え方も変わってきていますか?
そうですね。前は一方的に伝えるやり方でしたが、今はバランスが必要です。以前のようなやり方が必要な時もありますが、今は状況を理解して助ける、見せて教えるということが必要になります。
――以前、マッガーンコーチと同じチームで指導を受けた選手の何人かは「とても怖いコーチ」と言っていたようです
そうでしたね(笑)。バランスを取ることを常に出来るかと言われると、別の話になります。今はバランスが必要ですが、これからも怖くなる場合があるかもしれないですね。必要な時はそうなると思います。
◆どうやってボールを取り返すか
――アシスタントコーチとしての役割は?
ディフェンスコーチです。
――ディフェンスのスペシャリストなんですね?
そうですね。
――サンゴリアスに必要だと思えるディフェンスを教える上で、気をつけていることはありますか?
ディフェンスでは当たり前ですが、敵がボールを持っています。ボールを止めて取り返さなければいけません。じゃあ、どうやってボールを取り返すか。そこがいちばん大きなフォーカスです。ディフェンスのサイクルがあって、結果的にボールを取り返すことをやりたいんです。
――ラグビーの中でディフェンスは好きですか?
はい、そうですね。
――ラグビーのどこが面白いですか?
ラグビーを見ている時だと、ラグビーリーグの決勝はとても大きな舞台になります。ベストなプレーヤーを大きな舞台で見て、良いパフォーマンスをしているところを見ることが好きですね。
――ベストプレーヤーだと思う選手はディフェンスを見ているんですか?
ディフェンスとアタックの両方です。チェスリン・コルビはアタックもディフェンスも良いですよね。そして常に動いています。
――現役時代プレーしていて、面白いと思った部分はどこですか?
チームの一部になることですね。全員違う人間がプレーしていて、仲良くしなければいけないということではなく、チームとしてボールを繋がなければいけません。それで一方向に向かわなければいけません。その中では自己中心的になってはいけません。全員が自分を犠牲にして、チームのために動かなければいけません。
――自分を犠牲にしたり、自己中心的じゃなくなることは得意ですか?
はい、そうです。
――あまり頭に血がのぼることは少ないですか?
クールな方だと思います。誰かが喋る時間になれば譲りますし、また自分の時間とチャンスは来ると思っています。
――さすが良い先生ですね
たぶんね(笑)。
◆自分のためじゃなくサントリーのラグビーのために
――ラグビーは選手の人数が多いので喜びも大きくなりますか?
良い人がいて良いグループで、みんなで一緒にゴールに向かっていく環境、そしてお互いに楽しむこと。仕事をして、家に帰ったら家族がいて、また朝に起きて仕事に行って、週末は特にやることがないという人が多い中、大きなグループの一部でありながら人間のスピリッツでは素晴らしいことかなと思います。
――それが出来ていたチームにいた経験は?
ラグビー、ラグビーリーグを6歳以下で始めて、47年間携わっていますが、その中で全てのチームではありませんが、良かったと思います。比べたらこっちのチームの方が良かったということはありますが、違う人間を同じ場所に集めて、全員と仲良くなることはありませんし、常にそういうチームだったわけではありませんし、ちょっとしたトラブルはありますが、それは大きな問題じゃありません。
――サンゴリアスは良いチームですか?
これまで経験した中では、スタッフであり選手であり、サントリーのためにというひとつの方向に向かってやっていると思います。自分のためじゃなくサントリーのラグビーのためにということが伝わってきます。
――小野ヘッドコーチとの相性はどうですか?
ラグビーのことをよく知っています。見る力があって、練習でもプレーでもそうですし、サントリーのことを好きだということが伝わってきますし、サントリーが上手くいって欲しいと強く願っていると思います。その情熱があり、若くしてのヘッドコーチは簡単ではありませんが、特にこういうビッグクラブですし、そこで選手もしていたので、コス(小野ヘッドコーチ)がいれば勝つのかなと思われると思います。良い歴史がある中でヘッドコーチをやっているので、「なんで出来ていたことが出来なくなっているの?」という意見も出てくると思います。たぶん孤独になっている時もあると思うので、そのサポートをしなければいけないと思っています。
◆お互いにハッピー
――ご家族は?
私には3人の子どもがいるんですが、18歳の双子の息子と16歳の娘がいます。2週間ほど日本に来ていましたが、昨日の夜に帰ってしまいました。12月末まではひとりです(笑)。
――双子はラグビーをやっているんですか?
やっています。ひとりはフランスのラ・ロシェルに2ヶ月間、アカデミーで行っています。あと知り合いがマンスターでコーチをしているので、もうひとりの息子はそこのアカデミーに8週間送りました。
――子どもの頃からマッガーンコーチが教えていたんですか?
少しだけです。息子が16歳くらいになった時に、彼らだけで大丈夫だと言われたので理解しました(笑)。
――父親としてはラグビーをやってくれていて嬉しいですよね?
あまり気にしていませんが、見るのは嬉しいですね。チームスポーツをやってくれているので良いと思いますし、私も見ることが好きなので、お互いにハッピーですね。
――娘さんは何をやっているんですか?
ネットボール、水球、ホッケー、タッチラグビーなどいっぱいスポーツをやっていますが、すべてサークル活動ですね。
――そうやって、子どもたちがみんなスポーツをやっているのは、お父さんの血ですか?
たぶんね(笑)。けれど、スポーツよりも友だちの方が大切かもしれないですね。父親の話は聞いてくれません(笑)。
◆最後に勝ち切ることが良い
――ラグビー人生の中で、これまででいちばん嬉しかったことは何ですか?
たくさんあります。コーチングで言えば、高校でのプレミアシップ優勝です。Aグレードでの優勝です。マンスターでも優勝しました。違う場所での優勝もあって、すべて特別ですね。比べられないので、どれかひとつとは言えません。
――やはり優勝は良いですか?
はい。最後に勝ち切ることが良いですね。コーチングする立場で成長を見て、最善を尽くしてハードワークして取り組んで、求めている結果が必ずしも得られない場合でも、とてもいい経験でした。そのプロセスが楽しかったですね。
――大切にしていることは何ですか?
家族です。
――行動する上で大切にしていることはありますか?
謙虚さです。あとは楽しむことです。
――話を聞いていると、余裕があってユーモアも感じます
ちょっと生意気さがあって、それも大事だと思います(笑)。
――今シーズンの目標は何ですか?
キヨさん(田中澄憲GM)とコスさんと面接した時に、スタッフの一部になって自分の出来る限りのことをやって貢献するという話をしました。貢献した上でサントリーが出来るだけ高い位置に行く、そのサポートをする。自分の持っているスキルで貢献する、自分の仕事を遂行することです。
――それに向けて自分自身がやりたいことはありますか?
優勝するチームの一部でありたいと思っています。日本のリーグワンは有名ですし、素晴らしいリーグだと思うので、その歴史の中に残りたいと思っています。先日息子がクラブハウスに来た時にジムなどを使わせてもらったんですが、飾ってあるトロフィーや歴代選手の写真や名前などを見ていましたし、そういう成功があるクラブということが素晴らしいと思います。そこに新しいトロフィーを加えたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/通訳:石森大雄)
[写真:長尾亜紀]