SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2015年11月10日

#455 真壁 伸弥 『ペネトレーターとしての自信』

ワールドカップでも体を張って戦ってきた真壁伸弥選手。厳しい戦いの中で得たものは?その上で、今シーズンにかける思いは?4年目を迎える真壁“キャプテン”に、今シーズンに向けての意気込みを聞きました。(取材日:2015年10月26日)

◆嬉しい誤算

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—— 今回のラグビーワールドカップイングランド大会はどうでしたか?

私にとっては初めてのワールドカップで、直弥さん(大久保/NTTコミュニケーションズFWコーチ)から「ワールドカップは特別な場所だし、今までのテストマッチとは違う場所だから、絶対に出場して、楽しんで来い」と言われていました。その言葉を信じてリハビリをして、実際に出場することが出来たので、まずそこで達成感がありました。

ワールドカップを戦ってみて3勝1敗という成績で、成績だけを見れば悪くはなかったんですが、目標であったベスト8を果たすことが出来ず、悔しい思いをしました。そういう悔しさを味わう一方で、これまでの日本代表でこのような感覚を味わうことがあったのだろうかと、不思議な感覚もありました。 エディーさん(ジョーンズ/前日本代表ヘッドコーチ)が日本代表を離れることになりましたし、その先のことは考えていなかったんですが、今回のワールドカップを経験して2019年への意欲が出てきました。

—— ワールドカップを戦う前、選手としてベスト8という目標の捉え方はどんなものでしたか?

その目標を達成出来るイメージを持っていました。ただ、僕のイメージでは、南アフリカと良い試合をして、スコットランドに勝つというイメージを持っていました。2013年に一度スコットランドと試合をしていて、その時に手応えがあったので、ワールドカップでは勝てるんじゃないかと思っていました。南アフリカに勝ち、スコットランドに負けるということは予想外でしたが、嬉しい誤算でした。

—— 南アフリカ戦を振り返って、実際に試合をしている時はどう感じていましたか?

リザーブだったので、前半をベンチから見ていて、しっかりと食らいついていけという思いでした。後半13分にグラウンドに入ったんですが、何プレーかしていくうちに、あるスクラムでチーム内に勝つ雰囲気を感じて、「これは勝てるんじゃないか」と思い始めました。

試合を通じてスクラムで不利な状況になっていませんでしたし、相手ボールだろうがマイボールだろうが、負ける雰囲気が出ていなくて、良い試合になるだろうとは思っていましたね。

◆スコットランド戦まで含めて1セット

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—— ラストワンプレーでスクラムを選択し、誰か1人でもミスをすれば試合が終わる状況の中でも、誰1人ミスをせずにトライまで取り切りましたね

エネルギーを出していつも通り行くという感覚でプレーしていて、激しく声を出していたりもしましたが、チームとしては冷静な状態で、相手もシンビンで1人少なくゴール前だったので、スクラムでも押せると思っていました。よく勇気ある決断と言われますが(笑)、冷静に考えても、あの決断が一番良い選択だったと思います。勝てるという雰囲気があり、気持ちとしては盛り上がっていましたが、みんな冷静に判断していたと思います。

ベンチからペナルティーショットを狙えという指示が、キャプテンのリーチ(マイケル/東芝)には伝わっていたかもしれませんが、リーチは自分の中で止めてくれて、リーチの判断でスクラムを選択してくれたんだと思います。だから、我々にはリーチの判断しか届いていないので、リーチを信じてプレーしました。けど、我々もリーチが判断する前からスクラムという気持ちではいました。

あと南アフリカとワールドカップの初戦で戦うと決まった時から南アフリカに対して準備をして、日本のラグビーを変える、世界ランキングでトップ10に入るという、しっかりとしたブレない軸を作ってやってきた積み重ねがあったので、神様がほほ笑んでくれて、南アフリカに対してあれだけ良い試合が出来たんだと思います。

—— それほど一体感を持ってプレーすることは、これまでの日本代表で経験したことはありましたか?

ルーマニアやジョージアというスクラムが強い相手と試合をする時には、スクラムを強化するという目的を持って試合に臨んでいたんですが、そういう試合では同じような感覚がありました。そういう積み重ねがあり、スコットランド相手にもスクラムを押すことが出来ましたし、2014年に戦ったマオリ・オールブラックスを相手にも押せましたし、スクラムが強いヨーロッパの相手とも多くのテストマッチを積み重ねてきたので、弱いと言われていた日本のスクラムが、武器になるまで成長しているという自覚がありました。そういう積み重ねがあったので、南アフリカ戦でも最後にスクラムを選択出来たんだと思います。

—— 南アフリカに勝ったことで気が緩むということはありませんでしたか?

ヨーロッパ遠征や宮崎合宿で中3日の試合を行い、しっかりとシミュレーションをして、どれだけ中3日で試合をすることが大変かを体感しました。南アフリカ戦が終わった時からスコットランド戦に向けてしっかりとリカバリーしなければ、今までやってきたことの意味がなくなってしまうと思ったので、南アフリカ戦が終わったから気を緩めるのではなくて、スコットランド戦まで含めて1セットという考えを持っていました。

◆イメージを変える良いチャンス

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—— スクラム強化のトレーニングは大変でしたか?

大変ではありましたが、積み重ねの成果だと思います。これまでは選手自身も日本はスクラムが弱いというイメージを持ってしまっていて、スクラムを避けるようなネガティブなプレー選択をしていたのかもしれません。

—— 今回の経験は、今後のラグビー人生にも活かせそうですね

活かせると思いますし、2019年に向けて、若い選手たちにも伝えていかなければいけないことだと思います。体格で劣る日本人が外国人選手には勝てないというイメージを持ってしまっている人がいると思うので、今がそのイメージを変える良いチャンスだと思っています。

—— 今回のワールドカップで印象に残っている試合は?

試合に出られなかったサモア戦が印象に残っていますね。外から見ていて、みんながハードワークしている姿が印象に残っています。自分が出場する試合では、自分のプレーに集中しているのであまり覚えていないことの方が多いんですが、その中でも覚えているのが、試合中にフォワードみんなが常に「俺らで日本ラグビーの歴史を変える」と言っていたことを覚えています。特に南アフリカ戦の時はずっとそのワードを言っていたと思います。

—— 「俺らで日本ラグビーの歴史を変える」という言葉は、試合の前からキーワードになっていましたか?

試合前のミーティングでもキーワードになっていましたし、日本を発つ時のみんなの決意表明でも、そういうワードは必ず入っていましたね。「日本のラグビーを変える」とか「24年間の負のイメージを変える」とかあり、本当にそういう思いを背負っていると感じました。

◆細かな部分が試合に活きてくる

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—— 今回のワールドカップで得たものは何ですか?

ワールドカップは特別な舞台という話をしましたが、それは気持ちの部分であり、プレーヤーとしてはいつもと変わらない準備をしていくことが大切なんです。だから、準備が非常に大切だということを、改めて感じましたね。それを見越して、何年も前から同じようなスケジュールでヨーロッパ遠征もやりました。事前にグラウンドを確かめたりして、そういう細かな部分が試合には活きてくると思いましたね。

ワールドカップでは大勢のお客さんが来て特別な雰囲気が出ていますが、試合だけを考えれば、秩父宮ラグビー場でやるテストマッチと同じなんです。常に同じ意識で試合に臨まなければいけないと思います。

—— 今回の日本代表にはメンタルコーチがいましたが、選手にとっては助けになっていましたか?

やはりメンタルコーチがいたことは大きいと思います。特に五郎丸さんはキックの時に物凄いプレッシャーがかかっていたと思いますし、メンタルコーチに話してもらった内容を何回も思いだしながらキックを蹴っていたと思います。体のルーティーンもありますが、メンタルのルーティーンを確立することも大切で、それによって落ち着いてプレーが出来ると思います。

私自信も遠征を比較的に楽なメンタルで過ごすことが出来たと思います。メンタルコーチと話をすることでヒントを与えてもらえるので、あとは自分で気持ちの整理をしていきました。そのヒントが無ければ、どう整理をして良いのかも分からなくなってしまっていたと思います。

◆プレーで示す

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—— 府中で報告会をやり約4000人の人が集まりました。やはり歴史が変わったと思いますか?

そうですね。大勢の人が集まってくれましたし、多く報道されるようにもなりましたし、これまでラグビーに関心が無かった人からも「感動した」とか「泣いた」とか言われたので、日本のラグビーが良い方向に進むようになっているんじゃないかと思います。

あと日本に帰ってきた時にあれだけの人が空港で迎えてくれたことは嬉しかったですね。隣で一緒に帰ってきた均さん(大野/東芝)も、「日本代表として12~13年間やってきて初めての光景だった」と言っていたので、ワールドカップ期間中に少しずつファンが増えていってくれたと思います。

ただ、まだブームだと思うので、この盛り上がりをずっと続けていくためには、トップリーグやスーパーラグビーが凄く重要になってくると思っています。

—— サンゴリアスに帰って来て、チームの雰囲気はどうですか?

今日(10月26日)、久しぶりにクラブハウスに来たので、まだ雰囲気を体感してはいないんですが、良い雰囲気という話は聞いています。

—— サンゴリアスでのキャプテンは4年目となりますが、キャプテンをやっていく上で、今回のワールドカップの経験はどう活かせそうですか?

これまでと同じく1試合1試合を大切にしていくことが重要だと思います。更に改善出来る部分としては、準備のところで、日本代表での経験が取り入れられると思っています。例えば、遠征の時にどういう準備やルーティーンで臨まなければいけないのか、というところを大事にしていきたいと思います。

あと私の場合は、もともとキャプテンシーがないので(笑)、これからもグラウンドの中でしっかりとプレーで示せるようにしていきたいと思います。

—— 昨シーズンと比べて、レベルアップしている部分はどこですか?

昨シーズンよりも体重が6kg増えていて、スクラムとラインアウトリフトでの安定には自信を持っているので、そこはレベルアップしていると思います。あとペネトレーターとしても、外国人選手に対して怖いという気持ちが全くなくなったので、自信を持つことが出来ました。

◆熱を持っているスポーツ

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—— 今シーズンはチームとして、どうトップリーグを戦っていきますか?

ワールドカップメンバーがチームを離れている中、大志(村田)が半年以上チームを引っ張ってくれて、それでチームが良い方向に進んでいるので、これは本当に若手選手の力だと思います。そのチームに我々のような代表として経験ある選手がエッセンスを加えて、良いバランスのチームを作り戦っていければと思っています。

—— 今シーズンの目標は?

もちろん2冠獲得ですが、まずはしっかりとトップリーグで優勝することを考えて、トップリーグで優勝してから日本選手権のことを考えたいと思います。

—— 日本代表として戦った他の選手も各チームに戻り、そういう選手たちとも戦うことになりますね

1人1人がしっかりと自分の役割を理解し、チームに落とし込んでいると思うので、どのチームもレベルアップしていると思います。その中でサントリーも若手が自立して成長していると聞いているので、チャンスはあると思っています。

—— 改めて、ラグビーの面白さはどこだと思いますか?

ハードワークしてきた結果、南アフリカのような強豪チームに勝つと、これまで辛かったことを忘れてしまうくらい嬉しいんです。そして一緒にハードワークしてきた仲間との強い絆が出来ます。だから、ラグビーって良いですよね(笑)。

あと、人に感動してもらえるスポーツを行うことが出来ているということに嬉しさを感じています。録画した南アフリカ戦を繰り返し見ても泣きそうになると言ってくれる人もいるので、それだけ感動してもらえる熱を持っているスポーツがラグビーだと思います。

—— ラグビーを見る人が増えていると思いますが、どういうポイントを見ればより楽しめますか?

サントリーのスタイルはアタックなので、ボールを持ったらどんどん前に攻めていき、アグレッシブにボールを動かすところを見てもらいたいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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