子どもの成長にとって、さまざまな「体験」は欠かせません。しかし、その機会は家庭環境、経済状況、居住地域などに大きく左右されます。この「体験格差」を、社会全体で解消しようと生まれたのが「こども冒険バンク」です。
こども冒険バンクは、認定特定非営利活動法人フローレンスとサントリーが共同で立ち上げたプラットフォームで、これまで1万枠以上の体験機会を提供してきました。その一環として、2026年4月4日(土)、武蔵野大学武蔵野キャンパスで同大学ウェルビーイング学部と連携したワークショップイベントを開催。アカデミア(大学)、NPO、企業の三者が連携する初の試みで、サントリーは協賛社として参加しつつ、両者をつなぐ橋渡し役を担いました。その様子をレポートします。
「世界初」のウェルビーイング学部の学生が仕掛けた冒険
こども冒険バンクは、社会貢献を行いたい企業(冒険パートナー企業)が体験機会を提供し、利用を希望する家庭(冒険会員)とマッチングするプラットフォームです。
利用できるのは、経済的に困難を抱える家庭やひとり親の家庭など。2026年4月時点で58社の冒険パートナーが参画し、1万枠以上の体験機会を届けてきました。
こども冒険バンクは、朝日新聞社などで構成されるウェルビーイングアクション実行委員会が主催した「ウェルビーイングアワード2025」モノ・サービス部門でグランプリを受賞。「ウェルビーイングの好循環が生まれている事業」という評価を受け、全会員を対象にした調査では、子どもの体験頻度や自己決定とウェルビーイングの間に一定の相関関係があることも示されています。体験の機会を届けることが、子どもの幸福度にも影響することが明らかになっています。
今回のイベントで子どもたちに冒険を提供したのは、武蔵野大学ウェルビーイング学部の学生たち。ウェルビーイング学部は2024年に開設された世界初の「幸せ」を専門に学ぶ学部で、心理学や健康学など幸せに関わる学問を横断しながら、自然活動や対話という体験を通して「ウェルビーイングとはなにか」を日々探求しています。
普段はできない、自然のなかでのものづくり
2026年4月4日(土)、武蔵野大学武蔵野キャンパス。自然豊かなこの場所に、子どもたち12名とその保護者ら8名が集まりました。今回のワークショップイベントのテーマは、落ち葉などを使ったお面づくりです。
まずアイスブレイクとして、風船リレーを行いました。学生1名と子ども3名でチームを組み、風船を身体に挟んだまま往復してリレーするというゲームです。シンプルなルールながら、子どもと学生が自然に触れ合い、関係性が育まれていきます。最初は緊張気味だった子どもたちも、だんだんと笑顔になっていきました。
続いて、メインコンテンツのお面づくりがスタート。
各チームはまずキャンパス内を自由に散策し、落ち葉や小枝などを拾い集めます。普段は滅多に入ることのない大学のキャンパスを歩き回るという体験は、それ自体がひとつの「冒険」です。枝を拾うことに夢中になる子、珍しい葉っぱをじっくり観察する子、走り回りながら集める子、それぞれのペースで、思い思いの素材を探し回りました。
サントリーCSR推進部長の一木典子は、「子どもたちは見慣れない葉っぱをじっくり眺めて、一つひとつの形や色の美しさを感じているように見えました。そうしてどんどん拾うのが楽しくなっていったように思います。一度経験することで見方が変わって、よりウェルビーイングを高めるのが上手になっていく。持ち帰れるウェルビーイングがこの時間にはありました」と振り返りました。
集めた落ち葉で思い思いに表現
室内に戻って、いよいよお面をつくります。集めてきた葉っぱや小枝を手でちぎり、台紙に貼り付けてつくる自分だけの作品。ハサミを使わずあえて手でちぎることで、制限のあるなかでどう自分らしく表現するかという問いが自然に生まれます。
子どもたちは黙々と、あるいは学生に見せながら、感性を思い切り活かして表現しました。参加した保護者たちも、真剣な眼差しでお面づくりに取り組んでいたのが印象的。完成したお面を被って部屋のなかを歩き回り、お互いの作品を見せ合う時間では、あちこちで笑い声があがりました。
午後4時、イベントは無事に終了しました。完成したお面を手に、子どもたちは晴れ晴れとした表情で帰路につきました。一部の参加者はラウンジに残り、テレビを見ながら軽食を食べ、学生たちとゆっくり交流を深めました。
参加した保護者からは、「またものづくりのイベントに参加したいです。自分たちだけでこういうことをするのはなかなか難しいので、こういう機会を設けてくれるのがありがたいです」といった感想が寄せられました。
日常のなかでものづくりや外出の機会が多く取れない家庭にとって、こうしたイベントは子どもだけでなく保護者にとっても貴重な時間です。子どもが学生のお兄さん、お姉さんと夢中になって遊んでいる間、保護者も安心して肩の力を抜ける――そんな機会にもなっていました。
学生だからこそ生まれる豊かなコミュニケーション
イベントを通じて浮かび上がったのは、「大学生だからこそできる関わり」というキーワードです。
フローレンス こども冒険バンク事業チームの林寛子さんは、今回の試みを通じて大きな気づきを得たと語ります。「大学の学生さんとワークショップをするのははじめての試みで、私たちにとってもある種の冒険だったんです。ですが、今日実際に体験して感じたのは、企業さんではできないことが学生さんにはできるということです。
学生さんは子どもたちの世界に入っていける。“ちょっと年上の、憧れのお兄ちゃん、お姉ちゃん”として子どもたちと接することができるのは、学生ならではだなと感じました。まわりにそういった立場の方がいるご家庭は限られますし、こういう機会をつくることは子どもたちにとってすごく豊かな時間だったのではないかと思います」
ウェルビーイング学部3年生の三浦琉惟さんからは、こんな感想が得られました。
「企画を立てるうえでは対話を重視したのですが、いざやってみると偶発的な、ノンバーバルのコミュニケーションが多かったのが印象的でした。ウェルビーイング学部でも対話を重視しており、まだそこにも幅がありそうだという気づきを得られました」
この3月末まで2年間フローレンスに出向し、「こども冒険バンク」のシステム開発に携わったサントリーCSR推進部の中島亮は、「これまでの冒険イベントの現場とは、雰囲気が圧倒的に違いました。子どもたちや保護者の方たちとお茶の間のような和やかな雰囲気で対話して、みんなすごく笑顔で。運営する人、参加する人という区別もなく、本当にごちゃまぜになっていた。新しい冒険のかたちを見させていただき、今後のモデルづくりに活かせそうです」と話します。
また一木は、次のように今回のイベントを振り返りました。
「こども冒険バンクの体験は、工場見学など、もともと企業が持っている場所に無料招待するような、企業の方が流れを決めて参加いただくものが多いんです。ですが、今日はすごく創発的に、対話を通して時間がつくられていきました。予測不能なまさに“冒険”の機会となり、本当に豊かな時間だったと思います」
落ち葉を拾い、お面をつくるという一見シンプルなこのイベントは、子どもたちが「ありのまま」でいられる時間を届けるために、入念に準備された特別な場でした。
フローレンスの林さんは、「子どもたちを笑顔にするのが大きな目的ですが、私たちも笑顔になりましたし、幸せな気持ちになっています。子どもや保護者の方に、また次も参加したいなと思っていただけたとしたら大成功ではないでしょうか」といいます。
こども冒険バンクが掲げる「体験格差の解消」。その言葉は、子どもたちがお面を被ってはしゃぐ光景に体現されていました。ウェルビーイングを高める体験を届けるために、大学、NPO、そして企業が三位一体となって動いた今回の試みは、新しい協働のかたちを示しています。
【認定特定非営利活動法人フローレンス】
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