2025年6月 3日
#960 青木 佑輔 Vol.2『スクラムでチームを救え』
フォワード担当の青木アシスタントコーチへのロングインタビュー。その2回目(後半)をお届けします。
(シーズン中にファンクラブサイトのコーナー「FOR THE WIN」に掲載したインタビュー=①に、シーズン後のインタビュー=②を加え、SPIRITS OF SUNGOLIATH としてお届けします)
◆言語化する
――青木コーチが現役時代には長谷川慎コーチ(現静岡ブルーレヴズアシスタントコーチ)から指導されていたと思いますが、その影響はありますか?
今のスクラムは僕が現役時代に慎さんから言われたことを、自分の中で解釈して、それを追求してやっているものなので、今でも慎さんと組んでいた時の感覚は残っています。左側に壁があって、ギューってとてつもない圧なんですよ。慎さんの現役最後の1年が僕の1年目だったんですけれど、東芝など当時めちゃくちゃスクラムが強かったチームに、僕は対面に負けていたんです。身体も曲がってしまっていたんですけれど、慎さんが全部カバーしてくれていて、身体は曲がっているのに「ここに慎さんがいる」という感覚が残っています。
――その感覚を覚えていて、1番や3番へのコーチングの参考にしているんですか?
1番と3番のコーチングもありますし、「1番がここにいてくれれば安心」とか「ここにいてくれればスクラムを押せる」という感覚があるので、それを日々教えている感じです。
――2番にはまた別のことを教えているんですね
そうですね。2番は自分の感覚で、言語化するのが難しいんですけれど、やるという感じです。
――言語化することが難しいということは、実際にやって見せたりするんですか?
中に入ってやるということが僕はあまり好きではなくて、なるべくやらないで言葉で教えたいんですよ。それは歳を取れば、いずれ出来なくなるからです。日々勉強なんですけれど、選手から「入ってくださいよ」と言われれば入ったりしますが、中に入って「こうだよ」「ああだよ」とやるんじゃなくて、今のうちにそれを言葉にして伝えたいと思っています。もう、らちが明かない時しか入らないようにしています。
――書いたものを選手に渡したりしているんですか?
渡したり見せたりしています。言語化しているんですけれど、それをもっともっと良いものにするために、自分も日々勉強したいと思っています。毎回、思ったことはアニメーションにしたり、今めちゃくちゃありますよ。将来、高校生とかにはこれらをひとつの手段として、教えてあげたいなと思います。将来的には、もともと教師をやりたかったということもあるので、コーチとしてはU20などをやってみたい、そういう世代に教えてみたいという気持ちがあります。
◆力を一点に集中
――1番と2番については聞きましたが、3番はまた違うんですね?
3番は3番で違いますし、1番も1番で違いますし、フッカーも違いますし、ロックの付き方とかフランカー、ナンバーエイトの付き方もぜんぶ違います。
――それらは選手として体感したことにプラスして、どう教えているんですか?
ベースとしては、後ろの5人は前3人に対して、どう力を伝えるかだと思います。昔、YouTubeで見たんですが、ラグビーのフランス代表対綱引きのフランス代表が対決したことがありました。フランスはめちゃくちゃスクラムが強いですし、スクラムにこだわっているチームなんですけれど、スクラムが前を向いてマシンを押しているのに対して、綱引きはそれを後ろから引っ張るんです。
そもそも綱引きやスクラムのいちばんの勝因は重さなんです。同じ押し方をしたら、少しでも重たい方が絶対に勝ちます。特に綱引きは重さですね。綱引きは1本の綱を棒のようにして、力を一点に集中させて引くことがテクニックです。高さを揃えるとか、綱がヘニャヘニャしていると、力が分散してしまいます。スクラムもまさにそれで、スクラムって力をひとつに集めることって難しくて、綱引きとスクラムが対決した時に、圧倒的に綱引きの方が軽かったんですが、それでも綱引きが勝ちました。
――なぜ綱引きが勝ったんですか?
綱引きの方が力を一点に集中できるからです。スクラムは力が分散してしまうんですよ。パンチと一緒で、柔らかい拳でパンチを打つより固い拳の方が強いですよね。さらにその先が尖っていたら、もっと強いですよね。スクラムももっと細くなって、一点に集中した方が力が集まるので、極力はその形を作った方が良いんです。
――大きな身体のフォワードがそれをやるのは難しいですね
難しいですし、前に3人いる時点で後ろの5人の力は3つに分散されているわけです。だからなるべく前3人がギューッと集まった方が強いんです。
――そうすると2番は相当挟まれますね
挟まれます。挟まれないとダメなんです。1番と3番をギューッと集めなきゃいけません。前に1番、2番、3番といたら、1番の後ろにつく6番は、絶対に3番に力を送ることは出来ないんです。その力を送りたいのであれば、2番がギューっとまとめておかないとダメです。基本の形は1番に対して4番と6番がついてパワーを送ります。3番に対しては5番と7番がついてパワーを送ります。そこで2番が真ん中にギューッと寄せておかないと、分散してしまいます。
――2番は1番と3番を寄せつつ、前に行く力を持っていなければいけませんよね
そうです。だから2番は大変ですよ。だけれども、このパワーを集めるためには2番が必要なんです。このパワーを2番が集めていないと、相手が8人ギューッと固まっていたとしたら、1番4番6番と3番5番7番対相手の8人になってしまいます。
だからスクラムのセットアップでまず2番がついて、そこに対して1番と3番が入ってきて、1番に対しては4番と6番がばっちりとついて、そこでしっかりと背骨を合わせて、その時点で先ほどの綱引きじゃないですけれど、グニャグニャしないで1本の線になるようにセットします。そして3番に対して5番と7番が背筋を合わせて、それを2番が繋ぎ止める。2番は4番と5番からも力をもらうので、縦の2番、4番、5番、8番がスクラムでは重要になります。
◆Vフォーメーション
――スクラムをチェックする時にはどうやって見ているんですか?
結局は上から見ないと分かりません。上から見るとラインが真っすぐになっているか分かりますが、高さが合っているかは横から見るようになります。高さについては、ちょっとずつ低くなっていかないといけません。ロックがプロップの背中にくっついていてはいけないので、必ずお尻を押すようにしなければいけないので、後ろに行くにつれてちょっとずつ低くなっていきます。
――いちばん後ろの8番は低くて大変ですね
そこまで低くはならないですけどね。どうやってみんなで押すかと言うと、45度くらいギューッと下に押し付けるような押し方です。その押し方が効率的です。
――図も使いながら今までの説明をしてもらいましたが、青木コーチが図式化して教えるようになったのはいつからですか?
結構、初めからだと思います。とにかく実際に組んで見せるよりも、口で説明したかったんですよ。自分の経験を言語化したかったんです。
――それは自分が教えられた時に分からないことがあったからですか?
分からないこともありましたし、コーチングってそうだろうと思っていました。身体を使って教えていたら、選手の時と変わらないと思ったので、なるべく自分の経験を言葉にする作業を頑張りました。
――言葉で適切な表現を言葉にするのはとても難しいと思いますが、どうやって頑張ったんですか?
本当に考えました。どういう言葉を使うか?自分の中で考えるしかなかったですね。スクラムの図は、バック5がどういう付き方をするか、クラウチの時はどうするか、バインドしたらどうするか、とか。こうやって絵を使って、鳥がVフォーメーションで飛んでいた方が、風の抵抗を受けませんし効率的であるように、バラバラになっていたら力が分散するとか、スクラムじゃない例を使いながらそういう話をしたりしています。
――一言で言うと、何のように押すと言えますか?
良い質問ですね。何のようにとは言ったことがないですね。それがあれば一発で分かりますね。ただ、押し方が決まっているので、セイムページを見ることですね。確かに「何のように」って見つかれば良いかもしれないですね。
◆チームを救うスクラム
――今後の目標は?
それってとても難しいんですよね。コーチをやらせてもらった当初は、日本代表のコーチになりたいとか、U20のコーチになりたいとかありましたけれど、自分の現状ではそんな夢を語っていられないなと。今はとにかくチームを勝たせたいと思っています。勝った負けた引分けたは、僕らの責任だと思います。各試合には勝負の肝がたくさんあり、何回もチャンスがあります。相手のミスで救われる部分もあリますが、逆にこっちが勝負の肝でミスする時もある。そういう肝になる部分を、もっと僕らコーチングスタッフが教えていかなければいけないと思っています。教え足りていないから、大事にしなければいけないところがバタついているのだと思います。そこは言い続けなければいけないので、今はそれを週明けに早く言いたいなと思います。
――その上で、今後の希望は?
U20には行ってみたいと思いますし、サンゴリアスにいながらU20を教えるチャンスがあれば行きたいなと思います。
――サンゴリアスのコーチとして目指す、サンゴリアスの姿は何ですか?
やっぱりコーチと選手が思っているページが同じじゃなければいけないと思います。鳥のVフォーメーションじゃないですけれど、あれって鳥の本能というか、当たり前のこと、家みたいなものだと思います。苦しくなった時に自分たちの家が分かっていれば、その形になれると思うんですよ。ホームのようなもの、安心する場が必要です。
――特にフォワードにとって安心する場所を作っていきたいですか?
スクラムってどんな状況でもめちゃくちゃ強ければ、またモメンタムを取り戻せると思うんですよ。相手に乗った勢いを絶対に取り返せるんですよ。だからスクラムはそういうところであり続けて欲しいんです。いつも選手に言うんですけれど、「スクラムでチームを救え」って。苦しい状況でもまたモメンタムを取り返せるから。
そういうものがアタックの中でもディフェンスの中でもあると、選手が落ち着いて「今はピンチだから、こういうふうにしましょう」ということが出来ると思います。もしミスが続いていて、スクラムもめちゃくちゃ弱いと、ピンチをピンチで塗り重ねているようなものです。だからスクラムについては、相手を叩くのもスクラムですし、チームを救うのもスクラムなのだと選手に言っています。バックスを安心させてあげられるような、ツールであって欲しいと思います。
――青木コーチから見て、スクラムが強いチームはどこですか?
静岡ブルーレヴズです。強いですね。あとはクボタスピアーズです。
――まだこの先にも戦いますね
だから楽しみです。早くやりたいですよ。
――スクラム、勝てそうですか?
例えば、レヴズってスクラムがホームなので、そこでペナルティが取れないと、逆にスクラムがホームじゃなくなるんです。スクラムでペナルティを取って安心している訳なので、スクラムをイーブンで組むことが、相手のモメンタムを止めることになるんです。
――クボタスピアーズについては?
スピアーズもめちゃくちゃ強いですよ。だけれど、先ほども言いましたが、力をどこに集めるかで絶対に止められるんです。どこに力を集めるか、どういうふうに押すかだと思います。だから注目して欲しいです。
②シーズン後インタビュー (取材:2025年5月)
◆喪失感
――今シーズン最後の試合となってしまいましたが、クボタスピアーズと実際にやってみてどうでしたか?
めちゃくちゃ強かったです。
――サンゴリアスも対抗したんじゃないでしょうか?
前半は修正することが多くて、後半は良くなりましたけれど、上手くやられたと思います。上手くやられたところがどこかというのは、ギャップを大きく取られてヒットのし合いだったんですけれど、やっぱり向こうの方が重たいのでヒットのインパクトが強くて、そこで崩されていました。
――重たさに対抗するためには速さが必要ですか?
速さもそうですし、まずギャップを詰めなければいけないと思います。お互いがヒットし合ったら大きい方が強いに決まっているので、相撲でも立ち合いで早く詰めたりしますよね。だから、なるべく最初にギャップを閉じちゃった方が良いんですけれど、その部分で上手くやられたと思います。
――そこは次回に向けての課題ですか?
めちゃくちゃ課題です。
――シーズンが終わって、今の心境は?
喪失感みたいな。終わっちゃったなという。準備してきたことが最後に出来なかったですし、個人的にはやっぱり、とても残念です。
――いちばん残念なところは?
最後の試合の前半で、スクラムを上手くやられたところですね。
――それまでは段々良くなってきていましたか?
やってきたことがずっと出せていたと思うんですけれど。あとは来シーズンに向けて良い課題が出たので、そこを早く新しいシーズンでやりたいなと思います。自分の性格上、思いついたこととか反省とかが出てきたら、すぐに試したいんですよ。だから、早くやりたいですね。早く試したい。
――今シーズンで上手くいったところはどこですか?
やっぱりギャップのところと、セットアップを丁寧にやるところ。そこからヒットをするところが良かったと思います。最後のクボタ戦は、それが出来なくなった時にどうするかということだと思います。ヒットは相手とイーブンにしたくないんですよ。相手の方が大きいので。
――こちら側も大きくなれば、またやり方は変わると言うことですよね
そうですね。そうなったら、ギャップを取って思い切りヒットした方が良いんじゃないですかね。
◆グラウンドでどれだけ勝ちにこだわっているか
――青木コーチが現役の時は勝つことが当たり前でしたか?
当たり前というよりは、勝たなきゃいけないという感覚が強かったです。
――今のチームにも勝たなきゃいけないという感覚はあるんじゃないですか?
あるとは思います。ただ、本当にそう思っているのが何人いるのかなと。
――本当に思っているか思っていないかの違いはどこで見えるんですか?
練習態度ではないでしょうか。要はグラウンドでどれだけ勝ちにこだわっているか、そういうことが重要だと思います。僕の感覚的に、常に勝ちを意識しておかないと勝てないと思うんですよ。だから勝ちにこだわる行動、自分に正直になって、これって本当に勝ちに繋がるのかなと、常に行動を意識しなければ絶対に勝てないと思います。それでなければ試合にも出られないと思いますし、スタッフも含めてそういう人たちが増えなかったら、勝てないと思います。例えば、オフの日にクラブハウスに来て、トレーニングをしなくてもリカバリーするとか。それを何人がやっているか。勝つための行動をする。オンとオフのちゃんとした切り替えが必要だと思います。優勝できるのは1チームしかないですし、じゃあ優勝するために何をしなければいけないのかということだと思います。
――優勝を心から望んでいるか?ということですね
僕の感覚ですけれど、優勝すると、心が豊かになりますし、とても人間力が上がる、心が広くなる。心が広くなって、人に優しくなれます。
――サンゴリスは厳しい監督の時に成績を残すことが多いのでは?
厳しからやれと言われて、やって勝つというのはレベルが低いですし、プロ化が進んでいるんだから、オフの過ごし方を含めて自分で責任を取らなければいけない部分があると思います。それで勝てるんですか?というところでもあると思います。勝つためだけの行動をしておけば良いと思います。自分で考えて。誰かがやっていたから俺もやろうじゃなくて。考えて勝つための行動をする。やっぱり勝ちを意識しないと、絶対に勝てないと思います。常に勝ちを意識しないと。
◆勝ちに飢えている
――来シーズンへ向けての光明は?
例えばスクラムで言えば、大きい相手にどう戦うかっていうことは、ずっとラグビーで起きていることですよね。そこがシーズンの最後の方は上手くいっていて、勝ちに繋がったりしていました。そこを突き詰めていくしかないと思います。
――とにかくまずフォワードで勝つということですね
言い方は変ですけれど、大きい相手にどうやって勝つんだと言ったら、お相撲さんだって、例えば昔の曙に対して寺尾が真っ向から当たって、がっぷり四つなんてしないですよね。ずらしてとか、速く動いてとか、持久戦とか。そういうことをラグビーだって考えてやっているわけです。相手の強いところを外すとか、空いているスペースにキックを蹴って相手に背走させるとか、相手にたくさん走らせるとか、そういうところに戦術はとことんこだわっていった方が良いと思います。
ただ、そういう良い戦術があっても、遂行しなければいけません。その選手の身丈に合った戦術を考えなければいけないわけです。言っていることは完璧かもしれないけれど、それを選手が本当に出来るのかと。あり得ないですけれど、例えば、自陣の22mラインから敵陣の22mまで蹴って、相手に背走させてとかは絶対に無理です。そういう空想じゃなくて、本当に戦力を考えた時に、出来る戦術を考えないと。
それにプラスで、ラグビーってコンタクトなど絶対に逃げられないところがあります。そこは逃げられないので、タックルしなければいけない、アタックだってボールキャリアーはコンタクトが確定しているので。そういうところでどうやって戦うのかを考えなければいけないと思います。もちろんこれまでもそれを考えてやってきましたが、さらに追求していくべきだと思います。
希望の光としては、勝ちに飢えていると思うんです。それを全員が行動で示すということだと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]