SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2013年7月31日

#340 有賀 剛 『結果は部内での競争があったから』

山下大悟、佐々木隆道、竹本隼太郎、真壁伸弥の4キャプテンをサポートして5年。今シーズンもバイスキャプテンとしてチームを支える有賀剛選手に、チームの強さや外国人選手がもたらしたもの、そして自分自身の今シーズンについて訊きました。

◆男を超えて侍の域に

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—— これまで5年に渡りバイスキャプテンをやってきましたが、1年毎に志は変わるんですか?

「よし、やるぞ!」という気持ちと、「若手選手にバイスキャプテンが務められるようになって欲しい」という気持ちがあります。年々、後者の気持ちの方が強くなってはいますね。

—— 昨シーズン前には「大久保監督を男にしたい」と言っていましたが、男にすることは出来ましたか?

男を超えて、侍の域に行ったと思います(笑)。全勝優勝でしたから、もう完全に武士になったと思いますよ。昨シーズンは、現状に満足せずハングリーに最後までチャレンジし続けた結果だと思います。ハングリーというテーマを掲げたのは、最初一昨年のシーズンに2冠を取り、現状に満足しそうになる気持ちを無くすために、コーチたちが考えてハングリーというテーマを掲げたんだと思います。

人によって色々なハングリーがあると思いますが、ここまでの結果を残すことが出来たのは、チーム内での競争があったからだと思います。優勝したとは言え、試合に出られない選手は、試合に出るためによりハングリーにならなければいけないですし、試合に出ている選手もポジションを奪われないためにハングリーに取り組んだと思います。

そういう環境があったからこそ、代わりに試合に出た選手も良い活躍をしたんだと思います。そして、代わりに出た選手が活躍したことによって、他の選手が刺激を受けて、更にハングリーになることが出来たと思います。

これまでは、試合に出ている選手と出ていない選手では、実力の差がはっきりしていた気がします。昨シーズンのように、公式戦に1試合も出場していなかった選手が試合に出て活躍したことは、チームにとっての底上げが出来たということだと思います。

—— 普段の練習によって、チームの底上げが出来たということですよね

チームとしての総合力が上がったのは、僕ら選手というよりは、コーチングの素晴らしさだと思います。コーチたちが選手の意識を植え付けて、しっかりとハードワークさせてくれました。僕ら選手よりもコーチたちがハードワークしてくれているので、今のチームがあるのはその賜物だと思います。

—— それぞれの選手の課題はシンプルなんですか?

チームのミーティングは短いですし、次にやるべきことのキーワードがいくつもある訳ではありません。今までやってきたことをベースとして、取り組むことは1つか2つくらいです。コーチたちがしっかりと考えて、重要なことを1つか2つに選択して、それを選手に伝えてくれます。

その伝えられたことを、僕らリーダー役の選手が、他の選手たちに言い続けて、試合に出ている出ていないに関わらず、選手全員が練習で実践できているかをチェックしています。

◆加えていかなければ勝てない

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—— バイスキャプテンとしてのコツはありますか?

コツは無いです。それにプロとか、ベテランとかも関係ないですね。僕の場合は、本当に好きにやらせてもらっています。キャプテンの足りない部分を補おうという想いはありますが、とにかくコーチ陣とたくさん話をして、考えを一緒にすることに取り組んでいます。

真壁ともミーティング前によく話をします。その話し合いでアドバイスして、ミーティングに臨むようにしています。ただ、直弥さん(大久保監督)も真壁に言葉でのリーダーシップは期待していませんし、練習で体を張って引っ張って行ってくれればいいと思います。

—— 大変なことはありますか?

若手も成長してきていますし、選手1人1人が自覚を持って取り組んでいて、みんながしっかりしているので、大変なことはないですね。

—— グラウンド以外の部分にも目を光らせているんですか?

僕らはグラウンドでの行動についてチェックをしています。グラウンド以外の事については、他のリーダーたちが率先して取り組んでくれています。

—— 今シーズン、バイスキャプテンとしての目標は?

昨シーズンは最高の結果を出しましたが、今ある物に何かを加えていかなければ、勝てないと思います。勝つことが当たり前と思わないようにしたいと思います。今の若手選手は勝つことしか知らないので、負けた時のことを考えると怖いと思います。

勝負事なので、色んな事があると思いますし、若手選手の中には「これをやれば勝てる」としか思っていない選手もいるかもしれません。僕らは勝てなかった時期も知っているので、そんなに甘いものじゃないと伝えていかなければいけないと思います。

—— 昨シーズンの練習試合やサテライトでは負けていましたよね?

そこで負けていたことが、逆に良かったのかもしれませんね。そういう試合で負けたからこそ、公式戦で負けなかったと思います。周りのチームはサントリーを倒そうと必死ですからね。

◆パスがもの凄く速い

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—— 8年目になりますが、今もっとも激しい練習をしているんですか?

年々、激しくなっていますね。先ほど、今ある物に何かを加えるという話をしましたが、コーチ陣も毎年同じことをやっている訳ではなくて、より高いレベルのものを取り入れてくれます。僕は「変わらない=衰退」と考えていて、他のチームも色々な取り組みをして成長していると思うので、自分たちも新しいことをどんどんやっていかなければ、他のチームに追いつかれてしまうと思います。

—— 新しいことを取り入れている中で成果が出ているということは、自信になりますよね?

まだ2シーズンだけなので、そういった意味で今シーズンは色々な意味で楽しみですね。開幕戦で勝つということは、スタードダッシュにも繋がるので、大事だと思います。昨シーズンで言えば、開幕戦は勝ちましたが、第2節の九州電力戦では負けそうになっているので、良い試合を続けることが出来なかったと思っています。

他には、第7節のパナソニック戦の後のサニックス戦でも、あまり良い試合とは言えない内容でした。他のチームはサントリーをターゲットにしてくると思うので、相手チームに関わらず良い試合が出来るような、落差を無くすチームにしていきたいと思います。

—— サントリーには素晴らしい外国人選手が入ってきますが、チームにどんな影響を与えていますか?

人間的に素晴らしい外国人選手が入る文化を、チームが作ってくれているんだと思います。チームの文化に溶け込んでくれる外国人選手が入ってきますし、周りの選手に指導もしてくれます。チームに与える影響が大きい選手ばかりだと思います。

—— 有賀選手にとって参考になった外国人選手はいますか?

みんな参考になりますが、一番好きなのはフーリー(デュプレア)ですね。フーリーは天才肌の選手で、言うことやプレーを見ていて、本当に凄いなと思います。具体的には、受け取ってみると分かりますが、パスがもの凄く速いんですよ。たぶん練習だけのものではなくて、才能だと思います。

ジョージ・スミスは目立ちますし、良く取り上げられていると思いますが、僕の中では、これまでに出会った外国人選手の中で、フーリーが一番ですね。2007年のワールドカップでは優勝した南アフリカの9番でしたし、世界一のスクラムハーフとも言われていましたからね。それでいて、もの凄く謙虚なんです。

◆リーダーが大事ということ

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—— 同じスクラムハーフのジョージ・グレーガン選手と比べて、フーリー・デュプレア選手はどうですか?

2人とも知的ではあるんですが、種類が違うと思います。グレーガンはもの凄く努力をした人で、高校生や大学生に教えるのであれば、グレーガンの方が向いていて、フーリーはある程度のレベルの人を教える方が合っていると思います。2人ともファンダメンタル(基礎)を大事にしているんですが、グレーガンの方がより大事にしていると感じますね。

フーリーは、ラグビーをよく知っていて、僕らが練習中や試合中に話を聞いていて、なるほどと感じることを言ってくれます。今考えると、グレーガンとフーリーが所属したサントリーは凄いですよね(笑)。

—— 以前、ファンクラブの会報誌のインタビューで小野晃征選手が、フーリー・デュプレア選手は試合中にラグビーを教えてくれると言っていました

フーリーは凄く頭が良くて、試合を見る目が凄いんです。フーリーは20分くらい試合をしたら、相手が何をしたいのか分かって、サントリーがどういう攻めをすれば効果的か分かるんだと思います。ラグビーでリーダーが大事ということは、そういうところからきているんだと思います。試合を読んで、何をしなければいけないのかを瞬時に判断出来て、それをみんなに伝えて、意思統一して出来るチームが強いチームだと思います。

—— 有賀選手の試合を読む力はどうですか?

僕はまだまだフーリーから勉強をさせてもらっている段階です。

—— ファンの皆さんにはフーリー・デュプレア選手に注目してもらいたいですね

どうしてもプレーが目立つのはジョージ・スミスなんですが、僕の感覚としては、フーリーが本当に凄いんです。見ている人にとっては、スクラムハーフのパスは、どの選手も変わらないと思うかもしれませんが、そのパスを受け取ってみると違いが分かります。本当にフーリーのパスは凄いんです。

◆コンディションを整える

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—— 現在の状態はどうですか?

日本代表からは、他の選手よりも先に戻ってきてしまったので、春シーズンのうちにしっかりとコンディションを戻さなければいけないと思っています。

—— 今シーズンの課題は?

若いころと比べて、調子が良いという状態を長く続けることが難しくなってきていると思います。水泳の北島康介選手がオリンピックの予選会で素晴らしいタイムを出して日本代表に選ばれ、オリンピック3連覇するだろうと言われていましたが、実際にオリンピックでは個人としてはメダルを取れませんでした。その時に水泳の平井コーチ(伯幸)が「歳を取ると、調子のいい時期を持続させることが難しくなる」と話していました。

僕らは競泳選手ではないので、一発の力ではなくて、平均点を上げて、コンスタントにパフォーマンスを出していくしかないと思います。だからコンディション作りも難しくなってきますし、この春にしっかりとベースを作ることが大事だと思います。

—— 今シーズンの目標は何ですか?

試合に出続けて、コンスタントにパフォーマンスを発揮することです。そして、また日本代表に復帰することですね。昨シーズン、試合に出なかったのはウインドマンス明けの2試合だけで、ほぼ試合に出ることが出来ました。コンディションが良ければ、自然とパフォーマンスも上がってくると思うので、まずはコンディションを整えることが大事です。

—— コンディションを上げるために気をつけていることは何ですか?

今は体作りに取り組んでいて、色々な人の話を聞いて、その話をもとに色々なことを試している段階です。食事や生活については、当たり前のことなので、これまでと変わらずに気をつけています。

—— 若手選手に伝えていきたいことなどはありますか?

今は、「まだ負けませんよ」という気持ちの方が強いですね。僕らの年代がチームの主力となっているので、その間に若手に上手く伝えられて、タイミング良く世代交代が出来ればいいとは思いますね。

—— ファンの皆さんに、今シーズン見て欲しいポイントはどこですか?

僕のスパイクの色を見てください(笑)。ここではお伝えしませんので、ぜひ試合などでチェックしてみてください。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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