2026年7月21日、サントリーの研修施設「夢たまご」にて、“君は未知数”基金の第3回合同レビューが開催されました。2年間の助成期間の開始にあたって、全国から2026年度の採択団体、フェロー、サントリーの担当者が一堂に集結。さらに2024年度、2025年度の採択団体も加わり、フェローのひとりである小国士朗さんとの対話の機会も設けられました。相互交流と採択事業への壁打ち、学び合いを目的として行われた本イベントの模様をお届けします。
「生命の輝き」を目指して。サントリーが大切にする企業理念と3期目の採択団体の傾向
イベントの冒頭、“君は未知数”基金を担当するCSR推進部長の一木典子が、サントリーの企業理念についてあらためて共有しました。サントリーが掲げるパーパスは、「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命の輝き』をめざす。」。一木は、“君は未知数”基金がそれを体現する取り組みであり、助成金をお渡しして終わりの関係ではなく、採択団体と共に社会課題の解決に向き合う「共同事業」であると説明しました。
また、これまでの採択団体の傾向についても振り返りました。2024年度(第1期)は思春期の新しい居場所づくりに挑戦する団体が多く、2025年度(第2期)は非言語コミュニケーションを重視する事業が目立ったといいます。そして迎えた2026年度(第3期)の共通点は「大人の参画機会の創出」でした。子どもたちを支えるだけでなく、周囲の大人の関わりしろをどう広げていくか。一木は、そうした視点を持つ団体との出会いに手応えを感じていると語りました。
最後に一木は、“君は未知数”プロジェクトのアドバイザーを務める霊長類学者・山極壽一氏のメッセージを紹介。思春期は人間だけに見られる特有の時期であり、地域とのつながりが弱まるなかで、個人の能力向上よりも異なる他者と関係を築く「共同力」こそが求められている、というものです。一木は「地域や自然、文化に触れながらこの力を体得していくプロセスが重要になる」としたうえで、採択団体とともに新しい世界をつくっていきたいと締めくくりました。
5つの採択団体が「未知」へ挑む
2026年度に採択されたのは5つの団体です。アイスブレイクでは、各団体が活動内容や採択事業への思い、そして“君は未知数”基金への期待を語りました。
■「命を諦めかけた」10代が前を向けるオンラインの居場所を
家庭環境や学校生活に悩む10代のためのオンラインの居場所を運営する「認定特定非営利活動法人 第3の家族」。「孤独・孤立を抱える10代が現実世界で一歩を踏み出すイベント事業」で、3度目の申請の末に採択されました。常勤2名という小さな団体ながら、数十名のボランティアに支えられているといいます。
理事長の奥村春香さんは「生命自体を諦めようとしていたりする子たちが、いかに前を向いていくか。プレッシャーをかけない、支援らしくない形で取り組んでいる」と活動を紹介。「1回目、2回目と、審査員であるフェローからのフィードバックを踏まえながら“君は未知数”基金に応募する過程で、第3の家族自体もステップアップしてきた」と3度目の挑戦を振り返りました。
ほかの助成制度との違いについて、奥村さんは「既存の行政の制度の狭間を担っていることに共感した」といいます。助成制度はお金を出す・受け取るという上下関係があるなかで「一緒に走っていることを強く感じる。思春期世代の問題はまだまだ議論し尽くされていないが、まさに一緒に考えてくれていることがありがたい」と応じました。
加えて「いまの時代に求められるオンラインの居場所だけでは完結せず、どう実装していくかという答えを今回の事業で見つけたい」と語りました。
■大人のミュージカルから、子どもの「主体的に生きる力」を育む表現教育へ
これまで表現活動を通じて、多様な大人が互いの違いを活かし合い、ひとつのゴールへ挑戦する場を提供してきた「特定非営利活動法人 コモンビート」。今年度新設した表現教育事業部が手がける「表現教育で自分らしく人生を選ぶ子どもを育む事業」で採択されました。
理事の谷由紀穗さんは、出産後3カ月というタイミングでの事業始動について「初めての事業になるので、早々に復帰をして頑張りたい」と話します。「過去に別の青少年教育現場でよく知っていた助成金は、団体を支援するためだけのものというイメージだったが、“君は未知数”基金は、社会をより良くするために一緒にやっていくという印象が強い」と語りました。
表現教育担当理事の河村勇希さんは、これまでさまざまな活動をしてきたなかで、少年院や移民コミュニティの子どもたちと3日間でショーをつくり上げ、地域の人々の前で発表する活動に携わってきた経験を紹介。「『生命の輝き』を取り戻す」という一木の言葉に強く共感したといいます。
「コモンビートだけでこの事業を成り立たせようとすると限界がある。今回の機会を経て、サントリーや他団体と連携しながら年間を通してPDCAを回していける環境ができたのがありがたい。採択されて終わりではなく、2年後にきちんと成果を出せるよう、失敗も繰り返しつつ覚悟を持ってやっていきたい」と決意を語りました。
■カフェから広がる、地域一体型の「充電」「学び」「はたらく」
横浜市戸塚区でふたつのカフェ型居場所を運営する「認定特定非営利活動法人こまちぷらす」。産前産後の孤立防止から始まった活動は、団体設立14年を経て、当時出会った子どもたちが小中学生になったことを機に、学齢期支援へと広がっています。今回採択された「こどもの『充電』『学び』『はたらく』をつくる地域一体型居場所」では、3つの柱それぞれを担当スタッフが紹介しました。
「充電の場」を担当する大塚朋子さんは、不登校やひきこもりの子どもたちが月に一度過ごせる「ただいまのお家」について、「小さな安心をどう守りながら、まだ手が届かない子どもたちにもつながっていけるかが課題」と話します。
「学びの場」担当の守家文子さんは「学校の先生でも親でもない、いろいろな面白い大人に出会う機会をつくりたい」と語り、こまちぷらすが運営に関わる商店会の事務局を通じて生まれる大人とのつながりも学びの場に活かしていきたいと話しました。
事業責任者の多田香菜さんは、「自分の気持ちを吐き出せる場所が福祉の施設の外の街の中にあることに非常に驚いた」とこまちぷらすとの出会いを振り返りました。
加えて、「はたらく場」の地元商店や中小企業と若者をつなぐコーディネート業務については、「事業期間が終わったあとも続けられるよう、基金を立ち上げて補填していきたい」とし、「自分がやった仕事が街の誰かの役につながっているという、ローカルなつながりを大事にしていきたい」と話しました。
■元教員が仕掛ける、誰もが楽しめる海
神戸市須磨から始まり、全国60カ所以上に活動を広げてきた「特定非営利活動法人 須磨ユニバーサルビーチプロジェクト」。「『できない』を『できた!』に。思春期世代の挑戦を障がいで諦めない社会」の実現を目指し“君は未知数”基金に採択されました。
理事事務局長の土原翔吾さんは、かつて教員として不登校の生徒に向き合うなかで抱いた不甲斐なさから地域に飛び出しました。そこで出会ったのが、事故で車椅子生活となった木戸俊介さん。木戸さんはオーストラリアでのリハビリの過程でユニバーサルビーチを体験し、日本の神戸でも開催したいと思い、須磨ユニバーサルビーチプロジェクトを立ち上げました。現在は同団体の代表を務めています。
土原さんは「海水浴は目的ではなく手段。本当の目的は、そこでの挑戦が夢や社会とつながる次の人生のきっかけになること。そこを応援したいと思っている」と語りました。
また、合同レビューに対し「採択団体が一堂に会することも、助成企業の社員さんと近しく話せる機会もなかなかない」と横のつながりへの手応えを語り、「AI時代により体験価値が重視されるなか、日本という自然豊かな国で思春期の誰もが諦めずに挑戦できる場を全国につくっていきたい。次世代のリーダーを育て、若手で地域を運営してくれる仲間を見つけていきたい」と意気込みを語りました。
■生きづらさへの違和感から生まれた、地域の「創造の居場所」
30年近くアートスクール「アトリエ e.f.t.」を運営してきた実績を礎に、法人化されたばかりの「一般社団法人 みちをつくる」は「『創造の居場所』ユース拠点モデル構築事業」で採択されました。
代表の吉田田タカシさんは「独自の個性を磨き上げてステージで輝く人たちに憧れる一方で、なぜe.f.t.に通う子どもたちは人と違う個性を理由に生きづらさを感じるのか」という違和感が活動の原点にあると明かします。30年近く続けるバンド「ドーベルマン」でボーカルを務め、「社会課題を解決したいという大きな志があったわけではなく、自分のなかの悔しさ・違和感に丁寧に向き合ってきた結果がいまにつながっている」と吉田田さん。サントリーに対しては、「“君は未知数”というネーミングが、『子どもたちは未知数なんだ』という前提を私たちにもう一度教えてくれた。前提を疑って、常にパンクなマインドが漂っていることに共鳴した」という思いを抱いたと語りました。
理事の阿野晃秀さんは「地域の大人たちが地域の子どもを育てる文化を取り戻しつつ、本当に必要な教育や豊かな未来につながる教育とは何かを考える場をつくりたい」と語り、スタッフの田村典子さんは、来年開校予定の新拠点「e.f.t. カレッジ オブ アーツ」の準備を進めながら「その子にとっての『ここだ』と思える場所が見つかるよう、みなさんの活動から学びたい」と話しました。
フェローとともに悩みを持ち寄る「ミートアップ」
自己紹介のあとは、フェローを交えたミートアップが行われました。
今回参加したフェローは、非営利組織のガバナンス支援を手がける山本未生さんと、“君は未知数”活動全体の監修に携わってきた水谷衣里さんです。
山本さんは「みなさんが手がけている事業は、この国の未来をつくっている」と参加団体への敬意を語り、水谷さんは「今日出会った団体同士にも、すでに近しい部分や補完し合える関係が見えた。そのハブになれたら」と話しました。20分の持ち時間を2セット回すセッションで、各テーブルでは白熱した議論が交わされました。
“熱狂する素人”がつくり出す風景
午後は、2024年度と2025年度の採択団体も合流。フェローのひとりであり「注文をまちがえる料理店」や「deleteC」の仕掛け人として知られる小国士朗さんによる基調講演が行われました。
元NHKディレクターの小国さんは、山形放送局時代に視聴率0%を叩き出した経験もありつつ、その後「プロフェッショナル 仕事の流儀」など数々の人気番組を手がけてきた歩みを紹介。33歳での心臓病の発症をきっかけに、番組制作の現場を離れることになった経緯も語りました。
「番組をつくれないディレクターなんて役に立たない」と数カ月悩んだ末、ある朝「そうだ、俺は番組をつくらないディレクターになろう」と決意。「“つくれない”は受け身の状態だけど、“つくらない”は自分の意志。その違いがものすごく大きな変化だった」と振り返りました。
そこから手がけてきたプロジェクトとして、自分の肩書きと信念を入力すると動画が自動生成される「プロフェッショナル 私の流儀」アプリを筆頭に、さまざまな事例を紹介。「NHKのおいしいところをおいしい形で」届ける動画配信プラットフォーム「NHK1.5チャンネル」では、蚊に刺されにくくする方法(足の裏の常在菌を除菌する)を発見した高校1年生の研究を1分の動画に再編集して公開したところ、Facebookで世界1,800万回再生を記録。研究を続けたその高校生には世界25の大学からオファーが届き、のちにコロンビア大学の特待生として入学するに至ったといいます。「情報は同じなのに、届け方を変えるだけで彼の人生が変わった」と語りました。
高齢者施設の入居者がJリーグのサポーターになる「Beサポーターズ」では、サッカー選手のイニエスタを好きになり、ゼロからスペイン語を学び始めた86歳の認知症の女性、107歳でヴィッセル神戸のサポーターとなり最期まで「みんなでスタジアムに行きましょう」と語っていた女性、移籍した推し選手に会うため、クラウドファンディングで資金を募り860キロ離れた鹿児島まで会いに行った方のエピソードを紹介しました。
小国さんが繰り返し語ったのが「大切なことは届かない。届かないものは、この世に存在しないのと同じ」という考え方です。「北風と太陽」の寓話になぞらえ、恐怖や不安で訴えかける「北風」ではなく、思わず参加したくなる「太陽」のようなアプローチの大切さを説きました。
また「中途半端なプロが一番イノベーションを阻害する」とし、専門性を身につけるほど“地雷”を発見する力ばかりが育ってしまうと指摘。自身を「熱狂する素人」と位置づけ、課題解決そのものではなく「見たい風景」をつくることを目指してきたと語りました。
ワークショップ「12枚の流儀」
講演後は「12枚の流儀」と題したパネルを使い、対話形式のセッションが行われました。
特定非営利活動法人miraito(2024年度採択)の上田彩果さんから「NHKという大企業を辞めて機動力が増した一方、革命を起こせる範囲が狭まったと感じることはあるか」と問われた小国さんは、「NHKを辞めて情報発信で困ったことはない、むしろ自由になったと感じる」と即答。
「私は名刺に肩書きを書いていない。肩書きを決めた瞬間に、その人がイメージする肩書きとして見られ始め、自分もその肩書きらしく振る舞ってしまう。それによって一番損をするのは自分自身」だとし、プロジェクトには必ず“要石”――炎上リスクを引き受けてくれる、業界内で信頼されている専門家を中心に置くようにしていると明かしました。
「その道のプロが『ここまでは踏み込んでいい』というギリギリのラインを引いてくれることで、クリエイティブとしては最大限まで攻め込める」とも語り、一木も「サントリーがこの活動を単独で進めると、企業の論理が働いてしまうかもしれない。だからこそNPOのみなさんと組んで、現場の力を最大限活かす関わり方を考えている」と言い添えました。
第3の家族の奥村さんからは「自死や虐待のような暗いテーマも笑える革命にできるのか」という問いが。小国さんは、認知症の方が働くグループホームで、頼んだハンバーグの代わりに餃子が出てきても、入居者のみなさんがおいしそうに笑いながら受け入れていた光景に触れ、「厳しい現実のなかにも、認知症に興味がなかったはずの自分ですら思わずふふっと笑ってしまう瞬間がある。世の中の99.99%は無関心な“にわか”なので、そんな自分でも笑える瞬間をつかまえられれば、多くの人に届く」と答えました。
一方で「無理に笑わせようとしているわけではなく、大事にしているのは理想のなかの希望の風景をつかむこと」だとも述べ、それに対し奥村さんは「不謹慎だと控えていた部分もあったが、見せ方を工夫すればいいのだと励みになった」と応じました。
須磨ユニバーサルビーチプロジェクトの土原さんは「説得しない仲間の集め方」について質問。それに対して小国さんは、がんにり患した友人の「がんを治せる病気にするためのアイデアを考えてほしい」という依頼から立ち上げた「deleteC」のエピソードを紹介します。Cancer(がん)の頭文字であるCを消した商品をつくってもらい、それを購入すると売り上げの一部ががん治療研究の寄付になるという仕組みを思いつきますが、Cのつく企業・商品を100個ほどリストアップして訪ね歩いたところ、大半は怒られるか苦笑いされたそうです。そんななかでも「うっかり『それ、おもしろい! いいですね!』と言ってくれる“素敵なうっかりさん”が必ずいるので、そういった人を見つけて、仲間になってもらうことが大切だった」と明かしました。
「理屈より先に形にすることで、誰かの心が動く。最初から理屈で説得しようとすると、相手の理屈に合わせた分だけ純度が下がってしまう。純度100%のものを早くつくれるかが勝負」と語り、サントリーのC.C.レモンが賛同したことがひとつ大きなきっかけとなり、ほかのたくさんの企業が我も我もと参加を表明してくれるようになったと振り返りました。
コモンビートの河村さんの「物事をおもしろがる視点、ストーリーを捉える力をどう養うか」という質問には、幼いころから見続けてきたダウンタウンや志村けんのコントを例に挙げて回答。「例え話は、自分と相手が重なる部分をつくる装置。コントも同じで、荒唐無稽なはずの話を少しずらすことで、あるはずのない世界を『あるかもしれない』と思わせる。そのものの見立て方こそが、多くの人に伝わる伝え方につながる」と語りました。
タペストリーのように編まれる、3年目の合同レビュー
1日の終わりに一木は、この日の様子を「タペストリーが少しずつ編まれていく感覚があった」と振り返りました。
「3年目を迎え、採択団体も累計18団体になりました。アドバイザーの山極壽一先生や、小国さんをはじめとするフェローのみなさんから共に学んだ共通言語・共同経験がある仲間が増えて、大変心強いです。数が増えたことは、足し算でも掛け算でもなく、例えるならタペストリーの縦糸と横糸が増え、少しずつ編まれていっているような感覚がある」とし、3年目を迎えた合同レビューの手応えを語りました。
一木は「それぞれの活動については、当初描いた事業計画にとらわれすぎず、『見たい風景』に対してどうありたいかを率直に相談やディスカッションを重ねながら、共に挑戦していきたい」と語り、「今日も、同じことを大事にしていたり、似たフィールドで活動していたり、誰かが挑戦したいことをすでに経験している団体がいたりと、お互いに気づけたと思う。その補完関係をうまく接続できるハブに私たちがなれたら」と団体同士をつなぐ役割にも意欲を見せました。
これから2年間、5つの団体がどのように活動を広げていくのか、引き続き注目していきたいと思います。