宮城県気仙沼市で、東日本大震災からの復興まちづくりをきっかけに誕生した「一般社団法人 まるオフィス」。設立から10年を過ぎた現在、「10代が『夢中』を見つけられる社会」というビジョンを掲げ、地元地域を中心に中高生の探究的な学びの支援や、小学生の放課後プログラムの運営などを展開しています。“君は未知数”基金の採択事業では、高校生を対象としたボランティア合宿プログラム「01(ゼロイチ)ワークキャンプ」を実施。高校生が、多様な参加者との共同生活やボランティア活動に主体的に取り組み、地域との継続的な関係性を育みます。
ワークキャンプで育まれる若者の主体性と地域との継続的な関係性
まるオフィスの原点は震災復興支援です。復興ボランティアとして気仙沼市の唐桑地域で活動していた同法人代表理事の加藤拓馬さんを中心に、法人設立前からコミュニティペーパーの発行やまちづくりサークルの立ち上げ、地場産業の持続につながる観光ツアーの企画など、さまざまなアプローチで復興まちづくりに取り組んできました。
2015年の法人設立以降は、地域の体験学習プログラムの実施や、移住支援センターの運営、人材育成などの行政委託事業を手がけ、地域とのつながりを育みながら、子どもや若者に向けたプログラムを運営しています。
“君は未知数”基金の採択事業である「01(ゼロイチ)ワークキャンプ」では、高校生がおよそ1週間にわたって合宿を行い、被災地など社会問題の現場でボランティア活動を体験します。能登半島地震の被災地支援をきっかけにはじまった、高校生や大学生などの若者を対象としたまるオフィスのワークキャンプ。期間中のプログラムを運営するのは、参加者である若者たちです。一人ひとりがリーダーシップを発揮し、ボランティアの現場となる地域の人たちとコミュニケーションをとりながら、他人のために自らの身体を動かします。ワークキャンプを通して、参加者が自分自身の学びとなる“ゼロからイチの価値”を生み出し、知らなかった地域との継続的な関係性を構築する。そんな体験が若者たちの将来の選択肢を広げていくことを期待し、同法人は事業を立ち上げてきました。
社会のなかで他者と共に取り組む体験を。高校生が自分たちで運営する2泊3日
2026年7月7日(火)〜7月9日(木)に開催されたのは、2泊3日のショート版合宿「ちょいワークキャンプ」。宮城県内や関東エリアから参加した7名の高校生が、唐桑地域の子どもたちの「放課後」を一緒につくるボランティア活動に取り組みました。今回の参加者はすべて通信制高校に通う高校生たち。「たくさんの人と話したり、活動したりする経験をしたい」「地域に貢献できることをするのが好き」「周りの人から学んで自分の成長につなげたい」「前回参加して楽しかった」など、ワークキャンプへの参加には、社会のなかの自分と向き合う高校生ならではの、それぞれの想いがありました。
「3日間を自分たちでつくり上げよう」をミッションのひとつに掲げるちょいワークキャンプでは、高校生たちが話し合って場のルールや役割分担を決め、1日の食事内容やタイムスケジュールも自分たちで考えます。これについて加藤さんは、「ルールは与えられるものではなく、自分たちでつくって変えていっていいものなんだ、というメッセージを伝えたい」と語り、こう続けました。
「高校生は『〇〇していいですか?』と、すぐ聞くんです。でもこのキャンプでは基本的にみんなで考えて決める。プログラムを受ける“お客さん”ではなく、自分たちでプログラムをつくるという姿勢で参加してもらうことを大切にしています」
少人数のワークキャンプでは、一人ひとりの役割が大きく、他者とのコミュニケーションも避けては通れません。初日は話し合いを通してお互いを知り、食材の買い出しや自炊に挑戦し、ゲームやおしゃべりをしながら夜遅くまで交流を深めていた高校生たち。初対面の同年代が集まるキャンプに参加した勇気と行動力が、すでに彼ら自身の学びとなり得る大きな価値を生み出しているようでした。
非日常の体験の価値と学び。そこから生み出した自分の問い
キャンプ2日目は、小学生向け「放課後たんけん」プログラムのボランティア活動です。放課後たんけんは、まるオフィスと唐桑町まちづくり協議会が月に3回実施する、小学生の放課後の体験を応援するプログラム。広い体育館で身体を動かしたり、五感を使って地域の農産物や文化に触れたりする企画に、低学年から高学年まで毎回40人ほどの小学生が参加しています。ちょいワークキャンプに参加した高校生たちは、「小学生に最高の放課後たんけんを届ける」というミッションのもと、地域の大人たちと協力しながら小学生のための体験づくりに取り組みました。
今回の放課後たんけんプログラムは、地元の農家である三浦茂さんがつくったキュウリの収穫と浜遊びです。三浦さんのビニールハウスまで、小学生たちは路線バスやデマンド交通で移動。高校生は朝からビニールハウス内の草むしりをして収穫の準備を整え、放課後の小学校に子どもたちを迎えに行ってバスに乗せ、現地で収穫や浜遊びを一緒に体験しました。
放課後たんけんで活動するにあたり、加藤さんはこんなことを高校生たちに伝えていました。
「子どもと一緒に楽しめる相手であってほしい。子どもの“ワクワク”の瞬間を見守ってほしい」
自宅から学校や友だちの家まで距離があり、子どもだけで気軽に行動する機会が少ない唐桑地域の子どもやその家庭にとって、放課後たんけんは貴重な体験の場となっています。また気仙沼市には大学がなく、さらに唐桑地域には高校もありません。だからこそ、まるオフィスでは、ちょいワークキャンプで高校生が小学生の放課後たんけんに関わることに、大きな価値があると考えます。
放課後たんけんが始まると、高校生たちは自分が担当する学年の子どもたちの安全に気を配りながら、ビニールハウスではキュウリの収穫に手を貸したり、浜では一緒に砂遊びをしたり。積極的に子どもに関わっていくメンバーも、少し距離を置いて見守るメンバーも、それぞれ自分の役割を考え仲間と動き、元気いっぱいの小学生たちの放課後をサポートしていました。
キャンプの最終日は、気仙沼市のまちづくりの拠点施設である「気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザ」で、今回の活動を振り返るワークショップを行いました。加藤さんをはじめまるオフィスのスタッフは、「ワークキャンプを通して、探究したくなる問いやテーマを見つけて持ち帰ってほしい」という思いを込めて、彼ら自身の3日間のプログラム運営を見守ってきました。
ふりかえりワークショップにあたり、「これからは“解”よりも“問い”が大事になってくる」と高校生に向けて話す加藤さん。
「AIの力はいろんな場面で活用できるけれど、その先に、自分がどういう問いを持っているか。人間同士で問いを出し合って、その問いを愛で合うことができると、楽しい学びや仕事ができるようになると思います」
振り返りでは、3日間の経験を通して生まれた7人それぞれの問いに対し、全員でフィードバックし合い、さらに問いを深めていきます。テーブルには小学生に向けた場づくりやコミュニケーションに対する問い、キャンプ生活を通して生まれたチームづくりへの問いなどが並びました。その問いから一緒に過ごした仲間の思いを受け止め、自分なりのコメントや、さらなる問いを投げかける。そして仲間からのコメントを一つひとつ読んで、あらためて自分の問いと向き合い直す。そんなプロセスを真剣に楽しみながら取り組む高校生たち。最後は少人数で対話をしながら、3日間のワークキャンプをじっくり振り返りました。彼ら自身が唐桑町で生み出した学びや価値に輪郭を与えるような、大切な時間となっていたようです。
気仙沼からはじまる、10代が「夢中」を見つけるきっかけづくりの展開
今回のちょいワークキャンプには、まるオフィスのスタッフをはじめ、放課後たんけんの活動場所を提供した農家さん、放課後たんけんのサポーター、高校生の宿泊場所となった地元の民宿など、たくさんの人が関わっていました。こうした地域の大人たちと言葉を交わしながら、キャンプでの生活や活動を通して、高校生は地域とともに場をつくり、関係性を築いていきます。
現在、気仙沼市のほか埼玉県秩父郡でも開催されているちょいワークキャンプ。「10代が『夢中』を見つけるきっかけ」として、今後はさらに多くの地域で展開していくことを目標とし、同法人ではそのアプローチを検討しています。
「通信制の高校を選ぶ高校生が増えていく状況のなかで、同年代を含めたさまざまな世代とのつながりが地域にある。家族や学校の先生以外の多様な生き方の大人に出会える。いろんな人が混ざり合ったなかでの活動が、すごく大事な学びになると思っています。そういう状態が、キャンプサイトのように各都市の近くにひとつずつくらいはあるような環境を目指したい」と加藤さん。当事者である10代やその保護者に向けて、通信制高校への訪問やSNSの活用などに取り組んでいますが、より多くの人に活動を知ってもらうため、また必要としている人に確実に届けるため、ユースの居場所との連携なども視野に入れ、広報の可能性を探っています。
活動を持続的に展開していくにあたって課題となるのは、やはり資金と人材の確保です。助成金終了後も持続可能なかたちで高校生のサポートプログラムを広げていくため、ワークキャンプをさらに発展させたプログラムやマネタイズのあり方も模索しています。人材については、常勤職員のほかに非常勤やインターンのスタッフも活躍していますが、気仙沼市で仕事をするには移住が現実的な選択肢となる場合が多く、東京や仙台などの都市部に比べて採用活動は険しい道のりです。“君は未知数”基金の採択団体など、ほかのエリアで同じようにユースに向けた活動をする団体とつながり、コミュニティを醸成していく大切さを、加藤さんは感じていました。
また、ワークキャンプに限らず、多岐にわたる事業のなかで行政や教育機関などと連携しながら、地域課題に取り組んできた同法人。移住・定住支援や探究学習支援など、住民たちの暮らしや学びのベースとなる事業を通し、法人設立当初からさまざまな機関との関係性を築き上げてきました。これについては、震災復興という気仙沼が歩んできた道のりが大きく関係しているといいます。
「行政の力を借りる、NPOの力を借りる、民間の力で取り組む。震災復興の経験から、そのどれもが本当に大切なことだという意識が、このまちにはあります。気仙沼は活動団体と行政の仲がいいと言われますが、震災復興の活動があってコーディネーターを担える人がいたというのが、大きな理由かもしれません。NPOの言語と行政の言語を翻訳できる人がいて、お互いがつながることのできる連絡会のようなものがあった。そのおかげで震災直後から協働が進んでいったのだと思います」
震災復興からはじまった協働を、10年以上の時間のなかでさらに促進させ、持続可能なものにしている要因を聞くと、「最初からひとつの目的地に向かおうとしないこと」、と加藤さん。
「たとえば、高校生に将来このまちに帰ってきてほしいかということでは、地域の産業という視点では、やっぱり地元の産業の担い手になってもらいたい。一方で教育の視点では、地元に帰るかどうかではなく、彼ら自身の人生が豊かになることがゴールです。でも、地域のなかでいろんな人とつながり学ぶことが、高校生にとってもまちにとっても大事だということについては思いが一致する。だからなんとなく同じ方向を向いて一緒に取り組むことができるのだと思っています。目的地をぴったり合わせようとしないというのは、協働に取り組むうえで意識しています」
ビジョンとして掲げる「10代が『夢中』を見つけられる社会」に向けて、そのきっかけとなる種まきを、同法人は地に足をつけながら取り組み続けています。
「学校だけでなく、地域や社会のなかにそのきっかけがもっとたくさんあればいい。それをひたすらやり続けたい」という思いのもと、地域のなかの連携を促進しながら、ワークキャンプをはじめとする高校生のためのプログラムのさまざまな地域への展開を目指します。
【一般社団法人 まるオフィス】
宮城県気仙沼市河原田2-1-4
https://maru-office.com/