2026年06月18日(木)
Vol.11「サンバーズが世界一になるために、敗戦をエネルギーに変えていく」オリビエ・キャットHC×栗原圭介GM
「勝ち続けることの難しさを、最後に教えられた」
静かな幕切れだった。
2025-26シーズン・SVリーグチャンピオンシップファイナル第3戦、第3セット18-24。大阪ブルテオンのオポジット・西田有志のサーブがサンバーズのコートに突き刺さり、勝敗は決した。
サンバーズのリーグ3連覇の夢が潰えた瞬間、コート上の6人はすぐに輪になり、肩を組んで静かに言葉を交わした。ネットの向こう側で喜びを爆発させるブルテオンとは対照的な姿。シーズンの戦いが終わったとは思えない、セットを奪われた時のいつもと変わらない光景。明日も試合があるのではないかと一瞬錯覚しそうなほどだった。だが、キャプテンの髙橋藍は泣いていた。
オリビエ・キャット監督がゆっくりと選手たちの輪に歩み寄り、1人1人を労った。紛れもなく、シーズンは終わったのだ。
SVリーグの前身のVリーグ時代を含めると、サンバーズは6季連続でファイナルに進出しており、そこで敗れるのは3年ぶりのことだった。
25-26シーズン限りで、髙橋藍、小川智大、藤中颯志、デアルマス アラインはサンバーズを退団し、樫村大仁と8季サンバーズを支えたドミトリー・ムセルスキーは現役を引退することが発表されていた。
「ディマ(ムセルスキー)に有終の美を」
「このメンバーでできる最後の戦い、勝って笑顔で終わりたい」
選手たちはその思いを胸にファイナルに挑み、3シーズン連続の栄冠は手の届くところにあった。ファイナル第1戦は3-1で勝利。第2戦も、第1セットを25-13と大差で奪い、第2セットも15-11とリードした。だがその後、チグハグなプレーが続いて相手にブレイクを許し逆転される。選手交代がはまり、サーブの勢いを増したブルテオンに流れを掴まれ、押し切られた。
ファイナルの数日後、栗原圭介ゼネラルマネージャーとオリビエ監督にインタビューを行った。2人からは悔しさがありありと伝わってきたが、同時に、リーグを通して43勝という、日本でもっとも多くの勝利を積み重ねた選手たちへの誇りと感謝の思いもにじんだ。
ーシーズンを振り返っていただきたいのですが、まだ今はファイナルの悔しさが一番でしょうか。
オリビエHC:もちろんです。監督として、細かい分析はまだ難しい。1シーズンが終わった時というのは、特に負けると、誰かに自分の電源のコードを引き抜かれたような気持ちになってしまいます。深い分析はもう少し時間が経ってからしていこうと思っていますが、今持っている印象としては、ファイナル2戦目に勝てる機会を逃し、そこからブルテオンが息を吹き返し、勢いをつけさせてしまった。それでも我々も、諦めないという強いエネルギーは保っていました。
もちろん残念な気持ちはありますが、レギュラーシーズンでサンバーズが達成したことは本当に素晴らしかったと思っています。今季(25-26シーズン)限りでディマが引退し、藍がチームを離れる。トモ(小川)も。トモがサンバーズでプレーしたのは1シーズンだけでしたが、我々にとって大事な選手でした。今は失望感もありますが、今季チームが達成したことは素晴らしかったのだと、将来気づく時がくると思います。
栗原GM:オリビエも言ったように、まだしっかり映像を見直したわけではないし、深く会話をしたわけではないんですが、感覚的にはやはり2戦目がポイントになったのかなと感じます。たらればになってしまいますが、あの第2セットを取れたか取れなかったかが、分岐点だったのかなと。3戦目に関してはもう完全に相手のペースで進んで、完敗というか、数字的にも相手がかなり上を行っていた。本当に2日目で決めなければいけなかったなというところですね。
ただ本当にシーズンを通して、9割以上の勝率を残すことなんて近年なかったと思います。ファイナルで勝てなかったのは残念ですが、開幕から約7ヶ月間、チーム発足以来と言っていいほどの快進撃で29連勝というリーグ記録も達成しましたし、レギュラーシーズン優勝もしました。周囲は"SVリーグ連覇"と言っていましたが、Vリーグ時代を含めると3連覇がかかったシーズンでした。我々の(2003-04シーズンの)5連覇以降、20年以上、3連覇したチームは男女を通じてなかったので、そういうところに挑戦できたことも誇りに思います。そういった意味では成果もたくさんありましたし、本当に勝ち続けることの難しさを、最後に教えられたシーズンでした。
ー おふたりがおっしゃったように、ファイナルは第2戦の第2セットが分岐点でした。第1セットを大差で奪い、第2セットも中盤4点差をつけましたが、そのあとミスが出るなどして流れが変わりました。あの時何を感じていましたか。
オリビエHC:あの第1セットはパーフェクトでしたが、むしろ完璧すぎました。うまく試合の流れを支配できすぎていた。ああいう時、セットを取られたチームはリスタートしやすいし、(第1セット終盤からコートに入ったブルテオンの)甲斐優斗選手を乗せるきっかけを作ってしまった。第2セットは、ブレイクのチャンスがたくさんあったにも関わらず、こちらは十分な効果率を出せなかった。一方で相手には優れた選手がたくさんいて、特にミゲル・ロペス選手のハイボールのシチュエーションでのスパイクは素晴らしかった。サンバーズにはリーグトップのブロッカーが揃っていますが、それでも対処できませんでした。
ファイナルのレベルは決して低いわけではなかった。こちらも高いレベルでプレーしていましたが、それ以上に相手がよかった。こちらがいいスパイクを打っても、信じられないようなディグで拾い、西田選手の非常にいいサーブもあった。ネットから15mほども離れたところから上がったトスを、ロペス選手が決める素晴らしいプレーもあった。それが今季のファイナルのストーリーでした。
私は負けた後に言い訳をするタイプの監督ではありませんが、AJ(アライン)がいたら、チームをヘルプしてくれていただろうと思います。5分、10分という短い時間であっても、選手交代ができれば、試合の流れを変えることもできたんじゃないか。しかし(アラインは膝の怪我をしていたため)その選択肢はなかったので、非常に厳しい状況でした。
我々のチームのストーリーにおいては、ディマが引退する、藍やトモが来季は日本を離れるということがあり、選手たちは様々な感情を抱えていたと思います。それはプラスに働くこともありますが、劣勢では「勝たなければ。やらければ」という心理状態になることもある。そうなると難しいもので、3、4本大事な場面で決められず、流れが変わる要因の一つになったと感じます。しかし先ほども言ったように、我々は弱いチームに負けたわけではなく、ブルテオンは素晴らしく強いチームだった。今季加入したセッターのアントワーヌ・ブリザール選手が、大きな変化と自信をチームにもたらしていたと感じました。
栗原GM:技術的な部分も精神的な部分も、その通りだと思います。本当にスタッフ、選手はしっかりと自分の役割をまっとうしてくれましたが、ブルテオンのほうが試合巧者というか、引き出しが多かった。その中で、決めるべきポイントをすべてブルテオンが取っていた。うちとしても最善は尽くしましたが、相手のほうが一つ二つ上だったという感じですね。
オリビエHC:今後はさらに深い分析をして、来季(26-27シーズン)への準備をしていきます。サンバーズも最後まで諦めなかったことは誇りに思います。一度リフレッシュをして、来季に向けて自信とエネルギー、モチベーションを高め、再びファイナルで戦える準備をしていきます。
ディマの姿勢を引き継ぎながら、新たなチームを作る
ーお話にも出ていますが、サンバーズで8年間プレーしたムセルスキー選手が引退。これまでは攻撃だけでなく、守備面でもムセルスキー選手のブロックありきでシステムが作られていました。その柱が抜ける来季からは新しいスタイルのバレーを構築していくことになると思いますが、どんなイメージを描いていますか。
オリビエHC:まず言いたいのは、監督として、そして一バレーファンとして、ディマの監督をできたことは本当に光栄で素晴らしい経験でした。彼はプレーヤーとしてだけでなく、人としても素晴らしい人格者で、みんなの模範となっていた。外国人として日本に適応し、日本のバレー全体をより良いものにしました。非常に頭がよく、知識も豊富で、チームメイトにプロ意識も植え付けた。彼のような人に代わる選手はいません。ですから来季はまったく違ったチームになります。
ディマのことはずっと心の中には留めておきますが、プレーヤーとしてのディマは一旦忘れて、サンバーズはこれまでとは違った戦い方を見つけるという、新しいチャレンジが重要になります。新たに加わる外国人選手も含め、個々の選手のレベルや能力を考慮して、新たなスタイルを築き上げていく。サンバーズにとって大きなチャレンジになりますが、再び強いチームを作り上げていきます。
栗原GM:来季のチーム作りについて監督と具体的な話をするのはこれからになりますが、今季のレギュラー3人が抜けるので、もちろんまったく違うチームになります。ディマがいるからこそできたバレーボールというところからは離れますが、ディマが残してくれたもの、例えば、バレーに取り組む姿勢やいろいろな考え方は、残った選手がしっかり引き継いでくれているので、いなくなったからといってゼロになるとは思っていません。
ディマの一番すごいところは、自分のためではなく、常にチームのために考えて動いたり、発言していたこと。彼はベラベラ喋るタイプではありませんが、やっぱり要所で的確なアドバイスを送っていたし、ここぞという時に精神的な柱になっていた。ディマが植え付けてくれたものは引き継ぎながら、新たなチャレンジ、新たなチーム作りというところで、今後監督とも会話していきたいなと思っています。
ー ファイナルでは、アライン選手の怪我もあり、ミドルブロッカーの交代や、イゴール・クリュカ選手が守備固めのため藤中選手と交代する以外、ほぼメンバー交代がない状況でした。レギュラーシーズンからメンバーを固定してきた弊害でもあったと思いますが、来季以降はより幅広い選手起用を考える可能性はありますか。
栗原GM:約50試合にも及ぶシーズンですから、やはり限られたメンバーだけではきついのかなとは思っています。今季も固定して戦ったわけではなかったんですが、夏場に鍬田憲伸がアキレス腱を切ってしまったり、最後、AJも膝のコンディションが整わないなど、イレギュラーなところがありました。やはりいろいろなメンバーを使いながら戦わなければ厳しいなというのは今の段階では考えていますが、具体的にはこれからの話になりますね。
オリビエHC:圭介さんも言ったように、アウトサイドヒッターにいくつかトラブルがありました。私が日本に戻ってきた初日に、憲伸がアキレス腱を断裂してしまった。憲伸はその前のシーズン、(レンタル移籍していた)ヴォレアス北海道で活躍し自信を得て帰ってきていたので、期待していた選手でした。憲伸が活躍してくれれば、藍にも休息を与えたいと考えていたのですが。
シーズンを通して振り返ると、序盤はイエゴ(クリュカ)がまだチームや日本での生活に慣れていなかったこともあり、AJと交互に起用したりしていましたが、イエゴがサンバーズに慣れて、身体的にもメンタル的にも準備ができたシーズン後半戦は素晴らしいプレーを見せてくれました。
全体を見ても、ミドルブロッカーでは鬼木錬や佐藤謙次が成長したシーズンでしたし、セッターの下川諒もチームをたくさんヘルプしてくれた。(先発出場したレギュラーシーズン最終週の)東京グレートベアーズ戦でのプレーも素晴らしかった。来季はよりバランスを取っていきたい。途中でAJが怪我をしてからはアウトサイドのメンバーチェンジが難しくなったということがあったので、来季に関しては練習中から解決策を見つけていきたいと思っています。
ー 最後に新シーズンの目標を聞かせてください。
オリビエHC:ファンのためにプライドを持ってプレーしますし、毎日体育館で"PLAY HARD"します。今季も我々は、ファイナル第2戦の第2セットに失った数分間はありましたが、シーズンを通して本当にハードワークし続けました。バレーだけでなく、人生においても、勝ち続けることよりも、負けから学ぶことも多い。サンバーズが世界一になるために、敗戦をエネルギーに変えていきたい。もちろん3連覇していたら劇的だったかもしれませんが、我々はここで止まるわけではなく、チャレンジし続ける。新しい選手を受け入れ、みんなが新しいチームに早く慣れて、自信を持ってプレーできるよう手助けすることが大事だと思っています。
栗原GM:「王座奪還」はそれほど簡単なことではないと思っています。とにかく、今続いているところで言えば、6シーズン連続でファイナルに立っているので、まずはやはりまたファイナルの舞台に立つチームを作ること。本当にハードワークしながら、大きなチャレンジをするシーズンになると思っています。
前人未到の29連勝を成し遂げた、あのメンバーで躍動するサンバーズを見ることはもうできない。だがサンバーズは前に進み続ける。あのファイナルで悔しさを噛み締めた選手たちと、新たに加わる選手が融合し、サンバーズはまた新たな最強伝説を紡ぎ上げていく。
(取材・文 米虫紀子)