SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2014年12月31日

#410 フーリー デュプレア 『絵として捉え自分の能力や経験を信用する』

ワールドカップ優勝チームのスクラムハーフとしてサントリーへやってきてから早4年。サンゴリアスはもとより日本のラグビー界に残したものは大きい。自ら「それほど長いものではない」と言う現役としてのプレー、そして将来の楽しみについて語ってもらいました。(取材日:2014年12月16日)

◆勝てるチャンスはあった

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—— 今の状態は?

怪我から約6ヶ月間の長いリハビリを行ってきて、出来る限り早く戻って、サントリーでプレー出来ることを楽しみにしています。僕が出場したら、最初はスローに感じるかもしれないので、ファンの方には我慢強く見てもらえればと思います(笑)。出来る限り良いコンディションで、可能な限り早く戻れるようにしたいと思います。

—— これだけチームを離れることは初めてですか?

自分のキャリアの中で2回目です。2010年の時に肩の手術をして、その時は8ヶ月間プレー出来ませんでした。人生の中では、今回と合わせて2回目なので、まだ良い方だと思います。

—— ラグビーに飢えていますか?

長い期間ラグビーが出来ないということは、とても悲しいことですが、今はもう早く戻るということだけに集中して、一生懸命トレーニングをしています。チームに戻る時には、ベストのコンディションにして、チームにいる間は、ラグビーに集中してやりたいと思います。

—— これまで多くの勝ち負けを経験してきて、昨シーズン負けた悔しさはどれくらいのものですか?

僕がサントリーに来て、プレーオフで負けたことが初めてだったので、本当に悔しかったです。チームとしてもたくさんのチャレンジをしてきた中で、パナソニックはすごく良いラグビーをしていましたが、勝てるチャンスはあったと思います。 もちろん毎試合勝たなければいけない中で、負けてしまうこともあります。自分たちの良いラグビーを継続して、勝ち続けることが、今シーズンのタイトル奪取に繋がると思います。

—— 勝てるチャンスを試合の中で掴むポイントは何ですか?

そのポイントは毎試合違っていて、サントリーとしては自分たちの良いリズムを作ってプレーしていくことが大事です。特に大きな試合であれば、経験ある選手が前に立って引っ張っていくべきだと思います。だから、経験ある選手がパニックにならずにチームを引っ張っていき、最終的にはみんなが冷静になって自分たちの信じたプレーをするということです。自分たちがやってきたシステムを信じてプレーしていくことが出来れば、95%以上は勝てると思います。

—— デュプレア選手がパニックになることはあるんですか?

ラッキーなことにそんなにパニックにはなりません。ラグビーを始めた頃から、ラグビーをする時には冷静にプレーしています。チームに戻ったら、長くプレーをしてこなかったので、ストレスを感じながらプレーしてしまうかもしれません。それは選手によって違う所だと思いますし、僕の場合は比較的落ち着いてプレー出来る方だと思います。

◆浮かんできたイメージでプレーしていく

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—— 冷静さと勝ちたいという気持ちのバランスはどうやって保っているんですか?

頭の中をクリアにして考えることが出来れば良いと思います。そこが難しい部分でもあると思います。

—— 頭の中をクリアにするポイントは?

自分がプレーしたいという状況が浮かんできます。どこが自分の働くべきエリアなのか、チームにとってどう働いた方が良いのかが、絵として捉えられます。あとは自分の能力や経験を信用するだけだと思います。

—— 思い描く絵は、第3者の目から見たような絵ですか?

自分の中のイメージとして浮かんできているだけなので、上手く細かな説明は出来ませんが、浮かんできたイメージで、どういう流れや役割でプレーをしていくかということだけを考えるようにしています。

もう13年くらいプロフェッショナルとしてラグビーをやっていて、サントリーでも3年くらいプレーしていますが、これまでの経験から良いイメージが頭の中に焼きついています。経験をして、そこで見たものは、相手によって変わりますが、その動きが全部頭の中に入っています。

—— 多くの選手にデュプレア選手のことを聞くんですが、「デュプレア選手はグラウンド全体が見えている」と言います

それもチームの中でのバランスだと思います。3つ4つのプレーの中で、全体的な絵を見るようにしています。そして、その中で各自の役割が明確に見えています。

—— それはスクラムハーフというポジションだからですか?

僕としては自然とそういう見方をしていると思います。確かに9番や10番、15番は、試合をコントロールしなければいけないので、全体を見なければいけないポジションだと思います。例えば、フッカーやプロップ、ロックのポジションの選手が、いつもスペースを見ていてはいけませんし、彼らには彼らの仕事があります。

—— 自分たちのリズムでラグビーをするということは、スクラムハーフとして気をつけている部分ですか?

フォワードとバックスの間に入ってリンクするということに気をつけています。フォワードが前に行かなければ、バックスとして良いボールをもらっても意味がなくなってしまいます。だから、フォワードが前に出ることが大事です。その中でフォワードとバックスとのバランスを考えなければいけない大事なポジションにいると思っています。

◆4つのオプション

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—— スクラムハーフはプレーの選択肢が多いポジションだと思いますが、まずはパスをする時には何に気をつけているんですか?

まずはそのパスが正しいかどうかの判断です。すぐに10番にパスをした方がいいのか、少しでも走った方が良いのかという判断です。4つのオプションがあって、自分が走るのか、フォワードにパスするのか、10番にパスするのか、そして一度走ってからパスをするのかというオプションがある中で、そこをいつも考えています。パス自体を考えている訳ではなくて、どういう判断をするかを考えているということです。

—— その判断をするタイミングは、ボールを持った瞬間ですか?

ボールを持った瞬間に、どのオプションを選択するのか判断することを、いつもトレーニングしています。

—— パスをする時に、相手がどういう選手かを意識しますか?

それも判断に影響します。だから10番やフォワードとの良いコミュニケーションが大事になります。それに受け手によっては、パスの投げ方も気にします。 ディフェンスがとても良くて、違うオプションで投げてしまうこともあります。その中でもボールをキープしながら前に進んでいくことが出来れば、絶対にチャンスは来ます。

◆3、4種類のキック

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—— 次に、蹴る時には何に気をつけていますか?

2つあって、1つはラインアウトなどのセットプレーからのキックで、そのキックは比較的簡単です。もう1つはオープンプレーでのキックです。オープンプレーでのキックは、プレッシャーから逃れるために蹴るのか、それともアタックとしてのキックなのかに分かれます。比較的自由にプレー出来るオプションの時には、そういうキックが含まれてきます。

—— シチュエーションによって、蹴り方も違いますか?

3、4種類のキックがあります。

—— 自分でボールを持って走る時には、何に気をつけますか?

僕はスペースが空いている時にしか走りませんし、自分の中でそれがベストなオプションだと感じる時に走ります。

—— 試合中はベストの選択をしていると思っていても、映像などで振り返った時に違っていたと思うことはありますか?

それはプレー中にベストかどうかが分かります。例えば、走った時にダメだったら、その場でダメと分かりますよね(笑)。良い判断か、悪い判断かは、試合中に分かります。試合が終わった後、良かったか悪かったかは、コーチと話をします。

—— 良い判断ばかり出来る時はあるんですか?

あります。それが一番やりたいことです(笑)。どのくらいの割合で出来ているかは分かりませんが、全てが良い判断になるようにしたいですね。もちろん僕が良い判断をしなければいけませんが、フォワードも良いラインを走らなければいけませんし、バックスも良いコミュニケーションを取らなければいけないので、そこが一番大事なことだと思います。

◆どの試合でも同じ準備をして自分のことに集中

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—— ディフェンスをしている時は、良いポジショニングをしていると感じますが、良いポジショニングをするためには経験が必要になりますか?

時々ですよ(笑)。ディフェンスの時にはシステムがあるので、そのシステムに沿ったプレーをしなければいけなくて、その中で自分の役割を果たさなければいけません。ディフェンスの時も、もちろん良い判断をしなければいけません。

—— ディフェンスの時も絵を思い描くんですか?

少しですね。あまりタックルは好きじゃないんですが(笑)、しなければいけないのでタックルもしています。

—— 良いプレーをするために良い準備をしていると思いますが、試合に向けた1週間の中で、何を一番大切にしているんですか?

どの試合でも同じ準備をしていきます。自分がやることよりも、相手にフォーカスしてしまいがちなんですが、僕の中で大事なことは1つか2つだけです。相手の情報は頭の隅に入れておくだけで、あとは自分のことに集中しています。それを続けることで、良いパフォーマンスを継続して出していけると思っています。

大事なことは戦術の部分になるので、あまり具体的には言いませんが、例えば、相手チームのウイングが前に出てくるチームであれば、キックを使えばアタックしやすくなるとか、前に出てディフェンスをするチームであれば、フォワードに早めにパスを出すとか、毎試合違ってきます。サントリーのスタイルは変わらないので、そういう情報を1つか2つ頭の中に入れておくだけで大丈夫です。毎週毎週85%以上は同じことを続けています。

◆一度ベースに戻る

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—— 頭の中に入れていた情報と相手が違うことをやってきた時にはすぐ分かりますか?

そのために、頭に入れておく情報を1つか2つにしておくんです。相手の情報をたくさん準備してしまうと、そこだけにフォーカスしてしまいますし、相手が違うことをやってきた時に、元に戻すのに時間がかかってしまいます。だから情報を1つか2つだけにしておいた方が、他に何かあった時にしっかりと対応出来るというのが、僕の考え方です。

—— チームメイトがいつもと違う状態の時にもすぐに気づきますか?

簡単なミスをしてしまうとか、そういうことがあれば気づきます。そういう状態の時には、みんなを集めて冷静になるようにとアドバイスしています。そのような状態の時には、難しいことをしないで基本的なプレーを選択するように心がけます。一度ベーシックな部分に持って行ってからやり直すようにして、そこからリズムを作るようにします。試合の中でもそうですが、1週間の準備の中でも同じことですし、大きく言えば、シーズンでも同じことです。

今シーズンはチームとしてなかなか上手くいかないことがたくさんありました。そういう状態の時には、一度ベースに戻ることを考えます。そして、そこからリズムを作っていき、リズムが出てくると自信に繋がり、パフォーマンスが良くなっていきます。今のサントリーは、まだそのプロセスの途中だと思います。

◆お互いがサポートし合っていく

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—— セカンドステージ第3節の東芝戦は良い内容で勝ちましたね

とても良い試合だったと思います。あの勢いのまま、上に行けることを願っています。あの東芝戦が今シーズン1番のパフォーマンスでしたが、ここから更に上がっていくことが大事だと思います。

—— チームを1つにするために取り組んでいることは何ですか?

みんなが同じ考えを持たなければいけないと思いますし、ポジティブなやり方で同じ考えを持たせなければいけません。例えば、試合の中である選手が悪いプレーをしてしまった時やチャンスを得られず試合に出られない選手がいたとしたら、そういう選手をみんなでサポートしていくんです。1つのことに向かって、お互いがサポートし合っていくことが大事だと思います。悩んでいる選手がいたとしたら、サポートしていけるよう心掛けています。

—— 日本人選手と外国人選手では使う言葉が違いますが、日本人選手ともコミュニケーションは問題ありませんか?

最初はとても難しかったですね。サントリーで長い時間が経ったので、もう問題ありません。

—— 日本の文化は合っていますか?

僕は日本での生活をとても楽しんでいますし、南アフリカの多くの選手は日本の文化を楽しんでいます。僕がサントリーに来た時は、南アフリカの選手は日本に3人くらいしかいませんでしたが、現在では20人くらいに増えています。それは南アフリカの選手にとって、日本が合っているということだと思います。

—— デュプレア選手が南アフリカの選手に日本の良さを伝えてくれているんじゃないですか?

そうですね(笑)。確かに日本の良さを伝えています。

—— 今シーズンから南アフリカ代表のスカルク・バーガー選手がサントリーに入りましたが、バーガー選手とサントリーのラグビーについて話をし りするんですか?

スカルクとは何でも話しますね。

◆将来の楽しみ

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—— 将来はどういうことをやりたいと考えていますか?

何年後かは分かりませんが、南アフリカでコーチとしてラグビーに携わりたいと考えています。どうなるか分かりませんが、やってみるしかないと思っています。例えば、スーパーラグビーのレベルで言えば、ブルズなどでコーチが出来ればいいなと思っています。その後は、若い選手の育成などに携われればと思っています。

—— バーガー選手に聞きましたが、デュプレア選手の子供も同じ"フーリー・デュプレア"なんですか?

そうです。南アフリカでは、全員ではないですが、自分と同じ名前を子供につける文化があります。

—— 自分の子供にはラグビー選手になって欲しいですか?

僕としては好きなことをやって欲しいと思っています。

—— この後、まったく違うことにチャレンジする可能性もあるんですか?

コーチはやると思いますが、トップレベルのコーチは長くても3年くらいだと思います。その後はまだ分かりませんが、他のビジネスをするかもしれません。

—— ラグビー以外のビジネスには昔から興味を持っているんですか?

家族の中で色々なビジネスをしている人がいるので、その影響もあると思います。最初はあまり興味がなかったんですが、ラグビーをプロフェッショナルとしてやるようになって、興味を持つようになりました。

—— ラグビーに関わる組織のマネジメントなどには興味はありますか?

チャンスはあると思います。まだ選手としての可能性があるので、将来の楽しみにしておきます。

—— ビジネスをしている姿は絵として思い描けていますか?

9時から17時の普通の仕事は僕には出来ないと思っているので、自分のために何か出来る仕事を探したいと思っています。自分のペースで出来る仕事が良いですね。

◆楽しいからプレー

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—— デュプレア選手にとってラグビーとは、改めて何ですか?

僕としては人生の全てがラグビーとは思っていなくて、楽しいからプレーをしているんです。これまで幸運なことに良いチームとめぐり合うことが出来て、代表でもプレーすることが出来ています。僕の中では家族が全てです。僕にとってラグビーは、チームメイトと1つのことを成し遂げるためにチャレンジすることです。メンタルでもフィジカルでも自分にチャレンジ出来ることだと思っています。

—— 2015年のワールドカップはターゲットにしていますか?

良いコンディションに戻ることが出来たら、ターゲットに出来ると思います。

—— 今シーズンのこの後のサントリーの状態はどうなっていくと思いますか?

東芝戦では良いパフォーマンスを出すことが出来たと思うので、選手も自分たちがトロフィーを獲れるだけのチームであるということを理解出来たと思います。やっと1つの方向に向いてきたと思うので、ここから前に進んでいくことが大事です。このまま同じ方向を向いて進んでいければ、チャンスがあると思います。

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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