兵庫県神戸市で若者の居場所づくりや、若者による地域課題解決のプロジェクトなどを展開してきた「特定非営利法人 スコール(旧リベルタ学舎)」。地域に暮らす人が世代や立場を超えて対話し、経験を分かち合う、そんな“乾杯のできる場”を地域に広げていくことを目指し、2026年6月に法人名称を「スコール」(デンマーク語で「乾杯」の意)に改め、より一層ユース世代にフォーカスした事業に取り組んでいます。サントリー“君は未知数”基金採択事業では、中学校部活動地域移行を活性化させるモデル事業として、灘区の水道筋商店街に開設した「みんなの放課後 ユースセンター3:30(さんさんまる)」を拠点に、中高生の主体的なチャレンジを支援します。
日常の風景のなかにみんなで育てる。若者と地域をつなぎ直すユースセンター
7つの商店街と3つの市場が連なる神戸市の水道筋商店街。食料品店や日用品店、飲食店など多様な店舗が集まり、暮らしに根ざした市場の文化や人のつながりが受け継がれてきたエリアです。そのなかでも、細い路地に店舗が密集する灘中央市場の入口に、ユースセンター「3:30」があります。
地域の人たちの“日常”である商店街に開設したユースセンターについて、スコール代表理事の松田康之さんはこう話しました。
「商店街や市場には、さまざまな生き方をしているユニークな大人が本当にたくさんいます。『3:30』がここにあることで、中高生という多感な時期に多様な大人たちと出会って、十人十色の生き方があることを実感してもらえたらいいなと思っています。地域の『結節点』として、いろんなつながりを生み出していく、そんな場所を目指しています」
もともと「誰もが挑戦できる社会」を目指し、学生を中心とした地域の農業支援や、中高生による地域課題チャレンジプロジェクトなど、自治体からの受託事業を実施してきた同法人。ユースセンターの開設にあたっては、「子どもや若者と一緒に場をつくる」という思いのもと、市内の6つの中学校でワークショップを行い、どんな場をつくりたいか、自分たちが過ごす場になにが必要かを考えました。さらにwebアンケートでは、放課後の過ごし方や居場所に求めるものを調査。1213名の中学生の声を集めました。
そして実際に、商店街の空き店舗を中高生と一緒にDIYならぬ「DIT(Do It Together)」の精神でリノベーションしてつくり上げたのが、ユースセンター「3:30」です。施設の名称やロゴマークも、ワークショップを開いて中高生たちと考えました。
キッチンのある交流スペースに、寄付で集まったボードゲームや楽器が置かれたスペース、更衣室を改装した半個室のようなスペースもあります。オープンから2カ月が経ち、早くも100名以上の中高生が会員登録をしており、日々20〜30人の子どもたちが放課後の時間を過ごしに来るといいます。利用者のなかでも圧倒的に多いのが、今年中学生になったばかりの1年生です。
「すぐ近くに別の団体が運営する小学生の遊び場があり、そこで遊んでいた子たちが中学に上がって、新しい友だちを連れて『3:30』に来てくれるんです。いまは中学に入って新しい関係性を構築しつつある時期で、オープン前からDITに関わっていた子たちも、どんどん増える新しい子たちも、いい感じに混ざり始めています」と話すのは、同法人の事務局長を務める桝井ひとみさん。
「3:30」では、利用者にチェックインとチェックアウトを義務づけているものの、場所の使い方や遊び方には、基本的にルールを設けていません。オープン当初は遊んだものやゴミを片づけなかったり、壊したものを放置してしまったりなど、無秩序な場面も少なくなかったそう。それでも松田さんや桝井さん、そして同法人の副代表である大福聡平さんをはじめ、「3:30」に関わる大人たちが、利用者である子どもたちとフラットに対話をして、一緒に居心地の良い場を目指してきました。
「運営側でルールを決めてしまうこともできると思いますが、そういうやり方ではなく、どうやったらみんなが気持ちよく過ごせるかというのを、使う子どもたちと考えたい。気になることがあったらその都度ヒアリングしながらみんなで使い方を見直して、少しずつ改善されてきています」と大福さん。
施設前に雑然と置かれていた自転車も、いまでは子どもたちがなんとなく端から並べるようになってきたといいます。明確なルールがある学校とは違う、当事者として一緒に考えながらみんなでつくっていく自分たちの場。対話を大切にした「3:30」で、中学生になったばかりの子どもたちは、公共の場での振る舞い方や人との関わり方を身につけていっているようです。
中学生たちの放課後をいかに地域で受け入れるか
神戸市では2026年9月より、中学校の部活動がすべて終了し、地域のスポーツ・文化団体などが運営するクラブ活動へと完全に移行することが決まっています。市内の中学生が、学校の校区に関わらず、興味のある活動に参加できる新しい仕組みとして立ち上げられたのが、地域のクラブ活動「KOBE◇KATSU(コベカツ)」です。
すでに多くの団体が「コベカツクラブ」として中学生の受け入れ準備を進めるなか、参加費用や活動場所へのアクセスなどのハードルから、放課後の居場所のなさを感じる中学生が増える可能性も心配されています。地域全体がこれから始まる新しい仕組みを前に右往左往している状況のなか、ユースセンター「3:30」は立ち上がりました。スコールでは部活動の地域移行を大きなきっかけと捉え、地域と子ども・若者を改めてつなぎ直し、地域で学び育つ10代の若者たちを支える文化の醸成を展望しています。
「3:30」のほかに同市長田区でも交流拠点を運営する大福さんは、「移行期の中学生たちの受け皿を、地域でいかにつくれるか」が重要だと考えます。
「コベカツクラブにはボードゲームや金融教育など、これまでの部活動の枠にはまらないような活動の団体もたくさんあります。選択肢は増えていますが、コベカツの仕組みが中学生やその家庭になじむまで2、3年はかかるかもしれません。いろんな混乱があることを前提に、いかに中学生を受け入れられるかがすごく大事になってくると思います」
コベカツクラブの登録団体として、そして地域のユースセンターとして、現在「3:30」ではメインの利用者である中学生や地域の声を聴きながら、「やりたいことにとことん取り組める環境」の形成を進めています。
「地域移行が始まったときにすぐ動けるように、ウォーミングアップをしているのがいまなのかもしれません」と松田さん。
「すでにこの2カ月でいろんなつながりや動きが生まれていて、こういうことはこの人に相談してみようとか、これだったらあの人に頼めないかな、という地域の人たちの“関わりしろ”がたくさん見えてきています。部活動地域移行でこれから出てくる課題について、スコールの我々だけで取り組むのではなく、地域のみんなを巻き込んでやっていこうという気持ちです」
「3:30」で生まれる多様なハブがつくりだすネットワークと取り組み
松田さんの言葉の通り、「3:30」には子どもたちだけでなく、地域の大人や商店街の仲間も頻繁に顔を出します。ユースセンターという言葉を知らない人も多かったといいますが、中学生と一緒に場づくりをする様子や、中学生たちがつくり出す日々の賑わいは、いまでは周辺の店舗や地域の人たちの日常となっています。取材当日も、通りがかりにスタッフと挨拶を交わしたり、立ち寄って作業したり休憩したりする人たちの姿がありました。
そんな地域の人たちとの接点として、「3:30」では一箱本棚オーナー制度や応援喫茶、応援酒場、応援食堂を実施しています。本や飲食を通じて若者を支援するだけでなく、大人同士の交流や活動の場としても機能しつつある「3:30」。一箱本棚オーナー制度には近隣住民のほか、大学関係者や地域の企業が参加し、本棚の利用だけでなく中高生に向けたイベントの企画も生まれています。6月から始めた1回目の応援酒場では、スコールや「3:30」の活動に興味を持った地域の人たちが30人ほど集まり乾杯しました。近隣の飲食店仲間からはフードの差し入れなどもあり、若者のチャレンジを応援したい大人たちのネットワークが広がっています。
大人たちの応援制度は、居場所運営への支援でもありますが、そうやってさまざまな大人が出入りし、顔なじみになり、中高生にとって日常の風景になっていくことこそが、「3:30」が商店街にある意義でもあります。
開設から2カ月が経ち、小さな活動がたくさん生まれている「3:30」。この先の展開を聞くと、「未知数」だと松田さんはいいます。
「もともと期待していた展開でもありますが、ここでの出会いからいろんなコラボレーションが生まれているんです。今後はもっとそういうことを増やしていきたいですし、その中心にいるのが僕らでなくてもいいと思っています。一箱本棚オーナーが店番をする日ができてくるかもしれないし、地域の人たちが開くこともあるかもしれない。そうやっていろんなハブができて、いろんなところがつながっているという状態が理想です」
民間のユースセンターならではの柔軟性や、商店街という特徴的な立地のなかでの関係性のつくり方、そして協働。この先さまざまな地域で中学生の放課後をいかに支えていくかが課題になったとき、「3:30」がそのひとつのモデルとなっているよう、松田さんたちはユースセンターだけに閉じない場づくりを進めています。
組織としてもリニューアルし、ユースセンターの運営が始まったばかりの同法人ですが、“君は未知数”基金の助成を受ける2年間で、その後の自走に向けた体制を整えていくことも目標です。現在の組織運営の基盤は、基金のほかにマンスリーサポーターからの支援や、「3:30」の応援制度の収益、そして自治体からの受託事業です。民間だからこそできる自主事業と、自治体からの受託事業の両輪で、運営基盤の安定を目指しています。
「ユースの文脈では、地元の企業などともパートナーシップを結んだりして、地域みんなで若者の場を支えていく地盤づくりをしていきたいです。いまはおかげさまで大学生や社会人のボランティアスタッフが場所の運営を助けてくれているので、この2年間のうちに組織としての足元を固めて、より多くの人が有償のスタッフとして関われるような展開にもしていきたいです」
【特定非営利活動法人 スコール】
兵庫県神戸市灘区水道筋3-2-2 18Oji A
https://www.skalkobe.org/
みんなの放課後 ユースセンター3:30(さんさんまる)
ユースセンターオープン/火・木15:30〜20:00、土13:00〜18:00
そのほか応援喫茶、応援酒場、応援食堂のオープン日あり
https://www.instagram.com/sansanmaru_330_/