ロングインタビュー

Sunbirds Column

20251126日(水)

Vol.4 今はとにかく優勝したい。 「ファイナルのような舞台で自分の力を出す能力はある」

Vol.4 今はとにかく優勝したい。 「ファイナルのような舞台で自分の力を出す能力はある」

「相手の心理状態を読むのは得意」

小川智大はいつも自信にあふれている。磨いてきた技術と経験、そして自身の観察眼を信じているからだ。今季、ジェイテクトSTINGS愛知からサンバーズに移籍し、チームに合流したのは日本代表での世界選手権を終えた9月末。それでも開幕戦からコートの中で絶えずチームメイトに声をかけ、指示を送った。まるでずっと前からサンバーズにいたかのように、なんの遠慮も躊躇もない。それがリベロ・小川のスタイルだ。
どこにいても自分をブラさない、その強さの源はどこにあるのか。開幕から6試合を終えた11月中旬、小川にインタビューした。

ーサンバーズでも、コートの中では常に周りに声をかけ続けていますね。
そうですね。たぶん僕、コーチとかに向いていると思うんですけど、人をどうやって動かすかだったり、相手が何をしようとしているのかを考えるのが得意なので、それを考えて周りに伝えています。表情やしぐさなどを見て、「相手はこう考えているかな」と心理状態を読みます。例えば、相手がサーブレシーブをして乱れたあとの態度とか、めっちゃ見ていますね。

ー 小川選手にはすぐに癖を見抜かれると話す選手もいます。ショートサーブを打ってもバレている、とか。
見抜くのは得意です。相手が何を隠そうとしているかを見ています。ショートサーブを打つ時は、サーバーはなるべく強く打つように見せたいから、すごく強く踏み込んだりするんです。そういうところを見ますね。
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今や世界トップリベロの1人となった小川は、小学3年生の時にバレーボールを始めた。最初はアウトサイドヒッターだったが、中学3年のJOC杯でリベロを務め、高校ではリベロに。高校3年時はセッターをこなしツーセッターで戦ったが、明治大学ではリベロに専念した。
「リベロ以外、あまり才能がなかったんで。背も小さいですし、リベロ以外に道がなかったという感じです。もともとサーブレシーブやディグは得意で、面白いなと思っていましたし」と振り返る。
大学卒業後はウルフドッグス名古屋に入団し、2021年に日本代表に初選出。その後は代表に定着し、大阪ブルテオンの山本智大と日本の守護神の座を争ってきた。
クラブでは、2022-23シーズンのVリーグ(現SVリーグ)で優勝。昨季はジェイテクトに移籍し、ファイナルでサンバーズと戦った。サンバーズは過去5シーズン連続でリーグのファイナルに進出しているが、そのうち3度、小川の所属していたチームと対戦している。その小川が今季はサンバーズへ。その決断の理由を、率直に明かした。


ー いろいろな選択肢があったと思いますが、今季サンバーズへの移籍を選んだのはなぜですか。
正直なところ、僕は昔から海外志向で、ずっと海外リーグに行きたいという思いがあるんですけど、昨季までは(オファーがあって)行けるチームはあっても、自分が希望しているようなチームではないという状況でした。パリ五輪までは、(代表メンバーに残るためには)海外であってもレベルの高くないチームに行くのはメリットはないなと思っていましたから。今回もロス(ロサンゼルス五輪)までの4年間が始まって、すぐに来年にはオリンピック予選(アジア選手権)がある。だからどのタイミングがベストなのかはわからないんですけど、それでも今季はチャレンジしたい気持ちがあったので、海外か国内かで言えば、海外に行きたい気持ちのほうが強かったんです。

でも、行こうとしていた海外のチームに結果的に行けなくて、それなら国内でやろうと。ただ、国内ではもうずっと長くやっているので、SVリーグのたいていの選手のスパイクやサーブが、もうだいたい感覚的にわかってしまっているし、試合前にも何一つ緊張しない状態です。だから(国内で)行くなら本当に強い選手がいて、レベルの高い環境。これ以外に選択肢がありませんでした。

僕の中では、サンバーズと大阪ブルテオンが二強なのかなと思っていました。もちろんチャンピオンシップのベスト4ぐらいまで行けば、どこが優勝するかはわからないんですけど、シーズンを通して見れば、この2チームが二強なんじゃないかと。もちろん中堅や下位のチームから優勝を目指すのも魅力的だと思いますし、どのチームに行ってもベストを尽くすんですけど、今は環境を重視したいなと思って。そこでサンバーズに運よく拾ってもらったという形でした。

ー やはり日本代表のことを常に頭に入れながら選択してきたんですね。
そうですね。ロスに照準を置いて、ロスを見据えながらやっているという感じですね。
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「サンバーズのブロックがすごすぎてボールが抜けてこない」

ーサンバーズに入って感じていることは?
自分の役割が、なんというか、減ったような感じはしますね。楽になったというか。ブロックディフェンスの関係で言うと、ブロックがすごいのでなかなかボールが抜けてこないですし、抜けてくる場所が変わってきました。これまでに外国人オポジットのブロックも何人か経験してきましたけど、やっぱりディマ(ムセルスキー)がいると違って、(スパイクが)抜けてくる場所が限定されます。相手もリスクを背負って(厳しいコースを)攻めてくるので、「あ、そっち抜けてくるんだ」というのがありますね。徐々に慣れてきてはいますけど。

ー ムセルスキー選手は高さだけでなく防げる範囲も広いんですね。
全然違います。高いだけでなく、幅も広いし、IQも高い。賢いです。相手をよく見ている。まずサーブレシーブの段階で、例えばアウトサイドの前衛の選手がコートの中に寄ってサーブレシーブをした時には、レフトにトスが上がる確率が低いのかを考える。そしてミドルブロッカーのコールがAクイックなのかBクイックなのかもすごく見ていて、瞬時の判断で動いているし、駆け引きもしています。イエゴ(クリュカ)も高さがあるし、すごく上手い。サンバーズのブロックが相手に与える威圧感は相当なものだと思います。
相手は、真ん中のクイックとパイプで攻めたいんだろうなというのが伝わってきます。だからこちらの7割、8割ぐらいのサーブがコンスタントに入り続けた時には、あまり負ける気がしない。でも逆にサーブが緩くなったり、ミスが多い時は、うまく回っていないし、自分たちの良さを活かせていないなと感じます。

ー サーブレシーブでは、今年からルールが変更になり、サーブレシーブ側は相手がサーブを打った瞬間からではなく、サーブのトスを上げた瞬間から位置を変えられるようになりました。その変更を活かし、小川選手がアライン選手やクリュカ選手と素早くポジションを入れ替わる場面が見られますが、それによってやりやすくなっていますか? それとも難しさもあるのでしょうか?
あの入れ替わりは、あまり必要ないな、しなくてもいいことだなと感じています。最初はトライしていたんですけど、動きすぎちゃって、変なミスが増えるので。周りを見ていても「もったいないな」と思うような場面がたくさんあるので、やりすぎると良くないなと。

ー ポジションを瞬時に入れ替わると、体勢が整う前に速いサーブがきてエースを奪われてしまったり?
そうです。それも経験なのでいいんですけど、今は、任せるところは任せたほうがいいかなと思っています。相手も毎回変えてくるので、そこも見極めないといけないし、変なことをしてミスるより、普通にやって、誰のミスなのかを明確にしたほうが、チームとしては次に切り替えやすいというのもあります。

入れ替わらなくても、自分が取る本数を増やそうと思ったら増やせますし、それに今サンバーズで勝つパターンを考えた時に、別に僕が取らなくてもいい、という傾向が見えてきました。ウルド(ウルフドッグス名古屋)にいた時やジェイテクトの時は、僕が取ったほうが圧倒的にパス(サーブレシーブ)の成功率が高かったんですけど、今は僕がたくさん動いて難しいボールを取るよりも、僕が「こっち取りますよ」みたいに見せておいて、(髙橋)藍のほうに打たせて藍が返したほうが、サイドアウトがうまく回るんです。

サイドアウト率が一番大事ですからね。動き回って(リスクを負いながら)Aパスを返すより、このチームならBパスCパスになっても、セッターには関さん(関田)がいるし、ディマやイエゴもいる。だからビッグサーブはある程度のところに上げて、ディマやイエゴに打たせるぐらいのつもりで。フローターのイージーサーブの時は、イエゴの負担はオーバーパスで取れる範囲だけにして、藍のほうに打たせて、パスを返して決めるというのが一番楽かなと。それが一番、サイドアウトが回ると思います。

ー 今季、小川選手がサンバーズでやり遂げたいことは。
そうですね......優勝、だけですかね。Vリーグに入って2年目ぐらいまでは、もちろんチームの成績は最重要ですけど、自分個人の成績も重視していたんです。やっぱり代表に選ばれるために、自分の数字を上げて評価されなきゃいけないというのがあったので。でも今はもうまったくそれがなくなった。レシーブ賞やリベロ賞などには興味がなくなって、今はもうただただチームの優勝が一番。以前もそれが一番嬉しかったけど、その気持ちがより強くなっています。

昨季は(ジェイテクトで)2位になりましたけど、全然結果を残せていないなという感覚でした。周りからは「頑張った」と言われましたけど、メンバー的には優勝して当然かなと思っていたので、もったいなかったなと。今はとにかく優勝したい。ファイナルのような舞台で自分の力を出す能力はあると思うので、優勝したいです。他にはないですね。
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冷静に広い視野でチームを分析する、まさにコート上の指揮官。戦術面の指示だけでなく、試合中や練習中、チームの空気を敏感に察知して、チームメイトを精神的にフォローすることも欠かさない。世界との対戦経験も豊富な守護神は、サンバーズが目指すリーグ連覇、そして世界一に向け、欠かせないピースだ。

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