SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2021年7月30日

#756 大越 元気 『メンバーに入れない時にどういう振る舞いが出来るか』

前シーズンに比べて出場機会が大きく減った大越元気選手。苦しい日々を送っていたのではという想像をはるかに超えて、リーダーとして新しい試みに真摯に取り組んだシーズンとなったようです。その熱い想いを語ってもらいました。(取材日:2021年7月上旬)

①210228_11028.jpg

◆悔しい想い

――2021シーズンのチームを振り返って、どうでしたか?

決勝でパナソニックワイルドナイツに負けてしまったので、やはり正直、そこがいちばん悔しかったですね。サンゴリアスは優勝しなければいけないチームですし、常に日本一になっていなければいけないチームだと思っているので、準優勝という結果になってしまい、優勝したかったですね。

――その悔しさは今も心の中に?

ずっと悔しいですね。チームとしても個人としてもシーズン中に、もっとやれることがあったかなと考えることもありますし、そういうことを色々と考えながらオフを過ごしています。

――個人としてシーズンを振り返るとどうでしたか?

選手としては、第2節ホンダヒート戦の後半残り10分くらいしか2021シーズンは出場していません。個人としてももっともっと頑張らなければいけなかったという、悔しい想いしかないですね。

――1シーズンでの出場時間が10分くらいというのは、サンゴリアスに入って初めてですか?

いや、1、2年目は出場できず、3年目にやっと出場できたので、出場できなかったシーズンもありました。選手としては、試合に出ないと何の意味もないと思っています。2021シーズンに出場するために色々と取り組んできたこともあったんですが、その結果が1試合しか出場できなかったということなので、もう一度自分自身を見つめ直して、スクラムハーフとして同じポジションの選手に勝って、自分の持ち味を出してチームに貢献するためには何をしなければいけないのかを、改めて考えていかなければいけないと思っています。

②210507_1380.jpg

◆いちばんは運動量

――次のシーズンにチームが優勝するために、個人としての課題やテーマは何ですか?

1シーズン通して自分の持ち味をブラさずに、自分自身を信じてやり切ることだと思います。2021シーズンは、自分としての反省点が出てきて幅を広げようとした中で、強気の仕掛けであったり、テンポよくパスを捌くことであったり、そういう自分の強みがブレてしまっていたと思います。少し考えすぎてしまったところがあったので、次のシーズンでは自分の武器をしっかりと考えて、1シーズン通してこのチームにフィットさせるためにやっていきたいと思います。幅を広げることよりも、まずは自分の武器を磨くことに集中した方が良かったかなと思っています。

サンゴリアスのスクラムハーフには、本当に幅が広い選手が多いんですよ。ユタカさん(流大)も直人(齋藤)も、2021シーズンでチームを離れたジャディ(リチャード・ジャッド)も、本当に幅が広くて、色々なことを高いレベルでプレー出来る選手が多いんです。その選手たちに対して、全てにおいて追い越そうとするのではなくて、自分がこのチームに対して何で貢献できるのか、どの武器で戦えるのかというところをもっともっと追及して、そこを見失わずにやることがいちばん大切なのかなと、改めて感じました。

――大越選手のいちばんの武器は何だと思いますか?

いちばんは運動量だと思います。2021シーズンはアタックだけではなく、ディフェンスでも運動量を武器にしてチームに影響を及ぼす選手になると決めたんですが、そこを引き続き武器にしてやっていきたいと思います。

――二番目の武器はありますか?

その次は自ら走って仕掛けるということを、意識してやっていこうと思っています。

――三番目はありますか?

三番目ですか(笑)。色々あるんですが、強いて言えば、出場する試合において、自分の役割を明確にして、しっかりとグラウンドで表現することです。その日のコンディション、他のメンバーの状況など、すべてを考えた上で、自分がどういうプレーをするか、チームが勝つためには何をしなければいけないのか、そこをしっかりと考えてプレー出来る選手になりたいと思います。

――プレーの幅だけではなく、視野の広さや観察力などの幅も大事になりますね

そうですね。選手の変化など周りの状況をしっかりと感じた上でプレーすることが、強みになるかなと思っています。

③210319_2660.jpg

◆選手たちがグラウンドで100%ラグビーが出来るようにグラウンド外で出来ること

――2021シーズンではカルチャーグループのリーダーを務めたとのことですが、選手会長的な役割だったんですか?

どうなんですかね。サンゴリアスでの選手会長という役割がどういう役割だったか、僕は分からないんですが、ヒロキさん(宮本啓希/主務)や大志さん(村田)から色々と話を聞く限りは、同じような役割なのかなとは感じました。

――どのようにしてカルチャーグループのリーダーになったんですか?

2021シーズンが始まる時にスタッフから「やってくれないか」と話をもらいました。カルチャーグループは2年くらい前からあって、その時は大志さんが選手会長としてまとめていたと思うんですが、2021シーズンでは僕がやらせてもらいました。

そのリーダーの話があった時に、「新しいサンゴリアスにしなければいけない」と言われました。これまではトップダウンのような形だと勝てるけど、それが続かないというチームだったので、もう少し選手が主体的になって、スタッフと密にコミュニケーションを取りながら、ずっと勝ち続けられるチームになっていかなければいけないということだったんです。そのために、常にサンゴリアスが良くなるために考え、行動し、先頭に立って引っ張っていくグループが、カルチャーグループだと思っています。

――カルチャーとついているので、グラウンド外でのことを指しているんですか?

グラウンド外のところが多くなると思いますが、僕の認識としては、選手たちがグラウンドで100%ラグビーが出来るように、グラウンド外で出来ることはないかということを考えながら、スタッフとコミュニケーションを取っていました。そのために選手に厳しいことを言うこともありましたが、チームが良くなるためにどうすれば良いかと考えていました。

――カルチャーグループのリーダーとして悩んだりしましたか?

結構ありましたね(笑)。この立場になったことで、サンゴリアスの新たな部分が見えてきたところもありましたし、選手たちから出てきた色々な意見をまとめて、ミルトン(ヘイグ/監督)や脇さん(前ゼネラルマネージャー)と何度も話したりしました。あとは最初の練習試合で勝てなかったので、もっと他のアプローチがあったのかなとか、いまも考えたりしています。シーズン中はもっともっと考えていたことがあったんですが、いまは思い出せないですね(笑)。

④210523_s4551.jpg

◆ぶれてはいけない部分が絶対にある

――サンゴリアスの新たな部分が見えてきたとは、どういう部分ですか?

良い部分も見えましたが、あまり良くない部分も見えましたね。もっとこうすれば良いのにと感じる部分がありました。

――リーダーという立場になったことで気づいたことですか?

こういう立場になったことで気づけるようになった部分かなと思います。具体的には言えませんが、選手とスタッフの関係性のところで、ミルトン(ヘイグ/監督)は選手の意見を聞いてくれて、亮土さん(中村)中心に、堀越、トム・サベッジなどのラグビーリーダーが決めたことも尊重してくれて、2021シーズンが出来たと思います。それで結果も出て、決勝で負けてしまいましたが、決勝まで進むことは出来ました。

色々な選手が言っていると思いますが、選手がスタッフに言われることだけではなく、選手が自主性を持ち色々なことにチャレンジ出来たシーズンだったと思います。僕としてもその通りで、新しいサンゴリアスの第一歩になったと思っていますが、そこで勝てない試合が続いたり、選手の中で歯車が狂い出した時に出てくる選手側の意見は、もしかしたらわがままなものかもしれません。

新しいサンゴリアスになることはとても大事なことだと思いますが、これまで先輩たちやOBの皆さんが築き上げてきた、サンゴリアスのぶれてはいけない部分が絶対にあると思っています。そこがどういう部分なのかということを、選手としてもスタッフとしてもしっかりと明確にして、そういった中で選手が意見をする。その意見に対して、スタッフもぶれてはいけない部分をもとに新しいアプローチをする。新しいことが全て良いということではなく、そういった中にもぶれてはいけないサンゴリアスの強みを持って、選手とスタッフが一緒に成長していければ良いと思っています。

――とても難しいことですね

難しいことだと思います。2021シーズンにカルチャーグループのリーダーをやらせてもらい、そういうことを感じましたし、サンゴリアスには絶対にぶれてはいけない部分があると思っています。グラウンド内外問わず、サンゴリアスの選手としてのあるべき姿が絶対にあると思っています。あとは、スタッフも含めて、タフな選手が本当に多かったので、負けないサンゴリアス、強かった時に持っていた部分は、絶対にぶれてはいけない部分だと思います。

選手とスタッフが同じ目標を持ち、そのために何をしなければいけないのか、そういうことも同じじゃなければいけないと思うので、確認しながらやっていかなければいけないと思います。あとは、チームがバラバラになりそうな時に、グッともう一度ひとつになっていけるような、サンゴリアスとしてのぶれない部分を大事にしたいと思います。

⑤201106_09965.jpg

◆人間関係を改めて構築していこう

――2021シーズンは勝ち続けていたので、そこに気が付くことはさらに難しいですよね

気づいたら知らない間にバラバラになってしまうということにもなるので、そこは意識していないといけないと思っていました。カルチャーグループとしては、大きな目標として「人間関係を改めて構築していこう」というビジョンを掲げました。細かく言うと、色々なことに気を配れる選手、色々なことに気が付ける選手、そういった選手を1人でも多く作っていきたいと思っていました。すでにそういう選手もいますが、そういう選手がどんどん増えていくことによって、チームは良い方向に進んでいくと思いますし、これだけスタッフが選手に任せてくれている以上、そういうところは選手の責任だと思うので、気を配れる、気がつける選手を作りたいと思って取り組んでいました。

――普通なかなかそこまで考えが及ばないと思うのですが

僕自身が1、2年目の時に、そういうところで助けてもらっていました。1、2年目は試合に出られなくて、色々な思いをしましたし、たくさん怒られて、上手くいかないこともたくさんありました。そういう時に、宮本啓希さんもそうですし、その当時にいた先輩たち、色々な人が声を掛けてくださって救われたことがたくさんありましたし、だから今もサンゴリアスでラグビーを続けられていると思っています。

もっと自分自身にベクトルを向けなければいけない、言い訳をしてはいけない、そういう自分の弱いところを認めて、しっかりともう一歩踏み出さなければいけない、本当に色々なことに気づかせてくれた先輩方がたくさんいました。自分がそういう想いをした分、今はカルチャーグループのリーダーという立場になったので、同じような想いをしている選手がいた時に、引っ張っていけたり、気を配っていける、選手の変化に気が付ける、そういう選手が1人でも多くいたら、良いチームになるんじゃないかなと感じたので、カルチャーグループとしてそういう目標でやっていきたいと伝えました。

⑥210428_6852.jpg

◆選手やスタッフ全員と話をしよう

――そういう役割を実践したことは、選手としての自分自身にも好影響を及ぼしたのでは?

クラブハウスに来たら、選手やスタッフ全員と話をしようと思って行動をしていました。試合に出ていないので何とも言えないんですが、スクラムハーフとして仲間のことを分かっていなければいけないと思うので、そういった意味で、スクラムハーフとしての新しい武器に気づけたシーズンでもありました。

――後輩たちと一緒に何かやっていることはありますか?

2021シーズンはノンメンバーとして過ごすことが多かったので、同じノンメンバーだった後輩たちや、メンバーに入れなかった先輩たちなど、ノンメンバーになった選手たちには、メンバー発表後の練習では絶対に声を掛けようと思っていましたし、実際にノンメンバーになった選手たちに話し掛けながらシーズンを通してやってきました。

僕自身もメンバーに入れなくて悔しくて、不貞腐れていた時期があり、そうはなって欲しくないという想いもあったので、「絶対にまたチャンスがある。1日1日の練習を絶対に無駄にしないためにも今日の練習の態度が大事だから」と伝えたり、「気持ちは分かるけど、まずは目の前のことをひとつひとつやっていかないと、メンバーに入ったりレギュラーを取るという目標には届かないんじゃないの?」と伝えたこともありました。そういうことが大事と分かっている先輩たちがたくさんいるので、「このチームのために、ノンメンバーですけど、もう一度頑張りましょうね」と声を掛けた時もありました。

メンバーに入れないことは本当に悔しくて、僕自身も悔しいんですけど、そういう立場になった時にどういう振る舞いが出来るかということだと思います。ノンメンバーになってしまったことは仕方なくて、もう次に向かうしかないんです。そこで不貞腐れて無駄な時間を過ごして欲しくなかったので、そういう言葉を掛けさせてもらっていました。

⑦201103_8726.jpg

◆気を配れる、気づける選手を作る

――プレーであれば結果として目に見えるけれど、いま話してもらった部分はなかなか目に見えない部分だと思いますが、イメージしていたどの程度のことできたか、そして次のシーズンでは更にどうしていきたいと思っていますか?

その部分については、僕は目に見えなくていい部分だと思っていて、例えば「大越元気はグラウンド外でどれだけやっていたか」とか、そういうところって見えていなくて良いと思っています。最後に優勝したかったですが、チームが良い方向に進んで、グラウンドで選手がお互いに100%出来ていて、試合に勝つことが出来ていたと思っています。裏でどれだけ動いているかが見えていない時の方が、チームが上手くいっている時だと思うので、目に見えて成果が現れなければいけないとは思っていませんでした。

スタッフ含めて選手がどれだけ気づくことが出来たかは分かりませんが、本当に良いチームだったと思っています。もしかしたらそう思っていないスタッフや選手がいるかもしれませんが、ある選手から「自分のことだけじゃなくて、やっぱりチームのことや他人のことを考えながらやっていくことが、とても大事なんだな」という声ももらいました。そういう選手が1人でも出てきてくれて、カルチャーグループの目標に掲げた、気を配れる、気づける選手を作るという第一歩を踏み出せたのかなと思っています。

そこは今後も継続していかなければいけない部分だと思うので、そういう選手が1人でも多く出てきてくれて、そして更には、「サンゴリアスじゃなきゃいけない」、「サンゴリアスでラグビーがしたい」、「サンゴリアスが好きで、このチームのためにやるべきことをやって優勝したい」という想いを持つ選手が、1人でも多く増えて欲しいですし、増えるように頑張っていきたいと思っています。

――そのために、次のシーズンでもやるべきことはたくさんありますか?

人間関係のところで言うと、2021シーズンはバディシステムというのを新しく作って、年齢なども関係なく2人1組のバディを作りました。まずは小さいユニットから始めて、組んだ相手のことが分からなければいけない、どういう想いでラグビーをしているのかということも含めて、相手の少しの変化にも気づけるような関係を作りたくて取り入れました。

本当はその2人で食事をしたり、2人で話し合う時間を設けたりしたかったんですが、新型コロナウイルスの影響でそれは叶いませんでした。そういうことまで出来なかったので、ちゃんとバディを意識できている選手もいれば、まだまだ名ばかりのものになってしまっている組もいたと思うので、次のシーズンではその精度を上げて、気を配れる選手、気づける選手を作れるように、アプローチの質を上げていきたいと思っています。抜けたメンバーや新たに入ってくるメンバーがいるので、またスタッフと相談をしながら、新たな組み合わせを考えていきたいと思います。

――そのアイデアはどこから出てきたんですか?

会社の中で、新人社員に対して先輩社員が1年や2年ついてくれて、面倒を見てくれるシステムがあります。仕事の面でも先輩にたくさんお世話になったので、そういうところで気づけたことと、サンゴリアスでも色々な先輩に助けてもらったので、そういう先輩を多く作れれば、良いチームになっていけるんじゃないかという思いです。

――社業にも良い影響がありそうですね

それはありますね。カルチャーグループのリーダーをやることになったことを上司に伝えたら、「最低限やらなければいけない業務を100%やりながら、新たな役割もやっていくということは、自分の成長になる」と言ってもらいました。

⑧210316_1185.jpg

◆サンゴリアスにはすべてが詰まっている

――次のシーズンでファンに期待して欲しいことは何ですか?

このインタビューをやることが決まってから、色々と振り返ったり整理したりしてみたんですが、サンゴリアスというチームにはすべてが詰まっていると思っています。そのすべてには、悔しさや喜び、人としての成長、仲間の本質的な部分、本当に人として大事なこと、選手として大事なこと、サラリーマンとして大事なこと...本当に学ぶべきことがすべて詰まっているチームだと思っています。

サンゴリアスにしか出来ないラグビー、そこは次のシーズンに向けてこれから考えていく部分ではありますが、これから新しいサンゴリアスになっていくと思っています。そこには先輩方が築き上げてきてくれた絶対にぶれてはいけない部分があると思うので、そこをしっかりと残していきながら、新しいラグビー、サンゴリアスにしか出来ないラグビー、サンゴリアスの選手だから出来ること、そういうこと積み重ねていって、新リーグでは絶対に優勝したいと思っています。

ファンの皆さんに気づいてもらえるかは分かりませんが、新しいサンゴリアスになっていこうとしているところです。選手たちはしっかりと責任を持ち、優勝目指して取り組んでいきますので、そこに期待していて欲しいと思っています。

⑨210228_s3851.jpg

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

一覧へ