2025年10月24日
#981 小野 晃征 『もっと強い勝つチームを作っていきたい』
昨シーズン、最年少監督としてデビューした小野ヘッドコーチ。期待される優勝へ向けて、どんなラグビー、どんなチームを思い描いているのでしょうか。

◆どう一歩進むか
――ヘッドコーチ1年目の昨シーズンは、なかなか思うような結果がついてきませんでしたが、大変でしたか?
やはり選手の勝てない姿を見ることが、いちばん辛かったですね。
――そこには大きな責任を感じるものですか?
練習の設計から戦術まで、選手とコミュニケーションを取りながら作っていって、最終的にグラウンドで勝って喜んで欲しいんです。実際にそれを信じてやってきて、毎週毎週チームを作り上げて、それが結果に繋がらなかったのは、とても苦しかったですね。選手たちの表情とか。それでも次の月曜日には集まって「もう1回やるぞ」という、選手のアティチュード(姿勢)とかサンゴリアスのスピリッツを試させられた時には、ひとつのチームになれていたと思います。
――その時に気をつけていたことは?
どうやって次の試合で勝たせるか、勝つために切り替えないといけない。勝っても負けても次の相手は決まっていて、次の週末には試合があるので、結果に関係なく自分も一歩前に進まなければいけませんし、チームとしてもどう一歩を進むかを考えなければいけないということを、毎週繰り返していました。
――昨シーズンに入る前「みんなが成長するために自分も成長しなければいけない」と言っていましたが、どうでしたか?
経験してみないと分からないことが多かったですね。グラウンドレベルで自分の感情をコントロールしなければいけませんし、組織として100名以上の関係者がいて、家族のことも含め様々なハプニングが起きます。マネジメント側と一緒にサポートできるところはしたり、いろいろな人が集まっているサンゴリアスなので、グラウンドでのパフォーマンスは当たり前なんですけれど、それ以外のところもサポートしつつ、ヘッドコーチはこういうロール(役割)なんだなと、学べた1年でした。
――思っていたよりも範囲が広かったということですか?
素晴らしいアシスタントコーチもいる中、自分にも24時間しかない中で、その中でどこにエネルギーを注ぐか。頭を使って身体を使って、どこに時間をかけたら、このチームが勝てるかということを学びながら、という1年でしたね。

◆いちばんは選手たち
――どうバランスを取るかという部分は、選手時代を見ていると得意なのではないかと感じますが
いや、選手は幸せです。選手の時は(笑)。自分のことしか考えなくても良いし、自分が出来ないところは誰かがカバーできるんですよ。けれど、ヘッドコーチのロールは自分が出来なければカバーする人はいないですし、そこはとても学びましたね。
――それはシーズンが深まるにつれて学んで成長した部分ですか?
ひとつは、サンゴリアスのヘッドコーチは誰でも出来るロールじゃないと思いますし、その中で家族と離れて日本でコーチをして、いちばん強く思うのは、自分がサンゴリアスのジャージを着て優勝した時の喜びを、今の選手たちに味わって欲しいという気持ちだけです。ヘッドコーチとして成長したいという気持ちもありますが、いちばんは選手たちがグラウンドに立って、その経験をして欲しいという気持ちです。それを昨シーズンで出来なかったことが悔しい部分で、今シーズンは今いるメンバーでそれが出来るように形を作っていっている段階です。
――開幕してなかなか勝てない試合が続きましたが、正直、焦りましたか?
プレシーズンで積み重ねてきたことを、信じてやっていこうと思っていました。ラグビーは最高の準備をしても負ける時がありますし、準備が最悪でも勝つケースもありますが、毎週毎週コンスタントにパフォーマンスを出すことが大事だと思います。昨シーズンの最初は積み重ねてきたところに隙があって、それが負けや引分けに繋がって、選手たちも自信をなくして、立ち戻るところをシーズンに入ってからもう一度探さなければなりませんでした。それは自分の責任だと思っていますし、もっと準備の段階で出来たことがあったと思っています。今シーズンはそういうことがないように、しっかりと準備をしています。

◆自分に勝つ、チームメイトに勝つ、相手にも勝つ
――昨シーズンは勝っていてもおかしくはない内容で負けたり、引分けたりということがありましたが、2シーズン前はそういう試合でギリギリ勝っていたように感じます。ギリギリ勝てていたことが、ギリギリ勝てないようになってしまった要因は?
要因にはいろんなことがあると思うんですよ。これから前に進んで、同じようなことが起きないようにすることが大事だと思います。今シーズン大事にしていることは、ひとりひとりがこのチームを良くするためにスローガンである「PROUD TO BE SUNGOLIATH」、サンゴリアスであることに誇りを持つ。ひとりひとりがそのマインドを持っていれば、このチームにいることだけで満足せずに、サンゴリアスが求められている結果に向かって行くと思いますし、そうやってクラブとしても成長していきたいですね。
昨シーズンと同じことを繰り返したら、また6位になると思うので、改善するところは改善して、継続するところは継続して、それがギリギリの勝敗が決まるところになると思います。今シーズンは、そこをしっかりやってきたから勝ちになるというように、準備をしています。
――誇りは大事で、それがチーム愛に繋がると思いますし、それで良いチームになっていくと思いますが、そこには自信が必要で、自信を持つためには勝つしかないですよね。そう考えるとシーズン最初の方の試合が重要になりますね
勢いもあると思うので、勝てば自然と自信がつきます。ただ、開幕戦は数か月後なので、いま何が出来るかと言うと、自分に勝つ、チームメイトに勝つ、これから練習試合も入ってくるので、その2つをしながら相手にも勝つということを繰り返していかなければいけないと思っています。
――アタックでもある程度、得点できていたと思いますが、ディフェンスについてはどう考えていますか?
そこはいちばん成長しなければいけないと思います。今いる選手、過去にいた選手も含め、サンゴリアスはアタックのタレントのある塊のクラブだと思っているので、アタックはとてもナチュラルに出来ると思うんです。コーチングせずに「ボールを持ってアタックしよう」と言ったら自然と出来る55名だと思います。それがディフェンスになった場合、「15人でずっとディフェンスをやろう」と言うだけでなく、そこには時間を使わないといけないと思います。
得点を取って取り返されるのはもったいない。トップ4のチームと戦う時には得点を簡単に取られると、その倍以上に頑張って取り返さなければいけないと思うので、簡単に取られないチームになってトライを取るという、今シーズンは両方のバランスを取りながらやっていかなければいけないと思っています。

◆意識の問題
――昨シーズン前もディフェンスを課題に挙げていたんですか?
そこまでは意識していなかったかもしれません。2シーズン前にコーチとしてやっていた時、ギリギリで勝っていたというのも、ハイスコアのところでギリギリ勝っていたということだと思うので、やっぱり勝っていると弱みとか課題を見逃してしまうところがあります。2シーズン前や昨シーズンはもっともっと、そこを課題だと思っていればと思いますし、昨シーズンの結果を見ると、そこは大きく変えなければいけないと思います。そして、そこはみんながいちばん伸びしろがあるところだと思って、コミットしやすいと思います。
――そうすると今シーズンは練習でディフェンスに割く時間が多いですか?
意識の問題だと思うんですよ。意識的にみんなアタックが好きだから、アタックが出来ちゃう。意識的にどれだけディフェンスのことを考えたり、会話をするか、コーチングするか、レビューをするか、そこはバランスを取りながらだと思います。ただ、その中で絶対に忘れたらいけないことは、アタックは武器だということです。そして課題はシーズンを通して取り組まなければいけないものだと思います。その中で強みはいつでも出せるので、デフェンスは常に磨いていなければいけないと思います。
――インタビューしていて箸本選手はとくにディフェンスを意識しているというイメージがあります
そういうディフェンスを強みと思っている選手を、もっと引き出してこなかったところも、サンゴリアスかもしれないですね。アタックが評価される、アタックの印象が強いチームですが、そこはとても大事な部分だと思います。これから「サンゴリアスはディフェンスもある」というチームを、作っていかなければいけないと思います。
――監督として思い悩んだ時などはどうしていたんですか?
それも学びでしたね。ヘッドコーチはいろいろなことを決めなければいけないんですが、最終的に決めたことが結果に繋がればハッピーですし、負けたらまず自分に矢印を向けなければいけません。ひとりでいる時間もありましたが、本当にアシスタントコーチが周りをサポートしてくれていて、S&C(ストレングス&コンディショニング)やメディカルなど、現場にいるスタッフも声をかけてくれました。気を遣ってくれていたんだと思いますし、切り替えていくことができました。
――24時間、ラグビー漬けという感じでしたか?
そうですね。チームに関わっている人は100名以上がいるので、シーズン中に何が起きるか分かりませんし、良いこともあれば悪いこともあって、怪我や家族のこと、いろいろなことがあります。バイウィークにしても、ラグビーのことや次のことを常に考えていました。

◆人としての会話も大事
――選手とのコミュニケーションが多いヘッドコーチだと思いますが意識していますか?
なるべくコミュニケーションを取るようにしています。選手たちの表情を感じたり、思っていることを引き出したり。コミュニケーションって一方的なものじゃないと思うので、自分からもアプローチするし、相談があればいつでも聞けるようにしたいと思っています。自分が選手の時はいろいろな選手と仲が良かったので、そこはスタッフになったからと言って変わらない部分ですし、ロールを発揮しなければいけない時もあれば、人としての会話も大事だと思っています。
――試合後の記者会見を見ていて、勝敗にかかわらずなるべくいつものようにと意識しているのではと感じましたが、どうでしたか?
そこは意識していました。勝っても負けても次の試合は続きますし、今週の強みが来週の課題になるかもしれませんし、あまり波がないように、そういうことは意識していました。それがラグビーの良さだと思いますし、自分の表情や感情でチームのムードが変わるのも良くないと思います。必要な時は使わなければいけないと思いますが、みんなもいつもの自分でいながら、チームが勝つためにいて欲しいですね。勝ったから笑ったりふざけたりしたくはないですし、負けたから暗くなったりしたくないですね。そこは切り替えないといけないと思いますし、結果というよりも安定して冷静に考えなければいけないと思います。
――追い込まれていた時、そこで自分の強さを見つけた感じですか?
自分が10番でプレーしていたら指示を出さなければいけないので、勝っても負けても、この方向に行くということを周りに信じさせなければいけません。ひとつの自分のビッグプレーでひとりだけ喜んでいても周りに良い影響はないと思いますし、自分がミスして落ち込んでいても良い影響はないということも経験しているので、ヘッドコーチになっても、常に見られているということも含めて、そこは意識しています。
――精神的な安定が大事ですね
自分のロールをなるべく発揮できるような行動をしています。忙しくても絶対にクラブハウスの中では走らない。自分が焦ったりしていたら周りも焦ると思いますし、このクラブハウスや練習場は上手くなるための場所だと思っているので、いちばん上の人がソワソワしていたら、組織的にもそうなっちゃいますよね(笑)。

◆正解はなくてそれが面白い
――自分を見ている、もうひとりの自分がいるような感じですか?
見ているというか振り返る自分はいます。「あのミーティングでもっとあぁ言えばよかった」とか、「あの選手には言葉遣いを変えた方が良かった」とか、グラウンドレベルで「この時にこういう笛の吹き方」、「こういうメッセージを伝えれば」とか、そういうことはずっと振り返っています。だから課題しかないです。
ただ、そこに正解はなくて、それが面白いと思います。別に正解を探しているわけではなくて、やりながら「もっとこういうやり方があったな」とか、「こういう話しかけ方をしたら、こういう反応が出た」とか、やってみないとどう反応するかは分かりませんし、やってみないとどういう結果になるか分からないので、そういう意味でいろいろな成長があります。
――その反応というのは、いちばんはラグビーでの動きですか?
そこに影響を持って行きたいですね。ラグビーって本当に癖の繰り返しだと思うんですよ。良い判断をする選手は毎回良い判断をする、良いパス、良いタックルができる選手は毎回できる。良いラインアウトのスローを投げられる選手は、毎回良い精度で投げられるんですよ。ということは、癖なんですよ。毎回悪い判断をする選手も、それも癖なんですよ。
その癖をどう変えるか。タックルをミスする選手もパスをミスする選手も、同じように毎回ミスする。同じ状況だからなのか、同じキャッチの仕方なのか、そういった何かがあると思うんです。その癖を変えないと、その選手は育たないと思っているので、10年、20年と選手としてやってきていて、その癖をどう変えるか、その癖同士をどう合わせてチームを作るのかということですね。それが面白いところでもあります。
――そこまで見ていると、選手のモノマネも出来るんじゃないですか?
全く出来ないです(笑)。真似は出来ないですけれど、こういう選手だなというイメージはすぐに出来ます。選手時代に相手を分析していた時に、「この選手はキャッチが上手いな」とか「そういうキャッチの癖なんだろうな。自分も学べる部分だな」と思ったり、「この選手は左足でステップを踏むのが癖だな。だったら対面に立った時に右に来るな」とか。
◆みんなが喜んでいる姿
――ヘッドコーチとして昨シーズンやってみて、改めて感じたラグビーの面白さは?
勝った時の選手たちの表情を見ることが、いちばん嬉しいですね。ラグビーは簡単に勝てるスポーツじゃないですし、いろいろな苦労をしなければいけませんし、ひとりひとりがリミットを超えなければいけないと思います。それはフィジカルであったり、メンタルであったり、ギリギリのところをプッシュして、自分のため、仲間のために身体を張って、それにこのサンゴリアスへの想いも背負って戦う。
それで結果が出た時の選手の表情や笑顔、試合後に家族と集まった時にみんなが喜んでいる姿を見ると、やりがいを感じますね。自分がヘッドコーチでいる間は、常に日本一を目指さなければいけないと思っていますし、もっともっと良いコーチになっていきたいと思っているので、自分以上に選手たちが喜んでいる姿を見たいですね。自分が選手の時はそれがいちばん幸せでしたからね。
――今シーズンここが変わる、新しくなるという部分は?
大きくラグビーは変えられないと思うんです。基本の部分はやっていかなければいけませんし、自分たちの強み、アタックは常に磨いていきたいと思っています。ただ、課題のディフェンスにもう少しフォーカスを当てて準備をしているので、「サンゴリアスはディフェンスも強くなった」と胸を張って言えるように、チームを作っていきたいと思っています。そこはラグビーをやっている姿、勝つために準備する姿からだと思うので、実際に試合を見に来たファンの方に分かりやすいようにやっていきたいと思います。
そして最後に大きく試させられるのが、クラブのスピリッツだと思います。そこはシンプルに、PRIDEとRESPECTとNEVER GIVE UPの3つを、選手が行動で見せることが大事だと思っています。その行動も含めて、オン・ザ・フィールドやオフ・ザ・フィールドの行動も含めて、サンゴリアスの看板を背負っていると分かった上で、ひとりひとりがファンとの繋がりを作っていきたいと思っています。
――以前から言っていた「同じ絵を見る」ということについては、昨シーズンは見えていましたか?また今シーズンはこうやったら見えるということはありますか?
同じ絵が見えていた時はとても良かったですし、見えていない時は良くなかったですね。シンプルにラグビーはそういうものだと思います。同じ絵を見るために、やりたいラグビー、サンゴリアスのアタック、サンゴリアスのディフェンス、サンゴリアスのセットピース、それぞれで同じ絵を見させることが大事だと思います。もうひとつはオフ・ザ・フィールドの部分で、スピリッツの部分で同じ絵を見て同じ行動が出来るように、グラウンドレベルでも、試合を観戦しているノンメンバーの行動にしても、同じPRIDEとRESPECTとNEVER GIVE UPを行動で示せるチームに変わった、というところを見せたいですね。
――勝たなければいけませんが、勝つだけじゃなくて全てを含めて強いチームに、ということですね
勝つ材料がそのふたつだと思っています。ラグビーをプレーしている姿、アタックとディフェンスと、ひとりひとりのスピリッツを合体させて、もっと強い勝つチームを作っていきたいと思います。
――期待していいですね?
はい、大丈夫です。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]