SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2025年6月20日

#963 中靍 隆彰 『やり切った』

最多トライ、MVPなどのタイトルを獲得してきた中靏選手。サンゴリアス史に残るウイングからの、選手としての最後のメッセージです。(取材日:2025年6月上旬)

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◆それもラグビー

――第9節浦安D-Rocks戦後にインタビューしましたが、結果的にあの試合が最後に試合になりました。改めていま振り返っていかがでしょう?

あの試合はなかなかボールが回ってきませんでしたが、それもラグビーです。走ってトライをするというところを見せたかったということは、今もその時も変わりません。でも、自分の出せるものをすべて出そうとしてやったので、後悔はありません。

――12シーズン、すべてに後悔がない?

もう、ないですね。もっとこうしたかったとか、もっとトライを取りたかった、試合に出たかった、優勝したかったという思いはありますけれど、後悔はまったくないですね。

――それはなぜでしょうか?

なぜですかね。自分でも思っていた以上にスッキリしていて、この12シーズン、ラグビーに対しては毎日やれることをコツコツやってきたので、自信を持って「やり切った」と言えるラグビー人生を過ごせたと思います。

――ずっと社員選手でしたけれど、練習のやり方などプロっぽいと思っていました。仕事とのバランスはどう取っていたんですか?

プロだからと言って、24時間ずっとラグビーをやっているわけではないので、ラグビーに向き合う時間はしっかりと同じように出来ますし、それ以外の仕事という面では、一緒に働いている職場の人とか、そういう人の応援をいちばん近くで受けられて、それが僕にとってはラグビーでのパワーになっていました。それぞれ何を求めるかだと思いますけれど、僕は同じ職場の人たちに応援してもらえることがやりがいでした。

僕がよく試合に出ていた頃なんかは、金曜ナイターで試合があって、当時は赤坂にも支店があったので、仕事が終わった後にみんなで応援に来てくれて、ビールを飲みながら観戦してくれていました。あと僕は西東京支店にも所属していたことがあったので、その支店は、支店全体でラグビーを応援してくれていて、シーズンが終われば懇親会を開いてくれて、本当に良い時代を過ごせたと思っています。

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◆思っていた以上

――新人の時に秩父宮ラグビー場で初めてインタビューしたのを覚えて意います。あの時にイメージしていた通りの選手生活を送れましたか?

好きだったサントリーに入りたくて、トライアウト受けて入りました。上がり下がりはありましたけれど、振り返ると、総じて想像以上の選手生活を送れたんじゃないかなと思います。最初、優勝を経験したかったんです。早稲田大学でも優勝は出来なくて、僕が入る前はサンゴリアスは優勝するチームで、先輩たちに付いて行っていれば優勝するんだろうなと思って入りました。そしたら3年間優勝できなくて、それで4年目の時に試合にも出られて、優勝も経験することが出来て、それで2連覇も出来ました。そういった面では、思っていた以上ですかね。勝ったあと皆で歌を歌い、プレミアムモルツで乾杯することが楽しかったですね。

――トップリーグのMVPも獲得しましたね

それも4年目です。チームの調子が良かったので、みんなに取らせてもらったと思います。ボールも回してもらいましたし、それでトライ王も取れました。

――そこでもっと行けるぞという思いにはなりましたか?

なりましたね(笑)。別に天狗になっていたわけではありませんが、ラグビーに対する向き合い方はずっと十何年間、変わってきていないと思いますし、たまたま4年目、5年目の時にチームの勢いに乗っかって、賞をもらったり、優勝したりしたと思います。日本代表には選ばれたことがないんですが、その頃は日本代表にも選んでもらえるんじゃないかなと思っていました。

――サンウルブズには行きましたよね

そうですね。サンウルブズで世界の壁を知ったと思います。

――どんな壁でしたか?

本当にレベルの高さもありましたし、フィジカルやスピード、ぜんぶのレベルの高さもそうですし、南アフリカに遠征して、移動だけでも大変なんですが、標高だったり、ご飯だったり、大変な中でパフォーマンスを出す難しさを感じました。また勝ちがついてこなくて、ずっと勝っていたチームの後に勝てないチームに入って、自分のパフォーマンスもそんなに良くなくて、負のスパイラルと言うか、そういうことも経験できたと思っています。

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――その状況から、もっとここを磨いていかなければいけないと感じた部分は?

やっぱりフィジカルはもっと伸ばさなければいけないと思いました。スピードには自信があったんですけれど、海外で見ると、そのくらいのスピードは当たり前で、それに加えて強さがある選手ばかりでした。とても自信を持って臨んだんですけれど、その分、跳ね返されちゃったなという感じですね。

――跳ね返されてもそこに挑んで行った?

大まかには変えていないですかね。自分がやるべきトレーニングがあったので、それをやり続けていましたね。

――日本代表になかなか呼ばれないというのは、ストレスになりましたか?

声が掛からなくて、サンウルブズにも次の年からは選ばれなくなってからは、もともとはサンウルブズや日本代表を目指していたというよりも、サンゴリアスで試合に出て活躍していれば、そういうことにも繋がっていくというイメージでした。だから、サンゴリアスで試合に出て活躍して、優勝したいというだけでしたね。

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◆最後は楽しむ

――サンゴリアスで再びMVPを取ったり、トライ王を取ったりすることの難しさはどうでしたか?

次の年に優勝はしましたが、その前のシーズンみたいに17トライもしませんでしたし、その年はあまりトライが取れなくなって、結果が出なくて焦りのようなものがありましたね。取れる時は勢いもあるんですが、過ごし方や向き合い方が変わったわけじゃないのに、なぜかトライが取れなくなるシーズンもあって、その原因は何なんですかね。

――その時には葛藤もあったんですか?

ありましたね。当時は敬介さん(沢木)が監督で、僕はトライを取らないことには次の試合に出られるかも分かりませんでしたし、試合に出るために必死でしたし、良いウイングがたくさんいたので、「結果を残さなきゃ」ともがいていましたね。別に身体の調子が悪いわけではなかったですし、どうやったらトライが取れるのかなと。

――身体の調子は2024-25シーズンも良かったですよね

そうですね。ずっと悪くはないと思っていました。

――そこがある意味、吹っ切れたのはいつ頃ですか?

2019-20シーズンですかね。ワールドカップが終わった後のシーズンです。前のインタビューでも話したと思いますが、割と楽しむマインドで、しっかりと準備して、100%やった上で、最後は楽しむというマインドでやったら、そのシーズンは良かったですね。

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――格闘家のドキュメンタリーを見たんですよね

そうです。コナー・マクレガーのドキュメンタリーをたまたま見て、試合に臨む日は朝から楽しそうにしている姿を見て、「僕は自分にプレッシャーを掛けすぎているな」と感じて、何のためにやっているのかというところを考えました。好きでやっているわけですし、プレーに自信がないわけでもありませんし、全力でやって負けても死ぬわけではありません。そこで足りなければ、足りないところに向き合って成長するのがスポーツの良さです。そういうことに、気づかされましたね。

――ずっと聞きたかったんですけれど、そのドキュメンタリーを誰がお勧めしてくれたんですか?

誰か忘れましたね(笑)。他の選手だとは思います。その頃、いろんな選手が見ていたと思います。Netflixって、その時々で何が面白いというものがあるので、いろんな選手が見ていて、僕は普段はあまり見ないんですが、他の選手から勧められてそれで見たと思います。

――他の選手に勧めたりしたんですか?

それはどうですかね。それぞれタイミングがあるじゃないですか。それと出会うタイミング。もがいている時とかもがいていない時とか、僕もそれが上手くいっている時だったら何も感じなかったかもしれませんし、そういう状況が整っていた時に、たまたまそのドキュメンタリーを見て、それによって成功したので、まあ運命という感じですかね。世の中、タイミングですよね。

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◆勝ちに向かって行く一体感

――12シーズンの中で、いちばんラグビーが面白いなと感じた時はどんな時ですか?

やっぱり優勝した時ですね。

――優勝は何回しましたか?

昔はリーグ戦と日本選手権が別だったので、1回目の時は神戸製鋼に勝って優勝が決まったんですけれど、その後に日本選手権が残っていたので、初めての優勝で嬉しかったんですが、その後の日本選手権決勝のパナソニック戦ですかね。本当にクライマックスというか、勝って優勝して。次のシーズンの日本選手権決勝もパナソニックで、どちらも最後、攻め込まれて守って勝った試合でしたが、特に1回目は印象に残っていますね。やっぱりパナソニックとの試合が、どの試合も印象的ですね。

――自分自身のプレーについてはどうですか?

何がいちばんということはありませんが、やっぱりトライを取ってみんなが集まってくれるのが好きなのですね。

――トライを取ると、自分の役割はひとつ果たしたという感じになるんですか?

トライの形は、たくさんあると思うんですよ。17トライ取った時でも、たくさん抜いてトライをしたものもあれば、最後にボールが回ってきて、たまたま最後に置いたようなトライもあると思います。だから数にフォーカスしているわけではありませんが、勝ちに向かって行く一体感が良いですね。

――いちばん悔しいシーンは?

やっぱり、決勝で負けた試合ですね。僕が出ていて決勝で負けた試合は、2020-21シーズンの決勝で、秩父宮でパナソニックに負けた試合です。こんなに天と地なのかと。勝てばその後のオフ、1年間楽しいんですが、負けたら1年間悔しいです。2位は本当に寝られないくらいで、「あの時にこうしておけば良かったのに」とか考えちゃいますね。

――その悔しさを1年間持ち続けるわけですね

そうですね。それがまた1年後にしかやり返せないので、なかなか長い道のりですよね。次の日にまたやれるというわけではないので。

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◆試合に出ていて勝てなかった選手たちがいちばん悔しい

――そういう意味ではここ数年、優勝から遠ざかっていますが、これについてはどうですか?

本当に僕が試合に出ていた時よりも、ラグビー全体が格段にレベルが上がっているので、みんな頑張っていますし、試合に出られていない僕が言うことはあまりないんですけれど、試合に出ていて勝てなかった選手たちがいちばん悔しいはずだと思っています。

――サンゴリアスの選手たちへのメッセージは?

僕がこのチームに入った時もそうでしたが、「優勝したい」とみんな言うと思います。ここ最近は優勝していないので、どうすれば優勝できるのか、何が足りないのか、本当にそれが分からない状態になってしまっていると思います。今の状態が良いのか悪いのか。でも、本当に自分たちが優勝したいということと、しっかりと向き合うことだと思います。どのチームも優勝したいので、難しい道のりだと思うんですが、絶対に出来る力はあるので、頑張って欲しいと思います。

――現役引退後はどうするんですか?

僕も大好きなサンゴリアスを応援します(笑)。社業の方では営業をやっているので、大好きなザ・プレミアム・モルツをたくさん売って、後輩たちの活躍を楽しみにしながら、試合会場に応援に行きたいと思っています。

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(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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