SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2014年8月13日

#390 青木 佑輔 『1年間通してやり続けること』

寡黙なラガーマンでありながら、話し始めると饒舌な青年に変身する青木佑輔選手。今回もラグビーに懸ける想いを、いろいろな角度から語ってくれました。

◆凄く力が入るようになってきた

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—— 今シーズンで9年目となりますが、これまでを振り返ってみてどうですか?

毎年、新しい取り組みをしているんですが、今年はジャパンの合宿も途中で離脱してしまったので、コンディショニングを上げることがポイントだと思って取り組みました。そのお陰で、良い春シーズンを過ごせたと思います。

—— 今シーズン、新たに取り組んでいることは何ですか?

まずは首の強化と背中の筋力を上げること、そしてフットワーク強化に取り組んでいます。首と背中が連動して動かせなければ意味がないので、若井さん(S&Cコーチ)や俊さん(西原俊一/S&Cコーチ)にトレーニングを組んでもらって、結果に表れていると感じています。

首の力だけに頼らず、首と背中が連動することを意識して取り組んでいます。首だけをトレーニングすることも必要だと思いますが、肩甲骨を揺らしたまま首のトレーニングをしたり、肩甲骨を揺らすために背中のトレーニングをしたりしています。

—— フットワークに関しては?

昨シーズンも取り組んでいましたが、ボッシュさん(スティーブ・ボーズウィック/日本代表FWコーチ)のランニングのトレーニングを意識して、新田さん(S&Cコーチ)に指導してもらいながら取り組んでいます。走るタイムも良い数字を出せていますし、フィットネステストでも良い数字が出せているので、良くなっていると思います。瞬間的にスピードを上げる力が必要だと思っていたので、効果的にトレーニングが出来ていると思います。

—— 今までとは違うところが鍛えられているという感覚ですか?

そういう感覚がありますし、凄く力が入るようになってきたと思います。

—— 春シーズンに取り組んだトレーニングは、具体的にどういうプレーに活きてきますか?

首と背中はスクラムに良い影響があると思いますし、怪我の予防にもなると思います。そして、フットワークはフィールドプレーに繋がると思います。フィットネスや10m走のテストではその結果が出ています。

◆100%の力が出せるようなセットアップ

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—— 昨シーズンはどういうことに取り組んだんですか?

昨シーズンは春から日本代表に参加していたので、代表の課題にチャレンジするということをメインに取り組んでいました。特にスクラムに重点を置いていたので、しっかりと学ぶことを心掛けていました。

—— スクラムに関して、昨シーズンで得たものは何ですか?

膝をしっかりと落とすとか、セットアップで得るものがあったと思います。良いスクラムを組むには、良いセットアップが必要なので、セットアップはかなり意識して取り組みましたね。前3人や後ろの5人が、違和感がないようなセットアップをして、組んだ後に100%の力が出せるようなセットアップを心掛けました。

今までは細かく習ったことがなかったんですが、昨シーズンの日本代表の春シーズンで、1つ1つ細かな部分を習って、ハタケ(畠山)とも細かなコミュニケーションを取って取り組みました。日本代表で他のチームの選手と触れ合ってみて、他のチームの選手の方が凄く考えて取り組んでいると感じたりもしましたね。

—— スクラムのセットアップで、具体的に細かな部分とはどういうことですか?

1番と2番の肩の位置や2番と3番の肩の位置、ロックとプロップのバインドの仕方、あとは足幅であったり、足をどこにセットするかなどの部分です。

—— 理想の形があるんですか?

それはあると思います。相手との距離は10cm~20cm位しかありませんが、そのヒットした距離で、自分の体が強い位置まで整えることが出来るかどうかなんです。相手とぶつかった瞬間に、自分が最高のポジションを取るためのセットアップです。1人だけではダメで、8人全員が最高の準備をして、当たった瞬間から力強く押し込めるかどうかです。そのためのセットアップです。

—— 色々な1番や3番の選手がいると思いますが、それぞれで違いはありますか?

違いますね。その人の体格もあると思いますが、これまでやってきた感覚の部分もあると思います。サントリーでも、健雄(金井)と組んだ時と慎太郎(石原)と組んだ時には、やはり違っていて、慎太郎は、昨シーズンは1年目で、これまで大学でやってきたスタイルと、サントリーでのスタイルが違っていて、悩んだ時期もあったと思います。

◆首と背中も今の方が強い

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—— ちなみに、2年前はどうでしたか?

2年前は日本代表に選ばれていなくて、体を大きくしなければいけないと思っていました。ただ、体は大きくなったんですが、あまり走れなかったんです。筋肉が伴っていなかったと思います。

—— その前のシーズンから比べて、どのくらい体を大きくしたんですか?

シーズン終わりから比べて3~4kgくらい大きくなっていたと思います。体重が増えた分、筋量も増えていたと思いますが、脂肪も増えていましたね。ただ体を大きくしただけで、フィットネスも上がらず、自分としても嫌でしたね。

—— その時と比べて、今の状態は?

体重はその当時の方が重かったと思いますが、筋力は今の方が強いと思いますし、首と背中のこだわっている部分も、今の方が強いと思います。それに加えて、フィットネスも上がっています。

自分の中でベストの体重があって、一気に体重を上げてもダメだと思います。フィットネスをやりながら体重を上げていかなければ、走れなくなりますね。その反省を活かして、今シーズンは上手くいっていると思います。

夏の暑い時期だと、自然と体重が減ってしまうので、食事とトレーニング量を気にしながら、開幕までにもう少し体重を増やしていきたいと思っています。1回の食事で食べられる量には限界があるので、練習前にしっかり食べたり、間食を多くしたりしてコントロールするようにしています。

—— また日本代表に復帰できそうですか?

それは分かりませんが、自分の中ですぐに日本代表に呼ばれたいという想いは特にありませんが、2年前に一気に体重を増やして失敗した経験があるので、今シーズンはその経験が活きていると思っています。

—— 日本代表も進化していますか?

サントリーとは別に、新しい考えのコーチが日本代表にいて、凄く勉強になりますし、昨シーズンにはスクラムの考えも変わりました。

◆メンタルで負けないこと

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—— ラインアウトについてはどうですか?

今シーズンから新しいコーチが来て、投げ方を変えたんです。今までは足を上下にずらして投げていましたが、今は両足を揃えて投げています。片足だけを前に出していると、体が前に突っ込み過ぎてしまい、投げたボールが低くなってしまう時があったんです。だから、両足でしっかりと立って、その場でしっかりと投げることを意識しています。

—— どうして突っ込み過ぎるんですか?

足を上下に開いて、体をしならせて投げていたんですが、疲れてくるとしならせた反動で前に突っ込んでしまっていて、そこを新しいコーチに指摘されたので、新たに投げ方も変えたんです。

—— 投げ方を変えてみてどうですか?

思ったよりは悪くなかったんですが、これまでは体全体で投げていたのが、今は背筋と腕の力で投げているので、まだコントロールすることが難しいですね。

—— ラインアウトについては、昨シーズンの出来はどうでしたか?

悪くはなかったと思いますが、1試合平均して、成功率は90%を下回るくらいだったと思います。それを今シーズンは95%くらいを狙っていて、そのために投げ方を改善しました。あと、ロブボール(山なりのボール)があまり上手くなかったですし、ラインアウトのオプションがあまり多くありませんでした。そこを改善する意味も含めて、投げ方を変えました。

—— ラインアウトのスローのコツは?

メンタルで負けないことだと思います。メンタルで負けてしまうと投げられなくなります(笑)。例えば、風が吹いていることを気にし過ぎてしまったり、そのサインは投げたくないなと少しでも思ってしまったら、マイナスのことばかり考えてしまうので、いつも通りにセットして、いつも通りに投げることが大切です。

—— メンタルでそういう状況に陥る時は、どういう状況の時ですか?

連続でミスやサインミスが続いた時ですね。僕が投げたボールのミスであれば、自分のせいだから直していこうと思えるんですが、サインミスとか僕以外のところでミスが続いてしまうと、心配で投げられなくなってしまうんです。

逆に調子が良い時は、なんでも上手くいって、周りが凄く見えるようになりますね。リフターの寄りが悪いからジャンパーがいつもより上がらなそうと思って、少し手加減して投げたりすると、ちょうど取ってくれたりしますね。

◆試合に入り込み過ぎないように

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—— 常に調子が良い状態にするための手段などはありますか?

試合前の1週間の練習で、上手くいっていれば、あまり練習をしないようにしています。ただ、練習中にミスをしたら、その不安がなくなるまで練習しますね。練習の中で毎日投げているんですが、シーズンが始まれば毎週試合があるので、1週間前の練習から試合に入り込み過ぎないようにはしています。試合に入り込み過ぎちゃうとミスした時に修正できなくなってしまうので、試合まで数日ある時には、リラックスすることを心掛けています。

—— 初めてスロワーを任された時などは、猛練習したりしたんですか?

猛練習をしましたね。大学の時には全体練習の前に1時間1人で投げて、練習が終わった後にも1時間投げていました。それを4年間続けましたね。

いま振り返ると、大学時代は入り込み過ぎていましたね(笑)。良い時も悪い時もやらなきゃと思っていましたし、「あの的に3回連続当たらなければ、今週の試合に負ける」とか、勝手に変なことを考えてやっていましたね。

その他に、遊んじゃいけないとか、寮から出たら学校かグラウンドにしか行っちゃいけないとか、自分の中で勝手にそういうものだと思い込んで、取り組んでいました(笑)。大学に入ってから、ラグビーに憑りつかれていたというか、これをしなければいけないという思い込みが激しかったですね。

—— それが今の土台になっているんですよね

土台になっていると思いますし、大学時代にやっていたことが無駄だとは思っていません。大学時代には良い経験をすることが出来ました。ただし、サントリーに入ってからの方が効率よく練習が出来ていますし、オンとオフの切り替えが上手く出来ていると思います。

それと、ラグビーが楽しいですし、チームメイトもサントリーに入ってから好きになりましたね。大学の時は、一部の選手としか交流をしませんでしたし、試合に勝てばいいという感覚で取り組んでしたんです。

◆ラグビーを教えたい

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—— サントリーに入った当初は社員で、仕事をしながらラグビーをしていましたよね

人と接するのが楽しかったですね。スーパーマーケットを担当していて、販売をしてくれる人と仲良くなって、話をしていることが気分転換になったりしていましたね。

—— プロになったのは何年目ですか?

4年目からプロになりました。プロとして6年目ですね。

—— プロになろうと思ったのはなぜですか?

もともとは教師になることが夢だったんですが、大学に入学する時にはユースの代表などに呼ばれていて、入学式にも出られず、受ける授業の科目登録なども出来なかったんです。それにラグビーのことばかり考えていて、教員になるために必要な授業を受けていなかったんです。

その後、社会人になって、社会人2年目から日本代表に呼んでもらえるようになりましたし、サントリーや日本代表でラグビークリニックをやってみて、人に教えることが楽しかったんです。そういうことをしていると、ずっとラグビーに携わっていきたいという気持ちが出てきましたし、教師としてラグビーを教えたいという気持ちが強くなっていきました。

ちょうどその時にプロになるチャンスがあって、プロになって教員資格を取ろうと思いました。現時点では、取れる限りの授業の単位は取ったんですが、練習があって遅い時間帯の授業には出席できないので、まだ教員資格は取れていません。ラグビーを辞めた時に、まだ教師になりたいという気持ちが残っていれば、教員資格を取ろうと思います。

現時点では、僕の中では絶対に教師としてラグビーを教えたいというわけではなくて、ラグビーを教える仕事か、ラグビーに携わった仕事を続けられればいいと思っています。あと、ラグビーの普及もしてみたいと思っています。

◆ブレことが大事

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—— チームが若返っていますが、自分自身がベテランという感覚はありますか?

ベテランという感覚はないですね。それなりに色々と経験もしてきたので、若い頃みたいに真っ直ぐになりすぎることはなくなったと思いますし、後輩たちにアドバイスも出来るようになりました。昔から気持ちが変わらないと言えば嘘になりますけど、ベテランという感覚ではないですね。

—— 後輩たちにアドバイスをしていて、成果が出てきていますか?

スクラムで、こうして欲しいという要望を出して、それで上手くスクラムが組めた時は嬉しいですね。それに後輩にアドバイスをして、そのアドバイスを理解して、プレーに表れていた時も嬉しくなります。

—— 今シーズンの目標は?

毎年、成長したいという気持ちはあるんですが、何かしら変えていかなければいけない部分があって、今シーズンに関しては、ラインアウトの投げ方と首と背中を連動させたトレーニング、そしてフットワークに力を入れて取り組んでいるので、そういう部分を試合で発揮したいですね。

—— まだまで成長途中ですか?

先ほども言いましたが、ベテランという感覚がなくて、まだまだ学びたいことが多いですね。

—— 勝てない時期と勝った時期のどちらも知っていて、今シーズンまた勝つためには何が必要だと思いますか?

昨シーズン負けたことを1人1人が忘れずに、何をやらなければいけないかということを春のミーティングで話しているので、そこで出たことをしっかりと1年間通してやり続けることだと思います。ブレないことが大事です。

昨シーズン負けたことで、それぞれが反省をしてミーティングをしているので、その反省を忘れず、今シーズンにかける意気込みなどが口だけにならず、やり続けなければいけないと思います。個人としてはチームの信頼を勝ち取って試合に出て、責任を果たしていくだけです。ファンの人たちが試合を見ていて、サントリーは負けないだろうと思ってもらえるようになりたいですね。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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