2025年09月24日(水)
Vol.2 下川 諒、喜入 祥充、藤中 颯志
強力なライバルの入団。3人の率直な心境は
ー 今季はセッターの関田誠大選手、リベロの小川智大選手が移籍加入。ご自身とポジションが重なる選手の加入には様々な思いがあったと思いますが、それを知った時の率直な思いを聞かせていただけますか。
喜入:
やっぱり噂って流れるもので、(移籍先が)うちか、別のチームかみたいな噂があったんですけど、僕は「うち来るかぁ?」みたいな感じでした。でも先にリリースを見た奥さんから、「小川君来るやん!」とLINEが送られてきて(笑)。それを見て、「ああ、そっか」と。その時点で自分の頭の中では、リベロが3人になるので、まずユニフォームを着るために「今年は跳ばなあかんな」とか「サーブもやらなあかんな」と、そっちの思考がパッと出てきましたね。
ー リリーフサーバーから守備固めで入ったり、入団まもない頃のようにアウトサイドでの起用にも備えようと。
喜入:
はい。「リベロで争って俺が出てやる!」というより、そっちのスイッチのほうがちょっと早かったですね。(小川は)それぐらいの実力者というか、そういうリベロなので。もちろんリベロとして彼のプレーを間近で見られるので、そこは吸収しつつ、自分ができることでチームに貢献しようと思ったら、そっち(サーブやスパイク)を意識したほうがユニフォームを着られる可能性は高いなという判断がありました。「この1年はそっちで頑張るか」という感じです。昔からのファンの人の中にはそれを楽しみにしてくれている人もいますし。
藤中:
すごい答えづらいな......。もちろん来るからにはポジション争いをすることになるし、自分も、日本の中では小川さんが一番のリベロだと思っているので、尊敬するべきところはたくさんあります。小川さんはサーブレシーブがいいとよく言われますけど、僕はトータルで見ても小川さんかなと思っていて。もちろん「なんでだよ」という思いもありつつ、頑張れたらいいなと思っています。今年日本代表で一緒にネーションズリーグに行きましたけど、学ぶべきところがたくさんあったので、吸収できるところは吸収して、なおかつ自分の強みは出していきたいと思っています。
ー 小川選手から吸収したい部分と、ご自身の強みとは?
藤中:
リベロとしての動きは、小川さんのほうがずっと長い期間やっていて、視野の広さや見る観点がすごい。ブロッカーや他の選手に指示を出したり、そういうのが上手だなと思うので、リベロとしての声掛けや動きというのは学んでいけたらなと。技術の精度や安定性も高いですし。でもスピードだったり反応速度というところは、めっちゃ負けてるかと言われたらそうじゃないと思うので、活かしていきたいと思います。
喜入:
次、シモは?
下川:
僕は、昨季、大宅(真樹)さんとプレーできたのもすごくよかったですし、関田さんが今季来るとなった時も、日本のトップのセッターと一緒に練習できて、間近で見られるという部分ですごく嬉しさはありました。その中で、「今季もまた試合に出る機会が少ないのかな」という思いもあったんですけど、昨季も、少ない機会の中でも結果を残せば、また次にチャンスがくると感じた。だから今季はまず一緒に練習する中で、AB戦で関田さんが「なんだあいつ」と思うぐらいできたら、Bチームも、試合に出ても勝てるぐらいのチームになると思うので、それができるようにやっていきたいなと思います。
ー これまで関田選手と対戦して抱いていたイメージは。
下川:
トスの質はどのセッターと比べても、比べものにならないぐらいすごいなと感じていましたし、試合を組み立てる中で、例えば1セット目はパイプを使わないで、2セット目から多くなるとか、こちらのミーティングとは違うことをやってくるので、組み立ての部分もすごいなと。
喜入:
自分はスパイカーだった時に、関さんにめっちゃブロック止められていましたね。大学の時も堺(日本製鉄堺ブレイザーズ)にいた時も。人のことを観察したり読む能力に長けているんでしょうね。セッターはそれが普通なのかもしれないけど、頭を使って、賢くバレーボールをしている印象です。
藤中:
トスの質ももちろんですけど、トスワークがすごいなとずっと思っていました。使いどころですね。「あ、ここでこれ使うんだ」という。これまで関さんは日本代表やジェイテクト(ジェイテクトSTINGS愛知)という、オポジットが日本人で、どこの攻撃もバランスよく強いというチームでのトスワークだったので、今回サンバーズで、もちろんレフトも強いですけど、やっぱり大黒柱のディマ(ドミトリー・ムセルスキー)がオポジットにいる中でのトスワークが、どんなふうになるのかな?というのはすごく楽しみです。
ー 関田選手がチームに合流して2ヶ月ほど経ちましたが、イメージと違ったところはありますか? 1ヶ月ほど前に関田選手にインタビューした時は「まだ周りに気を遣われています」と話していましたが。
喜入:
練習中はもちろんちゃんとコミュニケーションを取っていますけど、普段から関さんに、わけわからんぐらいガツガツ行っているのはAJ(デ・アルマス アライン)ぐらいです(笑)。でも自分が勝手に想像していた関さんとはちょっと違って......。もっと他の選手とぶつかるというか、関さんはうまいから、自分の中で「こうだ」というものがあって、人に対しても「もうちょいこうじゃない?」みたいな感じかと......。
ー 人にも厳しいイメージ?
喜入:
そうです。勝手にそう思っていたんですけど、そうじゃなく、ちゃんと寄り添ってくれる。「俺はこうだからこう来て」じゃなく、ちゃんとその人と向き合ってコミュニケーションを取っているし、チームに馴染もうとしてくれているなと感じます。
下川:
とにかく全部がすごくうまいなと感じますし、結構スパイカーに対して「こういう時はこうしたほうがいいんじゃない?」と、自分が持っている知識を伝えているので、その人の成長につながるし、引き出しが増えるのですごくいいなと。僕が関田さんにわからないことを聞いてみても、答えてくれそうだなって。
ー まだ聞いてはいないんですか?
下川:
まだ聞いてないです。ちょっと怖いんで。
ー 怖いんですか?(笑)
下川:
結構怖いんで。なんかオーラが......オーラをまとってるんで。
喜入:
"セッター会"とかやれば?「木曜日はセッター会です」って言って、飲みに行けよ!
下川:
(西田)寛基さん(現マネージャー)がいたらやってくれそうですけど......。
喜入:
あいつはそういうのできるもんな。ぜひやって。グループLINEで「何月何日、セッター会」ポロンッて送っちゃえ。
下川:
いや、まだ早いっす(苦笑)。
チームを陰で支える副キャプテンはどんな存在?
ー喜入選手は昨季に引き続き今季も副キャプテンを務めますが、何年目ですか?
喜入:
6年目ですね。今年サンバーズ8年目なんですけど、そのうち6年副キャプテンやっています。2年目で初めてやって、3年目は外れましたけど、4年目からはずっと。副キャプテンのベテランです(笑)。別に何かやっているわけじゃないですけど。どうせただのうるさいオジさんと思われてるんじゃないですか。
ー 他の2人は喜入副キャプテンをどう見ているんですか。
下川:
チームの雰囲気がよくない時も、喜入さんを見ているだけで......なんていうか、明るいじゃないですか。人柄がすごくいいので、自分も相談しようと思えばすぐにできる存在です。
喜入:
俺、オーラないかー。まだないかー(笑)。
下川:
いや、あるんですけど、優しいんで。プレーがうまくいかない時に声をかけてくれたり、すごく気にかけてくれるので助かっています。
藤中:
昨季で言うとキャプテンだった謙ちゃん(藤中謙也)が離脱した時とか、今みたいに(新キャプテンの髙橋)藍がいない時期に、副キャプテンの役割が大切になってくると思うんですけど、喜入さんは普段からいろんな人とコミュニケーションを取っている人なので、誰からも文句は出ないですし、そういうところは素直にすごいなと。しっかりチームをまとめてくれるのはありがたいなと感じます。
喜入:
コミュニケーションは取っています。得意というか、自分がただしゃべっているだけなんですけど。僕が何かするというよりは、みんな自立していて、自分でちゃんと考えてやっているので、それに対するサポートというか声掛けを、周りを見ながら、感じながら。それは副キャプテンじゃなくても、こういうキャラなんで。コーチではなく選手だけど、「今あなたこうなってますよ」とか。ネガティブなことで、ちょっと言いづらいことでも、勝つためには改善しないといけないことや、「それは違うやろ」と思ったことに対しては言います。 あと、Bチームで頑張っている人のモチベーションの維持も。練習のクオリティが下がったら、チームとして深刻な問題になりかねないので、そこだけは副キャプテンとして意識的に取り組んできました。「Bチーム楽しんでやろう!」とか、相手チームに扮して「俺らはどこどこサンバーズや!」とか言いながら、楽しみつつも、ちゃんとAチームの相手になるように。
ー 今年は髙橋藍選手がキャプテンに就任しました。それについては?
藤中:
すごいなと思いました。ただでさえ負担がデカいというか、チームの広告塔でもあるし、個人の取材もたくさんあるのに、キャプテンもやるのはすごいなって。僕よりもさらに若いので、年齢的にもフレッシュだし、藍自身もフレッシュなので、チームがさらに元気に、若返る要素になるのかなというのはありますね。
喜入:
颯志も若いのに、大ベテランみたいな見方(笑)。
藤中:
自分は俯瞰で見てるんで(笑)。
喜入:
確かに、藍ならできるだろうけど、「負担大丈夫か?」というのはありましたね。藍はリーダーシップがある人間だと思う。その中でもキャプテンにはいろんなタイプがいて、プレーで引っ張るのか、どんな感じになるのかはわからないですけど、チームがどうこうなるという心配はしていなくて、しっかりやってくれると思う。でも1人で全部やるんじゃなく、プレーには集中してもらえるようにしたいなとは思っています。
今は代表に行っているので、「代表どうや?」とか「チームこうだったよ」とちょくちょく連絡を取ったり、向こうも「今そっちどうすか?」みたいな会話もあります。藍は試合中は本当に「勝ちたい」という思いが強くて、ゾーンに入るじゃないですけど、そんな感じなので、今季も、キャプテンだからといって周りを見るというふうになりすぎず、いつも通りやってくれたらなと、それだけ思っています。
ー リーグ3連覇を狙っていくシーズンですが、そのためのポイントは。
藤中:
サンバーズはシーズン終盤に強いし、ファイナルに行ったらたぶん勝つと思っています。ただキックオフミーティングでも話し合ったんですけど、シーズン開幕時や序盤にコケないようにしたい。最終的にもつれると思うので、最初の1敗、2敗が響いてくる。今季も代表選手は世界選手権があって合流が遅いので、開幕戦やシーズン序盤に向けて、自分を含め全員が100%全力を出せるように、しっかり準備していけたらなと思います。
下川:
怪我がないのが一番ですけど、万が一何かトラブルがあって、僕が出ることになったら、絶対に負けないように頑張ります。
喜入:
3連覇に向けては、やっぱりそれぞれが自分の役割をまっとうすること。僕なら、副キャプテンとして、しっかりキャプテンを支えることと、今までやってきたコミュニケーションの部分を継続すること。プロ選手が増えて移籍が活発になっていますが、その中でチームを作っていく上で、コミュニケーションの重要度が上がってくると思うので。チームが勝てるように、雰囲気よくチームが3連覇に向かっていけるように、やるべきことをしっかり頭に入れてやっていきます。
今年6月、関田選手、小川選手、ロシア出身のイゴール・クリュカ選手のサンバーズ入団が発表された。いずれも代表で活躍してきた実力者。サンバーズにとっては頼もしい戦力だが、昨季SVリーグ初代王者になるという目標を達成したばかりの選手たち、特にリベロとセッターの3人には悔しい思いもあったはず。今回のインタビューでは前向きに開幕に向かう言葉が聞かれたが、ところどころにやはり悔しさもにじんでいた。しかしこれが「世界一のチーム」を目標に掲げ、さらなる強さを追い求めるサンバーズの姿勢。その中でポジションを争い生きる道を見つけようともがく3人は、きっと今季が終わる頃、さらにたくましい選手に進化しているに違いない。