サントリー1万人の第九サントリー1万人の第九

サントリー1万人の第九のつくりかたサントリー1万人の第九のつくりかた

歌って笑って合唱の楽しさを知る2時間

女性合唱団の「ふーーん、すてきだわ」の声に、「ふーーん、君もだよ」と男性合唱団が応える。8月31日、初心者・初級者向けの「淀屋橋Bクラス」で行われた第2回のレッスンにおける一コマだ。まるで漫談のような清原浩斗さん(67)の合唱指導に、始終笑いが絶えない。そんな「大阪らしさ満載」なレッスンの模様、そして参加者の声をリポートする。【西田佐保子】

淀屋橋Bクラスのレッスン風景=大阪市中央区の大阪倶楽部会館大ホールで2016年8月31日、西田佐保子撮影

笑い声の絶えないレッスン会場

「鼻から息を吸って、鼻骨の上のあたりに声を響かせるイメージで。声を遠くに飛ばすようにして歌いましょう」。2時間の練習時間のうち、1時間弱を発声練習に費やす。しかし、さまざまなバリエーションの発声法を取り入れたレッスンで、合唱団を飽きさせない。清原さんは、サントリー1万人の第九スタート時から合唱指導を担当する、いわば1万人の第九の「顔」でもある。

「指をつまんで、腕を頭の後ろに持っていって、声と一緒に前に出します。まず男性陣に向かって女性陣は『ふーーん、すてきだわ』、男性陣は『ふーーん、結婚してやるよ』と返してあげて」。清原さんの指示に皆が沸く。そして、体の緊張はゆるみ、声もどんどん出てくる。「いいね。大阪城ホールは声が響かないから、天上に声を飛ばすような気持ちで歌って」

次に、フクロウの鳴きまねによる発声練習。「山でフクロウが仲間を呼ぶように『ホー』と発声してみて。いいですね。では隣の人とフクロウ語で、今日の出来事を30秒でしゃべってください」。すると、会場に「ホーホーホー」というフクロウ語が響く。清原先生の「通じた人、手を挙げて」との問いに皆が挙手する。それを見て、「素晴らしいですね。通じるか!」と清原先生は一喝。会場は笑いに包まれる。

「天上に届くように、美しく発声して」。清原先生の声に「アーー」。男女全員が声を合わせる。レッスンスタート時に比べ声量の増した澄んだ声が会場を満たした。

高校時代を思い出した

レッスン会場となる淀屋橋・大阪倶楽部会館大ホールは、国の有形文化財にも指定されている歴史的建築物。淀屋橋駅から徒歩5分と仕事帰りでも通いやすいためか、参加者の年齢層は30代、40代の会社員が多い。

休憩時間中も楽譜を見ながら熱心に合唱練習をしている女性3人組に話を聞いた。「高校生の時に音楽の勉強をして、コーラスにも参加していました。『1万人の第九ってイベントがあるから出てみない?』と高校時代の合唱仲間2人に声をかけました」。そう語るのは、今回初参加だという岡本典子さん。誘いを受けた吹田敦子さん、土井まどかさん、共に高校時代はソプラノを担当していたが、「第九のソプラノは高音で、歌ってみたら少し苦しかった」と、3人ともアルトを選んだ。吹田さんは「アルトは主旋律を歌わないので難しい」、土井さんは「イタリア語の曲は経験があるけれど、ドイツ語の曲は初めてなので発音が難しい」と打ち明ける。それでも「高校時代を思い出します。実際に歌ってみてとても楽しい」と岡本さんは笑みを浮かべ、吹田さん、土井さんもその言葉にうなずいた。

会社員の田角祐介さんは、会社の先輩で14年前に参加経験のある河野貴治さんに誘われ、「おもしろそうだし、貴重な体験になると思って」初参加。「合唱の経験はありません。大学でドイツ語を専攻していたとはいえ、歌詞を覚えるのは難しいですが、練習は楽しいです。大阪という土地柄もあるのかもしれませんが、和気あいあいで、すぐに周りの人とも打ち解けられます」

テノールは国王、バスは王子様、ソプラノはお姫様、アルトはマリア様
「『Bruder(ブリューデル)』は、唇を30センチくらい突き出して。もっと突き出して」「『sanfter(ザンフテル)』は少しだけやさしく言って。うーん。まあ研究しといて」。譜読みで、単語一つ一つを丁寧に追って発音指導する清原さん。ブレスやアクセントについても細かく解説し、「全ての言葉でもっとも大切なのがBruder(兄弟)。『Alle Menschen werden Bruder(アッレ・メンシェン・ヴェルデン・ブリューデル)』、『すべての人々が兄弟になる』というキーワードを意識して」。

パート別の練習では、「ここはバスも高い音ですからね。ってことは……、テノールは楽しみ。元気?」と場を盛り上げ、「さあ、いけ!」と促す。「よう歌ってはるわ。素晴らしい」。すると会場からも拍手が起こる。「必ず歌う前には鼻で息を吸って。いくで!」。テノールのパート練習に移る。「テノールは国王、バスは王子様、ソプラノはお姫様、アルトはマリア様。国王はもっと輝いて!」と発破をかける。「優れたオーケストラでは、いろいろな弦が合わさって、一本の音に聞こえます。目をつぶると、まるで男性一人が歌っているように感じる。そこを目指しましょう」とアドバイス。続いて「いきなり高いです。行くわよ! いい?」との先生の声掛けに「いい!」と高音の声で応えるソプラノ。さすがのノリの良さだ。最後は全員で肩を組んで合唱。あっという間の2時間だった。レッスン後、参加者はお互いに「お疲れさま」と声を掛け合い、笑顔で会場を後にした。

腕を組んで合唱=大阪市中央区の大阪倶楽部会館大ホールで2016年8月31日、西田佐保子撮影

毎日新聞ニュースサイト
「クラシック・ナビ」に2016年掲載
http://mainichi.jp/classic/

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