SMILECAFE

スマイルカフェ

初心者も楽しめるラグビーコラム

2012年4月27日

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『知ってほしい!サンゴリアスのサイドストーリー』

初めまして。
4月からスマイルカフェの担当の一人となりました、瀧川恵です。テレビ朝日でスポーツ担当をしていて、サッカーやゴルフを中心に様々なスポーツに携わってきました。
その中で、ラグビーは実際に会場で試合を見ると、選手どうしが激しくぶつかり合う「音」や、トライを目指してボールを繋いだり、フィールドを駆け抜ける「スピード」、突破するための「駆け引き」・・・など、シンプルに楽しめる要素が多いにも関わらず、ルールが複雑そうに見えるからか、多くの人の目に触れるチャンスが少ない種目だと感じていました。
 
約10年前、初めてラグビーを取材した時、「こんなに激しいスポーツなのに、プレーしている選手はなんと穏やかな人が多いのか・・・」というのが第一印象。競技の面白さにも惹きつけられ、以来、その魅力をどうにか多くの人たちに伝えられないかと、ラグビー中継に関わらせてもらっています。
 
私の回では、選手はもちろん、サンゴリアスに関わる様々な人たちの“見えざる”取り組みをご紹介していきたいと思っています。普段、会場やテレビで試合を見ているファンの方たちが、なかなか知ることのできない、“サイドストーリー”を知っていただくことによって、また違った視点で試合や選手を見ることが出来るかもしれません。そんなお手伝いが出来ればと思っています。
 
 
記念すべき最初の“サイドストーリー”としてお話しをうかがったのは、この方。

トップリーグ、日本選手権の2冠達成で幕を閉じた昨シーズン。おそらく、この方の存在なしではサントリーの掲げる「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」は成し遂げられなかったでしょう。

若井正樹コンディショニングコーチです。
 
“日本で一番厳しいトレーニングをやっている自負がある”
 
コンディショニングコーチとは一体、どういうお仕事なのでしょう?
若井コーチいわく、「サントリーは日本でNo.1のフィットネス(体力)を目指しているチーム。フィットネスを強化していかないと、その上にあるサントリーが目指すラグビーは成り立ちません。」
サンゴリアスの目指すラグビーをするための「ベース」=「選手たちの“身体”“体力”」を作り上げるためのトレーニングを考えて指導するのが若井コーチの仕事です。
「各選手がそれぞれ設定した目標をクリアしていくことによって、それが自信となり、最終的にフィールドでのいいパフォーマンスにつながります。他のチームと比べても、日本で一番厳しいトレーニングをやっている自負があります。というのは、設定する目標というのは常に“自己ベスト”だからです。」
 
ということは、自己ベストを更新すると・・・
「その“自己ベスト”が、当然、次の目標になりますね(笑)」
 
厳しいトレーニングを課す中で、選手に常に言う言葉は・・・。
「トレーニングをやっていく上で必要なことは“規律”。ショートカットをしてはいけません。線を越えなきゃいけないのに越えない、これが試合中だったら、ペナルティになるかもしれません。その1つのプレーが原因で試合に負けてしまうかもしれない。もし、キツイ中でもこの規律を守れなかったら・・・もう1回全員にやらせます(笑)。」
 
 
かなり厳しい目標を設定する若井コーチ、選手からはどう思われているのでしょう?
 
“結構ウザがられてるんじゃないですか?(笑)”
 
ご本人に聞いてみると、
「結構、ウザがられてるんじゃないですか?(笑)目標を達成しないと、しつこいですからね、僕。みんな、厳しいって思ってるのかな?」と。
 
話を聞いていても、「若井コーチ」=「厳しいトレーニング」という図式は容易に想像できます。それは、シーズン前のトレーニング期間に行う“テスト”にも現れています。4週間に1回のペースで行われる1km走の測定。
「1kmを3本走るんですが、1本目が一番大切なんです。1本目を全力で走りきって、2本目、3本目はどれだけがんばれるか。1本目のタイムの目標は各選手の“自己ベスト”です。高い目標、つまりプレッシャーの中でタイムを切っていくことが重要なんです。これをクリアしていかないと、試合でフィールドに立ったとき、大勢の観客の前で、強い相手を前にして、ピンチに立たされたとき、戦えなくなります。」
 
なるほど。フィットネス(体力)を上げるトレーニングの中で、試合にも通じる精神力も鍛えているんですね。
 
となると、やっぱり若井コーチの存在が選手にとってどんなものなのか、聞いてみたくなります・・・
 
「・・・確かに、“超”がつくほどウザいです(笑)。でも、フィットネスコーチは嫌われて当然なんです。選手がやりたくないこと、嫌いなことをさせなくてはいけないので。サントリーのラグビーは高いフィットネスが必要なので、若井コーチは厳しいことを選手たちにさせ続けなければなりません。それは分かっているんですが・・・」
と語ってくれたのは、有賀剛選手。春のトレーニング期間は、本当によく走っているという実感があるそうです。そして、若井コーチの厳しさを物語るエピソードを話してくれました。エディーさんがGMとなった3年前の春のこと。
「何度か“テスト”を重ねてきて、みんなのタイムも徐々に伸びてきていたときのことです。自分でも自己ベストに近いタイムで走りきれたんです。それなのに、若井コーチに『自己ベストから3秒遅れてるぞ』と言われたときは、さすがに殺意をおぼえました(笑)。」
 
ちなみに、自己ベストを切れないと、追加のトレーニングが課されるそうです・・・。
 
 
“僕が好かれたら、サントリーのフィットネスは停滞する”
 
3年前、エディー・ジョーンズ(現・日本代表監督)がGMになってから、若井コーチのプログラムもより一層細かくなったそうです。
「より細かいプログラムの中で選手一人一人を見ていくことによって、一人一人のフィットネスが少しずつ伸びていったら、チーム全体も伸びていきますよね。2年目、3年目と徐々に成果が現れました。みんなが嫌がるテストを繰り返していくことで、生理学的に伸ばしていくこともそうですし、精神的に鍛えていくのもフィットネスからだと思っています。僕のことを嫌と思う選手がいても当然。選手とは“友達”じゃないし、僕が選手に好かれたら、きっとサントリーのフィットネスは停滞しますから。」
 
やはり、サンゴリアスのラグビーに若井コーチの存在は欠かせません。
 
 
最後に思わず聞いてしまいました。
「自己ベストを更新し続けるって、限界がありますよね?」
 
“高い目標を課すことによって、選手が自分で準備するようになるんです”
 
「常に自己ベストを更新するためには、しっかりとトレーニングをする他に、あとは何ができるか?それを選手たちは自分で考えるようになるんです。目標を達成するために、テストの何時間前に食事をとろうとか、前日は何時に寝なければならないとか、水分補給をしっかりしなければならないとか、テストというプレッシャーがあることによって、自己管理するようになるんですよね。それが試合前の状況にもつながってくるんです。」
 
若井コーチに殺意を覚えたという、有賀選手も言っていました。
「ああいうコーチがいないと、限界を超えていくことはできないんですよね。」
 
さらに上へと・・・限りない可能性に挑み続けるには、若井コーチは“ウザい存在”であり続けなければならないのです。
 
「今年は8月末がトップリーグ開幕なので、8月の頭ぐらいまでは追い込んで、身体的にも精神的にもタフになって開幕を迎えさせたいです。」
と若井コーチは、今年のトレーニングについても力強く宣言。
 
これから本格的に始まるトレーニング、いろんな意味で、楽しみです。

瀧川 恵

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