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サンゴリアスをもっと楽しむコラム

2012年10月25日

特別対談シリーズ「となりのフットボール」 Verdy & Beleza × Sungoliath

別対談『となりのフットボール』第4回
サントリーサンゴリアス チームディレクター 坂田正彰
 × 東京ヴェルディ 強化本部副本部 昼田宗昭
【スポーツには子供たちを変え、国を変える力がある】
     
※昼田宗昭プロフィール
昼田宗昭(ひるた むねあき)
 強化本部副本部長 強化部部長兼育成部部長
 生年月日:1965年12月8日
 出身地:大阪府
 
『迷ったらトップチームに上げよう』(昼田)
 
――まずは昼田さんの1日の活動を教えていただけますか?
 
昼田:月曜日が休みなので、火曜から金曜までは朝の7時過ぎにはクラブハウスに来て、10時位までにメールのチェックなど事務的な作業を終わらせて、そこから13時位までは強化部長として働きます。この世界はその日に何が起こるか分からない世界で、あの選手が風邪を引いたとか、あの選手は練習中に怪我をしたなど、予想できないことが起きますので、10時から13時位までは、どういったことにも対応出来るよう準備しています。その他としては、9時半位から監督やコーチなどと、その日の打合せをしています。こういったことが毎日の流れですね。
 
そして15時位からは育成部長になります。育成に関しては、ユース、ジュニアユース、ジュニアとそれぞれのチームがあり、年代が違うことにより、それぞれで問題点が違ってくるので、その対応をしています。トップチームとは全く違う問題がありますので、例えば、誰かと誰かが練習中に喧嘩をしたとか、簡単に言うと学校に近い状況です。
 
20時過ぎまでは育成部長として働き、そこから1時間位はまた事務作業をしてクラブハウスを出ます。クラブハウスを出たら、今度は通訳など他のスタッフたちと話をしながら食事をします。そこでチームの問題点や隠れた問題を見つけたりして、1日が終わります。そして平日はクラブハウスの近くに泊まっています。これが1日の大体の流れになります。
 
――24時間ほとんど頭の中は東京ヴェルディのことを考えているんですね
 
昼田:そうですね。坂田さんのスケジュールはどうですか?
 
坂田:サンゴリアスの場合は企業チームで、子供たちの育成はありません。チームの中でも、社員選手とプロ選手と2種類の選手がいるので、選手と会社との調整や現場との調整を主に行っています。基本的には朝6時くらいには選手がトレーニングをしていて、ミーティング前にはクラブハウスに来るようにしています。
 
コーチ陣のミーティング、S&C(ストレングス&コンディショニング)チームのミーティング、メディカルチームのミーティングに参加して、昼田さんと同じように、チーム全体を見ながら、どうすればチームが一番良い形になるのかを考えサポートしています。後は外国人選手やプロ選手がいますので、その選手のエージェントさんとチームの間に入り、契約などの話もしています。
 
――坂田さんはチームの練習にも参加されていますよね
 
坂田:スタッフの人数も多くはありませんし、まずはグラウンドで選手やコーチ間で何が起こっているのかということを見ないと、分からないですよね。ずっと会社の中にいてもしょうがないので、出来る限りグラウンドに出て練習を見るようにしています。そういう中で、スタッフや選手の人数が足りなければ、そこに私も入り、一緒にトレーニングをしています。
 
――試合の時はどういうスケジュールですか?
 
昼田:Jリーグの場合は、土曜日にJ1、日曜日にJ2の試合がありますので、土曜日は育成部長として、各カテゴリーの試合を見ています。ユースに関しては、この間、東日本で優勝することが出来て(※高円宮杯U-18サッカーリーグ2012 プレミアリーグ イーストにて優勝、12/16のチャンピオンシップ出場権獲得)、土曜日の60%位は、そのユースの試合を見ていました。今年に関しては、ユースの中から良い選手を6人トップチームに上げます。ちなみに昨年は5人でした。
 
他のチームの良い選手を見てスカウトするよりも、うちのチームの選手を見て、トップチームに上げるか上げないか微妙なラインに入る選手を、ユースの監督と話をして、迷ったらトップチームに上げようというスタンスでやっています。
 
他のチームであれば、迷ったらトップチームには上げないと思いますが、ヴェルディではトップチームに上げ、違う働きかけで選手のモチベーションを上げて、プロ選手のイメージを持たせてから、トップチームに上がって半年くらいでプロ選手にさせています。
 
日曜日に関してはトップチームの試合があり、アウェーでの試合には日帰りで行き、試合の3時間前にチームのホテルに着いて、そこでミーティングをします。トップチームの試合では、強化部長として、選手のプレーぶりやスタッフのマネジメントぶりを見ています。
 
ただトップチームの練習に関しては、監督がいるので、その監督がストレスなく出来る環境づくりを心掛けています。だから練習メニューに口を出したりはしません。私はもともとジェフユナイテッド市原・千葉に9年間いて、海外の監督としか仕事をしたことがなくて、ヴェルディに来て初めて日本人の監督と仕事をしました。その流れから、オン・ザ・ピッチに関しては監督、オフ・ザ・ピッチに関しては私どもの強化サイドが管理するようにしています。
 
簡単な言葉で申し訳ないのですが、指導か教育かというところで分けて、グラウンド上は指導、グラウンド外の所に関しては教育と考えています。ヴェルディはクラブが出来て40年という歴史がありますが、今年初めて選手教育を行いました。これまでは選手に任せていた部分であったんですが、今年は月に1度、ヨーコ・ゼッターランドさん(Jリーグ理事/元バレーボールアメリカ代表・バルセロナオリンピック'92銅メダリスト)に違う観点から選手教育をして頂いています。
 

『チームプレーが出来ない選手はいらない』(坂田)
 
――海外の監督と一緒に仕事をして、具体的にどういったことを学びましたか?
 
昼田:すごく表現することが難しいんですが、ヨーロッパの指導者はサッカーをツールとして人生を教えているように感じます。オシムさん(イビチャ・オシム/元ジェフユナイテッド市原・千葉監督、元日本代表監督)の話になってしまいますが、オシムさんがすごく怒った日が1日だけあって、なぜ怒ったかというと、ある選手が怪我をしているからといって、クラブハウスの身体障害者用の駐車場に車を停めていたんです。そのことについて全スタッフが集められて、その駐車場に車を停めていたのは誰かということを問われ、その選手に対して「君は身体障害者ではなく、怪我をしているだけだ。自分の駐車スペースに停めなさい」と、もの凄く怒っていました。
 
たったそれだけのことと思うかもしれませんが、選手としたら楽をしたいから、怪我をしているとクラブハウスの近くに停めたくなるんですよ。けれど、オシムさんは「もし身体障害者の方が、わざわざチームの練習を見学に来てくれて、その時に駐車スペースがなければどう思うか。そこまで考えろ」と言うんです。それを聞いた時は本当にすごいと思いました。
 
あとは、試合の勝ち負けについても、勝っても怒る時がありますし、負けても褒める時がありました。オシムさんは昭和の頃のお父さんで、"昔の日本人の親父"という印象がありますね(笑)。
 
――坂田さんがエディーさん(エディー・ジョーンズ/元サンゴリアスGM兼監督、現ラグビー日本代表ヘッドコーチ)の下で学んだことは何ですか?
 
坂田:昼田さんと全く同じですね。たまたまサッカー、たまたまラグビーと、競技が違うだけで、前回の監督対談で大久保(直弥/サンゴリアス監督)が言っていましたが、何か1つのことを得るために1つの規律があったり、この目的のためにこの部分は譲らないという柱の重要性を学びましたし、その考えをブレずに実践する方法を近くで見させてもらいました。
 
サンゴリアスはヴェルディさんに比べて歴史が浅く、今年で創部32年目なんですが、これまでチームのスタイルやスピリットというはっきりしたものがありませんでした。そこでエディーさんは、チームの文化を作ってくれましたし、10年先、20年先でもサントリーのラグビー部は、こういうラグビーをして、ただラグビーが上手い選手ではなく、規律が守れたり、人間として素晴らしい選手を組織として育てていこうという考えで取り組んでくれていたと思います。
 
エディーさんには、指導者としてオシムさんと同じ考えがあると思います。例えば、目の前にあるボールになぜ飛び込まなかったのかとか、なぜ自分の責任なのに人のせいにするのかというところを考えさせるので、学校教育に近い部分があると思います。エディーさんはもともと学校の先生でしたし、物事の考え方が教育者だと思います。特に日本人にとっては、大事にしていかなければいけないところを指導してくれていたと思います。
 
昼田:日本人は1993年のJリーグというプロリーグが出来た時に、プロフェッショナルという言葉を勘違いしまったと思います。プロフェッショナルという言葉には、"追及する"という語源があると思うんです。そこで何を追求するかを考えると、当然スポーツマンとしてサッカーを追及するんですが、人間として徳を積むこともすごく大切なことで、その2つがないといけないんです。南米の指導者だと、また少し違った考え方があると思いますが、根本的には一緒だと思います。
 
今までの日本人は、表面的な部分でプロと思ってしまっていて、サッカーが上手いから、点を取ったからプロではないんです。オシムさんは点を取った選手のことは、絶対に褒めていませんでした。
 
その他のオシムさんのエピソードとして、試合に勝った時に、試合に出なかった選手から握手をするんです。君たちのお陰で、今日は勝つことが出来たという意味で、まずは試合に出なかった選手に握手をして、その後にスタッフなど裏方の人間と握手をするんです。そして、点を取ってヒーローインタビューを受けている選手とは、一切握手をしないんです。
 
以前、そのことについて聞いたことがあるんですが、「俺が握手をするよりも、メディアやサポーターがチヤホヤしてくれるから、俺はいいんだ。逆に俺は明日あいつが天狗になった時に怒るんだ」って言っていました。
 
エディーさんもサントリーさんの監督をやられた後、日本代表に監督になられて、オシムさんもジェフで監督をした後、日本代表の監督になられたので、似ているような気がします。
 
坂田:エディーさんも、サントリーには社員選手とプロ選手がいて、プロ選手がラグビーを出来るのは当たり前のことで、ラグビー以外のこともちゃんと出来なければ、もの凄く怒っていました。サッカーもラグビーもチームプレーが重要になりますので、特にプロ選手には「チームプレーが出来ない選手は、サントリーにはいらない」と言っていましたね。それはエディーさんがチームを離れた今も引き継がれています。
 

『サントリーのトレーニング方法をパクらせて頂きました』(昼田)
 
――昼田さんは、サンゴリアスが練習をしている風景を見たことはありますか?
 
昼田:私は日本で一番早くクラブハウスに来る強化部長でありたいと思っていて、ジェフの時から7時頃にはクラブハウスに来ることを続けています。そういう考えがあったんですが、サントリーさんは更に早い時間から練習をしているので、本当に驚いています(笑)。
 
坂田:ラグビーの場合は、社員選手とプロ選手がいて、チームの中で社員の若手選手を育てなければいけないと思っていますので、監督やコーチ陣もハードワークをしなければいけないと思っています。サンゴリアスのコーチたちは、4時半には起きて5時半に家を出て、6時からのトレーニングに備えています。もし6時から1分でも2分でも遅れた選手は、規律が守れない選手ということで、もう練習には来なくていいという態度で接しています。
 
僕はそこまで現場だけに張り付いてもいられないので、監督やコーチ陣の努力は計り知れないものがありますが、そういう監督、コーチ陣の努力があるから、それが選手にも伝わり、チームの土壌や文化が作られているんだと思います。そういう文化があるからこそ、選手同士の横の繋がりも出来ているんだと思います。
 
昼田:プレーも実際に見させてもらいましたが、迫力がありますし、当然かもしれませんが、練習から緊張感がありますよね。それに結果に繋がるトレーニングをされていて、ここまで試合に近い雰囲気で練習をされているのかと感じました。
 
サッカーもラグビーも、同じスペースゲームだと思うんです。ルールが違うくらいであって、サッカーにも取り入れられることがたくさんあると思います。例えばサントリーさんが練習で使っている器具を真似しようと、時間を見つけてホームセンターに行き、同じような器具を探して、ジュニアユースやジュニアのトレーニングに活かそうとしました(笑)。
 
その器具を使ったトレーニングは、フラフープのような輪っかを目がけてスローイングをしていたので、サッカーでもその輪っかを目がけてパスを出すトレーニングが出来るんじゃないかと思ったんです。どうしても日本人は立体で見ることが苦手なので、輪っかにボールを通すことによって、パスの道を作るイメージが持てるんじゃないかと思っています。
 
日本人はボールを蹴ることに対して、キックという動作をするイメージになると思うんですが、海外の選手と日本人が持っているキックのイメージは違うと思うんです。輪っかを通すという目的があれば、その目的のための線がイメージ出来て、その輪っかの向こうに人が見えると思っているんです。アーセナルFCの監督であるベンゲル(アーセン・ベンゲル)が、そういう練習方法を取り入れているんですよ。
 
他には、オシムさんの練習では、同じチームであっても6色のビブスを使って練習をして、立体感覚を使って味方やスペースを見つけるトレーニング方法を取り入れていました。
 
坂田:ヨーロッパではそういう練習方法が取り入れられていますよね。ラグビーでも、ある一点を見ながら、また違うところも見るというトレーニングをしています。昼田さんがおっしゃる通り、どんなスポーツでもトレーニング方法には共通点があるので、そのアイディアをどう引き出して、どう形にするのか、そのためにはどういうトレーニングをすればいいのかということを指導者の方々は考えられているんだと思います。私はコーチではないので、あまり偉そうなことは言えないんですが。
 
昼田:私はサントリーさんのトレーニング方法をパクらせて頂きました(笑)。
 
――ヨーロッパのキックの概念は?
 
昼田:運ぶというイメージになります。日本人はパスというと、ボールを蹴るという動作のイメージがあると思います。ゴルフでも同じで、素晴らしいゴルファーは、自分が打つボールの軌道が予測出来るんですが、あまり上手くはない人は、ボールを打つことに一生懸命で、そのボールがどこに飛ぶのかがイメージ出来ないんですよ。サッカーのパスも一緒で、どこにボールを出すかという目的があって、そのためにはどうすればいいかというイメージが必要になります。ヨーロッパで使われているパスを日本語に直すと"運ぶというキック"になると思います。
 
ボールを輪っかに通すということは、ラグビー界では一般的かもしれませんが、サッカーではあまりそういうイメージはなかったと思います。ピッチの中にゴールがあって、ゴールとは目的であり目標です。その目標のゴールは、ストップではなくて、通過するということなんです。そういうイメージを持った方が、育成年代にとっては、良いと思っています。サントリーさんのトレーニング方法が、良いヒントになっていて、育成チームの中で、「あの輪っかを通すトレーニング器具を作ろうよ」って話をしています(笑)。
 

『後輩たちには自分が経験してきたことを経験して欲しい』(坂田)
 
――昼田さんは子供の頃からサッカーをやられていたんですか?
 
昼田:サッカーをやっていました。初めてお会いする方からは、「ラグビーやアメフト、相撲をやられていたんですか?」と言われるんですが(笑)。
 
坂田:昼田さんは大阪の出身で、岐阜で学校の先生をやられていたんですよね。
 
昼田:約2000人ほどの生徒がいる高校で、体育の教員をしていました。生徒指導部や生徒会、サッカー部などを任されていました。当時は結構荒れた生徒が多くて、サッカー部にはそういう生徒100人が集まって、どうマネジメントしていくかを考えていました。
 
坂田:そういった環境で過ごされてきて、今のようなプロチームのマネジメントをする立場になられたのには、どういった転機があったんですか?
 
昼田:私は小学校から大学まで、サッカーを通じて人生を教えてもらっていたので、逆にサッカーを通じてどうやって恩返しをするかと考えた時に、教員になる道を選びました。そこから1993年にJリーグが出来た時には、次の時代はプロだと思い、どうやってプロの世界に行こうかと考え始めていました。
 
祖母井(秀隆)という今、京都サンガFCでGMをやられている方がいて、その人のところに行き、毎月サッカーを教えてもらっていました。その関係で立正大学でサッカーを教えることになりました。当時の立正大学も荒れていて、サッカーを教えると共に、寮監も2年間やりました。その後にブランメル仙台(現ベガルタ仙台)に入ることになりました。ブランメルも若手選手を叱るという環境がなかったんです。
 
そういう経験をして、2001年に祖母井から呼ばれてジェフに入りました。選手は、ちょっとしたきっかけで変わっていきますし、スカウトをやっていたこともあり、成功した選手も失敗した選手も見てきた関係で、「プロになるのは難しいですよね?」とよく聞かれるんですが、僕からしたら簡単なことなんです。自分がプロと言えば、その選手はプロになるんですから。ただし、プロであり続けさせる難しさはあります。どうすればこの選手は10年間プロ選手でいさせることが出来るか、日本人の生涯賃金の3億円を、10年間でどうやって稼がせてあげられるかということを考えています。
 
――坂田さんはチームディレクターということで、スカウティングもやられていましたが、今後コーチングもやられていくんですか?
 
坂田:コーチングですか(笑)。私は長い間、現役生活をさせて頂いて、引退後は会社からラグビーの現場で働いてみてはどうかと言われて、今の仕事をしていますが、高校時代から本格的にラグビーを始めて、1つ1つステップアップして、日本代表にも選んでもらいましたし、ワールドカップにも出場することができ、本当に良い経験をさせて頂きました。
 
自分がそういう経験をして来られたから、後輩たちにもそういう経験をさせてあげたいという思いで、今の仕事をしています。だから、今はチームディレクターという肩書きがありますが、グラウンドに立てば、自分の経験を選手に伝えたり、コーチ陣とミーティングをする時には、自分の意見を伝えたりもしています。
 
チームに接するためには、いろいろな形があると思いますが、コーチングをしたいという思いは、今のところ持ってはいないですね。コーチという立場でなくとも、自分が経験したことを後輩たちには伝えられますから。それに、今の現役選手が引退して社業に専念することになった際には、素晴らしい経験をしてきた先輩が会社の中にいることによって、目標にもしやすいと思います。
 

『サンゴリアスの練習を見るとたくさんヒントがある』(昼田)
 
――昼田さんを拝見しているととても楽しそうに見えるんですが、大変な時はどんな時ですか?
 
昼田:今は好きな仕事をしていて、高校の教員をしていた時は、サッカー以外の保健体育を教えなければいけなかったり、ホームルームをしなければいけなかったりしていたんですが、夏休みになるとサッカーだけを教えていたんです。以前はそういう生活をしていたので、言葉は悪いんですが、今はずっと夏休みのような感覚でいます。
 
もちろんストレスはありますが、サッカーは好きなことですし、解決できる問題はたくさんあるんです。もちろんプロの世界なので、上に上がっていくためには変えなきゃいけないこともあるんですが、だからといって、すぐに「あいつはダメだ」「あいつはもう無理だ」「他にも良い人がいる」と考えるんじゃなくて「まだ何とかなる」と、その考え方は甘いと言われることもありますが、本当に最後の最後までやるためには、どうするかを考えなければいけないと思います。
 
これもオシムさんに教えてもらったんですが、日本人の選手は「なぜ僕は試合に出られないんですか?」「どうやったら試合に出られますか?」と聞いてくるんです。そこにもヒントがあって、逆にそこで裏方の人間として、「君はまだこれが出来るんじゃないか、あれも出来るんじゃないか」と気づかせてあげられるんです。そういうことが出来るので、毎日が楽しいですね。
 
本田君(圭佑/CSKAモスクワ)がワールドカップの時に言っていたことで、すごく勉強になった言葉があるんですが、「なぜあんなに強気に、ビッグマウスな発言が出来るんですか?」という質問に、本田君は「大きなことを言わないと、弱い自分が出てくる。だから大きいことを言う」と言っていたんです。
 
僕も同じで、毎日毎日楽しそうにしていないといけないと思っています。この間、ファジアーノ岡山に負けた時は、試合終了後10分位は、椅子から立ち上がれなかったんです。でも、ロッカールームに行って、選手がいたりメディアがいたり、サポーターがいる前では、そういう姿を一切出しちゃいけないと思っているんです。だから常に明るく楽しくするようにしています。その考え方は、選手たちにも伝えるようにしています。
 
――嬉しい時はどんな時ですか?
 
昼田:当然、試合に勝った時は毎試合嬉しいですね。やっぱり簡単には勝てないですし、サントリーさんが今の地位にあるように、ヴェルディにも昔はそういう時代がありました。違う角度で分析していますが、どのスポーツ、企業でも同じなんですが、頂点を取るのは5年サイクルなんです。だから、ヴェルディが5年後にどういうポジションにいるかということをイメージしています。
 
空想しているように思われて大丈夫かと心配されそうですが、こういうことをやっていけば、5年後にはヴェルディはトップにいるだろうということを考えている時が嬉しいかもしれないですね。そして、実際に5年後にナンバー1になった時には、継続させることを考えると思います。
 
スポーツの世界でチームの種類としては、"新しいチームがトップになること"、"トップを継続させること"、そして"一度下がったチームを回復させること"があると思うんです。その中で、僕はどちらかと言えば、人生の中で下がったチームを回復させる仕事が多いんです。それが苦ではないんです。難しいことは、トップになったチームを継続させることなんです。
 
坂田:今まで結果が出ていなかったチームには、いろいろなエキスをチームに入れて、押し上げることは出来ると思います。ただし、トップの地位を取ったチームが、そこから更に勝ち続けることは大変なことだと思います。だからこそ、今シーズンのチームスローガンを"ハングリー"として、昨シーズンのチームを上回らなければいけないという思いで、今シーズンは取り組んでいます。対戦相手のことはもちろん考えるんですが、今自分たちがやっていることに対して、今の状況でいいのかと考えながらやっていかないと、勝つことに満足してしまいますし、勝ち続けることは出来ないと思います。
 
例え試合に勝ったとしても、その試合で毎日自分たちがトレーニングしていることを超えているのか、常に自分の100%を出しきっているのかということを考えながらやらなければいけないので、今の地位を継続させることは難しいと思います。
 
昼田:朝のサントリーさんのトレーニングを見ていると、その思いが伝わってくるんですよ。ヴェルディがなぜ今の状況になったのかを考えると、きっと隙があったんだと思います。継続させることは、ほんの少しでも気を緩めると下がる一方になってしまうんです。一度下がったチームを、もう一度回復させるためには、選手はもちろん監督やスタッフも含めた総合力の戦いになると思います。
 
僕は育成の会議の時に、「時間がある時に、サンゴリアスの練習を見ると、たくさんヒントがある」と、よく言っています。それはトップチームにも言えることです。競技が違うのでコーチが選手に言っている言葉は違うかもしれないですが、サッカーとラグビーでは近いところがあって、僕ら育成にとっては、サントリーさんが隣で練習してくれていることが、本当に刺激になっています。
 

『社会人として価値ある人間になるための教育』(坂田)
 
――目標を教えてください
 
昼田:2009年にヴェルディに入って、その時はチーム自体が潰れてしまうかどうかという状況でした。私はあまりスポーツ新聞を読まないので、実際にチームに入るまでは、ヴェルディの状況が分かっていませんでした。
 
実際にヴェルディに入ってみて、2010年、2011年というのは、ヴェルディを潰さないということで頭がいっぱいでした。今のヴェルディの経営は、まだまだ安定しているとは言えませんが、お陰さまで、安定に近い形になったので、今年はJ1昇格を狙っています。ただ、それはあくまでも1つのチャレンジとして、チームを潰さないで昇格させるということは出来ると思います。
 
プロとして1つの区切りとして、中期的な目標を達成するためにチームに携われるかということは、結果の世界になってきます。そういう世界で生きていますし、先日家族には、「オリンピックで男子の代表監督とコーチは、チームをベスト4に導いたけれども、契約を継続しなかった。女子の監督は2位だったけれども契約を継続した。お父さんはそういう世界で生きている」という話をしました。
 
私としては、チームから契約を継続されるような仕事はしますが、ヴェルディにとっては、僕だけとか、監督だけとか、社長だけじゃなくて、みんなでV字回復出来ることをイメージしなければダメで、チームの中ではまだ「誰かがやってくれるだろう」と思っている人もいると思います。
 
僕の契約は来年の1月までありますが、1つの区切りとしては、J1に昇格するにしろ、昇格しないにしろ、チームの中のイメージを変えなければ、1年で降格してしまうと思います。経営を安定させてJ1に昇格させることも、これからのヴェルディを作っていくこともやりますが、それはみなさんの協力があって出来ることなので、もしそういう状況がなければ、本当に難しいと思います。これからのヴェルディを作っていくためには、社員も含めて全スタッフが一致団結しなければいけないと思います。
 
――今後もずっとサッカーには携わっていきたいと考えていますか?
 
昼田:本音で言えば、今サッカー界にいる人間は、サッカーだけではダメだと思っています。例えば、今後、野球とシーズンが重ならなくなった場合、野球もやって、サッカーもやってという形でもいいと思っています。
 
先日のJ1、J2臨時合同実行委員会で、今の春秋制から秋春制へ2015年からのシーズン移行はなくなりましたが、もしJリーグのシーズンが秋春制になれば、選手教育のところで、いろいろなチームを回れるんじゃないかと思っていました。競技は違っても、同じエッセンスだと思っているので、個人的には違う競技のチームを回っていくのもありなんじゃないかと思っているんです。
 
――坂田さんの目標は何ですか?
 
坂田:昼田さんのお話を聞いていると、サッカーは完全にプロチームで、チームを運営しなければいけないという観点と、選手を育てていかなければいけないという観点があって、ある意味、サンゴリアスは企業チームなので、会社からラグビーを辞めると言われれば、それで終わりになってしまいます。
 
だから、うちのチームに関して言えば、経営の部分ではまだ甘いのかもしれないですが、昼田さんもおっしゃっていた、選手の育成の部分で言えば、ラグビー選手としてだけではなく、社会人としてこれから価値ある人間になるための教育はしていかなければいけないと感じています。昼田さんは、これからサッカーを始める選手にとって、今は何が一番足りないと思いますか?
 
昼田:本音で話し過ぎて、後でチームから怒られるかもしれませんが(笑)、今抱えている問題としては、親ですね。親の塩コショウが足りないと思います。子供を18歳までにしっかりと教育していれば、そこからも成長していくんですが、少子化の影響で、子供を甘やかして育てているんです。
 
坂田:親も教育されていない世代なんですよね。サッカーでもラグビーでも、何かをすることに対して、自分で考えることをしないと、いくら先生やコーチなどから教えられても、発展がないと思うんです。
 
こういう環境で、こういう練習をする時には、どういう準備をしなければいけないのか、それがアウェーでの試合になった時はどうしなければいけないのか。それは仕事でも同じで、お得意先と会う時に、どういう資料を作って準備していかなければいけないのか。今の若い選手は、そういうことを考えずに、結果だけを見て「ダメでした」とか、「どうすればいいでしょう」となってしまうんです。
 
若い選手の中には「なぜ」という部分を考えない選手が多いので、サッカーやラグビー関係なくして、これから常に自分はこういう目標がある時に、その目標のために物事を考えて準備をするようになっていかなければいけないと思います。もしそこで失敗した時には、次の考えが出てくると思うんです。今の若い選手は、周りに自分を見て欲しいと思っているんですが、そのための準備が出来ていないと感じているんです。
 
若手選手からどうすればいいのかを聞かれた時に、逆に「お前はどう思うのか」と聞き返すんですが、答えられない選手が多いんです。そういう選手たちとは、常に会話をして、常に見てあげることが大事なのかなと思っています。
 

『選手を引退した後は日本を引っ張っていけるような人間がいる世の中』(昼田)
 
――昔に比べて、スポーツチームのやるべきことが多くなっているんですね
 
昼田:間違いなく多くなっていますね。親御さんと話をしていて、「お陰さまで」とか「お互い様」という言葉が出てくる親御さんの子供は、プロで成功する選手が多い気がします。例えば、「お陰さまでプロになれました」ということですね。
 
今までずっと見てきていて、最初の契約で選手の親御さんに会った時に、「あっ」と感じることがあります。育成の部分で問題があれば、関係者と話をするんですが、その時にその子の親が出てくるわけですよ。そこで「なんでうちの息子が。あの息子も、あの息子もやってるでしょ?」っていう親御さんだと、練習で一生懸命監督やコーチが教えても、その子が家に帰ったら、何も教育されていないので、意味がないんですよ。逆に、子供から親に「今日、先生にこんなことを言われた」と話されても、親が「馬鹿じゃないの」って言ってきたら、子供は「先生は馬鹿なんだ」って思っちゃうわけですよ。
 
私は毎日、トップチームの40歳近い選手から15~16歳の選手と話をしていて、十何年間プロでやっている選手の親は、やっぱりしっかりしていると感じますね。そして、しっかりと教育をされている子供は、自分の子供に対してもしっかりと教育出来るんです。そういう中でも、自分の子供に対して、しっかりと叱ることが出来る親御さんもいますけどね。
 
坂田:昔は学校の先生から殴られもしましたし、部活でも理由もなく走らされたりしていましたよね(笑)。今の子供たちと、その時のことを比べてはいけないかと思いますが、今の子供たちは、「何で」ってすぐ聞いてきますし、怒られた時でも「どうして怒るんですか?」って聞いてくるんですよ。
 
ただし、そういう子供たちを、次のステージに上げていかなければ、ヴェルディさんも続いていかないと思いますし、サントリーも続いていかないので、いろいろな角度でアプローチをして、チーム一丸となって変えていかなければいけないですよね。コーチにしても、メディカルスタッフにしても、そういうことを考えているスタッフがいるチームは必ず勝っていくと思っています。
 
チーム全員が同じ方向を向いて、同じことをやるということが、どれだけ大変かということを常に考えて、それを継続させることは更に大変ですよね。そこで僕らが少しでも気を緩めると、選手たちは楽な方に行ってしまうので、監督を含め、僕らが態度で示して、選手たちには伝えている状況です。
 
昼田:スポーツを通じて、スポーツで気づかせることが大切だと思います。サントリーさんはラグビー界ではトップにいて、ヴェルディはまだその位置までいけていないんですが、5年後にはヴェルディもトップになって、サントリーさんもトップに居続けてもらい、日本の子供たちを育てていくことや、選手を引退した後は日本を引っ張っていけるような人間がいる世の中が、究極のビジョンですね。
 
今の政治を批判するつもりはありませんが、巻(誠一郎)が将来総理大臣になってもいいと思いますし、ラグビーをやっていた方がそうなってもいいと思うんです。スポーツには子供たちを変えて、国を変える力があると思いますよ。
 
坂田:たまたま同じクラブハウスを使わせてもらっていて、我々は10月末で府中に戻ることになるんですが、こういう関係はこれからも大事にしていきながら、例えクラブハウスが離れたとしても、これからも一緒に何かが出来ると思っています。
 
ポイントになるのは、これからどうのように継続させていき、誰もが持っている可能性を見出してあげることが、後輩に対しての僕らの役目だと思っているので、先ほど昼田さんが言ったような、これからの子供たちの教育を、私たちも考えていければと思っています。
 
 
 
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)[写真:長尾亜紀]

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