2025年9月26日
#977 松島 幸太朗 『すでに昨シーズンのスタンダードは超えている』
早いペースで試合出場を重ね、昨シーズン100キャップを達成した松島選手。チームの優勝へ向けて、体の不調を乗り越えての完全復活が期待されます。(取材日:2025年9月中旬)

◆心身ともにタフになった
――昨シーズン100キャップを達成、嬉しさは?
嬉しいですね。サンゴリアスのクラブハウスに入ったところに100キャップ達成者の写真が飾られているので、「僕もいつかは」と思っていました。それが達成できて、ひとまず嬉しく思います。
――先輩の中村亮土選手、垣永選手と同じシーズンの100キャップですが、フランスでプレーした時期もあったので、早い100キャップでしたね
ここにいなかった2年分もあるので、早いかどうかは分かりません。でも大体同じ世代の選手と同じくらいのタイミングになったので、早い方なのかなとは思います。
――そうするとここまでのラグビー人生は順調に来ていますか?
とは思いますね。海外にも移籍できましたし、また日本に戻ってきて、順調な方だと思います。
――改めて、2年間のフランスでのプレーは、自分にとってどんなものでしたか?
私生活もラグビー面もタフな環境で、その中でコロナの時期でもあったので、最初の年はなかなか自由にはいきませんでしたし、どうなるか分からない時もありました。その中でシーズンを通して試合に出られたということは、心身ともにタフになったかなと思います。
――自分が望んでいた高いレベルでプレーできましたか?
そうですね。リーグワンでもたくさん海外のスーパースターがいますし、いろいろな選手が海外から入ってきていて、レベルは高くなってきていると思いますけれど、やっぱりトップ14も各国のスーパースターやパワフルな選手がたくさんいるので、本当にその経験が出来て良かったと思っています。

◆自分らしさが出せる
――ずっと試合に出ている中で、昨シーズンの前半は珍しく試合に出られませんでしたが、調子はどうでしたか?
サンゴリアスに帰って来てから足に痛みが出て、ぜんぜん自分のパフォーマンスを出せていませんでした。悩んでいたところもありましたし、「その対策は何なんだろう」と思うことが2~3年はありました。2025-26シーズンが始まって1~2週間が経ちましたが、痛みが無くて、何か昔に戻ったような気分で、GPSの数値も良いですし、この足の痛みさえなければ自分らしさが出せると感じています。
――その痛みは選手人生の中では初めてでしたか?
合宿中など厳しい練習が続いている時には感じることがありましたが、シーズンを通してずっと、練習していない時も痛かったですし、本当に歩くだけでも痛い時があったので、なかなか上手く走れないという期間がほとんどでしたね。
――それは相当ストレスが溜まったんじゃないですか?
上手くプレーも出来ませんでしたし、走れませんでしたし、「足が壊れたらどうしよう」という不安もありました。それは本当にストレスでしたね。ただ痛いところの周りを鍛えることは出来るので、オフシーズン中は縄跳びとかで強くすることは出来たと思います。その成果が出てきていると思います。
――ようやくラグビーをしていて嬉しいという感覚ですか?
今はとても楽しいですね。

◆100%出せています
――状態が良くなって次にどこを伸ばしたいと思っていますか?
伸ばしたいというよりは、今まで出来ていたプレーがまた出来るようになるというのがありますね。スピードが戻ってきたりとか。
――フランスに行く前の状態に戻したいということですか?
フランスに行っていて、日本に帰ってくる前までの状態ですね。
――それは果たせそうですか?
痛くならなければ(笑)。
――両足ですか?
両足です。最初は片足だったんですけれど、かばっていたということもあって、両足に痛みが出るようになって、2シーズン前の最後のリーグ戦のクボタ戦では痛すぎて、本当に歩けなかったですね。その試合にも出られなくて、自分で足をどれだけケアしても、リハビリしても治らなくて、痛くない時はオフシーズンに何もしていない時だけでした。本当に悪循環でした。
――選手生命のピンチ、辞めようと思ったこともありましたか?
辞めるまではいかないですけれど、この感じだったらやっていてもチームに迷惑をかけると思いましたし、自分が持っている力を出せていなかったので、100%を出せていないということ、自分らしさが出せなかったということが、いちばん悔しかったですね。
――またいつか自分らしさが出せるようにと思って頑張ったわけですか?
そうですね。今のところは出せていますし、パワーも出ているので、今シーズンが開幕した時に、この感覚でいたいと思っています。

◆やり切るということが試される
――負けず嫌いとしては、昨シーズンのチームの成績は?
ヘッドコーチがコスさん(小野晃征)に変わって、やることも少し変わって、ディフェンスシステムも変わった。変わっているものを、みんな理解しようとはしましたが、それをやり切れなかったと思います。それを1年間を通してやってしまったので、そこが良くなかったですね。
――そういうシーズンを経て2年目となる今シーズンは、理解が深まっているということでしょうか?
今のところ、みんなのやる気を感じます。やる気は毎シーズンありますが、今シーズンでは口だけじゃなくて行動に移せている感じがあるので、もうすでに昨シーズンのスタンダードは超えている感じはしています。それをしっかりと続けることが大事だと思います。それが一時的に終わるのではなくて、シーズンを通してやり切るということが試される部分だと思います。
――そういう意味でも悔しさは大事ですね
サンゴリアスにいる選手で、6位で終わって悔しくないという選手はひとりもいないと思いますし、そういう選手がひとりでもいれば、自分たちが理想としていることが崩れてしまいます。やっぱり自分たちの「勝ちたい」という気持ちが、このクラブにとって大事なことだと思います。「あー負けちゃった」で終わらせてはいけないところだと思います。
――この先には150キャップや200キャップもあると思いますが 、これからどういう選手になっていきたいですか?
やっぱり「良い状態の松島が帰って来たな」と思われるようなシーズン、特に今シーズンはそうなりたいですし、自分の中でも「絶対に戻したい」という強い気持ちがあります。
――それはランですか?
ランですね。僕の得意としている部分です。

◆自分に甘えず、相手にも自分にも厳しくやっていく
――足が痛い時にはキックも相当キツいんじゃないですか?
キックよりもランが圧倒的に出来ないですね。
――キックがどんどん上達していると思いますが、そういう状態だからこそ痛くない部分でキックを上達させようという気持ちもあったんですか?
そういう考えはありませんでしたが、自然とキックも武器にしたら相手に「松島はキックもある」と思わせることが出来ます。相手からしたら嫌なプレーをする、パス、ラン、キックというオプションをしっかりと持っておくということは脅威になると思います。それがプラスになっていると思います。
――キックコントロールが正確なことと飛距離が出るのは、昔からでしたか?
正確になってきたのは、ここ数年だと思います。今のラグビーはキックが大事になっていて、50:22もありますし、そういった意味では正確にキックすることでフォワードを前に上げられるというメリットがあります。それはやっておいて損は無いと思います。
――ファンとしては優勝を望んでいると思います。そこに向けてのメッセージは?
サンゴリアスである限り、優勝目指してやるということはもちろんですけれど、それを口だけじゃなくて、しっかりと練習からお互いに厳しくやり合っていかないと、それは実現しないと思います。自分に甘えず、相手にも自分にも厳しくやっていくというところを取り戻してやっていければ、そういう形が見えてくるんじゃないかなと思います。
――iPadに今書いている目標は?
ないです。しばらくやっていないです。今は常に頭に入っているのでその必要がありません。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]