CLUB HOUSE

クラブハウス

サンゴリアスをもっと楽しむコラム

2008年3月26日

YELLOW FLAG TALK 第5回「有賀 剛×萩原 智子(水泳)」その3

萩原 智子(はぎわら ともこ)
1980年4月13日山梨県生まれ。山梨学院カレッジスポーツセンター研究員。その他、日本水泳連盟強化スタッフ、日本オリンピック委員会アスリート委員他を務める。

『ノーサイドの笛が鳴ったら、もう終わり』(有賀)

YELLOW FLAG TALK 画像1

—— スポーツにおいて優しさと激しさは同居出来るものでしょうか?レース前にプレッシャーで泣いている萩原さんを、ライバルの中尾美樹さんが励ましたという話を読みましたが。

萩原:それはオリンピックの舞台ではなくて、オリンピックへ行く前の舞台・選考会だったんですが、私は一緒に泳いだ中尾さんの一言がなければ絶対に頑張れなかったと思うんですよ。中尾さんがレースの前に声を掛けてくれたんですよね。それがなければオリンピックの200m背泳ぎという代表になれなかったと思うんです。(※結果、2人選ばれる選考会で1位:中尾、2位:萩原)

でもいざオリンピックの舞台に立った時には、まったくそんなことを忘れています。戦いの場ですから。それで戦った後に、私が4位で中尾さんが3位でとなった時に、悔しさとかいうよりも、「あぁ私、中尾さんと競って0.16秒差......悔しいというよりも、中尾さんとここまで戦えて、こうやって戦えるのは中尾さんのお陰だな」って思っちゃったんですよ。

本当はアスリートとしては、悔しいとか「何でだよう」と思わなきゃいけないかもしれないんですよね。そういうふうな思いがあれば、もしかしたら私は勝ったかもしれないですけれど、そこが私に足りなかったところなのかもしれません。

—— オリンピックで3位と4位、メダルがあるかないかは大きな違いだと思いますが、そこはどうだったんでしょう?

萩原:はい。でもその時は、まったく悔しさはなくて、「あっ終わった」と思ったのと「あ、中尾さんが3位だったんだ、良かった」って(笑)。だからすぐに声が掛けられたんだと思うんですよ。あまり一瞬しか覚えていないんですが、中尾さんにおめでとうの前に「ありがとう」と私は言っちゃったんです。言っちゃったというか、出ちゃったんですよね。「ありがとうございました」って言ったら、中尾さんが泣かれて、「おめでとうございます」って言ったのしか覚えていないんですよ。ゴールした後の場面は。

—— ラグビーではどうでしょう?ラグビーだったら、例えばやられたらやり返そうとか思うでしょう?

有賀:もちろん思いますよ。

—— それでいながら「相手も一生懸命やっているんだから」と思えるスイッチの切り替えは、どの辺でやっているんでしょうか?

有賀:ノーサイドの笛が鳴ったら、もう終わり、なしですよ。試合の前に会場に入って、「今日はよろしく」みたいな握手は相手の選手ともしますけれど、キックオフからノーサイドまでは「やってやろう」という激しい気持ちを持ってやってますよ。でも笛が鳴った瞬間には、「ありがとうございました」ですよね、本当に。

萩原:やっぱり真剣に本当に、ラグビーだったらラグビー、水泳だったら水泳を、本気で頑張って本気で目指して死ぬ思いでラグビーだってぶるかる訳でしょう。だからそういうことが出来るからこそ、終わった後に同じ気持ちになれるんじゃないかなと思うんですよ。「よく頑張ったね」って。

水泳もそうだと思うんです。例えばオリンピックの舞台で8人立って、みんな同じ様に努力をして、同じ気持ちなんですよね。目指して来ている気持ちが。だからこそわかる、わかり合えるんじゃないかなと思います。

だからラグビーで去年負けちゃった時とかにも、そう思いました。東芝戦を見に行っていて、私は物凄く悔しかったんですけれど、何かその後に、みんな呆然としたりしていたんだけれども、悔しいながらも表彰式もしっかり見ているし、きっといろんな思いがあって見ていると思うんですけれど、そういうのを見ていて、やっぱり一生懸命やった人しか思えないことがあるし、あの舞台には立てないんだなと思いました。

—— でも悔しかったですね。

有賀:悔しいっすよ、マジで...

萩原:凄い悔しかった。

『私もあの中に入ってやりたい』(萩原)

—— 今シーズンもサントリーは幾つか負けた試合がありましたが、それぞれ悔しいですよね

萩原:この試合、負けるかもと思う瞬間というか、例えばリードされていて後半あと何分という時には、どんな気持ち?「やべーっ」っていう感じ?「もう、早くやらなきゃ」っていう感じ?

有賀:「やべーっ」ていうのは時間帯にもよりますけれど、時間があったらそんなにやばいなとは思わないですね。

萩原:「行ける」って感じ?

有賀:逆転されても残り時間が結構あるという試合で、点を取れなかったら自分のチームにも問題があって、でもだんだん時間がなくなってくると、僕はいちばん後ろから人を見ているので、「あっ、パニクっている、パニクるな!」と思って...

萩原:いちばん後ろから見ていれば、よく見えるよね、きっと。

有賀:ぜんぶ見えます。

萩原:でもラグビーの試合を見ていていつも思うのは、始まる前とかに円陣を組んで、みんなで「オーッ」とか言っているのが、あれがもう...

有賀:凄いっすよね、お互いに凄いですよね。

萩原:やりたいのー、私も(笑)、一緒に。いつも言っちゃうんですよ。「いいなー私もあの中に入ってやりたい」って。

有賀:なんか、あの場にいたら、前評判とか関係ないですよね、そう思いません?あそこにいたらもう、向こうも気合いが入るし。ラグビーって基本的にあまり番狂わせがないスポーツと言われているけれど、そうでもないかなと思います。始まったら80分、タフに戦った方が勝つ、というスポーツだから。

『あぁ、もうスッキリした』(萩原)

YELLOW FLAG TALK 画像1

—— もう一度訊きますが、オリンピック4位は悔しくなかったですか?

萩原:問題があると思うんですけれど(笑)、悔しくないです。綺麗ごとに聞こえちゃうとは思うんですけれど、そしてアテネ五輪にも出られなかったんですけれど、何かスッキリしちゃったんですよねぇ。もうやり残したことないと思って。

—— スッキリしたからかもしれませんが、その後いろいろなことをどんどんやっている萩原さんの、そのモチベーションはどこから来るものでしょうか

萩原:4位に思い残していることがあったら、たぶん北京を目指していると思います。アテネも出られなかったし、たぶんやっていると思うんですけれど(笑)、綺麗さっぱり何もないんですよね。

スポーツって楽しいものじゃないですか。一生懸命にやって、それがまた楽しいと思ったり、上手くなって嬉しい、とかなったりするんですよね。その延長戦上で私は水泳をやって来たんですよね。だから勝つとか負けるとかももちろんなんですけれど、自分が自己ベストタイムで泳いだり、自分が一生懸命に試合までにやって、それでスタート台に立って試合をやって出た結果だから、納得出来ると言うか。邪魔されないじゃないですか。ラグビーみたいにバーンてこうやったりとか...

有賀:仲間からの影響もないし。

萩原:そう、1コースだし。ぜんぶ自分の責任で終わるでしょう。だからアテネの前も食中毒になったんですが、それも自分の責任だし...それで試合の2週間前ぐらいに、1週間ぐらい泳げなくなって、体重は減るし、調子は上がらないし、でもそれも自分の責任で、自分の人生ですよね。

トップアスリートになればなるほど、自己管理も自分の能力、実力のうちなので、そういうものをぜーんぶ受け止めて、スタート台に立ってやって、あぁもうスッキリした、と思ったんですよね。だから凄くみんなのこと、一生懸命な人を応援出来るし応援したいと思います。

先輩とかは辞めて1年ぐらいは、素直に応援出来ないって言うんですよ。輝いているみんなを見ると、自分もまだ出来るのにと思っちゃうと言います。私は辞めてすぐにアテネオリンピックがあったんですけれど、まったく思わなかったですね。テレビの前で「ワーッ!頑張れ頑張れ」みたいになっちゃいましたから。

—— そこが萩原さんが普通のトップアスリートと違うところかなと思います。きっと楽ですよね、自分が。

萩原:楽ですね。上手く言えないけれど。やりたいことを我がままにやらせてもらっている感じです。私の中では。

—— そういうモチベーションを持つのも自分次第というところでしょうか?

萩原:そこまで行くのに、上へ行ったり下へ行ったりしますもん。そうなるまでに周りで自分を支えてくれる人たちがいて、物凄い恵まれていると思います、私。誰よりも恵まれていると胸を張って言えます。

小学校の5、6年生の担任の先生から、です。そこからずっといいです。今でも付き合いがあります。その先生と会って話をしたりご飯へ行ったり、中学の先生ももちろんだし、ぜーんぶ付き合いがあります。だからメチャメチャ人に恵まれ恵まれ、育ててもらったみたいな感じです(笑)。

友達もそうだし。私は友達もそんなに多くはないんですよ。親友と呼べる子は2人しかいなくて、それは中学と高校の時の友達です、いまでも。

※ 続く

一覧へ