SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2006年5月 9日

#11 大久保 直弥 『やられる前に先に行く』- 2

◆ニュージーランドはタフ

—— 2003年にトップリーグがスタートしました

トップリーグは画期的ではあったんじゃないでしょうか。当時はレベルによっては100点近い差がつくゲームが、公式戦でありましたから、それをやる意味がどこにあるのかという疑問がありました。全体の活性化のためにも良かったんじゃないかと思います。

ただ長い目で見て、例えば10年、20年スパンで考えた時に、どういう理念を持って、これからラグビーをどうして行くのかを考えた時には、いまいちかも知れません。観客動員数も年々減ってきていますし、これは協会だけの問題ではなくて、プロ選手としてもやれることをやり、そしてチームとしても一体となって取り組まなければいけない課題だと思っています。

—— 2004-2005年に行ったニュージーランドは如何でしたか?

ニュージーランドはタフでした。ラグビーが生活の一部になっていて、国民の1人1人がオールブラックス(ニュージーランド代表チーム)をどう強くするか考えている様な国です。365日、いつもラグビーを放送しているTVチャンネルもあるし、底辺の広さを考えると世界一です。

自分のプレーはともかく、やはりメンタル面がクラブレベルであってもタフです。ニュージーランドのラグビーは強くなってきているけれど、僕の行ったサウスランド州(※5)なんて仕事もろくにないので、肉体労働で、ビルダーで生計を立てている選手が、僕の友人でも多いんです。朝から晩まで肉体労働をして、クラブの練習は週に2日やって、試合に入っていくという感じです。

※5:堺=サウスランド州=
大久保選手はディビジョン1に所属するサウスランド州代表に選ばれた。これは1969年にカンタベリー代表でプレーした坂田好弘以来、日本人2人目の快挙

大久保 直弥_画像5

—— 肉体労働がトレーニングにもなってるんですね

ほんとそうですね。彼らと比べたら、よっぽど日本は恵まれています。こんな立派なグラウンドやクラブハウスなんてないですし、ラグビーのプロとして生活できる選手は、全体の1割もいません。プロでもオフシーズンに自分で仕事しなければ、生活していくのが難しいんです。

——  ご家族は?

結婚していて、1歳の娘がいます。ニュージーランドでは時間があったので、娘といる時間がとくに長く、楽しかったですよ。ニュージーランドは子供にとって環境がとてもいいところです。

大久保 直弥_画像6

—— 将来、住むことも考えられるのでは?

そうですね。それもいいかも知れませんね(笑)。

◆こいつのために何とかしてやろう

—— ラグビーの魅力は?

練習や試合が終わった後に、みんなでビールなんかを飲むのが好きです。酒を飲むその雰囲気が好き。好きじゃない人と飲んでもしんどいだけですし、別に高い酒ではなく、練習の後に仲間と飲む酒は高い安いに関係なくとても楽しい酒です。ラグビーには、こいつのために何とかしてやろう、というところがあって、そういう信頼関係がラグビーにとってとても大事なことであり、魅力でもあるんだと思います。

歳を重ねるごとに、楽しみ方が変わってきます。若い時はがむしゃらに、とにかく勝ちだけを求めていました。そして自分をアピールして見せたいと思っていました。いま30(歳)台になりましたが、いろんな経験をしてきて、勝ち負けよりも大事なものがあるんじゃかと思う様になりました。例えばプロとしては、もちろん毎試合ベストをつくすと心掛けていますが、そのための準備を怠らず、毎日変わらない力を発揮するということが大事で、ベストをつくして負けたんだったら、それはそれでしょうがないかなぁ、と思う様になってきました。

—— 新チームになって如何ですか?

この何年か同じ戦術だったり、練習もマンネリ化してきた部分があったので、そういう意味で新鮮ですし、監督のイメージしているレベルには程遠いと思いますので、もっと上手くなりたいし、少しでもそのイメージに近づきたいと思っています。今やっていてとても楽しいですよ。同じことを繰り返してきていると、自分の中でもこれくらいでできちゃうなっていうところがありましたが、今の気持ちをシーズンを通して持ち続けられたらいいと思います。

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—— 今年の目標は?

優勝。

—— 個人としての目標は?

新しい新人選手が多いし、しかもバックロー(※6)に若くていい選手が多いので、彼らと良い競争をしながら、チームを活性化できればいいなと思っています。

※6:バックロー=フォワードの第3列のこと、
      左右のフランカーとナンバーエイトの3人

◆喜怒哀楽を出していたら80分は闘えない

—— 大久保選手にとって「プロ」とは何でしょうか?

「プロ」って自立することだと思います。サントリーを辞めてニュージーランドへ行った時に、それまで名前の前についていたサントリーの肩書きが取れてなくなって、寂しいというんじゃないけども、これまで自分がいかに肩書で生きてきたかということを感じました。プロである以上、精神的にも肉体的にも、1人の人間として自立しなければいけないと思いました。

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—— プロには自ら進んでなったのですか?

めぐり合わせです。28歳という時期にトップリーグが始まって、サントリーのプロとしてやってみないかと話を頂きました。ですから自分から頼んでプロになった訳ではないです。

—— 好きな言葉を教えて下さい

若い時にはあったんですけれどね。若い時はそういうのを言いたい時期ってあるじゃないですか。今思うのはそういう自分があまり好きじゃないってことです。若さでそういうことを言っていた自分が、今は恥ずかしく思います。

—— 自分の性格はどんなだと思っていますか?

性格はもともと血の気の多い方じゃないですし、あまり喜怒哀楽が激しい方でもないです。

—— 相手がぶつかってきて、コノヤローとか思いませんか?

やられる前に先に行っちゃうので、それはないですね。精神的に波があると、プレーにも波が出てきます。いちいち1つ1つのプレーに喜怒哀楽を出していたら、80分は闘えません。気持ちだけでやったら、せいぜい10分ぐらいしか保たないでしょう。

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—— チームスポーツが合っているんでしょうか?

ラグビーはチームスポーツですが、基本は1対1。その1対1を、例えば1人が抜かれたら、別の人間がカバーする。チームワークや助け合うことも大事だけども、1人1人が1対1で、タックルをとめるとかしっかりやったり、前に出るという責任を果たすことが、ほんとのチームワークなんじゃないかと思います。

—— あらためて、今年の決意を

先ず、試合に出ることが大事だと思います。そして試合に出てボールを持ったら、少しでも前に出たいと心掛けています。そしてチームが苦しい時に、元気づけられるプレーができればいいなと思っています。

(インタビュー&構成 針谷和昌)

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