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東京2025デフリンピック「音のない世界」で繰り広げられる白熱の攻防 目標は初出場で金メダル

東京2025デフリンピック「音のない世界」で繰り広げられる白熱の攻防 目標は初出場で金メダル

「耳がきこえない・きこえにくいアスリートのためのオリンピック」といわれるデフリンピックが今年11月15~26日、東京で開催されます。日本初開催となるスポーツの祭典には、「サントリー チャレンジド・スポーツ アスリート奨励金」で支援する選手からも日本代表に決まった選手たちがいます。その中の一人が、初めてデフバドミントン代表に選ばれた21歳の片山結愛(ゆめ)さん。プレー中は補聴器を外し、「音のない世界」で世界の頂点に挑みます。目標は混合ダブルスでの金メダル。私が初めてパラリンピックに出場したアテネ大会は22歳でした。3月末、当時の私と同じ年代のフレッシュな片山さんのデフリンピックにかける思いに迫りたくて、代表最終選考会が行われていた神奈川県立スポーツセンターを訪ねました。

谷「まずは代表入り、おめでとうございます!初の大舞台へ臨むことが決まりました!!」

片山「ありがとうございます!!」

谷「きょう、初めてデフのバドミントンを観戦しました。白熱した攻防があって、見ていてとても面白かったです。観客席から見ていると、一般的なバドミントンと違いがわかりませんでした」

片山「私も高校生までは一般のバドミントン競技をしていました。ルールなどは変わらず、唯一の違いは『音』が完全に聞こえないということです。補聴器を外すのでペアを組む選手とのコミュニケーションも手話が中心になります。私は人工内耳と補聴器の装着で日常会話にもあまり支障をきたすことがないので、競技をするまでは手話ができませんでした。口パクでも簡単な会話は成立しますが、サーブを打つまでの短い間に戦術を決めたり、人間関係を築いたりしていく上で手話は欠かせません。一から勉強しました」

谷「すぐに習得できるものですか」

片山「最初は大変でした(笑)。まわりの選手の中で手話ができないのが私だけだったのですが、みんなが手話と口パクだけでコミュニケーションを図る機会を作ってくれて協力をしてくれました。あとはデフの選手のインスタをフォローして覚えていきました。実は手話の習得にもセンスのある、なしがあるそうで、私はセンスがあるほうだと言われました(笑)。デフバドミントン競技を初めて3年が経ちましたが、だいたいは手話でコミュニケーションが図れるようになってきました」

谷「『音のない世界』でのバドミントンで、プレーの中で苦労されたことはありますか」

片山「私の場合、補聴器を外したら、飛行機のエンジン音も聞こえません。最初は聞こえなくても、目で見てプレーできるから何とかなるだろうと思っていましたが、実際にやってみると大変でした。バドミントンは相手がラケットでシャトル(羽根)を打つときの強弱を音で反応してプレーします。音が聞こえないと、ダブルスの場合、(前のポジション)前衛の選手は、後衛の選手がどんな強さで打ったかもシャトルが自分の顔の前を通過するときのスピードを確認するまでわかりません。目で追って、丁寧にシャトルの強さやコースを予測してプレーするので、展開が一般のバドミントンよりゆっくりになることもあります。私の場合は、慣れてくると、音に威圧されることもなく、静かなほうがプレーに集中できます」

谷「バドミントンは、いつからされていますか」

片山「小学3年からです。最初はダンスをやっていたのですが、ほかのスポーツをやってみたいと思ったとき、バドミントンのシャトルは、補聴器に強く当たっても安全だということを聞いてやってみようと思いました。もともと体を動かすことが好きで、スポーツは努力を積み重ねて結果を残したときの達成感が魅力です」

谷「一般のバドミントンでも実績を残していたとうかがいました」

片山「高校2年秋のときに、地元の香川県大会2位になることができました。全国大会に出場したかったのですが、3年夏はベスト8で負けてしまいました。高校1年のときからデフのバドミントンがあることは知っていましたが、コロナ禍で合宿などに参加できず、大学入学を機にデフの世界に挑戦することを決めました。いまは岡山にあるノートルダム清心女子大学まで片道約2時間をかけて通い、香川に戻ってから練習をしています」

谷「いよいよ東京デフリンピックを迎えますね。どんな大会になると期待していますか」

片山「谷さんは東京パラリンピックで日本代表の旗手を務めていらっしゃいましたよね。パラがすごく注目されていたのを覚えています。私もデフのアスリートとして、今年の東京大会を機にもっとデフの魅力や存在を広めたいと思っていて、とても楽しみにしています。

 私からも質問していいですか。私は今回、デフリンピックに初めて出場しますが、パラリンピックは、他の国際大会とは違いますか?」

谷「パラリンピックには陸上の走り幅跳びで3度、東京大会はトライアスロンで出場しましたが、どの大会もとても素晴らしい思い出が残っています。陸上の世界選手権は2年に一度、トライアスロンの世界選手権は毎年開催されていて、ほかにも主要な国際大会もたくさん出たことがありますが、パラリンピックは全く別モノという存在です。4年に一度ということもありますし、東京大会ではパラへの注目度も高まっていました。プレッシャーも緊張もすごくあって、代表の最終選考会に臨むときはドキドキしていました。それでも、本番はたくさんの人たちから応援の力をもらい、自分自身をさらに成長させることができました。

片山さんは本番では緊張するタイプですか」

片山「普段から緊張するタイプで、世界デフバドミントン選手権の団体戦のときには思うようなプレーができなかったこともありましたが、経験を積んでいく中で、最近はメンタルも強くなってきました。個人戦のときは、あまり感情を出さないようにプレーするのでポーカーフェイスだって言われたりもします(笑)」

谷「ご自身の強みを活かして、ぜひ大会を楽しんでほしいと思います。本番も応援しています。デフの場合、観客席からはどんなふうに応援すると伝わりますか」

片山「声援は聞こえないのですが、うちわとかにメッセージを書いて応援をしてもらえば、すごく力になると思います。混合ダブルスで金メダルを目指しているので、ぜひ応援していてください」

谷「なるほど!いいことを聞きました!!言葉を書いて、思いを伝えるって、すごくいい応援スタイルですね。ぜひ、世界一を目指して、頑張ってください!!!きょうはありがとうございました」

PASSION FOR CHALLENGE
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