SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2014年8月 6日

#389 有賀 剛 『根本としてラグビーを楽しむことが大事』

キャプテンは代われどもバイスキャプテンは代わらず、6年もの間バイスキャプテンを務めた有賀剛選手。初めて聞く意外な趣味も含めて、9シーズン目に向けて考えていること、感じていること、そして目標を訊きました。

◆趣味が“人間ウォッチング”

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—— バイスキャプテンを6年務めましたね

今シーズンからはバイスキャプテンは若いメンバーから選ばれると思います。各パートでのリーダーとしてシニアメンバーの中から何人か選ばれるかもしれませんが、キャプテンやバイスキャプテンは若いメンバーがやった方が良いと思います。

—— それはなぜでしょう?

若い選手がリーダーを経験しないと、先がないと思います。まあ、ベテラン選手は経験もありますし、チームがやろうとしていることをスムーズにチームに落とし込めますが、若い選手が引っ張って、ベテランがそれについていく形が良いと思っています。

—— 有賀選手はキャプテンを任されるようなタイプに見えますが、キャプテンではなくバイスキャプテンを6年やってみてどうですか?

趣味が“人間ウォッチング”なだけに、色んなことが見えやすいんですよ。キャプテンはチームを引っ張っていく役割があると思いますが、僕はバイスキャプテンのようにバランスを取っていく方が合っているのかなと思います。

—— では、バイスキャプテンは適役だったんですね

自分では適役だったかは分かりませんが、勝ったり負けたりしていましたからね。バイスキャプテンとして、スタッフと同じ方向を進んでいけるように、マネジメントするよう心がけていました。

—— 勝っている時は、マネジメントに手がかからないものですか?

そうですね。負けると色々な意見が出て、試合に出ていたメンバーからも色々な意見が出てくるので、ブレやすくなったりしますよね。

—— チームがブレそうになった時にはどうするんですか?

バックスのことについては色々と聞くことは出来ますが、フォワードのことになると僕が意見を聞いても出来るようなことではないので、勝てない時にはチームとしてなかなか上手く回らないですね。

◆やるべきことを徹底して行い勝ちに繋がっていた

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—— 勝っている時と負けている時で、環境やモチベーションなどで違いはあるんですか?

追う立場と追われる立場では、気持ちの面で違いは出てくるかもしれません。昨シーズンに関しては、コーチから提案されたことに対して、それに取り組む選手のやる気が薄かったのかもしれません。

その原因は、僕らリーダーの責任でもありますし、チームの一体感というか、全体に落とし込むことが不足していたのかもしれません。これまではやるべきことを徹底して行い、それが勝ちに繋がっていたと思います。

—— 昨シーズンはその部分が出来ていなかったということですか?

チャンピオンになるとすべてを研究されて、研究された結果、相手チームがどういうことをしてくるかということは予測がつかない部分です。そこはマインドの戦いでもあると思うんですが、これまでは自分たちのスタイルをとことん貫けば勝てると思っていました。

そこが上手くいかなくなると、相手のことを気にし始めたり、アタッキングラグビーというスタイルの中でディフェンスの時間が長くなってしまったりします。乱されてしまうとコントロールが利かなくなってしまいますよね。そこがチャンピオンであり続ける難しさでもあると思います。

—— そうならないために自分たちが貫くべきことを刷新していかなければいけませんね

そういうことです。もちろん昨シーズンもやってきて、同じことをやっていたのでは勝てないですし、そのシーズン毎に重点を置く部分を変えてやってきたんですが、それ以上に周りのチームが研究して、サントリーを止めるためにトレーニングを積んできていたと感じていました。

—— 追われる立場よりも追う立場の方がやりやすいですか?

昨シーズンよりはやりやすくなると思います。新しいコーチも加わりましたし、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーは変わりませんが、トレーニングのやり方であったり、日常生活のリズムにも変化が生まれているので、選手としてはポジティブな印象を持っている選手が多いと思います。

昨シーズン負けたこともありますし、オンとオフをしっかりと使い分けられるようなチームにならなければいけないと思います。ずっとやり続けることによって、シーズンで一番パフォーマンスを上げなければいけない時に疲れていては意味がないと思うので、そういった反省を活かして、色々と変えているんだと思います。

◆勝つことを重ねていく

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—— 勝良い時はシーズン前に「勝てる」と感じるものですか?

シーズン前には感じません。シーズンは重ねていくものですし、シーズンの最初と最後では天候も違います。その中で出来ることも変わってくるので、シーズンの初めからファイナルで勝つとは思っていません。それよりもシーズン最初の試合で勝つとか、次の試合で勝つとか、勝つことを重ねていき、そして1stステージが終わったら、これまでとは違う乾燥した環境でどれだけ出来るのかを確認して、11月のウインドウマンスで再度チームを作り上げるという感じです。

—— このままでは危ないと感じるシーズンは、11月にチームを作り直して、シーズン終盤に臨んでいくわけですか?

危ないと感じる、感じないにかかわらず、最近は拮抗していますし、楽な試合なんてないので、11月には一度ブレイクを入れて、しっかりと作り直そうという考えがあります。

—— 昨シーズンから2ステージ制になりましたが、実際にやってみてどうでしたか?

リーグのやり方は良いと思いますが、プレーオフは4チームじゃなくて、チーム数を増やしても良いと思います。あと日本がスーパーラグビーに参戦するという話もあるので、来シーズンからは形が変わるかもしれませんね。来シーズンはワールドカップもあって、その後にリーグが開幕して、スーパーラグビーがあるとすると、凄く忙しくなると思いますよ。ただ、まだ日本が参戦することが決まったわけじゃないですし、どういう形で参戦するのかも決まっていないので、どうなるかは分かりませんけどね。

◆長所になる可能性を発見できたら

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—— 勝最初に「趣味が人間ウォッチング」と話していましたが、人のどういうところを見ているんですか?

大勢いる中で、周りをずっと見ていることが多くて、「この人にはこういう一面もあるのか」とかを見ていますね。外に食事に行っても、周りの他のお客さんを気にしていることが多くて、一緒に行った人から「何してんの?」って言われることがありますね(笑)。

—— 人間ウォッチングの面白いポイントは?

自分でもはっきりと何が面白いのか分からないんですが(笑)、知らなかったことを知ることが面白いんだと思います。もちろん見た目や第一印象も大事ですが、スポーツに関しては良い選手かどうかはすぐには判断できないと思います。

その選手を見ていく中で、一般的には良くないと思われていることが、もしかしたらその選手にとっては長所になる可能性もあると思います。そういうところを発見出来たら面白いですね。

具体的に言うと、一般的には「こういう走り方が良い」と言われていることがあったとしても、それは陸上や単純にスピードが必要な競技の走り方であって、もしかしたらラグビーではその選手の元々の走り方の方が、良いプレーを生む走り方かもしれないんです。

—— そういう感覚で周りの選手を見ていると、練習では良いプレーをしていたのに、試合になると力を発揮できない選手の原因などが分かったりするんですか?

原因までは分かりませんが、その部分を考えるようにしています。「どうすればパフォーマンスが良くなるのか」を考えることが大事だと思います。

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—— そういう考え方は指導者に向いているんじゃないですか?

向いているかは分かりませんが、指導をする際には重要なことだと思っています。はっきりとした良い悪いはあると思いますが、それ以外のところで自分の物差しだけで判断してはいけないと思っています。それは他の人に指導するだけじゃなくて、自分にも活かせると思っていますし、将来は指導者になりたいと思っているので、そういう部分は大事だと思います。

—— 人間ウォッチングが面白いと思ったのはいつ頃からですか?

高校や大学からだと思います。人間ウォッチングをするということは、逆に他の人の反応を気にしてしまうということだと思いますし、今でも結構気にしちゃいますね。

—— フルバックというポジションには合っているんじゃないですか?

確かにそうかもしれません。周りを見ることが大事なポジションですからね。

—— いつからフルバックでプレーしていますか?

高校2年の終わりからフルバックです。そういう性格だからフルバックになったのか、フルバックをやるようになってそういう性格になったのか、どちらが先だったかは分からないですけどね。

—— 周りで自分と同じように人間観察をしている人を見ると分かりますか?

いや、それは分からないですね。

◆小さい頃にラグビーをやって感じた気持ち

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—— 勝有賀選手の代はチームの中でも上から3番目くらいの年代になってきて、ベテランになったと感じますか?

そこに関しては、あまり感情は無いですよ。ベテランとかはあまり関係なくて、30歳を超えたという感じです。シニア選手も若手選手も競争心を持って取り組めば良いと思います。若手に席を譲ってはチームのためにはならないので、ポジションごとでしっかりと競争心を持って取り組み、その競争に勝った選手が試合に出ればいいという気持ちです。

—— 今シーズンはまたチャンピオンに返り咲けるのか、重要なシーズンになりますね

毎年チャンピオンを目指して取り組んでいるので、昨シーズン負けているから特に今シーズンは大事という感覚はないですね。確かに昨シーズンは負けていて、他のチームも強くなっていますが、特にパナソニックの強さが印象に残っているので、打倒パナソニックという気持ちはあります。

—— 今シーズンの目標は?

試合に出て優勝することと、あとは「ラグビーを楽しい」と思いながらやりたいと思っています。今までは厳しいトレーニングに取り組み、試合に勝つことを考えて自分のパフォーマンスを上げることだけを考えていましたが、これからはもっとラグビーを楽しみたいという気持ちが出てきましたね。勝つためにパフォーマンスを上げるという考えは自分の中で残っていますが、根本的には楽しくやりたいと思っています。

今までは毎日厳しいトレーニングを課されて、勝つことだけを考えてきて、その部分はあっても良いと思いますが、根本としてラグビーを楽しむことが大事なんじゃないかと思い始めました。小さい頃にラグビーをやって感じた気持ちを忘れかけていたと思います。

もちろん頑張って試合に勝たなければいけないと思いますが、例えば僕が試合のメンバーに選ばれても、メンバーに選ばれなかったとしても、ラグビーの根本である楽しむという部分を忘れずにやりたいと思っています。そして、自分が楽しむことで、周りに良い影響を与えられるようになっていきたいですね。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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