SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT

#31 「17年ぶりのゲレンデ。雪に顔を埋めた。感動と興奮でいっぱいだった」

#31 「17年ぶりのゲレンデ。雪に顔を埋めた。感動と興奮でいっぱいだった」

アルペンスキー(座位) 藤原 哲選手

福島県障害者スキー協会
奨励金第1期~第3期

Q.競技との出会いは?

 出身は秋田県横手市です。子どもの頃から雪遊びやスキーに親しんでいました。スキー推薦で高校に入学しましたが、入学直後の1996年4月、スキー部の合宿でポールを担いで滑っている時に事故に遭い、脊髄損傷で車いす生活になりました。
 チェアスキーを始めたのは2013年、32歳の時です。「岩手チェアスキークラブ」の体験会に参加したのがきっかけです。

Q.17年を経て再びスキーを始めたのは?

 けがをして入院中、同じ病室の人に誘われて、2013年まで車いすテニスを楽しんでいました。この間もいろんな人が、「もう一度、スキーをやったら?」と言ってくれました。自分で車を運転してゲレンデを見に行ったこともあるし、スキーの夢を見ることもあったので、心の奥では未練があったんだと思います。でも、親にもう心配はかけたくないし、けがの怖さも先に立って、なかなか踏み出せなかった。
 挑戦への道を開いてくれたのは、仙台市で就職した頃から付き合いがある同市の車いす販売店の社長、斎藤忠義さんでした。斎藤さんと雑談中、僕がスキー経験のあることを話すと、斎藤さんはすぐに電話をかけ始めたんです。
 電話の相手はリレハンメルや長野のパラリンピックで活躍した元チェアスキー選手、四戸龍英さんでした。四戸さんは各地で体験会を積極的に開いています。斎藤さんから四戸さんへの電話で、僕が岩手チェアスキークラブの体験会へ参加することが決まりました。とても断れる雰囲気ではなく、「これは逃げられない」と腹を決めました。
体験会のことは親に内緒にしていました。でも、前日、ヘルメットをかぶっていたらバレてしまった。心配していたけど、自分の気持ちは揺るぎませんでした。この時にはもうワクワクしましたね。

Q.チャレンジした感想、そして競技の魅力を教えてください。

 雪上に出てまず最初に、雪に顔を埋めました。ゲレンデに戻れた感動と興奮でいっぱいでした。「ぎゅっぎゅっ」という雪の音も鮮明に記憶に残っていますね。
 実際にチェアスキーに乗って滑ってみると、立って滑るスキーより視線が低い。雪面に近いので、よりスピードを感じました。でも、その疾走感がたまらなかった。体験会からの帰り道の途中、興奮のあまり中学時代の同級生に「すごい楽しい!」って電話したくらいです。
 チェアスキーにはスピードとともにもう一つ魅力があります。最新のテクノロジーがつまっているスポーツだということです。チェアスキーのことを選手は「マシン」と呼びますが、トップ選手になると自分でマシンを分解し、バネの固さなどを調整します。コンディションに合わせたマシンのカスタマイズがメダルに直結すると言っても過言ではありません。

Q.夢や目標、いま力を入れていることは?

 2022年の北京パラリンピックでメダルを目指したいですね。それにはまず、国際大会の強化指定選手に選ばれて実績を出すことです。いいタイムを出すため、いかにスピードを落とさずにコースへ入っていけるかが課題です。バランスが大事なので、体幹を鍛えるトレーニングにも力をいれています。
 僕は、福祉用具を扱う会社で車いすのメンテナンスを仕事としています。自分のマシンや車いすのメンテナンスもしているんですよ。選手として車いすの知識を身につけるのはもちろんですが、同じ障がいを持つ人の車いすをより使いやすくしたり、悩みなどメンタル面でも支えたりする存在になりたいですね。そう思う理由は、これまでの僕がいろんな人にたくさん支えられたからです。
 高校入学直後に負傷し、手術のため仙台の病院に転院したので、学校は1年ほど休学しました。その後、運良くまた同じ高校に戻れた。学校は僕のために車いす用トイレや階段昇降機、エレベーターなんかの設備を整えてくれました。当時では画期的なことですよね。自分は恵まれていると感じましたね。本当に感謝しています。

Q.読者の皆さんへメッセージをお願いします!

 僕は、スキーで自分らしさを取り戻すことができました。そこから新たに夢が広がりました。本当にやってよかった。次は、スキーがだれかの新しい挑戦のきっかけになればうれしいですね。
 実は、長野県山ノ内町で開かれた今年の全日本チェアスキーチャンピオンシップのポスターに僕の写真が使われました。恥ずかしいですが、工務店を営む実家に飾ってあります。僕がスキーで大けがをしたのを知っているなじみのお客さんは、僕が今でもスキーをやっていることに驚くそうです。「どうやって滑るのか」「どうやってリフトに乗るのか」、そんなところからこのスポーツの魅力を知ってもらえたらいいですね。

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藤原 哲選手TETSU FUJIWARA

福島県障害者スキー協会
奨励金第1期~第3期

  • ●1980年9月19日生

  • ●秋田県横手市出身
    福島県天栄村在住

  • ●1996年 高校1年生の時、スキー部の合宿中に転倒した際、脊髄を損傷し車椅子生活となる

  • ●2015年 全日本チェアスキーチャンピオンシップに出場

  • ●競技をはじめた当初は、宮城県を拠点に無所属で活動。
    2015-2016シーズンより福島県障害者スキー協会に所属する。
    2016-2017シーズンからは福島県に移住し福島県の猪苗代湖周辺のスキー場をホームとして活動。

  • ●2017 第20回 福島県障害者スキー大会  大回転2位 回転2位
    2017 日本チェアスキーチャンピオンシップinよませ S大回転3位 大回転3位 回転3位
    2016 ジャパンパラ アルペン競技大会  回転 途中棄権 回転4位
    2016 第45回 全国身体障害者スキー大会  大回転1位 回転1位
    2016 第19回 福島障害者スキー大会 大回転3位 回転2位
    2016 全日本チェアスキーチャンピオンシップinよませ S大回転 途中棄権 大回転6位 回転4位
    2015 第44回 全国身体障害者スキー大会 大回転3位 回転 途中棄権
    2015 第18回 福島県障害者スキー大会 大回転4位 回転2位

  • ●趣味:スキー場めぐり、ハンドバイクツーリング、テニス
    家族:父、母、兄

PASSION FOR CHALLENGE
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