SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT

東京2025デフリンピック1か月前! 走力と頭脳を組み合わせた総力戦、オリエンテーリングに懸ける思いに迫る
耳がきこえない・きこえにくいアスリートのための「オリンピック」といわれるデフリンピックの東京大会(11月15~26日)の開幕が、いよいよ迫ってきました。今回は同じサントリーで働きながら、オリエンテーリングという競技の日本代表に選ばれた児玉健さんにお話を伺いました。9月下旬、東京・お台場の社内にある会議室に姿を見せた児玉さんはさわやかな笑顔と、40歳の落ち着いた雰囲気を醸し出す細身の男性でした。あまり馴染みのないオリエンテーリングとはどんなスポーツなのか。競技の魅力にも迫りました。


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谷「デフリンピックの日本代表入り、おめでとうございます。開幕が近づいてきて、少しずつ実感も出てきたころではないですか」
児玉「こちらこそ、本日は宜しくお願いします。実は、それほど実感が湧いてこないんです(笑)。というのも、谷さんのように、パラリンピックやオリンピックの代表選手は皆さん、4年に一度の大会に向けて、必死に練習を積み重ねて本番を迎えられますよね。ですが、私の場合は今回、この競技を始めたのも、デフリンピックを意識するようになったのも、実は昨年の夏くらいなんです」
谷「そうなんですか!では、1年くらいで代表に選ばれたということなんですね。それもすごいことですよ。どんなプロセスだったのか、とても興味があります」
児玉「それまでオリエンテーリングという競技はおろか、デフリンピックという大会が東京で開催されることも知りませんでした。少し時間を遡ると、コロナ禍の5、6年前、友人に誘われてハーフマラソンやトレイルランニングを始めたことが、そもそものきっかけになります。オリエンテーリングは、地図とコンパスを使って自然の中に設けられた競技エリア内のポイントを決められた順序で通過し、ゴールまでのタイムを競うスポーツです。山野を走るという点ではトレイルランニングと似ている部分もあります。それで、デフリンピックの競技になっているから目指してみないかと誘われ、地図記号なども一から勉強しながら競技力を身につけていきました」
谷「私は色々なスポーツに興味がありますが、オリエンテーリングという競技は、今回の対談をきっかけに初めて知りました。競技のおもしろさはどういうところにあるのですか」
児玉「おそらく、多くの人が、小学校のときにグループで歩きながら森などを探索するイメージを持っていると思いますが、競技のオリエンテーリングは走りながらポイントを目指すので、スピードと走力が必要です。一方で、焦って地図の読み取りをミスしてしまうと、自分がどこにいるかがわからなくなってしまいます。速く走るだけではなく、頭の中は常に冷静さを保っている必要があります。スピードと頭脳を兼ね備えたスポーツというところが競技の醍醐味です」
谷「なるほど。私が東京パラリンピックに出場したトライアスロンは、義足や車いすのパラアスリートも一般のアスリートと同じ会場でレースに参加します。オリエンテーリングには、デフアスリートならではのルールなどはありますか」
児玉「オリエンテーリングは、ポイントを通過したときに音と光で知ることができますが、デフ選手の場合は光だけで把握する必要があります。あとは大きな違いはありませんが、ほとんどの大会は年齢でクラス分けされているので、障がいのあるなしに関わらず幅広い年代が親しむスポーツになっています。競技が盛んな北欧では、小学校の授業などでもあるそうで、デフの選手も子どものころから地図に慣れ親しんでいると聞きます。そうした環境の違いが、地図を読み取る力の差につながっているのかもしれません」
谷「トライアスロンも海など自然の中で行う競技で、海外の大会に行くと、新しい景色を見ることができて、競技を続けていく上での楽しみになっています。自然の中で行う競技というのは、オリエンテーリングとの共通点ですね。私は家族で沖縄の海に練習に行ったり、東京パラリンピックの前には長男とニュージーランドに滞在してトレーニングを積んだりしました。児玉さんは普段はどんなところで練習をしていますか」
児玉「私はまだ海外はおろか、国際大会も東京でのデフリンピックが初めての経験なんです。普段は、東京・駒沢公園の走りやすいランニングコースや木々が生い茂っている林試の森公園などで練習をしています。会社ではデジタル本部に所属し、データ分析基盤に関する仕事をフルタイムでしていますが、職場の理解があって、テレワークを活用することができ、仕事との両立ができる環境に恵まれています。仕事を終えた後、夜暗くなった駒沢公園では、外灯の下で地図をパッと広げて、瞬時に地図読みをする練習もしています」
谷「デフリンピックも世界中のアスリートが東京に集まってきますよね。他の競技の選手との交流もできるんじゃないでしょうか」
児玉「オリンピックやパラリンピックが東京で2021年に開催されたときは、まさにそんなイメージでした。谷さんのことも、もちろん知っていて、すごい選手が同じ会社にいるんだなと思っていました。私はこれまで本格的にスポーツに打ち込んだ経験もなく、スポーツの国際大会は縁がない世界だと思っていました。ただ、仲間から、オリンピックやパラリンピックのように、大会用のネックストラップに取り付けるピンバッジを海外の選手と交換して集めるということを聞いて、とても楽しみにしています」
谷「国際大会ならではの交流ですね。手話は国によって違うと聞きました。そのあたりの不安はありませんか」
児玉「よくご存じですね。手話は国によって違いますが、国際手話を使ったり、ジェスチャーでも通じ合うことができると思います」
谷「パラリンピックも、私がアテネ大会に出場したときには認知度もまだまだ低かったことを覚えています。東京五輪・パラリンピックの招致が決まり、国内でも徐々にパラリンピックのことが知れ渡るようになり、パラアスリートを応援する機運も高まっていきました。今では身体に障がいがある子どもたちもスポーツを通じて、自分の可能性に挑戦する機会が広がっているように思います。デフ競技も東京大会をきっかけに、耳が聞こえない、聞こえにくい子どもたちのスポーツをする機会が広がればいいなと思います」
児玉「デフリンピックはオリンピックやパラリンピックと比べると、まだまだ知名度が低いです。私自身も存在を知らなかったくらいですから(笑)。でも、谷さんがおっしゃってくれたように、せっかく東京で開催されるので、次の世代にデフ競技が広まるきっかけにしたいですね。最近は、私もろう学校へ出張講義に出向く機会をいただきました。少しでも良い影響を与えられたらうれしいです」
谷「大会前に貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。本番も応援しています」
児玉「こちらこそ、本日はありがとうございました」



